ポケットモンスターインフィニティ

















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第四章 迫る決戦の時
第33話 激戦、剣盾の激突
 巨大な透き通った翡翠の複眼、瑞々しく羽ばたく二対の菱形の翅。分節された細長い胴体と華奢な脚を持つそのポケモンは、容姿とは裏腹に幾度と無く窮地を潜り抜けて来た猛者とでも言うべき、相当手練れた空気を帯びていた。

『ビブラーバ。しんどうポケモン。
翅をこすって超音波を放つ。ビブラーバの翅は成長途中なので長い距離を飛ぶことは出来ない』

 互いに牽制し合う視線の交錯が続く中、静寂を打ち破ったのはノドカの翳したポケモン図鑑だ。だがその解説が終わると、再び音も無い戦いが戻ってくる。
 ビブラーバの"持ち主"は多少のじれったさは感じているかもしれないが、風に吹かれてくすぐってくる長髪にも眉一つ動かさずに冷静に相手を観察している。しかし相手から動く気配が無いと感じたのか、はたまた膠着を崩せる自信があるのか、やがて鋼のように冷ややかな声色で指示を出した。

「ビブラーバ、ばくおんぱだ」

 二対の菱形が立てられた。そして次の瞬間には、破壊を伴う爆音が周囲全体を呑み込んでいた。
 


 話を遡れば長くなる、それはジュンヤ達がある街に辿り着いたところからだ。

「お……驚きだよ。思い返してみれば……」

 前も後ろも変わらない、どこを見てもビル、ビル、ビル。変化のない灰色の景色ばかりがはるか遠くまで伸びていて、救いを求めるかのように空を見上げて再び唖然。建物は想像以上にずっとずっと高かった、今度は空まで続くかのような威容に気圧されるばかりだ。

「これまで旅をしてきた中で……初めて"都会"って感じの街に来たと思えるじゃないか!」
「ま、迷っちゃいそうだよ〜……」

 興奮冷めやらぬソウスケと先行きを案じて足りない頭を働かせるノドカ。二人はとても旅を満喫している、そう言っても過言ではないだろう。だが、ジュンヤは……どことなく覚える違和感に、居心地悪そうに帽子のつばを下げていた。

「どうしたの、ジュンヤ」
「……ああ、ちょっと気になるんだ」

 薄気味悪い違和感、その正体が分からず胸が嫌に騒ぐ。
 この街は信頼と指針の街「オプスシティ」。旅の折り返し地点とも呼ばれ、エイヘイ地方の描く円のちょうど北に位置している街だ。
 新幹線も走っていない、電車は数時間に一本しかないなど全体的に未発達な田舎と名高いこの地方では珍しく目覚ましい発展を見せており、大手テレビ局"テレビエイヘイ"本社まで建っているまさに大都会と呼ぶに相応しい街だ。
 田舎という砂漠で渇いた若者達がこの街で喉を潤し朝まで騒ぐ、そう言われている程活気に溢れた街、なのだが……。

「何かが、足りない気がするんだ……」
「え?」

 ある人は慌ただしく人海をすり抜け駆け抜けたり、またある人はうつむきながらも人にぶつからないよう注意を払いながら歩いていたり、他にも仲の良い集団が楽しそうに喧騒を振り撒きながら横広がりに歩いていたりその人種は様々だ。
 十人十色、多種多様な人間達がこの街に住んでいるのは明白なのだが、やはり……オレにとってはノドカやソウスケ達が居ない、それと同様の寂しくて物足りない空虚な感じが街全体の雰囲気から感じられる気がした……。
 だが、その正体を掴むよりも前に、強い衝撃がオレの頭を強く殴り付けていた。それは気付けば目の前に立っていた"あの"少年の存在だ。
 強風が横殴りに吹いたが彼の黒髪はわずかに煽られ靡くばかり。 臙脂のトレーナーを羽織った"彼"が振り返り、相変わらず色の無い顔で発したのは「待ち詫びたぞ」という短い言葉。

「お前は、ツルギ……!」

 そう、彼が、ツルギこそがオレが誰よりも会いたかった相手であり……誰よりも会いたくない、何より望まぬ再会だった。

「……待ち詫びたって、どういうことだよ。どうしてお前がオレのことを……」
「お前は以前言っていたな。俺の強さが間違っていると」

 振り返った彼の双瞳には変わらず強い意志を宿した光が射し込んでいる。だが、それを曇らせるかのように眉間には深く皺が刻み込まれ、声色はいつにも増して苛立ちを帯びていた。
 だけど、怯むわけにはいかない!

