暗闇より


















小説トップ
31〜40
35.高級ケーキ
 赤毛にぽさっとした髪の少年――ヒナタは、歓声を上げた。

「お、おおお……おおおおおおおおすげー!!」

 白磁の皿上には、オペラが上品に座っていた。細やかな技術を感じる7層構造。最上段のグラサージュショコラの夜空には、金箔が星屑のように散っている。小さなフォークを握りしめ、ヒナタは負けないくらいにキラキラした瞳で見つめていた。
 反対の席で、ツキネは優雅に紅茶を口にしていた。すっとフォークを持ち上げ、(「あ」とヒナタが声を上げた)、ためらいなくオペラに突き刺し(「あ、ああああああああー……!」と声が続いた)、切り分けた欠片を口に入れた(「うおああああああああー!」と叫び声がした)。

「うるさいのです」
「はい」

 ヒナタは静かになった。
 ここは、ツキネの家の客室。木製テーブルには花柄のテーブルクロスがかけられ、紅茶のお代わりは控えのメイドが注いでくれる。ヒナタの隣にはサニーゴが座っており、高級ポフィンをもふもふと食べている。テーブルの籠にはまだまだ沢山積まれている。一緒に色とりどりのポロックが宝石のように添えられていた。うめー! とヒナタが感動しながらオペラを食べていると、ツキネが不思議そうな目を向ける。

「たかがケーキに、何故そこまで感動しているのです?」
「えっ!? めちゃくちゃ美味いだろこれ!?」

 ツキネはしげしげとオペラを眺め、味を確認するように口に含んだ。「……いつもと変わらないのです」

「お前いつも食べてんの?」
「毎日ではないのです。でも、ケーキってこんなものではないのです?」
「全然ちげぇよ!? お前逆に、駄菓子とかは食べたことなさそうだな!」
「だが……なんなのです、それ」

 ヒナタがびっくりした顔になった。「マジで食べたことないのか?」ない、とツキネが答えると、サニーゴと顔を見合わせる。小首を傾げるツキネに、ニッと得意そうに笑った。「今度持ってきてやるよ」「サニサニ!」「……? はい」

( 2021/06/27(日) 11:54 )