ポケットモンスターインフィニティ



















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第四章 迫る決戦の時
第30話 挑戦、押し切る力と超能力
 このシトリンシティにも、ポケモンジムがある。紆余曲折があって挑戦が遅れてしまったが、もともとオレ達がこの街に訪れた目的は何よりそこに挑戦することにあった。
 シトリンジム、どうやらエスパータイプのポケモンを巧みに操るジムらしい。だがそんなことでは怯まない、既に挑戦に臨む心持ちは整えてある。

「行くぜ、メェークル」

 角を握って、オレの気持ちを伝える。
 この街のシトリンジムは、オレ達が旅に出てから四番目に挑戦するポケモンジムだ。ポケモンリーグへの参加資格はジムバッジを八つ以上手に入れていること、つまり、このジムが丁度オレとメェークルとノドカ達の旅立ちの折り返し地点となるだろう。
 昨日、別れるまでレイとは徹底的に闘って力と感覚を磨いたんだ。オレ達が負けるはずがない、負けるわけにはいかない。ポケモンジム特有の橙の屋根を見上げて、深く深呼吸をして中へと足を踏み入れた。



 砂利の敷かれた、遮るものの無いバトルフィールド。その片端に赤い帽子を被った少年、ジュンヤが立っていた。指貫の手袋をぎゅっと嵌め直して、帽子も念を入れてもう一度かぶり直してもう準備は万全だ。隣のメェークルも毛繕いを済ませて、二人は相変わらずの緊張に包まれながらも確かに正面を見据えている。

「ホホホ……。やはり来ましたネ、ミスタージュンヤ」
「まさかあなたがジムリーダーだったとは思いませんでしたよ、ペールさん」

 向かいの端で笑うのは、燕尾服に色素の薄い長髪の男性、ペール。
 一昨日のオルビス団襲撃事件の際には世話になった相手だが、だからと言って手を抜けるわけもない。

「バトルの前に、一つだけ尋ねマス。アナタ方は何故、一昨日の襲撃事件の際逃げなかったのデスか?」

 ……確かに、普通は逃げるものだ。他の人々はポケモンをモンスターボールに戻すとあいつらに背を向けて逃げ出していた、立ち向かったのはオレ達だけだった。

「それが、オレ達の目指す強さだからです。オレの大切なものを……人とポケモンが共に暮らす景色を、守りたかったんです」
「Wonderful! 素晴らしい心掛けデス! ですがアナタにそれだけの強さはアリマスカ?」
「……今はまだ、ありません。だからペールさん、オレ達はあなたに勝ちます。誰よりも強くなる為に……オレ達はこんなところで足止めを食らってる暇はないんです!」
「ええ、受けて立ちマス」
「使用ポケモンは互いに三体。道具とポケモンの重複は禁止、交替は挑戦者のみ認められます!」

 話は両手を広げて笑顔を浮かべるペールによって終了された。審判がルールを説明すると、向かい合った二人はモンスターボールを構えた。

「行けっ! サイホーン!」
「行くのデス! バリヤード!」

 岩塊のような巨体のサイホーン、対するは人型で肩と股関節が膨らみ、道化の履くようなブーツの形の足。飄々とした顔でパントマイムをしている、バリヤード。

「攻めるぞサイホーン、ロックブラストだ!」

 早速攻勢に出る、地面を強く踏みつけ身を屈めると、角の先から岩石が放たれた。だが相手は動かない、未だに回避の素振りも防御する様子も見せずにパントマイムをしている。だが、バリヤードに技が届くことはなかった。相手の目の前で岩が透明な何かに衝突し、何発も放ったそれは全て無様に砕け散ってしまう。

「ど、どうして! 今あのポケモン、なにもしてなかったよねっ!?」
「何を言っているんだいノドカ、彼は確かにパントマイムをしていたじゃないか」
「そうじゃなくって!」

 慌てふためくノドカにソウスケが冷静に答える、だが聞いていたことはそうではなかった、彼女はその返答にツッコミをしながらポケモン図鑑を開いた。

『バリヤード。バリアーポケモン。
人を信じこませるのが うまい。パントマイムで作った壁が本当に現れるという』
「ほら、言ったじゃないか」
「ほんとだ……」

 パントマイムで壁をつくるなんてすごい、そんなそのまますぎる感想を抱きながらノドカはポケモン図鑑を閉じた。

「流石はバリアーポケモンのつくった壁だ、厄介だな……。戻れサイホーン!」

 正面突破という道もなくはないが、わざわざそんな危険を冒しても何も良いことはない。やはり石橋を叩いて渡るのが一番だ。
 壁が邪魔なら割ればいい、そしてそれが出来るのは……。