「……ああ、今だってその気持ちは変わっちゃいない。ポケモンのことを思いやらない自分勝手な力なんて、オレ達は絶対に認めない! ポケモンと人が信じ合って互いの為に戦うのがポケモントレーナーのあるべき姿なんだ! お前の強さを……認めてたまるか!」
「馬鹿馬鹿しい、俺はお前程度が否定出来る程弱くはない。俺は強くなる為ならば手段は選ばない、だからこそ……ここではっきりさせておく」

 相も変わらぬ嘲笑で真正面から言葉を切り捨てながらも、ツルギが腰に手を伸ばして突き出した。その先に確かに握られているのは光を浴びて白く照り輝く、紅白の色の球体。モンスターボール。

「俺と戦え。"絆の力"なんて下らないものは俺には必要無い、その証明の為に、俺はお前を完膚無きまでに叩き潰す」

 ……ツルギとのポケモンバトル。彼の強さは紛れもない、恐らくオレに想像出来る範疇など容易く越えて来るだろう。
 これまで何度も出会い、しかし叶わなかった彼との再戦がようやく実現した。だというのに、また負けてしまうかもしれない……そう考えると、心臓が締め付けられるように苦しくなってきてしまう。だけど……ここで逃げるわけにはいかない!
 帽子をかぶり直してくっとつばを下げ、平静を装ってジュンヤは答えた。

「いいぜ、オレ達はただでは潰されない。お前にオレ達の強さを教えるまでは……絶対にな」



 そして話は冒頭へと戻る。

「……っ、大丈夫か!? シャワーズ、ハイドロポンプだ!」

 赤い帽子のつばをくっと下げ、ジュンヤがたじろぎを振り払うように声高く叫んだ。
 轟音を伴う衝撃波に為す術無く吹き飛ばされ、しばらく地面を転がり続けていたシャワーズだが、その呼び掛けに応えるように受け身を取って跳び跳ねた。
 オボンのみを頬張り体力を回復。続けておぼつかない足元をしっかり踏み締め、身を屈めて放った激流は激しく飛沫を撒き散らし敵を葬らんと一直線を描いていく。

「無駄だ、りゅうのはどう」

 対して揺らがぬ声色で指示を出したのは臙脂のトレーナーを羽織った黒髪の少年。ツルギ、ジュンヤのライバル。
 その一声で華奢な体躯、ビブラーバの顎に粒子が集約され、解き放たれた群青の光は瞬く間すらも惜しむように時を移さず舞い上がると、激流を呑み込み歯向かう敵すら喰らい尽くしていく。

「シャワーズ……! シャワーズ?!」

 閃光が全身へと降り注ぎ、その魂までをも一瞬のうちに焼き焦がしていく。そして"りゅうのはどう"がその姿を保てず粒子に還って散り行く最中、シャワーズは意識が途切れて静かに崩れ落ちていた。

「……ごめんな、オレがふがいないせいで。お疲れ様シャワーズ、ゆっくり体を休めてくれ」

 再びシャワーズを閃光が包み込む。しかし先程の無慈悲なそれでは決して無く、穏やかで暖かい、抱き締めるようなそんな光だ。
 ……相手は強い、先手を取られてはシャワーズがそうだったみたいに何も出来ずにやられるかもしれない。だったら……!

「ヒノヤコマ、お前に任せたぞ!」

 オレの二匹目はヒノヤコマ。狙いは単純極まりない、先制攻撃だ。

「行けっ、つばめがえしだっ!」

 高度を下げ、超低空を翼を広げて突き進む。そして片翼を掬い上げるように下から叩き付けて相手を打ち上げ、更に間隙を突かせずに畳み掛けんとさっと身を翻した時には……ヒノヤコマの身体は傾いて体勢を崩してしまっていた。

「遅い、フェイントだ」

 ……何も見えなかった。そうだ、相手はフェイントを、"はやてのつばさ"すらをも追い抜く一撃を持っていたのだ。反撃を恐れて間髪入れずに攻めることを読んでいてわざと先制を許した、それはほんの一瞬の隙を誘発させることが目的だったのだ。

「やれ、ばくおんぱ」

 再び轟音、衝撃。大地が抉れて大気も震える、そんな震動は観戦しているノドカですら堪えきれずに膝を着いてしまう程だ。至近距離で浴びてしまったヒノヤコマの様子など言うまでもない、ジュンヤの足元に転がり目を回しており……平たく言えば、戦闘不能となってしまっていた。

