暗闇より


















小説トップ
11〜20
16.アイドルさんに会いに
 ルーローシティは騒がしくて、あまり好きではない。雑踏の中から、アカは大きなテレビジョンを見上げた。バトルアイドル大会の生放送が放映されている。総当たり戦の成績が、参加者の顔写真と一緒に映った。ライカ、コダチ、ユキノ、仮面S――リク。ナギサタウンでノロシを返り討ちにした少年。口さがないネットの速報記事によると、ホウエン地方のミナモシティ出身だという。他地方の少年。調べてもろくろく情報が出てこなかった。公式戦の記録もなし。輝かしい記録のひとつでもあれば、正義感に駆られて首を突っ込んだ子供かな、と推測出来るのだが、本当に何もないところが逆に不気味だった――(ホウエンの事件も、突然首を突っ込んできた子供が解決してしまったんだったな)
 だいたいの人間は、少し会話すればどんな人物か見当がつく。不安要素は自分の目で見て判断するに限る。問題は、どうやって少年に接触するか。
 ベンチでポケナビをいじりながら、アカはヘルガーの頭を撫でた。手っ取り早いのは会場に入ってしまうことだが、ジムリーダーに見つかるリスクがあるし人混みは避けたい。なによりうるさい。グゥル、とヘルガーがこちらを見上げた。考え事をしているアカのポケットを鼻先で押す。「こっちもどうするかな。お姫様は千里眼だ」小箱が入っているポケットに触れた。
 ぴく、とヘルガーが顔を上げ、立ち上がる。

「おや」

 空を飛んでいるポケモンがいた。特徴的なシルエットは鳥ポケモンとは似ても似つかない。サザンドラだ。ぐんぐんと高度を上げていく。木陰からバルジーナが飛び立った。

「天は自ら助くる者を助く≠チてね。行こうか」
「ウォン」

 アカはにっこりと笑い、サザンドラを追いかけて歩き出した。

( 2021/06/13(日) 20:17 )