19.好きなもの
リクがゴルトに会いに行っている間、ソラとコダチは1階のカフェラウンジで待っていた。スカイハイの代理を務めるビルだけあって、床は大理石で天井は高く、ラウンジのソファはふかふかで、ベルボーイも品が良い。コダチはきょときょととあちこちを見渡している。落ち着かない様子だ。ウェイターが近づくと、ピシッと姿勢を正した。ソラにハーブティ、コダチにオレンジジュースとケーキがサーブされる。「頼んでませんが」「ツキネ様からのサービスです」「分かりました。ありがとうございます」正確にはツキネの部下だろう。コダチが落ち着かないことまでお見通しのようだ。先ほどまで動き回っていた目玉がケーキで固定された。しかし、なかなか手をつけない。
「……どうしたの?」
「ソラくんの分は?」
「俺はケーキはそこまで好きじゃないんだ。気にしないで」
コダチが目を丸くする。「嫌いなの?」嫌いではないが好きでもない。「そんなところ。食べなよ」芸術品のようなケーキに、おずおずとフォークが沈んだ。
「ソラくんは何が好きなの?」
「……考えた事もないな。コダチちゃんは?」
「いっぱいあるよ!」
チョコにマシュマロにモモンにと食べ物から、ルンパッパやイトマルといったポケモンの名前、同僚に友達にと次々と名前を挙げていく。「リーダーもねぇ、怖いしすぐ怒るけど好きだよ!」
「――本当に?」
口をついた言葉に、くるくると動いていた口が止まる。うーん、と少しだけ悩み、「うん」と返事があった。
「ソラくんは、嫌いなの?」
「……さぁ、どうだろう」
ソラはハーブティを口にした。好悪をはっきりと口に出来るコダチが、少しだけ羨ましかった。
「あ」
「なに?」
「ハーブティは好き、かな」
多分だけど、と付け加え、ポットから二杯目を注いだ。