ポケットモンスターインフィニティ

















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第五章 強さの意味は
第34話 ポケモンのいない街
 真っ暗な部屋で一つ白く光を放っているのは、パソコンの画面のモニター。それと向かい合っているのはジュンヤ、今はパソコンで過去の対戦動画をしらみつぶしに探している最中だった。

「これも駄目だし、これにも映ってない……。はぁ、少し疲れて来たな……」

 過去のエイヘイ地方公式大会での対戦動画、それを自分の父親の名でしらみ潰しに数時間程探していたのだが……まだ、目的のものは見付からない。

「オオゾノ モリヒト対アイバ マモリ……。次はオレの父さんと母さんの対戦か」

 確か父さんと母さんは二人とも、結婚して育て屋を営む前は腕の立つポケモントレーナーとしてぶいぶい言わせていたみたいだよな。気の強い母さんと優しい父さんだったけど、バトル自体はどっちが強いのだろうか。

「ま、見てみれば分かるか。ポチっとな」

 疲れた目を何度か瞬かせてから、クリックで動画を再生する。
 ……。…………。

『けどその子の一撃じゃあたしの相棒は倒せないよ、モリヒト!』
『それはどうかな、マモリ。見せてあげよう、修行して新しく覚えた必殺技を! ライチュウ! ボルテッカー!』

 弾き飛ばされたライチュウは、受け身を取って痛みを和らげると再び相手に向かって駆け出した。だがそれはただの突進ではない、激しく迸る雷を棚引かせ、紫電の弾丸と化したライチュウが相手の放つ一撃を穿ち、そのままボルテッカーを決めてしまう。

『う……うそっ!?』
『言ったろマモリ、新しい必殺技を覚えたって!』
『ううー……ありがとう、戻って休んで!』

 ……これだ、これがオレの見たかったものだ。時を巻き戻して、何度も何度も同じ場面を繰り返した。
 ライチュウが走りながら加速していき、全身を稲妻に包まれていく。何度見てもそんな単純な事実しか分からない……。
 "ボルテッカー"でんきタイプでは数少ない物理の大技だ。使うとその威力ゆえに反動を伴うが、ハイドロポンプやソーラービームなどにも匹敵すると言われている程なのだから相当強力なのだろう。
 ライチュウの攻撃力不足、それを補う為には高威力の技を覚えることが一番だ、そう思ったのだが……。

「……ダメだ、今日はもう疲れた。この動画を見終わったらゆっくり休んで、ボルテッカーについてはまた明日にでも考えよう」

 眠いしずっと座りっぱなしで疲れたし頭も痛いし、もうそろそろ休みを入れたい。
 動画のタイトル、ボルテッカーを使った時間、どのように発動しているかを分かる範囲でメモを取り、ジュンヤはこの対戦の続きを見ることにした。



 ポケモンセンターの裏手、バトルコート。この街にはポケモンジムがあるのだから挑戦に向けて意気込むトレーナー達でさぞ賑わっていることだろう。
 ……オレ達はまたしてもツルギに敵わなかった。彼の言う通り敗けは敗け、オレ達の力を証明するには至らず……。……だけど、それでも無駄に終わったわけではない。以前は歯が立たなかった奴のビブラーバを……窮地に陥った時にメェークルが進化してくれたおかげで、相討ちにまで持ち込めたのだ。
 ……ツルギ達には勝てなかった、それはどうしようもないくらい悔しいが、オレ達は新たな力を手に入れられたのだから悲観ばかりをしてはいるわけにはいかない。
 まだオレ達ではツルギ達には敵わない、だが果てしない彼との距離が少しは埋まったのだと確かに感じられる。再び差を引き離されない為にはひたすら鍛練あるのみだ!
 少しの不安と緊張を抱えながら出てみると……。

「……誰もいないな」

 寂しく冷たい風が吹いた気がした。
 バトルコートにはなんと誰も居ない。こどもの一人も一匹のポケモンもトレーナー達の発する熱気も活気も、何もかもが無い。
 本当にただ静寂だけをはらんだ虚しい空間に、オレもゴーゴートも言葉を失っていた。

「今日は嫌気が差す程静かじゃないか、何をやってるんだこの街の人々は! 発展した技術とポケモンジムがある、そんな恵まれた環境だというのに誰もバトルに興じないとはもったいないにも程がある!」

 何を言っているんだソウスケは、そんな呆れもあったがやはりこの状況が異質なことは彼の言葉にも表れていた。そうだ、昼下がりの発展の都会、なのに誰もバトルをしていないなんてあり得ない……! まさか……!

