11.昔の話
祖父が急逝した。
古い語り部だった彼が神話を語るとき、私はよくアンノーンと一緒に耳を傾けていた。語り部を誰が受け継ぐのか。親族が悶着すると、アンノーン達はいっせいに私を取り囲んだ。無言で見つめてくる28の瞳。その目を、初めて怖いと思った。――私は祖父みたいに貴方たちを愛せないし、語り部にはなれない。何度そう拒んでも、彼らは私についてきた。だから私は家を、街を飛び出した。期待してくるアンノーン達からも、同じように見てくる親族たちからも、私は一目散に逃げ出した。
逃げて、ゴートシティに潜り込んだ。ここは眠らない街。あらゆるものが賭けられ、あらゆるものが捨てられる。何もかも放り出してしまった私でさえ、きっと受け入れてくれると信じた。街は優しく私を受け入れ、そして残酷に転落へ誘った。
「私と遊びましょう」
品の良い老婦人に誘われ、気がつけば、私は全てを失っていた。真っ青な顔で手札を置こうとすると、老婦人が言った。「……あら。そのアンノーン、貴女のポケモン?」私が顔を上げると、置いてきたはずのアンノーン達が、次々とテーブルへ落ちてきた。賭けろ、と言わんばかりに。泣きながら止めても、やめなさいと叫んでも、彼らは黒のチップのように動かなかった。嫌な考えが浮かぶ――ここでアンノーンを賭けてしまえば、二度と付きまとわれることはない。老婦人が手札を持ち直し、微笑んだ。
「さぁ、貴女の番よ」
◆
「――それで、どうなったのですか?」
10年以上も昔の話を語ると、ツキネは問いかけた。「もう答えはご存じでしょう」部下が言うと、呼んだ? と言わんばかりにアンノーンが降ってくる。ツキネが声をあげて笑った。