ポケットモンスターインフィニティ
















小説トップ
第三章 新たな仲間、まもる為の強さ
第24話 挑戦、はがねの炭坑夫
 さすがは生まれついての炭鉱夫、ジムにもこだわりがあるらしい。バトルフィールドの広い空間は、炭鉱と同じ冷たく土臭い空気が感じられる。その最奥でジムリーダーのスレートは、腕を組んで威風堂々と佇んでいた。

「さあ、越えれるか少年!常日頃穴を掘り、岩盤を砕き、鍛え続けてきたワシのポケモン達を!」

 炭鉱で見かけた時とは違って、彼はシャツ一枚のラフな格好をしていた。短く刈り上げた髪に無精髭、骨の張った顔はたくましさを感じさせる。

「越えてみせます、どれだけ堅固な壁だとしても!」

 観客席ではノドカ達と一緒にメェークルも応援してくれている、絶対に負けるわけにはいかない!

「よく言った少年、その言葉が嘘でないことを祈るばかりだ! ゆけっ、ジバコイル!」
「まずはお前だ、ヒノヤコマ!」

 相手ははがねタイプのエキスパート、ならばはがねに強いほのおタイプを出すのが定石だろう。そして相手はジバコイル、銀の円盤で中心に半月型の目。左右にはU字のユニット、頭には黄色いアンテナが立っている。ほのお技の効き目は抜群なのだが……。

「……っ、戻れヒノヤコマ!」

 相手のジバコイルははがねと同時にでんきも持っている。
 おそらく最低でも二回ニトロチャージを当てなければ倒せないだろうが、その前にでんきタイプの技一撃に沈められる可能性が高い。出来ればここでヒノヤコマを倒されたくはない、交替せざるを得なかった。

「頼んだぞライチュウ!」
「ジバコイル、ラスターカノン!」

 赤い閃光を払って現れたライチュウを、白銀の光沢を帯びた光線が貫く。爆風で舞った土煙にライチュウの姿が覆い隠され、しかしややもすると晴れてきた砂塵からは余裕の笑みで彼が立ち上がってきた。

「効果は今一つ、そう簡単にはやられませんよ。ライチュウ、ねこだまし!」

 目にも留まらぬ速さで接近し、跳躍してジバコイルの眼前で両手を叩き合わせて怯ませた。

「続けてかわらわり!」

 さらにそのまま飛び乗って、片腕で頭のアンテナを掴んでもう片方の腕を振り上げる。渾身の力を込めた腕の筋肉は瞬間で膨張し、その上で更に電気を迸らせている……それは筋肉が電気によって刺激され、強靭になっていることを如実に表していた。
 ついに拳をその頭に振り下ろした。ぐわん、と金属の凹むような衝撃とともにジバコイルの鋼の体が揺れる。

「ならば10まんボルトはどうじゃ!」

 ジバコイルが反撃に出る、全身から電気を迸らせて頭上の敵を攻めたが……。

「効きません! もう一度かわらわりだ!」

 ライチュウが長い尻尾の先を地面に突き刺す、それはアースの役割を果たして電気を地面に逃がしてくれるのだ。電気のダメージは一切無いと言っても過言ではない、ライチュウが得意な顔で再び拳を突き刺して、衝撃とともにジバコイルが大きく揺れた。

「ふん、その程度では倒れぬわ! きんぞくおんを食らえいっ!」

 かわらわりは効果が抜群、それでもジバコイルはまだ倒れない。二つのユニットを高速回転させて、まるで金属同士を擦り合わせたような甲高い耳障りな音を発生させた。
 思わず呻きながら耳を塞いでしまう、だがそれでも耳の奥ではあの嫌な音が何度も何度も反響を繰り返して精神力を削っていく。そして堪えているのはオレだけではない、当然間近に居たライチュウには効果が大きく表れているのだ。
 ライチュウはジバコイルのアンテナを掴んでいた手を離して地面に転がり、なんとかしてその音から逃れようと必死に耳を押さえている。