 ……オレの予想は的中してしまった。ゴーゴートを連れて外に飛び出たが、ポケモンの姿はどこにもなかった。いや、それだけではない。あまり大きな声には出さないが、周囲の人々はゴーゴートを見るやいなや驚きや奇異、恐怖などを顔面に張り付けていた。

「……やっぱりだ、そうだ、この街にはポケモンが居ないんだ」

 初めてこの街についた時の違和感はこれだったんだ。人とポケモンが共に過ごしている、そんな当たり前のことがこの街にはない。

「……そういえば、居ないね〜」

 回りをいくら見回してもポケモンを連れている人はどこにもいない。レストランを覗いてみても食事をしているのは人間ばかり、ゲームセンターでもやけに多い工事現場だってそうだ、ポケモンの気配は微塵も感じられない。
 ……おかしい。人とポケモンが共に暮らすエイヘイ地方においてこの街の現状は異質すぎる。そもそもタウンマップでオプスシティにはポケモンジムがあるとはっきり記載されている、ジムのある街ではバトルが発達するのが常の筈だ。なのに……!

「……ポケモンジムに行ってみよう! そうすればきっと、ポケモンだっているはず……!」
「無駄だ」

 最近は身の回りで物騒なことばかりが起きている、少し過敏になっているのかもしれない。そうだ、偶然今オレ達の周りにポケモンが居ないだけに決まっている。
 ……そんな、淡い期待を一瞬で打ち砕いたのはツルギだ。

「無駄って、どういうことだよ……?」
「教えてやるよ。この街にポケモンを持っている住人は居ない、当然、ジムリーダーを含めてな」

 そんなはずがない、信じたくない。ツルギは確かに酷いやつだけど……その瞳に差す鋭い光は、とても嘘を言っている人のそれとは思えなかった。
 ノドカとソウスケの制止も聞き入れずに歩き始め、ツルギの隣を過ぎる。

「どこにいくつもりだ」
「確かめに行くんだ。本当にジムリーダーまでポケモンを持っていないのかってことを」

 ゴーゴートの角を握って急かし、一緒に駆け出した。オレの心を包む良からぬざわめき……不安を一刻も早く打ち消す為に。彼の言葉が真実ではないと、否定をする為に。



 橙の屋根、ポケモンジム。その中に入ると少し廊下を歩き、すぐにバトルフィールドへと出た。
 広がる戦場の対局には一人の男性が立っている、彼がこの街のジムリーダーだろうか。

「あの、すみません! あなたはジムリーダーのペローさんですか?」
「……はは、馬鹿言わないでくれよ。私は確かにペローだけど、ジムリーダーじゃないよ」

 寂しげな笑顔で振り返った男性は少しやつれて頬が痩けている、服装もとても簡素で地味なものだ。街のガイドに載った穏和な彼とはやや印象が異なるが、しかし面影はあり紛れもなくジムリーダーペローその人だ。もっとも……本人はそれを否定しているが。

「……じゃあ、なんであなたはここに居るんですか」
「なんでだろうね……自分でもよく分からない。ただ……」

 青年は視線をフィールドに落とすと、その顔に暗い影を落として言葉を続けた。

「……なんだか、すごく懐かしい気がするんだ。おかしいな、私はポケモンなんて生まれてから一度も手にしたことがないというのに」
「……思い出してください。あなたは以前はジムリーダーでした、ポケモンと一緒にここで戦っていたはずです!」
「そんなはずないさ、やめてくれ……」
「でも……っ!」
「……すまない、もう私に構わないでくれ。一人で居たいんだ、出ていってくれ……」

 半ば懇願するかのような、今にも消え入りそうな程に弱々しく揺らぐ寂莫の瞳。

「だったらペローさん、オレとバトルを……!」
「もういいと言っただろう!? 放っておいてくれ!!」
「そんなこと出来るわけ」
「やめてくれ……! もう何もしたくないんだ、君が誰かは分からないけど……迷惑なんだよ!」
「……そんな、ことは……」

 ……もうオレは、何も言えなかった。ポケモンとの記憶を思い出してほしい、そう思ったのに拒絶されてしまい……結局、何も出来なかった。ただ出来ることと言ったら、言葉を失い、そこから立ち去るのみだった……。


