第28話 強襲、オルビス団
208番道路を抜けて、新たな街シトリンシティ。オリエンタルな雰囲気の建物が並ぶこの街には様々な趣味趣向を持つ人々が集い、多様な文化の広がりを見せている。
「ヒノヤコマはメェークルにつばめがえし、シャワーズはサイホーンにハイドロポンプだ! メェークルはまもるでサイホーンを守れ、サイホーン、ロックブラスト!五連打ァッ!」
そんな街に来てもジュンヤくんは変わらない、いや、以前にもまして鍛練に励んでいる。今はヒノヤコマとシャワーズ、メェークルとサイホーンのタッグを組んでバトルしているようだ。
「みんな……! 後百回でスクワットは、終わりだ……! ……頑張ろう、ゴールは近いよ!」
ジュンヤくんだけじゃない、ソウスケくんもだ。彼らはスポ根を前面に押し出して励んでいる。……まあ、レアコイルは足が無い為上下しているようにしか見えないけど。
「ハハ、二人とも張り切ってるねノドカちゃん」
「うん、……私も準備出来た! 出て来て、コアルヒー! みんな!」
話し相手となるであろう人物の最後の砦ノドカちゃん、とうとう彼女まで特訓を始めてしまった。
ひたすら十メートルほど先の空き缶に向かってポケモン達に大技を連打させている。
「……けど今ボクは特訓したい気分じゃないんだよね。どうしよっか、ゾロア」
レイが相棒のゾロアと一緒に頭を悩ませ、だが妙案思い付いた、と言わんばかりに頭の上に電球を浮かべた。
「そうだゾロア、気分転換に散歩に行こうよ。確か有名なサ店があったはずだから、一通り食べ歩きをした後そこでレーコーをすすろう!」
やっぱりせっかく旅してるんだから、バトルだけじゃなくて街も楽しまないと損だよね!
特訓をしている三人とポケモン達に別れを告げて、ボクとゾロアはポケモンセンターを後にした。
この街は多様な文化が花開く街だ、しかし、彼らには一つ共通していることがある。それは、皆ポケモンを愛しているということだ。
何故それが分かるか。簡単だ、一目瞭然だからである。
「よしよしワシボン、ポフレだぞ」
普段は気性が荒くすぐに暴れだす彼が今は大人しくソウスケの膝の上でポフレをついばみ、その隣ではノドカがドレディアと楽しそうに花を愛でている。
この街、シトリンシティ中央には巨大なポケモンとの触れ合い施設がある。この施設のおかげで、普段街中では一緒に過ごすことが出来ないポケモンとも心行くまで遊ぶことが出来るのだ。
というのもこの施設、通称「ふれあいパーク」では様々なポケモンの持つ能力や特性を研究・応用し、興奮を抑制するリラックスした空気、異常天候を無効化する空間を実現しているらしい。
更に特性「ほのおのからだ」や「せいでんき」のポケモンとも触れ合えるように特殊な手袋も貸出している。
事実怪獣のコスプレをした怪獣マニアはユキノオーと過ごしているが霰は降り注いでおらず、ひょっとこみたいな火吹き野郎も一万度という超高温の体温を持つマグカルゴと思う存分触れ合っている。
「ほら、気持ちいいかライチュウ」
そしてオレもその手袋を借りている、ライチュウの赤い頬を親指でゆっくり円を描くように撫でるとライチュウは猫撫で声でお腹を見せてきた。
そんな油断しきっただらしない姿にいたずらごころが芽生えたが、お腹をわしゃわしゃしたい衝動をなんとか飲み下して優しくなでる。
散歩から帰って来たレイが、この施設の存在を教えてくれたのだ。そしてひたすら特訓ばかりやっているのも効率的にも精神的にもよくない、休憩も重要だと一度特訓を切り上げてここに来たのだ。