「メェークル、お前だ!」

 オレの相棒なら壁を破ることができる、オレがサイホーンをボールに戻すと、オレの隣でバトルを見ていたメェークルがバトルフィールドへと飛び込んだ。

「接近するんだ!」

 指示を出すまでもない、メェークルは言われずとも駆け出していた。どんどん近寄る相手に、それでもバリヤードは未だ表情を変えずにパントマイムを続けている。

「おやおや、なにか索があるようデスネ。ケレド……」
「メェークル! かわらわりだ!」

 その指示で身を屈め、固い頭を突き出して突進するとまるでガラスの割れたような音とともに透明な破片が照明を反射しながら辺りに散った。そして頭突きに直撃したバリヤードは少し眉をひそめながら後退る。
 効果は今一つ、エスパーとフェアリー二つのタイプをあわせ持つバリヤードにまるで効き目は無い。だが目的はダメージを与えることではない、今の相手の反応が証明したように、邪魔な壁を壊すという意図での攻撃だった。
 壁さえ壊してしまえばもう怖くない、後は自分の得意技を叩き込むだけだ!

「メェークル、リーフブレ」
「おっと、そうはさせまセーン! バリヤード、アンコールデス!」

 メェークルの角に深緑の光が渦巻き宿る、そしてそれを振りかざした瞬間……。バリヤードはまるで演奏会を鑑賞した後の観客のように、無邪気に両手を叩き合わせて喜んでいる。
 あのポーズが何を意味しているかは一見分かりづらいが、確かに聞こえた、"アンコール"と指示を出したのが。

「ということは……」

 角に纏っていた光が薄れてまもなく消え失せ、角を使わずに頭突きを繰り出していた。

「食らいなサイ、マジカルシャイン!」

 返しの一撃、バリヤードは頭突きに全く怯まず技を繰り出してきた。バリヤードの全身から優しく包み込むような暖かい色の、しかし触れればたちまち身を焼かれてしまう光が溢れだしメェークルを襲う。痛みに耐え切れずに後退って睨み付けたが、相手はまるで意に介さない、と言った風に涼しい顔でパントマイムを再開した。
 
「あれはリーフブレードじゃなくてかわらわりだね」
「そっか、バリヤードの使ったアンコールの効果で……」

 そう、ソウスケとノドカの言う通りだ、確かにメェークルが使ったのはかわらわり。それがバリヤードの使った技、直前に使った技を相手にしばらく出し続けさせるという"アンコール"。
 壁を壊さなければ攻撃を通せないが唯一壊せる"かわらわり"は効果が今一つ、だからこそアンコールが上手く機能するのだろう。

「……っ、メェークル、戻ってくれ」

 このままでは大したダメージを与えられずにやられてしまう、それは避けたい。勢いでメェークルを自分の隣へ 戻らせたはいいが……。

「どうする、壁を壊さないとダメなのに、壊したらアンコールを食らう……」

 オレの選んだ三匹の中に、壁を突き破れる程の火力を持ったポケモンはいない。だがなんとかして方法を見付けなければ一匹も倒せず終わってしまう。けど現実問題、どのポケモンならあいつの防御を突破出来るんだ……?

「後三十秒でポケモンを出さなければ、ルールにより敗北となります」

 審判から注意が促される。ポケモン交替の合間の時間は一分と決まっている、それを過ぎれば戦意を喪失したとみなされて無条件で敗北となってしまう。だけどどのポケモンを出せば……。

「なにをやっているんだジュンヤ! かわらわり以外でそんな壁が壊せないっていうのなら、壊れるまで殴るか壊せるくらい強い別の一撃を決めればいいだけだろう!」
「ソウスケ、ダルマッカ……」

 苛立ち気味なソウスケの叱咤、隣でダルマッカも怒って両腕をぶんぶん振り回している。
 
「そんなこと言われたって、出来ることなら……!」

 ……待てよ、一撃で、決める?