 
 ……何故、ジュンヤに無駄だと忠告したのか。何かの事情を知っているのではないか、もしそうなら教えてほしい。ノドカがツルギに尋ねると、彼は最初は「断る、お前達と居るとあの不愉快な甘ったれを思い出す」と拒否していたが、ノドカがあまりにもしつこく食い下がる為にとうとう折れて事情を教えてくれた。
 どうやらこの街は以前オルビス団に襲撃されていたらしい。彼がこの街についた時には人々はすっかり怯えていたが、幹部であるエドガーが撤収した後には既に皆の記憶から、"ポケモンとともに過ごした記憶"が……恐らくオーベムの力によって、失われていたらしい。
 ……ツルギは、「俺が知っていることはそれだけだ、もう話すことは何もない」と一方的に話を切り上げ、不愉快そうに眉間を皺寄せながら去ってしまった。
 ……信じられない。街全体の記憶を書き換えてしまうなんて。しかし街の現状を省みると、そんな突拍子も無い話が嫌に現実味を帯びてきてしまう……。

「……ひどい、許せないよ。ポケモンの力を悪いことに使っちゃうなんて……!」
「そうだね、僕もノドカに賛成だ。ポケモンの力を悪用するなんて暴挙、一人のポケモントレーナーとしては見過ごせないよ」
「……だけど、オーベム、かあ。……そういえば、前にレイ君」
「や〜っと、見つけましたぁ〜っ! お久し振りです、ソウスケさん!」

 ノドカが何かを言おうとしたのを遮り、背中に突然快活な声、何か柔らかい感触。振り返ると立っていたのは、 ブロンドのツーサイドアップ、黄色を基調としたキャミソールに眼鏡を掛けた快活そうな女の子。

「……確か君は、エクレアちゃん、だったね?」
「もうっ、何を言ってるんですかソウスケさん! あたしはいつだってソウスケさんのエクレアですよ!」
「……ぼ、僕のエクレアちゃん? 何を言っているんだい君は、一体どうしたというんだ」
「なにって、もうっ、あなたこそなにを言ってるんですかソウスケさん! いつもみたいに『エクレア』って優しく親しみと愛を持ってあたしの名前を囁いてくださいよ!」

 待って、彼女は本当に何を言っているんだ。齟齬があまりに激しく話が掴めない。だけどすごく嬉しそうにしている辺り、もしかして何かあったのか? ……まさか彼女も、記憶の改竄を?

「……すまないエクレア、実は僕は記憶喪失なんだ。君と過ごした蜜月の時というのを思い出せないようだ、良ければ君との馴れ初めや共に歩んだ道程を改めて教えてくれないか」
「そ……そうだったんですか!? ごめんなさいダーリン、そんな事情を知らずにあたしはなんて無神経なことを……!」
「分かってくれたならいいんだ。さあエクレア、教えてくれ」

 ……もちろん記憶喪失なんて嘘だし彼女とらーぶらーぶした覚えも無い。顔を赤らめ恥ずかしがっているノドカに「これは演技だから」と耳打ちしてから、彼女の話を聞く。
 ……。

 ……認め難いことだけれど、やはり彼女も何らかの理由で記憶を書き換えられているようだ。
 始めて僕と彼女があったのは発電所をオルビス団が占拠した事件の時だ。それが彼女の話では、馴れ初めは発電所に見学に来た僕やジュンヤらの案内を任されたこと、それから度々出会い、絆を深め、やがて恋仲になったそうだ。
 彼女の相棒、ラクライについてを尋ねてみたが彼女は知らないという。それどころかポケモンジムを回っていた筈の彼女がポケモンバトルは怖くて出来ないと言い、更にオルビス団の名前も存在も覚えていない。
 ……やはり、そうだ。彼女もポケモンを奪われ、その後隠蔽の為に記憶を書き換えられたのだろう。

「……思い出していただけましたか、ソウスケさん」
「礼を言うよエクレアちゃん。だけど君には謝らないといけない」
「え……? いいんですよ気にしなくて、確かに覚えてもらえなくてさびしかっ」
「僕は君と恋仲になった覚えはないし、記憶を失ってもいない。そもそも僕は君を愛していないんだ」

 彼女が固まった。そして暫く俯いた後、泣きそうな顔で僕に抱き付いてきた。

「どうしてそんな酷いことを言うんですか、ソウスケさん……! 今日は……いつもより、イジワルですよ……!」

 そしてついには僕の胸元が彼女の涙で濡れてしまう。……流石に今の彼女を無理矢理引き剥がす程非道にはなれない、なるべく優しく抱き締め返して、それから慎重に言葉を続ける。