「そうだ、ジュンヤくん、知ってる?」
レイがここで蘊蓄を披露してくれた。
元々この施設は、かつて爆発事故を引き起こしたきっかけと言われるかの男、リュウザキの研究していた内容であり、一度諸事情から中止されたが、近年それを掘り起こした現チャンピオンのスタンさんが技術の進歩もあり実用化まで漕ぎ着けたそうだ。
「なのに世間ではイカれた男扱いなんてかわいそうだよね、リュウザキさんは」
「そうだな、レイ。これだけ素晴らしい施設の基礎をつくっていたなんて、本当は悪い人じゃあないのかもな……」
以前見付けた親バカ日記でもそうだ、リュウザキはどうしても悪い人間には思えない。
見渡せば、様々な人とポケモン達が飾り気の無い笑顔で幸せそうに触れ合っている。まさに理想の光景だ、ずっとこの時間が続けばいいのに、とすら思えてきてしまう。
「……やっぱり、人とポケモンはこうあるべきなんだ」
「いきなりどうしたんだい、ジュンヤくん」
ノドカもソウスケも自分のポケモン達と戯れていて気付いていない、しかしレイだけは聞き逃さなかった。
彼が目を細め、弓なりの穏やかな笑みを浮かべながら小首を傾げる。
「……ポケモンは大事な仲間だ、それを道具みたいに扱うのは間違ってる」
「……うん、少なくともボクはそう思っているよ」
その言葉が誰のことを指しているかはすぐに分かった。オルビス団、彼らのめんながみんな非道な人間であるとジュンヤくんは思っているのだろう。しかしそれも当然か、と少しばかりの寂しさを感じながら、レイは頷いた。
「出来るだけ多くの人が、こんな風にポケモンと一緒に過ごせる未来をつくりたい。だから、ボクは……」
言い終わるよりも先に、青空に降る雷の如く、何の前触れも予兆も無く突然視界がブラックアウトした。
「う、うおっ! やめてくれワシボン!」
「どうしたんだソウスケ! ……痛っ、なんだ!?」
ソウスケの悲鳴、とともにいきなり冷気が立ち込め固く冷たい大粒の何かが腕に当たり、かと思えば今度はまるで砂みたいな細かい粒が吹き荒れる。
「出てきてモココ、回りを明るくして!」
ノドカが腰から掴み取ったモンスターボールを投げようとしたが、
「っ……! モンスターボールが!?」
再び振り出した冷たい礫に手の甲を打たれて、モンスターボールを落としてしまったようだ。靴も分からない暗闇の中、足元でノドカがボールをさがしてモソモソ動いているのが分かった。
「だったらオレが……」
その時、地を震わす程に凄まじく轟く爆発音とともに突然天井が崩落を始めた。巨大なコンクリート片や照明が次々落下してきて、太陽の光が施設内に射し込むと皆動揺と恐怖と混乱とに駆られながらも何よりも優先してポケモンをモンスターボールに戻す。だが、中には巻き込まれた者もいるらしい、幾人ものの悲痛な叫びが何度も何度も耳を貫いた。
「随分楽しそうだな、腑抜けのクズ共!」
上空から攻撃的な声が降り注ぎ、次いで三人の男達が目の前に着地した。一人は髪の長い少年、もう一人は刺々しく跳ねた髪でデコを出した若い青年、そして最後の一人は巨体で、長い髭を蓄えた初老の男だ。
彼らは皆、胸に紅い輪の描かれた黒い制服を羽織っている。
「お前達、オルビス団員……!?」
「服見りゃわかんだろバーッカ!」
長髪の少年が高笑いしながらジュンヤを嘲る。
なるほど、停電を起こしたのもきっとこいつらの作戦だったんだ……! そして今天井を壊して、被害などお構いなしに降りてきた……!