「そうだよ、ソウスケの言う通りじゃないか。一撃で決める、そうすれば壁なんて関係無いんだ」

 もう時間が無い、それに頼る他道はないだろう。迷うことなくモンスターボールを掴むと勢い良く目の前に放り投げ、閃光とともにサイホーンが再びフィールドに姿を現す。

「押してダメならゴリ押しか、ソウスケ、やっぱりお前はすごいよ。行くぜサイホーン! 天をも貫くお前のドリルで、一撃で決めてくれ!」

 目の前にどれだけ頑強な壁があろうがなかろうが関係ない、ただ、このドリルで貫くだけだ。人差し指を天高くに突き立てて叫んだ。

「"つのドリル"だ!」

 サイホーンの角が削岩機のように高速回転を始める。
 当たってくれるか、命中してくれるかなんて分からない。それでもこの一撃に全てを賭けるしかないのだ。
 この技は、"つのドリル"は一撃必殺。当たれば相手がどれだけ堅固な殻に身を包んでいようが、万能の鱗に覆われていようが、特性"がんじょう"を持つ相手以外なら必ず一撃で仕留められる一撃必殺の大技。だが、その分デメリットも大きい。
 一つは自分よりレベルが高い相手には効かないことだ。そしてもう一つは……。

「避けてマジカルシャインデス、バリヤード!」

 バリヤードが旗のように軽く身を翻してサイホーンの突進は虚しく背後の空を裂き、更に嘲笑うかのように背中を暖かく無慈悲な光が焼き焦がす。
 そう、もう一つのデメリットがこれだ。難の有りすぎる命中率、だからこそ普段は使わずにどうしようもなくなった時の技として温存していた。

「おやおや、それがアナタの頼みの綱ですか。シカーシ、無駄デスよ! 確かにアナタのサイホーンは平均よりも素速い、シカシ、それでも遅いことには変わりアリマセン! そんなに遅いサイホーンの命中不安定な技など、恐るるに足りまセン!」
「いいぜ、だったらもっと速くなってやる! サイホーン、ロックカット!」

 突然砂塵がサイホーンを包み込む。そしてややもするとそれは晴れ、土煙の中から現れたのはピカピカに磨かれた姿だった。
 砂によって体が研磨され、これで空気抵抗が少なくなり動きも身軽になった。

「今度こそ決める! いけぇっ、もう一度つのドリルだ!」

 直後にサイホーンが角を高速回転させながら動き出す。そしてバリヤードに急接近し、軌道が直線で分かりやすいからだろう、相手は横に跳ねて避けようとしたが、間に合わない。壁は容易く回転の力で捻じ切られ、バリヤードの股関節に角が命中すると相手はジムリーダーペールの背後の壁まで吹き飛び激突した。

「バリヤード、戦闘不能!」
「っしゃあ! やったぞサイホーン!」

 あの厄介な壁を使うバリヤードを倒すことが出来た。そして主人はそれをとても喜んでくれている。嬉しさのあまりサイホーンはジュンヤに一直線に突撃し、このままでは彼が豆腐のように容易く粉砕されてしまう、と危惧したメェークルにまもるで止められてしまう。

「……っはは、気持ちは嬉しいよ。ありがとなサイホーン」

 とっしんを忘れさせてロックカットを覚えさせたのは正解だったみたいだ。
 反省してのしのしゆっくり歩いてきたサイホーンの頭を優しく撫で、そして「バトルはまだ終わってないんだ、次も頼んだぜ!」と尻を叩いて送り出す。

「私の二匹目はアナタに任せマス! 行くのデス、ネイティオ!」
「サイホーン、ロックブラスト!」

 相手の二匹目はネイティオ。鋭い目とトーテムポールについているような羽、後頭部からは赤い毛が生えている。
 だがロックカットを積んだ今、速さはこちらが勝っている。滑空している相手が本格的に動き出す前に、眼前に躍り出て角の先から岩石を飛ばす。
 一発目は相手の翼に命中、体勢を崩したネイティオはきりもみ回転しながら落下する。更に二発目が背中を射抜き、三発目は倒れて無防備な腹部を直撃。そこで技は終わってしまった。