「……よく、一撃を与えてくれたな。ヒノヤコマ、ありがとう、後はオレ達に任せて……休んでいてくれ」

 ……このバトルは三対三のフラットバトルだ。……もうシャワーズとヒノヤコマを、二匹を倒されてしまった以上今のオレ達には後が無い。

「……僕らがツルギと闘った時と同じだ、大した抵抗も出来ないまま真正面から切り捨てられ……。……だけどジュンヤ、君なら、あるいは……」
「……お願い、ジュンヤ。諦めないで!」

 ……出来るのか、オレ達に。ここから巻き返して勝利を掴み取ることが。

「差は歴然だな、時間の無駄だったか……」
「……ああ、そうだよなメェークル」
「力を持たぬ者には何も変えられない、何も成すことは出来ない。俺はそんなの……死んでも御免だ」

 ツルギは呆れたように肩をすくめて、やるせない気持ちを吐き出すように深く溜め息をこぼした。そして腰に左手を伸ばして紅白球を掴み取り、ビブラーバに向かってかざして見せた。

「……お前の言う通りだ、勝負はまだ終わっちゃいない。いや……オレには仲間が居てくれるんだ、なのにここで終わらせるわけにはいかない 」

 対するジュンヤは深く肩を落として、これまでの劣勢、一方的な展開から来る鬱屈を吐き出すように大きく深呼吸をして、赤い帽子を取り栗色の髪を掻いてからかぶり直す。
 そして腰に右手を伸ばしてモンスターボールを掴み取り、ツルギに向かって突き出した。ボールはまるで怒りに任せてがたがたがたがた揺れている、中でポケモンが暴れているのが理解出来た。

「……待てよ、ツルギ。勝負はまだ……終わってないだろ!」
「勝敗は明らかだ、お前にビブラーバを倒せはしない。諦めろ、お前の壮語も所詮はその程度ということだ」
「ふざけるなよ……! そうやってお前はこれまでも、身勝手な判断でポケモン達を逃がして来たんだな! だったら尚更だ、このまま何も出来ずに終わってたまるか! 死んでもお前達に食らいついて……オレ達の絆の力を思い知らせてやる! 行くぞ!! メェークル!!」

 有らん限りの力を込めて、紅白二色の球を投擲した。風を切り、空を裂き進むそれはやがて宙で二つに割れて中から紅い閃光を溢れんばかりに迸らせた。
 光は一点に凝縮して塊を形成し、一匹を成した時には光子となって弾け散っていた。
 現れたのはメェークル、ジュンヤが最も信頼を置く相棒であり最も長く共に道を歩んできた仲間でもある。

「鬱陶しい、お前程愚かな人間もそう居ないぞ」
「愚かでもいいさ、お前みたいな非道な奴に成り下がるよりはよっぽどマシだ!」
「言ってくれるな。ならば教えてやろう、絆などでは到底届かない力をな!」

 向かい合うメェークルとビブラーバ。湾曲した角を携えた深緑の山羊と菱形の翅を羽ばたかせる砂塵の蜻蛉。互いの姿を確かに捉え、主の想いに呼応した二匹は高く吠え上げ睨み合っている。

「りゅうのはどう!」
「リーフブレード!」

 顎に集いし閃光が瞬き群青の束が襲い掛かる。対して彼らは角に深緑の粒子を纏わせ迎え撃つが、その莫大なエネルギーの流動は小さな四肢では受け止めきれずに押し込まれてしまう。

「それなら受け流せ、メェークル!」

 技を抑えられない、地面に線を引きながら後退りしていたメェークルだがその一声で角を逸らし、直後再び意気を取り戻した群青の光は虚空の彼方へと流れていった。
 最早無駄だと悟ったのだろう、ビブラーバもその技を中断すると波動は細まり消えていく。

「ならばもう一度りゅうのはどうだ!」
「跳躍してそのまま飛び掛かれ!」

 メェークルは身を屈めて筋肉に力を溜めると、光を足元に高く舞う。そしてそのまま敵の眼前へと躍り出て閃光を纏った角を振り下ろした。
 ……が、その一閃はビブラーバが身を逸らすことで容易くいなされてしまう。

「ばくおんぱだ」

 そして瞬間轟音を伴う衝撃が爆発的に巻き起こり、至近距離で振動に触れたメェークルは紙屑のように吹き飛ばされ、地面を転がり、やがて倒れた。

「まだだ……! まだ戦えるよな、メェークル!」

 だが、まだ意識はある。ここで倒れるわけにはいかない、自分達の力を教える為にも。メェークルは"たべのこし"を頬張りすぐさま立ち上がって角を払うと、背中に主の指示を受けて飛び掛かる。