「狩らせてもらうぞ、貴様らのポケモンを! ゆけっ! キリキザン!」
「アッハハハ、逃げろ逃げろぉっ! 行きなよ、ドンカラス!」
「ワルビアルよ、任せたぞ」
そしてポケモンを出した彼らは、手当たり次第に近くにいたポケモントレーナーを襲っていく。
キリキザンは瓦礫に埋もれたポケモンを救い出そうしていたトレーナーのこめかみを後ろから殴り、その腰からモンスターボールを全て回収すると主である刺々しく跳ねた髪の青年に投げ渡して別のトレーナーに狙いを定める。
またドンカラスは逃げようとしていた少女を翼で叩いて無理矢理モンスターボールをベルトから落とし、脚で蹴り飛ばして主の長髪の少年に届ける。
そしてワルビアルは立ち向かってきた筋肉質な男性の腹に拳を叩き込み気絶させ、初老の男性がベルトからボールをむしる。
「……なんだよ、何が起こってるんだよ……?」
ジュンヤは目の前で繰り広げられる惨状に愕然として、魂を抜かれたように立ち尽くしてしまっていた。
……つい先程まで、オレ達はポケモンと触れ合っていたはずだ。みんなが笑顔で、みんなが楽しく至福の一時を過ごしていた。……なのに、一瞬にして崩れ去ってしまった。ポケモントレーナーの理想郷が……あの、オルビス団員の手によって!
「ジュンヤくん、逃げようよ! このままじゃキミまでポケモンを奪われちゃうよ!?」
「……逃げる? 馬鹿言うなよ、レイ」
彼の言葉を真正面から否定して、メェークルの角を強く握り締めてオレの気持ちを伝える。
「……行くぞ、メェークル!」
「やめてよジュンヤくん! メェークル!?」
「黙ってろ!」
これ以上やつらに好き勝手されてたまるか、オレ達がみんなを守ってみせる!
オレとメェークルは同時に身を低くして、初老の男の背後から飛び掛かった。狙いはただ一つ。彼が左手で引きずっている、奪ったモンスターボールを入れる麻袋。
「むっ……。ワルビアル!」
「……っ、まもるだメェークル!」
振り返り様の裏拳がオレの鼻先を掠り、見上げればワルビアルが鈍く爪を光らせながら飛び掛かってきた。
オレは飛び退り、替わりに躍り出たメェークルが光の盾を展開する。
「なかなかの反応だ、少年」
「……奪ったモンスターボールを返せ」
「それは出来んな、我らにも使命がある」
「そうだよな、返せって言って返すわけがない。だから……力ずくで奪い返す! メェークル、いわなだれだ!」
「やれやれ、血の気の多い若者だ……」
激昂するジュンヤに対して老人は呆れた様子で肩をすくめた。
メェークルが蹄を踏み鳴らして岩を降らせる、だがワルビアルはそれを容易く見切って軽々回避し、その太い尻尾で次々打ち返してきた。
「かわらわりだ!」
だがこちらもそう簡単にはやられない、打ち返された岩を蹄で砕きながら接近する。
「リーフブレード!」
そして角に光を纏わせて、一閃した。効果は抜群、いくら最終進化系といえどもただでは……。
そこまで期待したところで、あっさり希望を打ち砕かれる。ワルビアルは振りかざされた角を僅かに目元を歪めながら握り締め、次第に角の光は塵となって消えてしまう。
「これで終わりか、少年。我らに刃向かうには力不足だな」
「……うるさい! メェークル、蔓を使って……」
「投げ飛ばすのだ、ワルビアルよ」
角を掴まれたままでは何も出来ない、いわなだれ程度では怯ませられない。ならば技以外を使うしかない、苦し紛れに伸ばした蔓も、しかし投げ飛ばされることで徒労に終わった。
「ほのおのキバだ」
更に追撃とワルビアルが牙を象った炎を具現させてメェークルに飛び掛かる。
「まもる!」
ワルビアルの一撃は、しかし展開させた盾を突破出来ずに炎は舞い散り掻き消える。一度は凌げたものの、そんな姑息な手段は何も状況を好転させられない。結局落下するのは変わらず、落下地点でワルビアルが大顎に炎牙を携え待ち構えている。
「まずい……! 再びまもるだ!」
メェークルが瞳を伏せて念じ、先程同様光を眼前に集中させる。だが、盾をつくるには至らなかった。完全に形成するまで精神が保たずせっかく集めた光が霧散してしまう。
大顎と炎牙はもう目の前だ、このままだと……!
