暗闇より


















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21〜30
28.不眠
 カザアナタウンは地下の街である。そこには昼も夜もなく、時計だけが時刻を知らせる。夜の時刻を知らせられれば、みな部屋へ帰っていき、後はもう、音がしない。それ故にカザアナ出身トレーナーがまず直面する問題は、不眠≠ナあった。
 外の街は夜も騒がしい――風の音、見知らぬ人の気配や足音、談笑。そして、地下とは比べものにならないくらい明るい。慣れないうちは夜しか出歩けないトレーナーもいるくらいだ。初めて外の街へ出た子供は、夜道を照らす月によく驚く。手の届かないほど高くから、ゆっくりと傾いていく月を眺めて、眠れない夜を凌ぐトレーナーもいる。
 ソラもその一人だった。見知らぬ同室者の気配に落ち着かず、かといって個室の宿を取ることも金銭的に躊躇われ、とうとうポケモンセンターを抜け出した。ポケモンは回復装置の中、ぐっすり眠っている。
 ――水路の走る街、ナギサタウン。
 それが最初に選んだ街だった。水路が通っているという共通点はあれど、地下と外ではだいぶ見え方が違う。地下の水路は照らした部分だけてらてら光って見えて、あとは真っ黒な流れが分かるだけだ。ナギサタウンの水路は、月明かりを反射して遠くまで輝いてる。橋の上から水路を覗き込むと、泳いでいるトサキントや寝ながら流れているタマザラシが見えた。夜更けで出歩いている人もいない。本当に一人だと思うと、心細いどころかほっとした気持ちになった。さらさらとした水路の音に耳を傾け、ぼんやりとする。
 カザアナを旅立つと、最初は眠れないとは聞いていた。時が解決するとみな言っていた以上、慣れるのを待つしかないだろう。(……あの人も、最初は眠れなかったのだろうか)不意に、年の離れた兄を思った。しかしそれは想像が難しかったし、仮にそうでも、早々に慣れたに違いない。(俺も、早く眠れるようになろう)少しでも距離を縮めないといけない。
 それが、いくら遠くても。

■筆者メッセージ
本編の進捗の関係でだせないキャラがいるのが最近の悩みです。
キプカやリマルカ、カイト関係の800字がないのはそのせいですね。
( 2021/06/20(日) 12:47 )