暗闇より


















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21〜30
29.ゴミ溜め
 ヒナタが彼女を見かけたのは、ゴートシティを訪れた時の事だった。サイカタウンと比べて随分と激しい街だ。表通りや大きなビルは綺麗なのだが、一本裏通りに入ればご覧の通り。コラッタがゴミ袋を漁っているし、歩けばヤブクロンに躓く。ぐちゃ、と靴底で何か踏んだと思えば、異臭が立ち上る。うええ、と思ったが、裏通りの奥に人を見かけ、返しかけた足を戻した。「サニ」「コーラルは踏まない方がいいぜ」サニーゴを抱えて進む。ゴミを避け、煙の出る換気扇の下を抜け、裏通りの一番奥まで入った。ゴミ袋が積まれた小さな空き地があった。少女がゴミ袋に座って、スケッチブックに筆を走らせていた。ちら、とやってきたヒナタを横目で見て、すぐにスケッチブックに視線を戻す。

「こんなところで、何してるんだ?」
「サニ」

 彼女が絵筆で示す。ベトベターが地面に身を広げて眠っていた。くるっとスケッチブックをヒナタに向けられ、そこには鮮やかなベトベターの絵が、途中まで描かれていた。手元に戻し、絵筆をパレットにつける。ベトベターの絵に相応しいヘドロのような色から、美しい色、爽やかな色と様々に載っていた。と、絵筆にとった色が残りわずかになると、座っていたゴミ袋の山に突き出した。腕が伸びてきて、でろりと毒液を出す。ゴミ袋だとヒナタが思っていたのは、ダストダスだった。毒液を筆で絡め取り、パレットに載せた。ダストダスをじっと見て、ヒナタが言った。

「そのダストダス、強いだろ」
「そうね」
「バトルしようぜ」
「嫌よ」

 なんでだよー、とヒナタが頬を膨らませた。「人には向き不向きがあるし、ポケモンにも、向き不向きがあるわ」「でもそのダストダス強いだろ。なら、バトルに向いてるって」
 
「強かろうと、バトルに向いてない子もいるのよ」
「そういうもんか?」
「いつか分かるかもね」

 「そういう子がジム巡りでもしたら、悲惨でしょうね」と呟き、彼女は絵筆を走らせた。


( 2021/06/27(日) 11:50 )