暗闇より


















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31〜40
37.常連問題児
 目が覚めた瞬間、ユキノはがばっと起き上がった。周囲を見渡す――ここは、シラユキタウンのポケモンセンター。一部屋に4つほどベッドが置かれ、ユキノ以外の患者が治療や採血を受けている。ユキノが上掛け布団を放り出すと、それらの視線が集中した。構わず白いベッドから飛び出す。
 
「ぐ」

 脇腹に引き攣った痛みが走った。「う、う、う゛ぐ」その場に踏みとどまり、ぶるぶると痛みに耐える。固唾を呑んで見守る同室者の視線の中、ユキノは涙目で奥歯を噛みしめた。しばらく動かなかったが、痛みと涙を気合いで収め、深く息をついた。おおお〜、と拍手がパラパラと上がる。
 採血をしているジョーイが言った。「ニューラは回復中。後でジムリーダーにお礼を言うのよ、ユキノ」げ、とユキノの眉間に深い皺が寄った。
 
「頼んでないし」
「ニューラも貴方も、死んだら治療出来ないのよ」

 ぐっと言葉に詰まる。むっつりとした顔で、ユキノはベッド脇の荷物を手に取った。「帰る」「まだ問診があるわ」ユキノは数秒立ち止まり、言った。
 
「意識清明・悪心なし頭痛なし脈拍92に体温36.1度でふらつきもなし。以上。帰宅してヨシ」
「適当に回答しないの」

 ジョーイがピシャリと言う。ユキノは出入口へと足を向け――後ずさった。

「らっきー」

 ラッキーがいた。「ふちょ……」「らっきー」ずいずい押し返してくる。よたよたとユキノは後ずさり、ベッドまで戻された。アップで顔を寄せてくるラッキーに、脂汗を流して両手をあげる。

「分かった……分かったから……すいませんでした……」
「らっきー」

 ラッキーが満足げに顔を離した。「ユキノも、ラッキー婦長にはたじたじだな」同室者から笑い声が上がる。うるせぇよ……、とユキノは小さく毒づいたが、問診が終わるまで、その後はベッドに座っていた。

( 2021/07/04(日) 18:44 )