ポケットモンスターインフィニティ

















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第三章 新たな仲間、まもる為の強さ
第25話 別れ道、破壊の痕と闘い
 207番道路。乾燥した赤土が一面に広がり、その中で草本植物や低木がまばらに見られる道。
 時折吹き荒れる砂塵嵐は著しく視界を奪い、その威力は一歩脚を進めるのも困難に感じられる程だ。

「……助かったよレイ。お前って本当に色々なポケモンを捕獲してるんだな」
「アハハ、気候の対策くらい出来ないとポケモンを全種類捕まえるなんて夢のまた夢だからね」

 そんな中でもオレ達は全く難無くこの道路を進むことが出来ている、それはこのポケモンのおかげだ。オレ達を先導する、わたぐもの翼を持った大きな青い鳥。

「隠れ特性のチルタリス……、いったいどこで捕まえたんだい? 差し支えなければ聞かせてくれないかな」

 そう、隠れ特性"ノーてんき"を持ったチルタリスだ。このポケモンもレイが捕まえた内の一匹らしい、ソウスケの質問に彼は「ごめんね、企業秘密だから教えられないんだ」と愛想笑いを返した。
 この特性"ノーてんき"は、自分の周囲で起こる天候の変化を無効化する効果を持っている。それは砂嵐に対してまでも影響を及ぼし、チルタリスの周囲だけがまるで快晴のような清々しい空気に包まれている。だからオレ達はこの、砂塵嵐が猛威を振るう207番道路を快適に進めるのだ。
 しかし、たまに突然の突風に耐えられず転んでしまう人の姿も見かけるのだから、他の人達は相当の苦労をしているのだろう……。ノーてんきのチルタリスをわざわざパソコン通信で連れてきてくれたレイには、やはり感謝の思いが尽きない。

「本当にありがとな、レイ」
「アハハ……。ジュンヤくん、さすがにそろそろクドくない?」
「え、……わ、悪い」
「気にしないで。……いや、ちょっとは気にしてほしいかな」
「ごめん……」

 もう今日何度目になるかわからないが改めて彼に感謝を述べると、呆れ笑いで一蹴されてしまった。……確かに何度も礼を言われるレイからしたら少し困るかもな、と自省して、気を取り直して雑談することにした。
 そうしてしばらく歩いていると、木の棒に長方形の板をくっつけたものが見えてきた。看板だ、駆け寄ってその文字を読んでみる。

「えーと、左・発電所。右・休憩所」
「分かれ道ね。でも、どっちの道からでも次の街へは到着出来るみたいよ」
「そうか、ありがとう」

 先を見ると確かに目の前には二つの道がY字のように長く遠くへ伸びていた。そしてノドカが地図を見ながら言うにはどちらを選んでも問題はないらしい。……しかし発電所なら以前も見学というか一応見たことはある、わざわざまた行きたいとまでは思わない。 

「よし、じゃあ」
「せっかく分かれ道なんだ、二手に分かれていこうよ。というわけでボクとジュンヤくんは発電所に行くね」

 発電所に行きたいなんて思ってない、なのにオレの言葉を遮ってレイが一人で勝手に決めてしまった。

「もちろんチルタリスはキミ達が連れていきなよ、ボクらには他のノーてんきがいるからさ」
「礼を言うよ。じゃあ僕らは休憩所だね、行こうかノドカ」
「うん! ジュンヤ、レイ君、楽しんできてね!」

 ……そしてノドカとソウスケは、チルタリスに先導されながら右の道を進み出した。今さら待ってなんて言えない、レイの発言に対する否定のタイミングを完璧に逃してしまった。
 砂塵に煽られながら二人の背中を見送って、レイのことを見る。

「なあ、ノーてんきのポケモンを出してくれないか」

 もうこの際発電所に行くのは別にいい、だがさすがに砂嵐だけは痛いし風圧で帽子も飛ばされそうになるし、なんとかしてほしい。オレがそういうと彼は、さも当然のように言い放った。

「やだな、いないよ」

 と。



 あれから右の道をしばらく歩き続けていると、一軒の建物が見えてきた。少し小さめのプレハブ小屋、恐らくあれが休憩所なのだろう。……だが、僕が興味を惹かれたのはその裏手だった。
 咆哮とともに小規模の爆発が起こり、また他のポケモンが悲鳴をあげる。きっとバトルしているのだろう、僕とダルマッカは砂嵐に巻かれるのも厭わず、駆け出していた。背後からノドカとチルタリスの呼び止める声が聞こえたが、足を止めるつもりは無い。早く行かないとバトルが終わってしまうかもしれないのだから。
 どうやらそこは一応白線が敷かれ、バトルフィールドの体裁を保っているらしい。向かい合っていたのは、 臙脂のトレーナーを羽織った少年と黒革のジャンバーの少年。
 二人には見覚えがある、ツルギとレンジだ。