「メェークル、蔓で……!」
「ワルビアルよ、やるのだ!」
しかし今更出来る抵抗などない、けどここで諦める訳にはいかない。でも、どうすれば……。
「やらせないよ、ジュンヤは私が守るんだから! コアルヒー、ハイドロポンプ!」
諦めかけたその時に、ノドカの叫び声。と同時に横からワルビアルの顔面を直線の激流が飲み込んだ。
「ノドカ……、助かったよ、ありがとな」
「いつも助けられてますから! たまには私達だって働きますよ!」
距離を取るメェークルと首を払って構えるワルビアル。二匹の間に割り込むようにコアルヒーが舞い降りて、敵を果敢に睨みつける。
「って、うそっ、効いてない!?」
ワルビアルはまるで何事も無かったかのように平然としている、ノドカが驚愕している間にも老人が指示を出す。
「コアルヒー、避けて!」
「駄目だ、間に合わない。まもるだメェークル!」
鋭く翳された爪が振り下ろされる、地上での動きが速くないコアルヒーでは回避もままならない。割って入ったメェークルがまもるで庇い、それでも相手は引かず何度も何度も爪撃を浴びていくと次第に光の盾が綻び始めてしまう。
「まずい、このままだと……!」
「コアルヒー、ハイドロポンプで援護よ!」
その攻撃は見事直撃、だがワルビアルは攻勢を全く緩めない。
……まずい、もうまもるが保たない!?
とうとう光の盾が中心から砕け、破片となって飛び散った。そして無防備なメェークルにその鋭利な爪が襲いかかる!
「メェークル……!」
「ダルマッカ、かわらわりだ!」
気付けばジュンヤは飛び出して、ワルビアルの爪から庇うように強くメェークルを抱き締めていた。
技を食らうだろう自分のことなど考えてもいない。ただ半ば反射的に体が動いて、メェークルを守らなければ、ということしか頭になかったのだ。
だがいつまで経っても何も起こらない。余程の痛みを覚悟していたというのに、とただただ疑問に埋め尽くされていた彼だが、振り返ればすぐに理解できた。ソウスケとダルマッカ、ノドカとコアルヒーがワルビアルと向かい合っている。
……そういえば、先程ソウスケが指示を出す声が聞こえたな、と今更になって思い出す。
「ノドカ、ソウスケ。コアルヒー、ダルマッカ。……ありがとう」
「全く、君も無茶をするな。それに礼なら老人を倒してからだろう?」
「そうだな……。悪い、ソウスケ」
相手はすごく強い、勝てるなんて確信はどこにもない。だけど何があっても倒さなければならないのだ、二人の幼馴染みとポケモン達の笑顔を前に、オレの弱気は必死になって姿を隠していた。
「行くぞ、みんな! 絶対オレ達がモンスターボールを取り返すんだ!」
掛け声とともに構えて、オレとノドカとソウスケは呼吸を合わせて指示を出した。
……老人とワルビアルに対して、ジュンヤくん、ノドカちゃん、ソウスケくんが相棒のポケモン達と一緒に対峙している。
ポケモンのスペック差もある、普通に考えたらワルビアルに敵うはずがないだろう。だけど、その時はボクが助けてあげればいい。
「フン、ジジイが面白いことになっているな」
粗方仕事を終えたのだろうキリキザン使いの青年が、やることはやった、文句はないはずだ、とつまらなそうな顔で高見の見物と洒落こんでいたが、三対一の状況となると不敵な笑いを浮かべ始めた。
「どうするデコハゲ、じいちゃんに加勢する?」
今度はドンカラスのトレーナーである長髪の少年がパンパンに膨らんだ麻袋を両手に尋ねる。するとデコハゲくんはその腰を上げて、「必要はなさそうだが、そうだな、ただ待っているだけというのも面白くない」とモンスターボールを構えた。
「ねえ、待ってよ」
だからそれをボクが、レイが呼び止める。
