暗闇より


















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21〜30
27.真夏の夜の夢
 日差しがくっきりとした影を落としていた。気温は高いが、吹く風は心地よい。縁側でリーシャンは安らかな寝息を立てていた。優しい風が頬を撫でていく。
 ぷん、と一匹の蚊が、リーシャンに止まった。リーシャンは目を開かなかったが、少し顔を顰めた。ぺたりとしていた耳を動かし追い払う。離れていった気配に、再び健やかな寝息を立てる。しかし、しばらくもしない内に、ぷん、ぷん、と今度は連れ立って、二匹。ころりと転がるといったん離れるが、またくるくると周囲を飛び、体に止まる。リーシャンはますます顔を顰め、ころころころと縁側を転がり、距離をとった。
 ぷん、とついてくる。

「……リ」

 ころころころころと縁側から部屋の中、畳の上を転がっていく。少し離れると静かになるが、すぐに追いかけて顔に止まる。ざわざわと深いな感覚に耐えきれず、どんどん転がって逃げていき――ゴン、と部屋の柱に衝突した。無言で痛みに震える。それでも目を開かず、力尽きたリーシャンは諦めてその場で眠った。
 ――馴染みの香りして、薄く目を開いた。

「リ?」

 蚊取り線香の煙が、細く上っていた。すぐそばに置かれていた。身を起こすと、するりと体からタオルケットが滑り落ちる。誰がやったかなんとなく分かる気がして、リーシャンはくすくす笑った。太陽は位置を傾けていたが、まだ夜には早い。とろとろと瞼が落ちるのに任せ、タオルケットに潜り直す。独特な心地よい香りが、纏わるように漂う。

 ――風鈴が、鳴った。

「……リ?」

 高く澄んだ音に、リーシャンは自然と目を覚ました。きょときょとと、周囲を見渡す。まどろむ夢がこぼれ落ちていく。大きな窓から赤い夕焼けが差し込んでいて、畳ではなく、ホエルオーのクッションの上で眠っていた。ホエルオーの尻尾に、リクの頭が遠慮がちに頭が乗っている。よほど疲れていたようで、深く眠っているリクにタオルケットをかけた。
 蚊取り線香の香りは、もうしなかった。

( 2021/06/20(日) 12:45 )