「これから辛いことを言うから、先に謝っておくよ。……本当にすまない、エクレアちゃん」
「……嫌です、言わないで下さい……!」
「君は記憶を書き換えられている、君は悪党に相棒を強奪され、更に相棒と共に歩んだ道程までをも奪われてしまったんだ」

 ……しかたのないこととは言え、彼女は必死に首を振って否定した。どうしても認められないらしく、ついには僕の言葉を聞かない為だろう、耳を塞ぎ全てを拒絶するかのように泣き叫び始める。

「うっ、えぐっ……! もう、嫌です!! ひっく……! ソウスケさんなんて……! 愛してるけど、嫌いです!!」
「そうか、僕は君のことを愛していないが好きだよ」
「ううっ……! 聞きたく、ありません……! ソウスケさんは……そんな酷いことは言いません……! きっと、これは夢なんです……!」
「けれど夢はいつか覚めるものだ、逃げちゃあいけない。目を逸らしては君はいつまでも眠ったままだぞ、必ず僕が仮初めの幸福から君を目覚めさせる!」

 嗚咽混じりに吐き出す彼女は、とうとう抵抗すら止めて崩れ落ちた。だがそれでもソウスケは彼女の両肩に手を置いて無理矢理にでも向かい合い続ける。

「……なんで、そこまであたしに親身になってくれるんですか? あたしはあなたに酷いことを言ったのに……」
「酷いことを言ったのは僕だ、それにさっき言ったじゃないか、僕は君のことを愛していないが好きだって。君だけじゃない、これまで出会った人達から一人でも欠けていれば今の僕はなかった、だから僕はその一人である君を助けたいんだ」

 ……とうとうエクレアは泣くのも止めて項垂れた。何も言わず、ひたすら顔に影を落として黙り込む。しかしそれを見守り続けていると、やがて彼女は涙や鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をソウスケに見せ、それから慌てて眼鏡を外して目元を拭った。

「……分かりました、ダーリン。……いいえ、ソウスケさん。あたし、怖いけど……がんばります」
「……本当かい?」
「はい……、今の言葉を聞いて、何故だか思ったんです。あなたは本当にソウスケさんで、あなたに任せればきっと上手く行く……って。それで……あたしは、なにをすればいいんですか?」
「……そうか、嬉しいよ。必ず君の信頼には応えてみせる。それじゃあ……」



 誰もいない、寂莫のバトルコート。そこで向かい合うのはソウスケとエクレアだ。

「ポケモンバトルは怖いです、けど……。ソウスケさんの知っているあたしは、バトルが好きだったんですよね?」
「そうだ、それは先程見た君の鞄に入っていたジムバッジがなによりの証明だね」
「……がんばります。あたし、こわい、ですけど……ソウスケさんを信じてます」
「ありがとう。出てくるんだレアコイル」

 軽くボールを放り投げ、自分の目の前に現れる。金属球の体に大きな目、両腕はU字磁石で頭にネジが刺さっている、それが三匹連結したレアコイル。
 エクレア、彼女とその相棒ラクライのライバルだったというポケモンだ。あの時ライバルとして彼女ではなく僕と歩んでくれたことが、恐らく今この瞬間最も活きているだろう。レアコイルがいるのだから、もしかしたら……。

「あの、あたしはポケモンを連れてなくて……」
「分かっているさ、行くんだダルマッカ」

 次いで僕の足元にいた相棒ダルマッカが彼女の元へととてとて駆け寄る。そう、戦うのは僕のレアコイルと、彼女の指示を出すダルマッカだ。

「ダルマッカの覚えている技はほのおのパンチ、かわらわり、いわなだれ、ニトロチャージ。攻撃力と素早さに優れている」
「……分かりました、はい!」

 僕の聞かせたダルマッカのプロフィールにエクレアは自信があるのか分からないのか、拳を握り締めて頷いて見せる。……恐らく分かっていないのだろう、しかし問題ないはずだ。彼女は以前ポケモントレーナーだったのだから。

「あの時の続きと行こうかレアコイル。といっても僕と君が協力をして、ダルマッカと戦うのだけれど」
「……わっ! ダルマッカってうんちをカイロに出来るんですか!?」
「……そうだよ、始めようか」