「ボクの最高の時間を邪魔をしたんだから、謝罪の一つくらい言いなよ?」
「なんだ貴様、やつらの仲間か」
「……はあ、呆れちゃうよ。ホントにアイクの部下は戦闘以外に対しては無頓着だね。キミ達、ボクが誰だか分かってないでしょ?」
「先に質問したのは俺だ、答えろ」
呆れて声も出ずに肩をすくめるレイに、キリキザンの青年は殺気立った言葉を続けていく。だけど。
「ごめんね、ボクはキミみたいな端役に名乗る名前は持ってないんだ」
「なるほど、俺好みの答えだ。ならばバトルで吐かせてやる」
「アハハ……。そういう強気な人は嫌いじゃないよ。実力が追い付いていないのが悲しいけどね」
正直ボク達の時間を邪魔されたことで機嫌が悪いし、ちょっとだけ本気を出しちゃおうかな。腰に手を伸ばしてモンスターボールを掴みかけた、が、何者かの気配がして動きを中断して振り返る。
「この街を傷付ける不義の輩はこのワタシ、ペールが許しまセーン! 行くのデス、サーナイト!」
見栄を切りながら加勢に来たのは以前ケンタロス捕獲大会を開いていた彼。鮮やかな紅の燕尾服を着こなしており、紫がかった色素の薄い長髪。長身で彫りの深い顔立ちのペールさんだ。
サーナイトが手のひらの先に蒼白のエネルギーを溜めてキリキザンに向けて放った。
「きあいだまか。無駄だ、切り裂けキリキザン! ハサミギロチン!」
だがもちろん相手もただでは食らわない、飛んできた球を腕の刃で切り裂き容易く防いでみせた。
「いいだろう、ペールとやら。そこの小僧とともに俺のキリキザンで踏み潰してやる!」
ペールさん、確か彼はこの街のジムリーダーだ。まあ街を守るのがジムリーダーの使命だからしかたないけど……。叩き潰す相手が減っちゃうのは、少し残念だな。
「ありがとうございます、助かりました! おいで、ボクのルカリオ! 一緒に悪党を成敗するよ!」
不純で荒んだ感情が内心あったが、表に出すのは自分のキャラ的にもあまりよくない。レイは素直な風を装って、礼を言いながらポケモンを繰り出した。
「コアルヒー、避けて!?」
ワルビアルは片腕でダルマッカの拳を受け止め、もう片方の腕でメェークルの角を握っていた。
両手の塞がった今が好機、と攻めたのが間違いだった。ワルビアルはコアルヒーのハイドロポンプをダルマッカを盾にして受け止めると、すぐに両腕で掴んでいた二匹を投げ捨てて飛び掛かった。
大顎が開いて、ノドカが叫ぶが相手の動きは予想以上に鋭く、回避する為の動きの間隙を正確に突かれた。
「ワルビアルよ、仕留めろ!」
待ちに待った獲物をついに歯牙にかける時が来た、鋭利な牙の並んだ上顎と下顎ががっちり噛み合い……。何も感触が得られない。
不思議に思って見上げると、すぐに分かった。
「間に合って良かったよ、コアルヒー」
ジュンヤが安堵して大きく息を吐く。
コアルヒーはメェークルの蔓に巻かれていたが、それはゆっくりほどかれる。間一髪だった、攻撃を受ける寸前コアルヒーを蔓で引っ張って、ぎりぎり攻撃を回避させられた。
「それで凌げたとは思わんことだ。いわなだれ!」
だがまだ攻撃は終わらない、頭上から降り注いだ岩がメェークル達三匹を飲み込んでいく。
「……っ、大丈夫か!?」
岩の雨が降り止み舞い散る土煙が腫れると、身を寄せ合って、いっぱいいっぱいになりながらも狭い光のドームに覆われた三匹の姿が見えた。
「メェークル……。良くやった、ありがとう」
「ありがとね、メェークル!」
どうやらコアルヒーとダルマッカはメェークルに一生懸命くっついて、無理矢理"まもる"の中に入って攻撃を防ぎきったらしい。
……だけどこのままじゃあまずい、あのワルビアルの攻撃をそう何度もうまく防ぎきれるとはとてもじゃないが思えない。長くは保たない、勝負を決めなければ!