「からげんきだ」

 逞しい二本の脚で立っている茶毛の熊、リングマにツルギが抑揚を込めずに指示を飛ばす。

「……っ、オンバット、エアスラッシュだ!」

 レンジのポケモンもただ食らってくれるわけがない、空気の刃で迎え撃つ。
 だが、その程度では足止めにすらならなかった。リングマは相手の抵抗など意に介さずその太く発達した腕を薙いだ、それだけでは意識とともに吹き飛ばされた。

「……おい。なに倒れてんだよ、早く立てよっ!?」

 足元に転がるオンバットは起き上がらない、返事もしないし指先すら動かさない。意識を失っているのは誰の目で見ても明らかだった。
 リングマは退屈そうに腕を振り回していたが、ツルギの無言の判断によりモンスターボールへと戻される。

「おい、待てよ……! 勝負はまだ、付いてねえ!」
「諦めろ、もう決着している。もっとも四匹目を出すというなら話は別だがな」
「ふっ……ざけんなテメエ! 誰がんなことするか……おれだってポケモントレーナーなんだよ!」
「だったら黙って消えろ、目障りだ」

 レンジもようやく観念したらしい、ツルギに口汚く罵倒を吐き捨てながらをボールに戻すと、大股歩きで街の方面へと去っていった。
 それを横目でちらと見てから、立ち去ろうとしていたツルギを呼び止める。

「ツルギ、僕とバトルを」
「ねえツルギ君。さっきのリングマ……どこで捕まえたの?」

 彼はすごく強いポケモントレーナーだ、ジュンヤを倒しレンジを難なくあしらっていることからもそれが窺える。是非とも彼とは一度バトルをしたい、ダルマッカも同じ気持ちらしく、僕の肩に飛び乗って体温を上げ始めていた。……のだけれど、僕の言葉はなんと一歩進み出たノドカに遮られてしまった。

「誰かと思えば、あいつの愉快な同伴者か。それを知ってどうする」

 彼の言う『あいつ』、それはジュンヤのことだろう。

「ううん、ただラリマの森で捕まえていたとしたら……。私はその子に謝らないと」
「……なるほど、こいつが攻撃に無抵抗だったのはお前が原因だったのか」

 ……森のリングマ、確かノドカが襲われたんだったかな。だけどどうして謝る必要が……? ついていけない僕をおいてけぼりにして、どんどん話が進んでいく。

「……うん、ジュンヤが私を助ける為にリングマの戦意を失わせたの。だけどそのせいであなたのポケモンに一方的にやられちゃったんだとしたら……」
「言いたいことはそれだけか、だとしたら無意味だな」
「でもやっぱり、一方的に攻撃なんてかわいそうだよ!」
「安心しろ、そんなわずかの誤差では何も変わりはしない」

 確かに彼のポケモンはすごく強い、仮にリングマに戦意があったとして展開が変わったと自信を持って言い切ることは僕には出来ない。ノドカも同じなのだろう、とうとう言葉に詰まってしまった。

「ノドカ、下がっていてくれ。ツルギ、僕はラルドタウン出身のソウスケだ。次は僕達とバトルしてくれないか」

 これ以上話が進むことはないだろう、僕がノドカの前に進み出て今度こそ言うことが出来た。ダルマッカも肩から飛び降りてファイティングポーズを取る。

「なんだ、あいつの報復でもしたいのか?」
「心外だな、そんなつもりはないさ。確かに君のやり方はどうかと思う……けど、今はジュンヤは関係ない。僕はただ純粋に、すごく強いトレーナーである君と戦いたいんだ」

 自分でも自分の声が楽しそうに弾んでいるのが分かった。そう、少なくとも今の僕にとってツルギは一人のポケモントレーナーに過ぎない。彼の人柄やポケモンへの扱い、ジュンヤとの因縁などの過程もこの瞬間のバトルには何ら影響を及ぼさないのだから。

「たとえ一矢報いることすら難い相手と分かっていても、か?」
「当然じゃないか、ポケモントレーナーなら。勝てるか勝てないかじゃない、強さを肌で感じたいから挑んでいるんだ。なあ、ダルマッカ」

 足元のダルマッカも頷いて、ツルギに期待の眼差しを向ける。
 もちろん負けて何も感じないわけじゃあない、僕らだって負ければ相応に悔しい。だけどそんなのバトルをしない理由にはならない、それだけで目の前の強者を逃すなんてもったいなさすぎる。

