暗闇より


















小説トップ
21〜30
22.許せない
 ありがとう、という一言を思い出すたび、ユキノは腸が煮えくりかえるような怒りを思い出す。ソラは表彰台でそう言い放った。それが、死ぬほど屈辱的だった。
 バトルアイドル大会。歌って踊ってポケモンバトル。ルーロ―ジムリーダーのビュティ・ニコニスに挑戦するためには、優勝して挑戦権を得る必要がある。バトルの実力は頭1つ飛び抜けている自負があった。参加者がステージに現れては下がり、内心で値踏みする。一人目、小さな町のゴチミル使い。(田舎者丸出し)二人目、ミズゾコ出身ミニリュー使い。(お坊ちゃまは引っ込んでろ)三人目の出番をこなし、四人目、カザアナ出身キルリア使い。(あーはいはい。優等生タイプか)五人目、ゴート出身ヤブクロン使い。(強そうだけど敵じゃあないな)
 簡単に勝てると確信していた。
 初戦で敗退するまでは。
 相手の少年の名は、ソラといった。「リア」するりと攻撃を躱していく。ニューラが倒れて、信じられない思いでユキノは駆け寄った。司会の齧りつくマイクが響く。『華麗なる一撃! ソラちゃんの勝利だー!』
 (初戦で負けた? ――俺が?)大会を舐めていたといえばその通り。意地でその後は勝ち抜いた。頭の端っこでずっと考える。何故負けた。もう一度戦えば勝てるのか? ソラの試合を食い入るように見つめる。無理はないが、無駄もない試合運び。派手さはないが堅実そのもの。無難すぎる。(実力で負けたってのか?)
 百歩譲ってそうだとしても、相手だって苦戦したはずだ――唇を噛みしめる。油断していても下手な試合運びをするヘマはやらない。(次は絶対負かす。首洗って待ってろ)目に敵意を込めて「おめでとうございます」と表彰台で握手した、その、ソラの自分を見る目は。「ありがとう」と社交辞令の笑顔と言葉を返す目は――何処までも、こちらに興味のない目をしていた。知らず、爪が食い込むほど拳を握りしめていた。
(必ず、潰してやる)

( 2021/06/13(日) 20:21 )