暗闇より


















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31〜40
32.呪われしアイドルキング像
 バトルアイドル大会優勝者には、ジムへの挑戦権とアイドルキングの像が贈呈される。「要りま」「Youのものデース」「……ありがとうございます」輝く笑顔に空気を読み、引き攣った笑顔でソラは受け取った。(ハァ……なんかやたら睨んでくる奴はいるし、像は心底要らないし、そもそも女装とかおかしいし……最悪だ……)二度と来るかこんな街、とソラは胸に刻んだ。
 翌日、アイドルキング改めビュティ・ニコニスとのジム戦後、バッジを渡された。交換だと言わんばかりに笑顔で像を突っ返す。「Hun?」「俺のような未熟なトレーナーには分不相応な品ですので」ニコニスはにっこり笑った。

「度を過ぎたHumilityはいけませんヨ」

 押し返された。相変わらずよく分からない単語でよく分からない理論を展開する相手に空笑いしか浮かばない。

「ゴートジムでChallengeする頃には、Youも相応の品と思うのでは?」アイドルキングがウインクした。「はぁ……そうですか」釈然としない気持ちでジムを後にした。戻ったポケモンセンターで荷物をまとめつつ、像を睨みつける。

「街だと確実に足がつく。裏で処分するならゴートか……」
「フィ」

 キルリアも同意した。(相応≠フ品、か……)送り出した際のアイドルキングの言葉が、ソラは不意に引っかかった。ゴートジムのシステムは知っている。カジノで必要チップ数を稼ぎ、ジムリーダへーの挑戦権(時価)と交換するのだ。かなり昔はポケモンを質に入れてチップを買う人間もいたそうだが、今は全面禁止。現在、質入れは生物以外の持ち物に限っている。

「値が、つくかなぁ……そもそも引き取ってもらえるかどうか……」
「フィー……」
「仕方ない。ダメ元で交渉してみよう」
「フィ!」

 像をリュックに放り込むと、ソラは悩みを切り上げた。
 ――後にゴートで、アイドルキング像に感謝することになるのだが、それはまた別の話である。

( 2021/06/27(日) 11:52 )