 やはりエクレアもポケモン図鑑を持っている、それは先程彼女の荷物を整理していた際に確認出来ていた。これで彼女もダルマッカの詳細を知れる、準備はいいはずだ。

「行くよダルマッカ、悪いけど君が相手でも手は抜かない」

 ダルマッカも分かっている、と言わんばかりに頷き力んでいる。どうやら彼も僕には負けない、と息巻いているらしい。僕もダルマッカには負けたくない、こんな機会は滅多に無いのだから全力で行かせてもらう。

「勝つのは僕とレアコイルだ」
「……が、がんばりましょうダルマッカ!」

 ……ちら、とレアコイルに目を向けると寂しそうに瞳を伏せていた。やはり事情は分かっていても大切な相手に覚えてもらえていないのは辛いだろう、だからこそ僕らがやらなければ。

「行くよエクレアちゃん……。レアコイル、10まんボルト!」
「えぇっ!? いや、その、あの……!」

 両のユニットを突きだし稲妻の線が束となって迸る、しかしエクレアはうろたえるばかりで何も出来ない。見かねたダルマッカが拳を握り締め、そこでようやく気が付いたらしい。

「あっ、ほのおのパンチ!」

 拳に炎を纏わせ向かえ撃つ。威力はほぼ互角のようだ、撃たれた電気は拳で辺りに散らされていく。

「次は……」

 やはりまだ馴れないようだ、指示を出しかね困惑しているのが目に見える、がだからと言って手は抜かない。

「ラスターカノンを放て!」

 レアコイルがユニットを突き出した、その先に白銀の光沢が渦巻いていく。そして銀の球体が形成されると、光線となって放たれた。

「えっと……! な、なんとかして!」

 彼女の狼狽は相当だ、流石のダルマッカも初めて出されるそんな無責任な指示には戸惑い固まってしまった。
 光線が直撃して吹き飛ばされる、だがまだまだ攻撃の手は休めない!

「10まんボルト!」

 U字の両ユニットがダルマッカを追いかけ、未だ土煙を巻き上げ転がり続けるダルマッカに電気を迸らせる。
 右手を大地に突き立て勢いを殺し、体勢を立て直そうとした時にはもう遅い。その全身は雷によって焼かれてしまっていた。

「そ、そんな! 大丈夫ですかダルマッカ!」

 その返事を払いのけダルマッカは立ち上がる、最早眼にエクレアはいない、映っているのはソウスケとレアコイル……目の前の対戦相手のみだ。
 地を蹴り、駆ける。レアコイルは電気の束で迎え撃つがことごとくは飛び、横に跳ね、身を伏せ転がりと容易く掻い潜られてしまう。

「……す、すごいダルマッカ。あたしがいなかったらこんなに動けるんですね……!」
「一人でも戦うか、流石は僕の相棒だ。いいじゃないか、君のその魂を買って僕らも全力で迎え撃とう!」

 とうとう真下に躍り出たダルマッカは全身に炎を纏って突進する。しかしレアコイルは巧みに下がってそれを回避、眼前を通りすぎるダルマッカに両腕を突き出し、捉えて電気を浴びせ掛ける。

「やるねダルマッカ、惜しかったよ。だけど僕らもそう簡単にはやられないさ」

 ダルマッカはくすぶりよろけながらもすぐさま持ち直す、そして今度こそ突進を決めようと体内の火炎袋を燃やし、

「回り込む、そうだねダルマッカ。後ろだレアコイル、10まんボルト」

 ……そう、懐に潜り込み、突進を避けられ、電気を浴びせられ……そこまで前回のダルマッカとレアコイルのバトルと同じ流れだ。そして以前は回り込んで攻撃を当てた、身体に染み付いた僕らの戦術……だから今回先読みして対応できた。
 流石のダルマッカもそう何度も電気を浴びては堪えるようだ、とうとうその膝を折って地面に着いてしまった。

「多少大人げなかったかな……。いや、真剣勝負で恨み言は無しだ」
「だ、ダルマッカ……! あたしは、……あたしは……!」

 両腕をダルマッカの眼前に構え、その先に電気を溜めていく。充電完了まで時間は掛からない、気付けば既に発射準備は完了していた。

「トドメだレアコイル、もう一度10まんボルト!」
「……ダルマッカ、跳んで下さい!」

 エクレア、彼女はその時始めて自らまともな指示を出した。ダルマッカは内心驚愕しながらもそれに従う、大地を蹴り、空高く舞い上がった。

「ほのおのパンチです!」
「10まんボルトで迎え撃つんだ!」

 空中から勢いを乗せて放った拳は電気の束を掻き消し叩き潰し、そしてとうとうその発射元である鋼の身体に熱い拳がお見舞いされた。ぐわん、と鈍い音が響いてレアコイルは地面に叩き付けられる。

