暗闇より


















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41〜50
45.待ってる
 知識、技術、経験、判断力――ポケモンバトルは、実戦と知識がものを言う。ウミの父親は座学に比重を置いている。手持ちの本では足りず、ミナモシティの図書館や、時にはポケモンセンターにも足を運ぶ。ポケモンセンターの本棚には、旅のトレーナーが寄付した貴重な本が多い。それに目をつけた父親に、読書課題にされた時は参った。毎日ポケモンセンターに通い詰めで、最後にはジョーイさんがお茶とお菓子を出してくれたくらいだ。
 ――外にいる時間が長くなれば、彼≠ノ見つかることも増える。
 ウミはノートを閉じた。今日の分の課題は終わっていないが、日が暮れては散歩にも出られない。「リ?」「休憩しよう。続きは夜」「リー」リーシャンまで缶詰は気がひけた。
 ポケモンセンターでの課題図書が終わってからは、外にいる時間が短くなった。そのせいか、最近顔を見ていない。黒髪の子供とすれ違い、思わず連れているポケモンを横目で見た――コラッタだ。違う、と思った瞬間、リーシャンの視線を感じた。「……なに?」「リー」リーシャンがさっきよりも周囲を気にしながら飛び始めた。嘆息し、気にしないで、と告げる。

「彼らもそろそろ、諦めたんだろう」
「リー……」

 ポケモンセンターに立ち寄った。読書スペースに目を向けると、見覚えのある黒髪とアチャモが目に入る。こちらに気がつく前に――踵を返しかけたが、そんな事をしなくとも、相手にその余裕はなさそうだった。膝の上ではアチャモが熟睡しており、頭をたまに掻いては、額を抑え、パッと顔を輝かせたと思えば、難しい顔で本を食い入るように見つめたり、と繰り返していた。「……何やってるんだ」「リー」
 苦戦しているようだが、開いているページは半分以上進んでいる。リーシャンがこちらを見上げ、ウミは苦笑した。

「分かってるよ。どうせまた、近いうち来るだろう」
「リ!」

( 2021/07/25(日) 13:14 )