「ラスターカノンだ!」

 地面にうずくまるライチュウへの容赦無い攻撃、吹き飛ばされた彼は受け身を取れずに転がり続けて、オレの足元まで来てようやく止まった。

「ライチュウ、おい、大丈夫か!?」

 きんぞくおんは相手の特防を大幅に下げてしまう技だ……。いくらタイプ相性で半減出来るとはいえ大ダメージは必至となる。
 何度呼び掛けてもライチュウは起き上がらない。審判によって、戦闘不能と判断されてしまった。

「……ありがとうライチュウ、ゆっくり休んでくれ」

 ライチュウを労いながらボールに戻して、次を構える。
 確かに相手ははがねタイプらしく高い防御力を誇る、だがそれでも二回のかわらわりはさすがに効いているはずだ。おそらく、後一撃で沈められるだろう。
 ならば、出すポケモンは決まっている。

「頼むぞヒノヤコマ!」

 そう、彼の先制攻撃で倒してみせる。
 ヒノヤコマがその翼を翻し、振り払われた火の粉が鮮やかに舞い散る。

「行くぞヒノヤコマ、ニトロチャージ!」
「ジバコイル、じゅうりょくだ!」

 早速翼を広げて炎を纏ったが、それは予想外の対応だった。ジバコイルがユニットを回す度に体がどんどん重くなっていって、やがてヒノヤコマは空中に留まることが出来ずに着地してしまっていた。

「どうだっ、これで機動力は低下したな! 10まんボルト!」
「まずい、避けてくれ!」

 地面を強く蹴りつけて、弾かれるように跳躍する。何度も何度も電撃が迸り、その度に全力で回避する。時に翼や尾を掠めることはあったにしても、直撃だけは避けられている。

「この程度か挑戦者! 拍子抜けじゃな、もっと攻めてこんか!」
「気にするなヒノヤコマ、お前は回避に専念するんだ!」

 相手に煽られようが、聞き入れるわけにはいかない。なおも降りかかる電撃を、その度に地面を蹴って回避していく。
 だがそれでも戦況が変わらないわけではない、現にヒノヤコマはどんどん回避の速度が速くなっている。それはヒノヤコマの備える火炎袋に点された火がじょじょに火力を上げていき、比例するように運動能力も上昇しているからだ。

「……ヒノヤコマ、もう大丈夫なのか?」

 体が軽くなった、そしてヒノヤコマが檻から放たれ自由を得たかのように軽やかに翼を翻して舞い上がる。
 オレの問いかけに、ヒノヤコマはしっかりと頷いた。

「ぬっ、ならばもう一度……!」
「させない、ニトロチャージだ!」

 相手が再びユニットを構える、だがエンジンの点ったヒノヤコマにはその動作はあまりに遅すぎた。指示を飛ばした次の瞬間には、炎を纏ったクチバシが鋼の体を穿っていた。
 U字のユニットが最初に落ちて、続けて重たい音を立てながらジバコイルの本体が墜落した。

「ジバコイル、戦闘不能!」
「お前はよく戦った、後はゆっくり休むといい」

 ……よし、これでイーブン、上手く巻き返すことが出来た。

「ふん、やられたわ。ただ逃げているだけかと思ったら」

 言いながらスレートさんは次のモンスターボールを構える。

「ドータクン、ゆけいっ!」

 続けて出て来て彼の二匹目はドータクン。錆びた青銅のような色合い、釣鐘型のポケモンだ。

「ニトロチャージ!」

 相手がどんな技を使ってくるかは分からない、だがそれでも攻めるだけだ。
 一瞬で背後を取って炎を纏った突進を食らわせる。衝撃でドータクンの体がぐわんと鳴るが、そこまでのダメージではないらしい、おもむろに腕を持ち上げた。
 ……なにか来る!

「離れろヒノヤコマッ!」
「無駄じゃ、その速さは余計に命取りとなるっ!」

 速さが命取りに……? どういうことだ、首を傾げていると突然空間に正方形が現れ、やがてフィールド全体を囲うような不思議な長方形を生み出してしまった。

「……これは、まさか!」
「そう、トリックルーム!」

 トリックルーム、それは速いものは遅く、遅いものは速くと素早さがひっくり返ってしまう摩訶不思議な空間だ。今のヒノヤコマは火炎袋の活性化に加えて二度のニトロチャージの効果で素早さが極度に高められている。つまりその分だけ……鈍くなってしまうということだ。