「可笑しな奴だな。珍しいぞ、お前みたいな馬鹿は」
「それは誉め言葉として受け取っておくよ」
「勝手にしろ」

 そしてツルギはモンスターボールを構えた、どうやらバトルを受けてくれるようだ。

「……望み通り、力の差を教えてやる」
「ああ、君とは一度バトルしたいと思っていたんだ、嬉しいな。三対三のフラットルールで構わないね」

 彼は無言で頷いた、僕は舞い上がるような高揚を抑えながらモンスターボールを構えた。



「止まって!」

 レイの一言で足を止めると、直後突風が砂塵とともに吹き付けてきた。絡め取られまいと強く地面を踏みしめて、飛ばされないよう帽子を押さえながら前のめりになる。それはレイも同じだ、ハンチングを押さえて必死に風から堪えている。

「……みんな、大丈夫か」

 少しすると風も緩くなってきた、振り返って尋ねるとメェークルとゾロアは全然平気、と言わんばかりに力強く首を縦に振った。

「けどよく強風が来るって分かるな、レイ」

 レイはこれまで何度も的中させている。その精度はまるでおみとおしを使えるのではないかと疑う程だ。

「簡単だよ、前兆があるからね」
「前兆?」
「うん、初期微動と同じだよ、前兆としてまず微弱な風が吹くんだ。だからそれさえ知って注意してたら簡単さ」
「なるほど……」

 ……しかし驚いたな、まさかノーてんきのポケモンをチルタリスしか連れていなかったなんて。いや、まあ確かに二手に分かれるなんて想定していなかっただろうから当然と言えば当然なのだが……。わざわざ嘘を言ってまで二人で行く必要があったのだろうか。尋ねると、「ジュンヤくんは二人に心配かけたくないと思って」と返された。
 ……いや、まあ確かに心配はかけたくないけどさ。ノーてんきのことを聞いたわけじゃなかったんだよ! だけどなんとなく質問しづらくなって、そのまま先に進むことにした。
 ……そしてしばらく歩いていると、見えてきた。発電所が、では無い、立ち入り禁止のテープが張られた規制線だ。

「……入れないみたいだな」
「まあ当たり前だよね」

 これまでの苦労はなんだったんだ、無駄足じゃないか……。溜め息とともに吐き出した言葉にレイはさも当然のように同意を示す。……って。

「レイ、まさか立ち入り禁止になっていることを知ってたのか?」
「うん、といっても立ち入り禁止だろうなって予測していただけなんだけどね」
「……予測って、どうして」
「ほら、見てごらん。規制線の向こうを」

 規制線の向こうか、テープ自体に気を取られていて見ていなかったが……。しかし何か相応の理由があるはずだ、固唾を飲んで顔を上げると……。

「酷い……。なんだよ、これ」

 元がどれだけの規模の発電所だったのかは知らないが……そこに広がっていたのは、惨状だった。
 へし折れた鉄骨は剥き出しになって節くれ立ち、コンクリート片が散乱していた。更に駐車場のアスファルトは溶け、そこに横転して燃やし尽くされた車が何台も転がっている。
 発電所の壁にも大穴が穿たれており、また一部は崩落してしまっていて……とてもじゃないが、もう発電所の原型を保っているとは言えなかった。

「……これも、やつらの仕業だよ」

 やつら……。そういえば以前、どこかの発電所をオルビス団が襲撃したと聞いた。まさか、ここがそうなのか……?

「全部……オルビス団がやったのか?」
「うん。ジュンヤくん達がこれまで対峙した新人や落ちこぼれとは、レベルが違うんだよ」

 レベルが違う。……確かに、言葉の通りだ。これだけ大きな規模の破壊、一体どれだけの人数でやったかは判らないが、これまでオレ達が撃退したやつらじゃあ出来そうに無い。

「しかもすごいよね、確かに部下も連れてはいたけど、破壊のほとんどは一人の操る一匹のポケモンがやったんだよ」

 我が耳を疑った。

「……な、なんだよそれ、ありえないだろ。こんな大規模な破壊が、たった一人だけなんて……」
「けど実際に起きた。それだけ強いんだ、幹部と呼ばれる人間は」

 ……幹部。それが、たった一人でこんな惨状を……。信じられないが、それが事実では無いと言い切れない。
 チャンピオンであるスタンさんの兄弟子であるエドガー、スタンさんが激闘の末にようやく撃退したというアイク。
 動揺から、オレの声は震えてしまっていた。チャンピオンにすら匹敵し得る力を持つ幹部ならば不可能ではないと、一度対峙したことのあるこの体が……本能で、理解していたのだ。