「何度来ようが無駄だ、りゅうのはどう!」
「……っ、まもる!」

 脚を止めて大地を踏み締め、展開された光の結晶が全身に覆い被さり盾となる。しかし……流れ込む群青の光線はあまりに莫大な力で、メェークルの小さな体で抑えきるには身に余ると言わざるを得い程膨大な量だった。
 光結晶の絶対防御、それも射し込む極太の光線により蟻の一穴程の僅かなひびが穿たれてしまう。そしてそこを中心として途端に亀裂が駆け巡り、瞬く間に全体へと広がり遂には砕け散った。
 最早遮るものなど何も無い、無慈悲な閃光はメェークルの血肉に痛みを刻み込み、力の差というものを骨の髄まで染み渡らせていく……。

「そんな……嘘だろ、メェークル!? おい!?」

 意識など、容易く掻き消されてしまう。そんな嵐と紛う怒涛の光の奔流に呑まれたメェークルは無様に臥して起き上がらない。

「言ったろ、お前にビブラーバを倒せないと」
「……メェークル! なあ、メェークル!?」

 以前と同じだ、まるで歯が立たないなんて……!

「お願いだ……! 立ってくれ、メェークル!」
「……馬鹿なことを。メェークルは既に相当な傷を負っている、お前のそれを人は徒労と言うんだ」
「……違う、無駄じゃない! オレは信じてる! オレを信じてここまで来てくれたメェークルを! 立ち上がるんだ、お前はまだ戦える、起きてくれ! メェークル!」

 ジュンヤは叫んだ、腹の中が空っぽになるまで、力の限り叫び続けた。
 以前と同じ、自分の弱さが招いた結末。だからこそ……諦めるわけにはいかない。意味を持たない徒労だとしても……オレが諦めなければ、或いはメェークルも……。

「もうメェークルは、ダメ……なの、かな」
「……かも、しれない……。メェークル、戦闘……!」

 ……この旅で、オレとメェークル達は何度となく困難に直面してきた。だけどその度にオレは大切な仲間に励まされ、後押しされ、……みんなが居たから、オレは諦めずにここまで来れたんだ。なのにここでオレ達が諦めたら……みんなに合わせる顔が無くなる!

「まだだ、そうだろ……? オレは信じてる、お前のことを! 立つんだ……! メェークル!!」

 ソウスケから下されかけた審判を遮り、今度こそ全身から力を振り絞って高く広がる天を貫く程に叫んだ。これまで共に闘い、共に困難を乗り越えてきた、相棒の名を。

「下らん」
「……もう一度言うよ。メェークル、戦闘」

 そう不快を露にツルギがモンスターボールをかざし、ソウスケが再び審判を下そうとしたその瞬間、メェークルの前脚が動いた。

「辛うじて意識を取り戻したか……。ならば、再び眠らせてやろう。ビブラーバ……りゅうのはどう!」

 彼は手にしていた紅白の球を落として、天を指差し声高に叫んだ。
 ビブラーバの顎に光が灯り、銀河の如く粒子が煌めき渦巻いていく。

「……メェークル、まもるだ!」

 そして群青の光線が閃いた瞬間、それまで石のように転がっていたとは思えない脱兎の勢いでメェークルは立ち上がっていた。額に力を集中させ、光の結晶板を眼前に展開させていく。

「姑息な手を……。だが無駄だ、何度でも押し切るだけのこと!」

 逆鱗に触れてしまった竜の如く、ツルギに呼応して群青光は激しさを増した。光の盾も限界が来たのか徐々に表面が剥がれ落ち、僅かな綻びから亀裂が全体へと広がっていく……。

「させてたまるか! オレ達は諦めないぞ……そうだろ、メェークル!!」

 ジュンヤが叫んだ、メェークルが応えた、盾が砕けた。その瞬間、メェークルを群青の光ではない……蒼白の、眩い光が全身を包み込む。
 "りゅうのはどう"もその輝きには及ばないらしい、溢れ出す蒼白に怒涛の光も掻き消されてしまっていた。

「まさか、これは……」
「進化か……? そうなのか、メェークル!?」

 魂から力が光となって湧き出してくる、それが自分の中に革命的な変化を……進化を起こしているのが、感覚で理解出来る。
 蒼白は形を変え、メェークルの影は大きく逞しく変貌を遂げ……天を貫く程の光を弾き散らして、見違えた姿が顕現した。

「本当に進化したんだな、メェークル……。いや、ゴーゴート!」

 湾曲した鎌状の黒角、首元から背筋、尾にまで茂る葉。背は栗色の毛に覆われ、下腹部は薄橙となっている。そしてしなやかな肉付きで伸びる脚の先では、橙色の蹄が地面を踏み鳴らしている。

