暗闇より


















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31〜40
38.先人
 ミズゾコタウンとナギサタウンの間は海底洞窟で繋がっており、ダイビングで通過するのに、丸一日かかる。まともな神経のトレーナーなら、道≠ニしての選択肢にすら入れないだろう。それか、よほど実力に自信があるか。
 水ポケモンのエキスパートを自称する少女・ホトリは、海底洞窟に挑む数少ないトレーナーであった。酸素ボンベにダイビングスーツ、海底洞窟内の地図を頭に叩き込み、ラグラージと飛び込んだ。ダイビングはトレーナーの水圧を軽減し、酸素を供給する。無論、酸素供給は無限ではない。海底洞窟内部に点在する地上部で休息と酸素の補給を行う。

「ぷは……っ!」
「ゴォ!」

 ホトリは幾度目かの休憩を入れた。水中から体を引き上げると、ずるりとした疲労が襲う。耐水性のペンライトで周囲を照らし出すと、古ぼけた鉄の看板が立っていた。『ミズゾコ←中間地点→ナギサ』腕時計を確認した。水中では時間感覚もなくなる為、逐一確認しないと気持ちが参ってしまう――予定時間よりやや早い。「順調。さっすが〜」「グゥア」ラグラージの背中を軽く叩いた。瞬間、くらりとふらつく。
 
「ゴァ!」

 ラグラージが支える。仰向けにラグラージを見返し、ホトリは笑った。
 
「あ〜……きっついわ」

 目元を抑えた。過信は禁物、30分だけ休憩するか――と、不意に、鉄の看板を見た。ラグラージに抱えられて近づくと、先人の落書きが沢山刻んであった。

『絶対勝つぞ!』『ファイト』『エンペルトしか勝たん』『がんばれ〜』『オレタチ最強!』『諦めるなー!!』

 ダイビングスーツのレンタル屋が、油性マジックを持ってくと良いとオススメした理由を理解し、ホトリは笑った。

「……よし」

 マジックで言葉を書き込む。休憩を終え、再びラグラージと水中に飛び込んだ。落書きだらけの看板に、ホトリの書いた真新しい文字が加わった。

『目指せジムリーダー!』


( 2021/07/04(日) 18:44 )