「まだネイティオは戦闘不能になっていない! サイホーン、もう一度ロックブラスト!」
「ネイティオ! ……リフレクター!」

 三発では倒しきれなかったらしい、相手は首を持ち上げて目を見開いた。サイホーンの岩が放たれる、相手の目の前では光の集積した盾が展開されているが、それでもダメージの半分程は押さえきれずにリフレクターを貫通する。

「ネイティオ、戦闘不能!」

 効果抜群の連撃にはさすがにリフレクターがあっても耐えきれなかったようだ。一度は首をもたげたネイティオだが、放たれた岩石は壁だけでは止めきれない、貫通ダメージによって再び頭を倒して目を回してしまった。

「いいぜ、二体立て続けに撃破だ。三匹目もこの調子で行こう!」
「いいデショウ。行きなサイ、私の最後の一匹。カモン、サーナイト!」

 現れたのは細身の女性のような体型、胸には感情を敏感に察知する赤い突起、そしてドレスのような白いひだ。彼女がジムリーダー最後の一匹、サーナイト。
 今、流れは確実に自分達の背後に立っている。この勢いを維持することが出来ればきっと勝利はぐんと一気に近付くはずだ。

「速攻だ、じしん!」

 早速地面を強く踏みつけ、辺りに衝撃波が広がっていく。だがサーナイトは動かない、不動でただ技が来るのを待っていた。

「サイコキネシス」

 ついにじしんが届く、という時その眼が蒼白の妖しい光を灯され、対象はなんと自分自身。
 超能力で浮かれてしまっては、当たる攻撃も当たらない。

「だったらロックブラストだっ!」
「キキマセンよ、エスパーですカラ」

 ならばと岩を発車するが、壁にぶつかるだけでダメージは半減、更にサイコキネシスで貫通分のダメージすら防がれてしまう。

「……だったら、これでどうだ! つのドリルで決めてくれ!」

 サイホーンが天を衝く角を高速で回転させ始める。それでもまだ相手は動かず構えている、まさか誘っているのか、と不審を抱いていたが恐れるよりも攻勢に出ることを選択した。
 宙に漂う標的へと一直線に駆け込んで、跳躍をするとサーナイトの眼前まで接近出来た。

「よし、いけぇ!」

 角のドリルがサーナイトを穿つ。その勢いに押されて相手はその場に留まりきれず、ペールさんの背後まで吹き飛ばされた。

「……やったか!?」

 だが、相手は突然空中で静止した。なぜ、と戸惑っているうちにサーナイトは両腕を付きだし、頭上に金色の球体が生まれていた。

「ムーンフォースデス!」

 その球体から地上のサイホーンに向かって、極太の光線が放たれた。光は眩く岩塊のような体を飲み込み、その穏やかな色で焼いていく。

「……っ、サイホーン! サイホーン!?」

 光が収まると、サイホーンが倒れていた。
 目を回して突っ伏している、もう起き上がる様子は見えない。

「サイホーン、戦闘不能!」
「お疲れ様、よくやったなサイホーン、ゆっくり休んでくれ」

 労いながら彼をボールに戻して、考える。つのドリルは確かに命中していた、なのに効かなかった、その理由は……。

「そうか、レベルか……!」
「ええ、だからワタシは避けずに食らわせたのデスよ。倒した、と安心させ油断を生む為にネ」

 先程述べた通り一撃必殺技は自分よりレベルの高い相手には効き目がない、だから確実に当たっていたのに倒れなかったのだろう。オレの推測に、ペールさんも頷いてみせた。

「だったら、次は……! お前に任せるぜ、行けっメェークル!」

 相手がサイホーンよりも高いレベルを持つというなら、こちらも最も強く信頼している相棒を出して受けて立つ!
 隣に立っていたメェークルが身構え、小さく跳ねてフィールドに参入した。

「かわらわり!」

 まずは邪魔な壁をたたっ斬る! 角を構えて駆けるが相手はやはり動かない。だがここはあちらの戦法に甘えてそのまま攻撃をすることにした。
 高く蹄を打ち鳴らし、頑強な角で思いきり相手を守る光壁を殴った。
 壁は硝子のように脆く中心からひび割れていく。そしてついにパリン、と音を鳴らして破片となって飛び散っていく。