「しねんのずつき!」
「くっ……ニトロチャージだ!」

 ジュンヤが言い終わるよりも先に、ヒノヤコマが動き出すよりも速くドータクンの技が決まる上に、反撃しようと思った時には既に距離を取られてしまっている。

「下だヒノヤコマ!」

 なんとか先読みしようと試みても、相手が速すぎる故に徒労に終わってしまう。気付いた時には思念の力を集め青白く光る額に突き上げられてしまっていた。
 山なりに投げ出されたヒノヤコマはドータクンを睨み付けたが、すぐに視線の外へと消えてしまう。その速さにはさすがのヒノヤコマでも対応しきれない、背後から振り下ろされた頭突きによってとうとう地に伏してしまった。

「ヒノヤコマ、戦闘不能!」
「……ごめん、ヒノヤコマ。オレのせいで……!」

 ……今になって浮かんでくる後悔。確かにニトロチャージは使えば遅くなってしまう、だが効果は抜群の筈だ、当てられさえすれば……! ……しかし、結局一度も当てられなかった。軽率だったのだ、もしつばめがえしを指示していたなら何か変わっていたかもしれないというのに……。

「……絶対勝つぞ! 行こう、シャワーズ!」

 だからこそ、負けるわけにはいかない。二匹の為にも勝たなければならない。交替で出したシャワーズと頷き合って、構える。

「ドータクン、しねんのずつき!」

 案の定相手は攻めてくる、しかしそれを捉える術は無い。

「シャワーズ、ねがいごとだ!」

 だから耐える。もうすぐこの空間が元に戻るはずだ、そうなればドータクンは相当鈍くなり攻撃を当てるのも容易だろう。
 瞳を伏せて願いを飛ばしていると、不意に長方形のトリックルーム空間にノイズが走った。

「今だ、ハイドロポンプ!」

 空間を生み出している正方形が上方から崩れ始めた、もはや摩訶不思議な効果は残っていない。動きの鈍くなったドータクンに技を当てるのは容易かった、真正面で頭を突き出し突進してくる青銅の体は、直線の水流に飲まれてスレートさんの背後の壁に叩きつけられた。

「よし、やったなシャワーズ!」

 同時に先程のねがいごとの効果で体力が回復、これでシャワーズは無傷も同然となる。
 ……しかし、まだドータクンへの審判が下されない。まさかと壁にもたれている相手を見ると、ゆっくりゆっくり、腕を持ち上げていた。

「まずい、もう一度ハイドロポンプだ!」

 弱点であるニトロチャージと威力の高いハイドロポンプを食らったのに、まだ戦えるなんて……!
 その耐久に驚愕させられたが、今はドータクンを倒すのが先だ! 激流を放つと相手は今度こそ動きを止め……そして再び空間が歪み始めた。

「ドータクン、戦闘不能!」
「よくやったドータクン、これで勝利は目の前だ!」

 ……やられた、二度目のトリックルームを許してしまうなんて。
 彼は労いながらドータクンを戻した。これでお互いに残りは一匹、もう後は無い、が……。

「わざわざトリックルームを残したんだ、最後の一匹は……」
「ワシのトリはこいつじゃ、来いハガネール!」

 最後の一匹はハガネール。世界最硬と名高いダイヤモンドよりも硬い鋼鉄の塊が連なった、鉄蛇と形容されるその巨体はかつてポケモンの中でも最大だったらしい。
 頭上高くから威圧的な視線を落としてきて、巨体に見合った威圧感を放っている。

「大丈夫だシャワーズ、お前はタイプ的に有利なんだ、きっと勝てるさ!」

 その励ましは、しかし気休めにしかならない。なぜならハガネールは地上での動きが俊敏ではない、つまりトリックルームの影響下に置いてはそれだけ速く動けるのだから。
 いくら有利なタイプと言っても技を当てられなければ意味が無い。この勝負、どちらに軍配が上がるかは分からない。……もっとも、やすやす勝利を譲るつもりは微塵も無いが。

「ハガネール、かみなりのキバ!」

 早速敵が動き出し、気付けば背後に回り込まれていた。岩石をも噛み砕く凄まじい顎力に加えて弱点のタイプ、その強靭な牙に挟まれたシャワーズは抑えきれない苦悶を浮かび上がらせていた。

