暗闇より


















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41〜50
44.女医
 バトルアイドル大会――そこの医務室勤務になってから、ずっと分からない事がある。ポケモントレーナー達が、必死に戦う理由だ。
 野生のポケモンは、生きるためにバトルをする。トレーナーもまた、野生のポケモンから生き残る為にバトルをする。だがこれは、いわば娯楽のバトルだ。それなのに、どうして。その意味が理解出来ない。
 ――ポケモンの研究が進むに連れ、医療技術も飛躍的に進歩した。瞬く間に治ってしまう切り傷、綺麗にくっつく骨。不思議な力であっという間に治してしまう。かといって、ポケモンの技による治療も万能ではない。急激な回復は時に寿命を削る。治療部位が異常に過敏になったり、違和感がついて回ったり、代償と言わんばかりの反動が高確率で起こる。傷跡も残りやすい。
 リク、という少年がいた。
 試合後は全身ズタボロで、手なんてズタズタで。痛い痛いと叫びながらも、不思議なことに彼は、興奮冷めやらぬ顔をしていた。勝利をもぎ取ったからって、大怪我したら意味がないし、死んでしまえばもっと意味がないのに。今までもたくさん無茶したトレーナーはいたが、その中でも忘れられない一人だ。
 バトルアイドル大会、最終戦の記録を見る。ジム挑戦が目的の大会に関して、記録を残さないのがルールだ。ただ一応、大会本部の専用HDDには残してある。部外秘・持ち出し禁。人体に対するポケモンの技の効果をリアルタイムに観察出来る記録は貴重だ。医務室勤務という立場上、ある程度自由に閲覧が許されている。

「酷い試合」

 殴り合いに罵り合いに無茶な行動ばっかり――しかし、そこに賭ける熱量を、今¥氓スねば意味がないと、全てを賭ける熱を、少しだけ理解出来るような気もする。

「……なんで無茶ばっかりするんだろ」

 再生した映像の中、血だらけの腕が持ちあがる。満身創痍でへろへろの少年と、飛び上がって喜ぶタマザラシが映っていた。

( 2021/07/25(日) 13:14 )