暗闇より


















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41〜50
48.イーブイ
 イーブイは生息域も判然とせず、貴重なポケモンである。カントー地方のマサキは複数体所持しているが、それは彼の広い人脈とイーブイ愛があってこそのものだ。
 そしてイーブイは可愛い。進化個体は更に貴重で、なおかつ強く優秀である。ここに需要と供給のミスマッチが存在している。そうなれば当然、繁殖ビジネスが発生する。ポケモンは異種間でもタマゴを産む。父母のどちらに似るかというと、母側。貴重なイーブイ。それもメス! 進化後の個体であっても、母親がメスならばサンダースでもブラッキーでもイーブイを産む。
 吐き気のする話だな、とホトリは思う。
 ――ゴートシティはラチナの吹きだまり。人の営みの光と影。欲望は抑えつけども蛆のように涌いて出る。だったら受け皿を作ってしまえと無法地帯さながらに、それでもルールをもってして、人もポケモンも同列に陳列される。昨日までイーブイを搾取していたトレーナーも、今日は搾取される側だ。繁殖ビジネスはグレーゾーンであり、明確な線引きをもってしては禁止されていない――ただ、この街であれば、この街のルールに従って、蹴落とされたものはそのまま転げ落ちていく。それが良いのか悪いのかは分からないが。
 ホトリはモンスターボールの中のシャワーズと目を合せる。昨日初めてホトリは、ブラックマーケットに足を踏み入れた。全てのポケモンは救えない。それでも、水ポケモン使いとしてシャワーズだけは見過ごせなかった。傷はポケモンセンターで治して貰ったが、人間への不信が強い。安全のためロックしたモンスターボールの中で、ガタガタと暴れている。

「外に出たい?」
『――! ――――ッ!』
「ごめんけど2、3日待ってちょーだいな。海で離してあげるから」

 シャワーズが一瞬だけ目を見開いた。ニッとホトリは笑う。

「うちの街の海は、本当に綺麗だから。まずはそこから、何処へ向かうか決めたら良いよ」

( 2021/07/25(日) 13:16 )