「……っ、とけるだ!」

 まずは逃げなければ。細胞を変化させて液状になり溶けだし、そのままシャワーズは地面の中へと流れ込み始める。

「地面を巻き上げろ、アイアンテール!」

 だがそう簡単にはいかないらしい、その巨大な尻尾が地面を穿ち、そのまま勢いよく掘り上げると液状となったシャワーズが露になってしまった。

「シャワーズ、ねがいごと!」
「かみなりのキバ!」

 打ち上げられながらも液状化を解いて再び星に願いを飛ばすが、やはり迫る牙からは逃れられない。
 確かにもうシャワーズは実体化したが、とけるの影響は残っている。ハガネールのキバはシャワーズのゼリーのような弾力の体に食い込み、電気を流し込むが先程よりもまだ傷は浅い。

「……よし、このまま耐えるぞ! シャワーズ! もう一度とけるだ!」
「させんわっ、かみなりのキバ!」

 ハガネールは更に牙に流し込む電気を強め、シャワーズはこれまでが相当堪えているのか短く悲鳴を発したが、 再び液状化して地面に逃れる。
 ……よし、これでいい。このまま耐えて、耐え続ければ必ず機会は訪れるはずだ。だからそれまで……耐え抜いてみせる!
 先程の願いが届いたようだ、シャワーズの全身に淡い紺碧の光が降り注ぎ、満身創痍の体を癒していく。

「こざかしい……ハガネール、かみなりのキバ!」
「最後のとけるだ、シャワーズ!」

 シャワーズの体は先程よりも透き通っている、もう体力の回復した今その凶悪な顎力ですらも脅威では無い。ハガネールの牙はもはや大した感触を得られていないだろう、流れ込む電気に眉間をわずかに皺寄せながら再三液状化を果たした。
 同時に摩訶不思議なトリックルーム空間にノイズが走る。

「今だシャワーズ、ハイドロポンプ!」

 空間が崩壊していく、もはや眼前で威圧感を放つ巨大な鉄蛇もただの的でしかなかった。激流に相手は耐えられずに仰け反って、やがてそのまま仰向けになった。

「まだじゃ、ハガネール!」
「ハガネールの特性はがんじょう、体力が満タンの時は必ず一撃耐えられる。ならもう一度攻撃すればいいだけだ、れいとうビームで決めろ!」

 一度は倒れたハガネールは、だが再びその重いショベルのような顎を持ち上げた。しかしもうそんな抵抗は無駄だった、冷気の光線に貫かれ今度こそ完全に戦闘不能となった。

「……ハガネール、戦闘不能! よって勝者、挑戦者ジュンヤ!」
「よっし! やったなシャワーズ!」

 観客席ではメェークル達も喜んでくれている。本当に、勝てて良かった……!
 どちらともなく駆け寄り、しかしシャワーズの体はジュンヤの顔面にぶつかると弾け散ってしまった。

「ああ、そうか、とけるを最大まで使ったから……」

 再び体を形成したシャワーズも、自省気味に頷いている。
 二人でなんとも言えない雰囲気に包まれていると、スレートさんが歩みよってきた。

「ふんっ、随分とこすい消極的な戦法だったな、チャレンジャー」
「防戦一方ですみません……」
「だが俺の攻めを凌ぎ切ったことだけは評価しよう。これから先、受け身の戦いだけでは通用せん。ワシからの忠告じゃ、覚えておけいっ」
「……はい!」

 スレートさんが言いながら、薄い金属の板を差し出した。それはツルハシのような形をしている。

「これはアイゼンバッジ、このオブシドジムに勝利した証じゃ」
「ありがとうございます、スレートさん!」
 観客席からとうとうメェークルが飛び出して、オレの足元に来た。そしてシャワーズと並んで、あれを待機している。

「……分かってるよ、ちょっと待ってくれ」

 とオレはヒノヤコマとライチュウもボールから出した。二匹は休んでいたおかげで多少の元気を取り戻したようだ、元気な声を張り上げている。

「よし! アイゼンバッジ、入手したぜ!」

 高く掲げて、高らか叫ぶ。足元ではそれに続いて四匹も、勢い良く飛び跳ねた。

■筆者メッセージ
更新遅非力私許……
せろん ( 2015/05/30(土) 11:45 )