暗闇より


















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11〜20
12.負けたくない
 それは幸運だったと言わざるを得ない。
 つい先日リクとアチャモは、リーシャンを連れた見知らぬ少年に破れた。翌日から探し回り、最後にたどり着いた場所――ミナモデパートに、偶然その姿を発見したのだ。当然、リクは迷わず声をかけた。

「おい、お前!」
「ちゃもっ!」

 少年が振り向く。その隣には背の高い、眼鏡をかけた男がいた。「知り合いか」少年は躊躇いがちに答えた。「昨日、少し頼まれて、バトルしました」

「結果は」
「勝ちました、父さん」
「ならいい」

 男は短く頷き、リクへ視線を向けた。いかにも面倒そうな、気のない声で言う。「何か用かね」その声音にリクは怯んだ。だが、チャンスを逃すまいと拳を握る。

「そっ……そいつと、もう一回バトルさせてくれ――ください!」
「何のために?」
「もう一回バトルして、今度はオレが勝ちます!」
「何度やっても君が勝つことはない。諦めなさい、無意味だ」

 少年はリク達を少し見たが、すぐに目を逸らした。あまりの回答にリクは唖然とする。男は少年の背を押し、リクとは反対方向へ歩き出した。淡々と向けられた背に、「なんでだよ」とリクの言葉がぶつかる。男は肩越しに振り向き、答えた。
 
「この子には才能があるが、君にはない。それが理由だ」

 (才能がない、だって?)彼らが立ち去るまで、ぎゅっと拳を握って睨みつけていた。負けた。それは事実だ。敗北者は語れない。勝者は振り返らない。男の無感情の目に、少年の逸らされた目に、沸々と悔しい気持ちが沸き立つ。決意を秘めた声でリクは言い放った。

「……あいつに、勝つぞ。シャモ」
「ちゃも!」

 気持ちを胸に刻む。(絶対だ。あんなこと言いやがったこと、あいつが目を逸らしたこと。まとめて後悔させてやる)

( 2021/06/06(日) 12:42 )