暗闇より - 41〜50
43.強いポケモン、弱いポケモン
 ホウエン地方ミナモシティは、海辺の街。子供も船乗りも水ポケモン使いがほとんどだ。駆け出しトレーナーのリクが、ほのおポケモンのアチャモで勝つなど、無謀とも言える。
 最初は馬鹿にされた。次第に、相手も本気を出すようになっていった。最近は、ようやく勝てるようになってきた。アチャモのつつくがドククラゲの額に直撃し、沈む。「やりぃ!」「ちゃもー!」勝利の炎を上げるアチャモを抱きしめる。がむしゃらにやっても勝てない。ポケモン個々の特徴、トレーナーの戦い方をよく見て、勝利をもぎ取っていく。負かした相手は1つ年上だった。

「――うるせぇよ!」

 相手が地面を叩く。
 1ヶ月後。同じ相手が勝負をしかけてきた。水ポケモンの中でも珍しいヒトデマンに敗北を喫した。立場を逆にして地面を叩くリクに、相手は満足そうに見下ろした。「へっ! やっぱり前のはまぐれだったみたいだな!」前は勝てた相手なのに――気絶したアチャモを抱きかかえ、睨みつける。不意に、腰のモンスターボールに気がついた。1つしかない。

「……お前、ドククラゲはどうしたんだよ」
「あいつ? 駄目だ駄目だ、あんなん弱い。ヒトデマンの方がよっぽど強いぜ」
「勝てないからって、替えたのか?」
「弱いポケモンより強いポケモン。常識だぜ、じゃあな」

 唇を噛んだ。そんなの卑怯だ、なんて言えなかった。分かっていてほのおポケモンで戦っているのだ。だったらお前も水ポケモン使えよ、なんて耳にたこができるほど言われた。それでも、半ば意地でアチャモと戦ってきた。

『ほのおポケモンじゃ負けちゃうよー!』
『ポケモンに強いも弱いもないの』

「ポケモンに、強いも、弱いも、ない……」

 バン、と自分の顔を片手で叩く。アチャモが目を覚ました。「……ちゃも?」「お、起きたかシャモ!」笑いかけると、アチャモの顔に滴が落ちた。「ちゃも?」

「……オレのパートナーはお前だ。明日から、また一緒に頑張ろう」
「ちゃも!」

( 2021/07/25(日) 13:13 )