「よし!」
「サーナイト、サイコキネシス!」

 しまった、と思った時にはもう遅い。相手の瞳が蒼白く光、メェークルの体は……。

「なにも、ない……? ……いや、違う」

 確かにメェークル自体にはなにも起こっていない。だが、事態はただダメージを食らうよりももっと悪質だったのだ。

「リフレクターが……!」

 砕け散ったリフレクターの破片が、蒼白の光に包まれ集合している。どうやら相手が取ったサイコキネシスの対象はメェークルではなくリフレクターのようだ。
 再び元の長方形に戻ると、最初はそれぞれ個々の破片だったものがゆっくり溶け合い混ざり合い、一つの塊に戻っていく。縦に長い長方形、それは照明を受けてきらきら表面を輝かせていた。

「……だったらもう一度! かわらわりで打ち砕いてやる!」

 再び壁に強く頭を叩き付けるが、今度は鈍い音が鳴っただけでなにも変わらない。リフレクターは未だ眼前で強く保たれていた。
 サイコキネシスでの補強、更に今もその影響を受けていることで割られない程の頑強さを手に入れているらしい。

「ネイティオが自分を犠牲にしてでも残してくれたリフレクター、決して割ることは出来まセン!」
「それでも割ってみせます! 一度や二度で駄目なら、壊れるまで何度だって叩くまでです!」

 ……お前ならそうする。だろ? ソウスケ。ちらとソウスケのことを見やると、彼は満足そうに拳を突きだし親指を立てていた。
 相手はリフレクターを守る為には念動力を使わなければならない、ならばオレ達が攻めている限りは攻撃出来ないはずだ。だったらまだ望みはある!

「行くぞ! メェークル! かわらわりだっ!」
「サイコキネシスデス」

 蹄を鳴らして姿勢を低くし、強く相手の眼前で立ち塞がる光壁を殴り付ける。それでも壁は割れる気配は見せない。サイコキネシスでの強化の影響だろう。

「サーナイト、ムーンフォース!」
「まもるだ!」

 頭上に輝く金色の球体から極太の光線が放たれた。光はメェークルを飲み込むが、光が晴れても、展開していた盾のおかげで無傷のままだ。
 メェークルが首元の葉の中からリンゴの芯のようなものを取り出して頬張る。"たべのこし"、少し体力を回復する持ち物。

「ナラバ、もう一度ムーンフォースデス!」

 頭上で黄金球が輝いた、恐らく直後に光の柱が上るだろう。それでも、オレ達は!

「そのリフレクターが仲間の為に残したものだっていうなら、オレ達は仲間の為にそれを壊す! 今がチャンスだ、怯むなメェークル!」

 今はムーンフォースの最中だ、補強する技は、サイコキネシスは使えない。今ならリフレクターを割る、その可能性はゼロではないはずだ。
 頭上から光が降り注ぐ、それが全身を飲み込み背を焼いていくが……。

「かわらわりだ、行けぇっ!」

 穏やかな灼熱の光の中、脚を動かす。痛みを抑えて必死に動かし、角を高く掲げて嘶き……振り下ろした。
 光を受けて煌めく壁の中央、その表面がわずかに欠けた。そしてそこを中心にひびが走り始めると、瞬く間に全体へと広がり弾けた。

「……ッ、サイコキネシス!」

 ようやく再び割れた、だのにここでまた再構築させるわけには絶対にいかない。
 幸いにももう光は止んでいる、遮るものはなにもない。

「させるか! 切り裂け、リーフブレード!」

 焦燥し切った表情でサーナイトの瞳に光が灯る。だがこちらも黙って見ているわけがない。
 光が渦巻く角をかざして、一閃。腹部を切り裂くと相手は技を途切らせよろけた。その間も壁の破片は散らばっていき、ついには粒子となって消え去った。

「……よし、これで」
「いいでショウ、アナタ達のキモチは認めマス。デスガ終わりデス、ムーンフォース!」

 頭上の黄金から柱が降りてくる、回避も防御も間に合わない。光に焼かれ、倒れたメェークルは満足そうに笑っていた。

「メェークル、戦闘不能!」
「……ありがとう、お疲れ様、メェークル」

 労ってモンスターボールに戻す。
 これでオレにも後がない、もう互いに残りは一匹だ。

「だけどオレ達は負けない、サイホーンとメェークルがここまでやってくれたんだからな。だろ、行けライチュウ!」

 最後の一匹はライチュウ、でんきタイプの速攻ポケモン。

「まずはねこだましだ!」

 一瞬にして急接近、相手の眼前で両手を叩き合わせて音で怯ませる。

「続けてかみなりパンチ!」

 更に着地して、脚をバネに勢いを付けてサーナイトのか細い腹部に雷を纏った拳を捩じ込む。
 だが相手はまだ戦えるらしく、瞳を輝かせてサイコキネシスを使いライチュウを地面に叩き付けた。

