25.ナギサタウンの地震
タマザラシは目を覚ました。ナギサタウンの水路脇で、友達のタマザラシとお昼寝していた時の事であった。大きな揺れに丸い体が次々と水路に落ちて流される。水路の中を泳いでいたトサキントやコイキングも流されていた。だんだんと流れは速くなり、はやいーはやいーとタマザラシは友達と一緒に、きゃっきゃと両手を叩いた。どんどん、速くなる。お風呂の栓をポンと抜いたときのような、吸い込まれる水の流れに身を任せていた。水の流れはどこかに向かっているようだ。「たま?」あぷあぷと水面の上下をいったり来たりしながら、何処に行くのかな、と不意にタマザラシは考えた。あぷあぷ。友達の尻尾が視界の中で、流れの中を行ったり来たり。流れに逆らおうとして、結局流されているコイキングも見えた。
水路の飲み込まれる先が見えてきた。
それは、真っ暗な大空洞の終着点だった。
「たまっ!?」
ざわっと全身が粟立つ。じたばたと暴れながらも流され、水路の中の欠けた石壁を掴んだ。仲間や友達が次々と流されていくのを見送る。その先の流れを遡り、青い巨体がうなりを上げながらやってきた。群れのリーダー・トドゼルガだ。既に水路は急激な流れとなっていたが、トドゼルガは流れを切り裂くように泳ぎ、タマザラシを掴んだ。大空洞への入り口から水路が凍りついていく。流れが緩まった。水路の外からホトリの怒声が聞こえる。急げ、とか、あっちの水路も、とか。トドゼルガがぐいぐいと泳いで遠のいていく。
ぽん、とタマザラシは水路の外に放り出された。ころころと地面を転がる。他にも数匹のタマザラシが、不思議そうな顔で転がっていた。ころり、と顔を上げ、タマザラシは水路を振り返った。トドゼルガが雄叫びを上げながら、凄まじい勢いで水路をまた泳いでいくところだった。何が何だか分からなかったが、助けられたのだと、それだけは理解出来た。
――その日を境に数匹の友達とは、もう会えなくなった。