40.花屋
ミナモデパートで、見覚えのある後ろ姿を見かけた。お、と思った瞬間、アチャモが元気よく駆け寄っていった。「ちゃもー!」店先にいた少年――ウミが、肩を跳ねさせた。「……アチャモ?」「ちゃもちゃも!」フンフンと瞳を輝かせ、アチャモはリクの方を振り返る。追いかけて来たリクを見て、ウミがため息をついた。
「また君たちか」
「リ?」
リーシャンも店の中からこちらへ飛んでくる。そちらへとウミは顔を向けた。「決まったの?」「リ!」コクコクと嬉しそうにリーシャンが頷く。ウミ達がいた店をちらっと見て、リクが言った。
「リーシャン、花好きなのか?」
「ちゃも?」
そうだよ、とウミが素っ気なく答える。リクとアチャモは首を伸ばし、店中を覗き込んだ。水と生花のぬるい香りが満ちている。ガラスケースの中には大型の花が堂々と、店先には小ぶりの切り花達が行儀良く、店中のローテーブルには鉢植え達が楽しそうに座り、キレイハナやフシギダネのガーデンピックにポポッコの植木鉢も並んでいた。花に囲まれた空間をきょろきょろと見回すリクとアチャモを置いて、ウミはリーシャンと店奥へ入っていった。「ちゃも」ちょこちょことアチャモとリクも着いていく。
カウンターでは店主が、リーシャンの選んだ花を包んでいた。青紫の小ぶりな花――リンドウの切り花だ。「はい」「リ!」リーシャンは受け取ると、ぺこりと店主に頭を下げる。
「買った後どうするんだ?」
「何もしない。飾るだけだ」
「ふーん」
興味がなさそう――というか、よく分からない、と言いたげなリクに、店主が笑った。
「綺麗な花を見ると、ポケモンも人間も心が和む。そんな訳で君とアチャモも一輪、どうかな?」
サッと店主がオレンジ色の薔薇を差し出す。「ちゃも!」「あ」ぱく、とアチャモが食いついた。止める間もなく、一気に花弁を毟り食う。「花より団子、色気より食い気、かぁ」茎だけになった薔薇を見て、店主が頬を掻いた。