「……っ、まだだ! もう一度だ、かみなりパンチを届かせろ!」

 相手はメェークルの時にもダメージを負っている、さすがに体力にも限界が来ているだろう。だが当然思い通りにはさせてくれない。

「サイコキネシス!」

 蒼白い光が瞳に灯り、連動するかのようにライチュウを同じ光が包み込む。
 その拘束で攻撃を届かせないつもりらしいが……。

「気にするな、お前なら行ける、進め!」

 少しの間は動けず焦っていたライチュウ。しかしその声援に自信が湧いてきたのかやがて大きな一歩を踏み出した。

「サイコキネシス、威力を上げなサイ!」

 相手も更に威力を上げて、ライチュウは後一メートル、というところまで近付くことが出来たが再び動きを封じられてしまった。
 ライチュウの抵抗が激しく放り投げることが出来ない、拘束は強く動くことが出来ない。拮抗したまま時間だけが徒に過ぎていく。
 この均衡をどちらが先に崩すか、そこに勝負が掛かっている。

「相手は今が最大火力だろう、だけどオレ達なら……。ライチュウ、電気だ! 電気で筋肉を刺激しろ!」

 それを崩すのはオレ達だ! でんきタイプのライチュウならそれが出来る、全身に電気を送り込んで筋肉を活性させると、拘束を受けながらも再び一歩を踏み出すことが出来た。

「ライチュウ……かみなりパンチ!」

 足元まで辿り着くことが出来た、脚に力を最大限溜め、一気に解き放つ。弾丸のように飛び出したライチュウは、サーナイトの陶器のように白い頬を思い切り殴り飛ばしていた。
 サーナイトはよろけて、足をもつれさせて仰向けに倒れ込んだ。

「……よし、これで」
「マダデス、ムーンフォース!」

 終わった、そう思って脱力したライチュウを光の柱が呑み込んだ。弾き飛ばされたライチュウは地面を転がりうつ伏せに倒れてしまう。

「……ライチュウ、ライチュウ!?」

 相手は予想以上にしぶとい、いや違う……!
 ともかく名前を叫ぶと、さすがにつらそうに肩を抑えてはいたものの、ライチュウは、そして相手のサーナイトも立ち上がった。
 フィールドの端と端とで睨み合う二匹はお互い疲弊しきっている、勝負は次で決着する。

「サーナイト! ムーンフォース!」
「ライチュウ! かみなりパンチだ!」

 腕を突き出し頭上に黄金の球体を生み出すサーナイト。だがそれから光が降り注ぐよりも先に、サーナイトの腹にはライチュウの拳がめり込んでいた。
 ライチュウが離れ、サーナイトは静かに膝を着き、崩れ落ちる。

「サーナイト、戦闘不能! よって勝者、ラルドタウンのジュンヤ!」
「……よおし! やったな、ライチュウ!」

 無邪気に跳ねて喜びを露に飛び付いてくるライチュウ。それを確かに抱き止めて、ジュンヤは労ってから地面に降ろす。

「これはプサイバッジ、このシトリンジムに勝利した証デース!」

 ペールが歩み寄り、差し出したのは六角形の小さな金属板。

「これからもナカマの為に、悪に屈さぬよう……精進して下サイ!」
「……はい、オレ達は仲間を守る為に強くなります。ありがとうございます、ペールさん!」

 それを受けとると、観客席からシャワーズとヒノヤコマが飛び出して来た、腰のモンスターボールからもメェークル、サイホーンが飛び出してくる。

「……分かったよ、行くぜみんな!」

 五匹はそわそわしながら待っていたが、オレの言葉を聞くと元気な声を張り上げた。

「よし! プサイバッジ、入手したぜ!」

 高々掲げて大声叫ぶ。足元ではそれに続いて五匹も、勢い良く飛び跳ねた。

■筆者メッセージ
更新遅くなりました、ごめんなさい!
せろん ( 2015/07/26(日) 16:32 )