14.ゲイシャの心配
ゴートに来てからというものの、リーシャンの気持ちは落ち込む一方だった。リクは大丈夫なのだろうか。過ぎる時間だけがひたすらに長く感じられた。食欲が湧かず、部屋に運ばれる食事も手をつけていない。エイパムの食事の誘いも、毎回断っていたが、その日、エイパムは我慢ならないとばかりに言い放った。
『君の顔色は、控えめに言ってかなり悪い。食事をとっていないと聞いたよ。幸いにも僕はゴートのレストランは熟知している。食欲がないなら、君の食欲が見つかるまで付き合うさ』
『……ごめんなさい。本当に、駄目なの。リクはちゃんとご飯を食べてるのか、心配で……』
リーシャンがゴートに来てからというものの、その名前が出なかった日はない。毎日のように心配していた。エイパムの尻尾が苛立たしそうに揺れた。『その坊やがどんな子か知らないがね。君を置いていったのだとすれば、君が彼を心配するのは全くもって無駄なことだ!』
『リクは置いていったりしないわ!』
リン、とリーシャンが毅然たる口調で言い放つと、エイパムが怯んだ。『リクは――』リーシャンの体がくらりと傾ぐ。と、エイパムが慌てて支えた。
『……もし僕がその、リクという子なら、今の君をとても心配すると思う』
リーシャンをテーブルに優しく座らせ、俯きがちにぼそぼそ告げた。
『食欲はなくとも、頼むから、少しでも口に何か入れてくれないか』
あ、とリーシャンは気がついた。あの事件以降、リクも食事をとらず、日が暮れるまで外を駆けずり回っていた。――あの時の自分と同じように、エイパムは心配しているのだ。
『……それなら、お願い出来るかしら』
小さな声が答えた。エイパムが目を見開き、ほっとしたように笑った。
『――任せたまえ、一番おいしいお店に連れて行ってあげよう!』