暗闇より


















小説トップ
21〜30
23.風呂
 サニーゴは風呂好きである。元々海の中の生き物なので、水場を見つけると必ず水浴びする。
 ヒナタは風呂嫌い――というか、面倒くさがってなかなか入らない。でも温泉は好きだ。ポケモンセンターにはランドリーサービスがあるが、何日もポケセン以外で寝ることもあるヒナタは、たいていまとめて洗濯物を適当に預ける。お洒落の概念が死んでるので、気に入った服をよく着ている。着慣れない服が苦手なのだ。ツキネの居室に3日前に風呂に入ったきり、1週間前と同じ服で、森の中の葉っぱや土をつけたままやってきたこともあった。
 ツキネに捕まるか、部下に捕まって強制的に洗われて服を洗濯されるのが、常である。

「サニ」
「るりっ」

 豪華な大浴場で、ヒナタはしっかり肩まで浸からされていた。監視役のサニーゴとマリルリがお喋りしていた。「風呂くらい入らなくても死にゃしねーんだけど……」「るりっ!」「分かった分かった」ぶくぶくと湯に沈む。昔より、風呂に入る回数は増えた。メディア露出が増えたからだ。(はぁ〜あ。公式戦となれば風呂、インタビューとなればお仕着せ、ゴルトは「見た目は整えとけ。損はねぇぞ」って言うけど、どうにも性に合わないな)無名のトレーナー時代はもっと好き勝手やってた、何処へ行ってもバトルに明け暮れていた。今だってバトルはするが、知らない相手から握手やサインを求められることも多い。(……その点、ポケモンは凄いよな。ずっと変わらない)
 今も昔も、森でも海でも洞窟でも、ポケモンは変わらずヒナタをスルーするし、好き勝手自分の好き場所で、好きな事をしている。だから街より、そっちの方が好きだ。
 風呂を上がり、着古したTシャツとモッズコートに袖を通した。ボロボロで、いずれは買い換えなくてはならないだろう。

「オレもポケモンみたいに、全裸で生活出来ないかなー……」

 マリルリの跳び蹴りが、ヒナタの後頭部に直撃した。

( 2021/06/20(日) 12:43 )