暗闇より


















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31〜40
39.ヒナタのゲイシャ勧誘
 ゴートシティ・スカイハイ。ポケモンも人間も参加出来るカジノだが、トレーナーなしで参加するポケモンは珍しい。風呂敷を袈裟懸けにしたエイパム・ゲイシャは、そんなポケモンの一匹だった。

「なぁ〜いいじゃんか〜頼むってば〜」

 エイパムにくだを巻く男が一人。くりくりとした赤毛にパンツ一丁の男――ヒナタ。カジノでパンツ一丁の人間はたいてい泣いてるか怒ってるか途方に暮れてるかの三択だが、ヒナタは雑誌の特集ページを見せ、熱く勧誘を行っていた。ひらひらとエイパムが尻尾を振る。

「そんなこと言うなよぉ。絶対楽しいってば! 俺とバトルアイドル大会に出ようぜ!」
「ききーっ!」

 べし、と顔に尻尾が当たる。

「ウッウッウッ……なんで駄目なんだよぉ。スカートくらい履いてやるからさぁ……俺だってたまには大会とか出てーよ……」

 ヒナタがぺたりとカジノテーブルに突っ伏した。その頭に、エイパムが黒のトレンチコートとサングラスを投げた。どちらも別のカモからの戦利品だ。「ぶ」「きー」もごもごとヒナタが顔を出すと、エイパムがスカイハイのテレビジョンを顎で示す。おっさん達が固唾を呑んでチケットを握りしめ、画面を注視していた。スカイハイ名物のひとつ、賭けレースが行われているのだ。併設施設に会場があり、あらゆる障害を突破して1着ゴールしたトレーナーとポケモンのペアには優勝賞金が与えられる。ちょいちょいと画面を指し、エイパムはニヤリと笑った。
 ツキネの眠りには周期があり、今は眠りの期間だ。今の隙に参加してこい、と言っているのだ。

「お……おおおおおおお!! サンキューゲイシャ!」

 尻尾とハイタッチ。ヒナタは他人の衣服を身につけ飛び出した。30分ほどで、黒のトレンチコートにサングラスの人物・レッドルビーが出場者として画面に映る。やれやれ、と肩を竦め、エイパムはレッドルビー一点掛けのチケットを片手に、観戦を始めた。

( 2021/07/04(日) 18:45 )