30.勘
ゴートシティ・スカイハイでは、ジムリーダーへの挑戦権はチップと交換される。スロットにレースゲーム、テーブルカジノにと、チップの獲得方法は問わない。
今宵もまた一人。艶やかな黒のロングヘアに菖蒲色の着物のトレーナーが複数人とテーブルを囲んでいた。トレーナーの傍らにはニューラが控えており、ゲーム終了と同時に、他の参加者がわいわいと声をかけた。
「よォ、どれくらい稼いだ」
「まだまだジムリーダーには届きそうもありませんわ」
「ハハハ、まぁすぐ貯まるだろお前なら。駆け引きの巧みさといい大したモンだ」
「ふふふ。良いテーブルがあれば、お誘いいただけると嬉しいです」
トレーナーが艶やかに微笑むと、参加者の男は「ユキノちゃんの頼みとあれば断れねぇなぁ」と笑った。そこに、他の参加者の男が首を突っ込んだ。「稼ぎが良いと言えば、あのばーさんとかどうだ」先ほどのゲームで大負けした男だ。ユキノの肩に手を置き、他のテーブルを指す。先方も気がついたようで、こちらに軽く手を振ってきた。
「あのばーさんは若いトレーナーが好きでな。金持ちだし稼げるぞ」
肩を掴んだ男の手が、少しだけ汗ばんでいた。
ユキノは軽く周囲の参加者達へ視線を走らせた。みな、ニヤニヤとやりとりを静観している。
「――遠慮しておきますわ」
肩に回った手を剥ぎ取る「おい、ばーさん相手にビビッたのか?」男が煽るが、嘲笑混じりの笑みを返した。「負け犬のお誘いは受けないことにしてますのよ」どっと周囲が湧き上がり、誘った男が顔を真っ赤に染める。
悪態をついて去って行く男を見送り、ユキノは改めて老婦人を横目で見た。(……たぶんヤバいな、あのババア。俺様の勘がそう言ってる)
踵を返したユキノの背を横目に、老婦人が呟いた。「あらあら……残念」