46.願い事
その日は、朝から雨が降っていた。
『今日は七夕です。七夕にちなんだポケモンと言えばジラーチ! 1000年に一度、7日間だけ目覚めて願いを叶えてくれるという伝説が――』
テレビのコメンテーターが喋っている。ポケモンセンターでも毎年、この時期は短冊飾りを配っている。リクも毎年欠かさず書いて、飾っていた。
雨は夜まで降り続いた。
今年は短冊飾りをもらいに行かなかった。世間が七夕に湧いているこの時期が、早く終わらないかと願いながら、リーシャンと雨を眺めていた。
「ウミは――」
「リ?」
「短冊に、なんて書いてたんだ」
リリ、とリーシャンが身振り手振りで説明する。上手く伝わらない言葉に、リクはノートとボールペンを差し出した。リーシャンが文字とも絵ともつかぬものをノートに書く。人やポケモンのようなもの、が複数描いてある気がする。「リ」ボールペンを差し出してきた。リクは、とノートを指し示す。じっと見つめたが――リクは、ボールペンを押し返した.「オレは良いよ」「リ?」「それより、シャン太が書けよ。風鈴に吊せば間に合う」ボールペンをもう一度渡したが、リーシャンも書かないまま目を伏せた。
雨は降り続けた。夜中もずっと降り続け、やがて朝――雨は上がっていた。
『ハーイ! 突撃! 道ばたトレーナーの時間です! おっ! こんなところに強そうなトレーナーを発見! よーし、カメラ回してインタビュー開始よ!』
適当につけた番組では、女性のリポーターが旅のトレーナーを捕まえていた。押しかけバトルが終わると、キラキラした目でリポーターがマイクを近づける。『――ありがとう! じゃあ、戦いのあとの決めぜりふをビシッと!』白い帽子の少年が、ジュプトルと一緒にこちらを見て、口を――。
テレビを切った。
動悸がしていた。
あの目を見ていると、置いてきた願いを思い出しそうになる。心配そうにこちらを見やるリーシャンに、気にするな、と手を振った。