「しぶとい小僧どもだ……。良かろう、ならば接近戦じゃ。ワルビアル……かみくだく!」
ワルビアルはメェークルを真っ直ぐ睨んでいる。相手からしたら厄介なまもるを持っているメェークルを最初に潰そうとするのは自然なことだ。
……だけど、それはオレ達にとっては都合がいい。仕掛けるなら、今しかない!
「ここはオレとメェークルに任せてくれ!」
ノドカとソウスケはメェークルを守ろうと指示をだしかけていた、だけどそれを制止する。
有無を言わせるつもりはない、渋る二人に更に念押しすると、大人しくコアルヒーとダルマッカを下がらせた。
「一瞬でもいい、怯ませられれば……。成功して、くれたら……! 迎え撃てメェークル!」
牙を鋭く光らせ大顎を開くワルビアル、それに対峙するメェークルは意を決して勢い良く地を蹴りその口に向かって飛び込んだ。
今は恐らく成功確率がかなり下がっている、オレとメェークルの運に全ては懸かっている!
「諦めろ少年よ、貴様のメェークル一匹程度の攻撃ではワルビアルを怯ますことは出来ん」
「メェークル! まもるだ!」
そう、 それがオレ達の最後の手段だ。攻撃で怯ませられないなら、剣が弾き返されてしまうのなら、盾で攻撃すればいい。
「……諦めろ。もうこの戦いだけでまもるを何度も使っている。まもるは使う度に成功率が下がっていく技、今はかなり確率が低くなってしまっているだろう」
老人の言う通りだ、成功する可能性は恐ろしく低くなってしまっている。だけど!
「オレ達は諦めない! みんなを守る為に、諦めるわけにはいかないんだ!」
勢いをつけて飛び込んだメェークルに、ワルビアルの顎が降り下ろされた。
「頼む……! メェークル!」
そして……。メェークルの全身から溢れ出すように光の結晶が展開された。
「……なっ、成功したじゃと!?」
流石のワルビアルでも、一回の攻撃だけで"まもる"を破ることなど不可能だ。結晶化した光の円盤を展開してくるメェークルのいわば盾アタックに弾かれて、とうとう無防備にのけぞってしまう。
「……一匹の力で駄目なら、三匹の力をぶつけてやる! ノドカ、ソウスケ! 総攻撃チャンスだ!」
「うん! コアルヒー、ハイドロポンプ!」
「かわらわりだダルマッカ!」
二匹が隙だらけ一斉に攻撃を仕掛けた。激流がワルビアルを飲み込み、腹に拳が深くめり込む。
防御を崩されたところに叩き込まれた技は想像以上に堪えたらしい、ワルビアルは後退りをして顔を歪めながら腹部を押さえている。
「行くぜ、決めろメェークル! リーフブレード!」
そこに、最後の一撃を叩き込んだ。最後に光の刃でその頭を切り裂くと……ワルビアルはついにゆっくり倒れ込み地に臥した。
「やった……」
極度の緊張と集中にあったが、それが途切れて思わずよろけてしまう。だが、メェークルが蔓でオレのことを支えてくれた。
「ありがとうメェークル、……それに、みんなも」
ノドカ達とソウスケ達がいなければ、今ごろどうなっていたか……。情けなく笑うオレに、二人は元気なサムズアップを返してくれた。
「こちらも終わりマシタよ、ミスタージュンヤ!」
「あー、つまらなかった」
その声はレイと、以前に会った、ペールさん!?
二人はパンパンに詰まった麻袋を抱えて手を振っている。……そうか、キリキザン使いの青年とドンカラス使いの少年は彼らが倒してくれたのか……。
「さあ、モンスターボールを回収しまショー」
「あ、はい」
オレ達が麻袋を手渡すと、ペールさんは「後はワタシに任せてくだサーイ。ミナサン、疲れているでショウ?」と笑ってくれた。
……確かに、もうくたくただ。その言葉に任せて、オレ達はポケモンセンターに戻ることにした。
だけど、本当に良かった。モンスターボールが、その中のポケモン達が奪われずに済んで。
いっぱいいっぱいの安堵に包まれながら外に出ると、黄昏の優しい光がオレ達のことを照らしていた。