「続けてニトロチャージよ!」

 間髪入れずに小さな体躯で張り切って突進、相当重たい筈の相手の身体は容易く吹き飛び地面を滑って離れていく。

「……まずい、レアコイル! 10まんボルト!」
「させません! 決まりです、ほのおのパンチ!」

 相手が反撃体制に出たが、そんなことさせるわけがない。火炎袋が熱く燃えたぎっている、ニトロチャージで上がった素早さを生かして間髪入れずに炎を纏った拳を振り抜いて、レアコイルは無抵抗に宙に放物線を描いて落ちた。

「……レアコイル、戦闘不能! よって勝者、エクレアちゃん!」

 審判を任せていたノドカが右手を振り上げた、勝敗は決した、ソウスケは食い下がることなくレアコイルを労い、モンスターボールに戻した。

「流石はダルマッカだ、いい拳だったよ!」

 足元にダルマッカが笑顔を浮かべながら駆け寄ってくる、そんな彼を褒めて優しく撫でてから、互いの拳をこつんと合わせてエクレアを見る。

「……ところで、エクレアちゃん」
「……はい。あたし、思い出しました。思い出して……しまったんです……。あたしに何があったかを、まだ全部、じゃあ……ない、ですけど……」

 エクレアの顔が、悲痛と後悔と悔しさと……なにもかもを詰め込んだように酷く歪み、しかしそれでも目蓋を固く引き結び、唇をきつく噛み締め必死に何かに耐えていた。

「……そうか。僕が言えることじゃあ決してないが、辛いだろうね……」
「いえ……あたしは、いいんです……。本当に辛いのは、忘れられていたラクライ、なんですから……」

 ……そんなはずはない、相棒を失い彼女だって相当苦しいに決まっている。ソウスケはエクレアを抱き締めた、彼女は震えながらも必死に堪えていたが、やがて耐え切れなくなって涙が零れ落ちた。



 夕陽が空に掛かっている、その下で少女がブロンドの髪を揺らして手を振ってきた。

「じゃあ……あたしはもう行きますね! 今日は本当にありがとうございました!」

 エクレアはラクライのことを諦めてはいないようだ。新たにポケモンを捕まえ、自分なりのやり方でオルビス団を追うらしい。

「さよならだ、また互いに無事で会おうかエクレアちゃん! ……エクレア!」
「じゃあねエクレアちゃん! きっとあなたならラクライと再会出来るよ、がんばってね!」
「……じゃあな、エクレアちゃん。ラクライはきっと見つかるはずだ、ラクライも待ってるんだ、諦めないでくれ」

 今は先程合流したジュンヤも彼女の見送りに加わっている。

「……! ……はい、がんばります! あたしは諦めません、ソウスケさん、あなたみたいに!」

 ソウスケ達の言葉にエクレアはまたしても泣きそうになったのか唇を噛んだが、背を向け元気な声で返事をすると駆け出していった。

「……なあ、ゴーゴート。もっと強くなろう」

 残された三人の一人、ジュンヤが相棒の角を握りながらぽつりと呟いた。
 ……記憶を取り戻したエクレアが覚えていたのは、 黒を基調とした、胸元に紅く輪が描かれた詰め襟の制服を来た小柄な人物らしい。そしてその横ではオーベムが指を光らせ……それ以降は一切覚えていなかったようだ。
 その服装はオルビス団のものだ、ツルギの言う通りやはり奴らが絡んでいる。

「そうだねジュンヤ、僕らは今より強くならなければならない。エクレア、彼女の為にも、オルビス団の被害に遭った多くの人々の為にも」
「うん、私達もがんばろうジュンヤ! きっとみんなで力を合わせればなんとかなるよ! だってこれまでもそうだったんだもん!」

 ソウスケとノドカが微笑んでくれている。そうだ、オレ達は一人じゃないんだ。共に歩いてくれる相棒達、支えてくれる仲間達がいてくれる。
 だからもっともっと強くなって、必ず成し遂げるんだ! 記憶を奪われ孤独にされてしまった人々の無念を……必ずオレ達が晴らしてやるんだ!
 ジュンヤは固く拳を握りしめ、心の中で高く叫んだ。

せろん ( 2015/10/02(金) 05:45 )