「あいつらの力は分かったよね、今のキミ達じゃあ敵うわけがない。オルビス団から手を引こう、ジュンヤくん」

 ……レイの言う通りだ、今のオレ達には敵うはずがない。このまま進めば、また幹部に出会ってしまうかもしれない。そうなれば、オレ達がどうなるかは分からない……。

「……だからって、勝てないからって黙って逃げろって言うのか、レイ!」

 今でも鮮烈に蘇る、あの日両親の魂が業火に燃やし尽くされる光景を……。それだけじゃない、保護していたポケモンも、預かっていたポケモンだって、あいつの……あの仮面の男の手によって、狩られていった……。
 あの日オレは、オレとメェークルは逃げ出してしまった。家族もポケモン達も、全てを見捨てて……。

「オレはもう、逃げたくないんだよ……!」

 オレの言葉に、メェークルが瞼を伏せて神妙に追従する。
 オレとメェークルの気持ちは同じだ、たとえ自分がどうなったとしても、オレ達は……。

「気持ちはよく分かるよ、ジュンヤくん。だけど現実を見るんだ。ボクのゾロアにすら勝てない口だけのキミに一体なにが出来るの? きっと幹部は今のキミが100人束になったって傷一つつけられない、末端戦闘員だけを相手にしていたっていずれ目をつけられる」
「……なあ、どうしてだ。なんでお前はそうまでして、オレとオルビス団を引き離そうとしてるんだ……?」

 オーベムでの記憶改竄だってそうだ、明らかにおかしい。今ようやく分かった、きっと二手に分かれたのも、本当は説得の邪魔が入らないようにするためだったのだろう。

「キミを失うわけにはいかないからだよ。キミとメェークルだけは、何があっても守らなきゃいけないんだ」
「……もうやめてくれ。お前の気持ちは十分理解したよ、だけどいくら敵が強くてもオレ達は逃げるつもりはない」

 レイがここまでオレのことを心配してくれるのは、あの時オレが死んでしまったと思っていたからかもしれない。……だけどオレはポケモン達を守りたいんだ、その気持ちははっきり言ってしまえば、正直ありがた迷惑なのだ。
 レイは俯いて表情を見せずにしばらく黙っていたが、やがて顔を上げると寂しそうな、諦めたような笑顔で「分かったよ」と言った。

「じゃあ、もう先に進もうか。これ以上こんなとこに居る意味も無いからね」

 やはり、彼はオレの説得が目的だったようだ。なんだか少し疲れて首を上げると、発電所から人を乗せて飛び立つ一匹のファイアローが見えた。

「あれは……」

 あのファイアローには見覚えがある、以前オレのヤヤコマに指導をしてくれたルークさんのファイアローだ。どうして発電所から……?

「ほらジュンヤくん、ぼーっとしないで行くよ」
「あ、ああ、悪い」


 気にはなったが、レイに思考を中断されてしまった。まあ考えるのは後でいい。確かにこのままここに居てもなんの意味もないのだから。
 レイのおかげで改めて感じた、やっぱり今のままじゃあ駄目なんだって。ポケモンセンターについたら、特訓しなければ。少しでも強くなって、もっともっと強くなって、いずれ幹部だって止められるくらいにならないといけないんだから。
 メェークルの角を握ると、彼も頷き返してくれた。



 ギャラドスの強烈な尻尾の一撃に吹き飛ばされたダルマッカに駆け寄って、抱き上げる。
「さすが、ジュンヤに勝つだけはあるね。手も足も出なかったな」

 ダルマッカを労ってから、顔を上げてツルギに声をかける。

「……その割りには、随分嬉しそうだな」
「相手が強ければ強い程燃えるのがポケモントレーナーだろう?」

 ダルマッカの同じ気持ちだ、抱えられていた戦闘不能の彼が飛び起きて、ケタケタと笑い声をあげている。

「本当に可笑しな奴だな」

 ツルギは呆れたように言いながらギャラドスを戻すと、歩き出した。次の街へと向かうようだ。

「じゃあ僕達は、休憩所でポケモン達を休ませてから行こうか」
「うん、そうね!」

 そして僕達は彼の背中を見送って、休憩所に入る。
 ツルギはすごく強かった、結局為す術無く一方的に蹂躙されただけで負けてしまった。それはすっ……ごく悔しい、僕達が弱いせいで彼を楽しませてあげられなかったのも悔やまれる。
 だけど、彼があれだけ強いということは、いずれ僕もポケモン達もあれだけ強くなれるということでもあるんだ。そう考えると、限界なんて無いと思えて嬉しくなってくる。
 ……なんだか再び気分が高揚してきた、ポケモンセンターについたら、早速特訓しよう! 僕はダルマッカと顔を見合わせて、互いに口元をにやけさせながら頷き合った。

せろん ( 2015/06/05(金) 12:09 )