17.律儀な奴
バトルアイドル大会最終日の翌日、ソラの病室の前には不機嫌が鎮座していた。ライカが彼を見留めた瞬間、互いにげっと顔を顰める。病室前の長椅子に陣取っているユキノの横に座る気も起きず(そもそも、この男に場を開ける発想はなさそうだ。誰も横に座るなと言わんばかりにど真ん中に座っていた)、ライカは胡乱な目を向けた。
「あんた、何しに来てん」
「黙れブス」
ライカの額に青筋が立った。口を開きかけ、閉じる。言い争いは無駄無駄と自身に言い聞かせ、そっと病室のドアノブに手をかけた。「まだ起きてねぇよ」手が止まった。
「……なんかしたんか?」
「別に。あのド底辺トレーナーと同じで、貧弱なんだろ」
「リクの部屋にも行ったんやな」
時刻は10時を回っている。ライカは最初、リクに会いに行った。まだ目覚めていなかったので、次にソラの様子を見に来たのだ。ユキノも同じルートを辿ったらしい。(それにしたって、昨日の今日やで。こいつ、ホンマに何しにここで座ってんねん)黙って座っているところを見るに、トドメを刺しに来たわけではなさそうだ。不機嫌丸出しのユキノに、最終戦の言葉を思い出す。(「オレが勝ったら、ソラに謝ってくれ」)
「……あんたもしかして、謝りに来た、とか」
ユキノの顔がますます険しくなる。それが返答だった。
「案外律儀やん」
「黙れブス」
ライカの青筋が増えた。拳をわなわなと握りしめる。「図星で腹が立ったんですの?」ユキノがせせら笑った。しかしライカは深呼吸をして拳を下げた。
「怪我人や、勘弁したる」
「それはそれは……お優しいことで」
「図星はあんたの方やしな」
硬直するユキノに、ライカはにやっと意地悪な笑みを浮かべた。舌打ち。それっきりユキノはぶすくれた顔で黙った。鼻息をつく。(フン。うちかて、次は負けへん)ユキノにも、リクにも。少しだけ晴れた気持ちで、壁に背を預けた。