『ゴーゴート。ライドポケモン。
角を握るわずかな違いからトレーナーの 気持ちを読み取るので、一体となって 走れるのだ』

 ノドカの翳したポケモン図鑑が説明を読み上げる。それがゴーゴートというポケモンだ、断崖でも難なく登り群れでは角をぶつけ合わせて力比べをするという。

「この土壇場での進化か、余程運が良かったようだ」
「違うさ、これはオレとゴーゴートと、仲間達の……絆の力だ!」
「ほざけ。所詮は満身創痍、進化した所でお前は俺には敵わない!」
「いいや、勝ってやるさ! オレ達の絆の力を証明してやる!」
「面白い、ならばその友情とやらを見せてもらおう!」

 再び衝突する双瞳、ゴーゴートの紅蓮の瞳、ビブラーバの翡翠の複眼。
 深緑の山羊砂塵の蜻蛉、 互いの瞳に映る自身の姿を確かに捉えた二匹は、主の想いに呼応し吠えた。

「りゅうのはどう!!」
「リーフブレード!!」

 瞬く閃光、閃く刃。激突した二つの技は激しくエネルギーを撒き散らし、互いの耀きを受けより眩く強く昇華していく。

「威力は互角か……!」
「まだだ、最大パワーだ! 断ち切れゴーゴート!!」

 火花を散らす角と光線、だが角が帯びていた深緑の光は、より高く激しく萌え盛っていた。
 光線が中心から二つに裂ける、その境を切り進むのは極光の剣。

「行けぇっ!」

 光線を放つ、華奢な蜻蛉。その大顎を一閃切り上げ、相手は空へと跳ね上げられる。だがまだ逃さない、追い掛け跳躍し、再び剣を薙いでビブラーバを地面に叩き付ける。

「これで……決める! ゴーゴート、リーフブレードだっ!!」
「さあ、そろそろ終わりにしてもらうぞ! ビブラーバ、りゅうのはどう!」

 二連撃が効いたのかよろけながら構えるビブラーバ、対するゴーゴートは敢然と立ち、深緑渦巻き闇を切り裂く極光剣を払って振り翳す。対してビブラーバの放つ光は天上に軌跡を描く流星が如く、龍を具現した群青の塊は、光の尾を棚引かせて突撃した。

「負けて……たまるかあっ!!」
「鬱陶しいんだよ……消えろ!」

 ぶつかり合って燃える力と力、雄叫びを上げる二つの魂は際限が無いと錯覚する程過剰なまでに高まっていく。大気が震え、余剰波が巻き散る中でエネルギーが飽和の限界まで達し……、とうとう、それは盛大な爆発を起こした。

「……ゴーゴート!」
「……っ!」

 黒煙が舞い躍り砂塵が吹き荒ぶ、そんな中ジュンヤとツルギは腕で顔を隠しながらもフィールドから目を離さなかった。
 煙は空へと立ち上ぼり、砂は勢いを失っていく。そして視界が晴れ……、立っていたのはビブラーバのみだった。

「……当然の結果だ」
「そんな、ビブラー……」

 だがツルギが深い息とともに零し、ジュンヤがその名を紡ぎかけた瞬間、その体は横に倒れて崩れ落ちていた。

「……ビブラーバ、ゴーゴート、共に戦闘不能! よって勝者、ツルギ!」

 一歩前に出て右手を振り上げ、聞き馴染んだ声でソウスケが叫んだ。

「……戻れ、ビブラーバ」
「……ありがとう、本当に良く頑張ってくれたな……。進化おめでとう、すごく嬉しかったよ、ゴーゴート……」

 二つの戦士を赤い、穏やかな優しい光が包み込んだ。闘いに疲れて泥のように倒れ伏す二匹は、粒子となって在るべき場所へと戻っていく……。

「……言ったよな、オレ達にはビブラーバを倒せないって」

 踵を返し、歩き出そうとしていたツルギの背中に言葉を強く投げ付けた。

「どうだ、オレ達の絆の力で……。倒したぜ、お前の相棒を、ビブラーバを」
「……下らない、敗けは敗けだ」

 ツルギは一度足を止め……。しかし振り返ることなく、二人の双眸がぶつかり合うこと無く、それだけ言うと再び歩き出して去って行った。

「……じゃあな、メェークル。これからもよろしくな、ゴーゴート」

 その背を見送り、やがて見えなくなると握っていたモンスターボールに視線を送り、中で眠る相棒に目を細めながらジュンヤは優しく言葉を送った。


■筆者メッセージ
趣味に没頭していて更新が遅れました、本当にすみません
せろん ( 2015/09/11(金) 02:47 )