ポケットモンスターインフィニティ

















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第三章 新たな仲間、まもる為の強さ
第19話 過ぎ去りし日の友
 ラピスタウン……それがオレの両親が幼い頃に育て屋を営んでいた街の名前だ。ラルドタウン同様穏やかな街で、オレの第二の故郷と言ってもいい。
 その街にも、オレの友達が居た。しっとりとした黒髪に可愛らしい顔立ち。レイという心優しい少年で、夏休みのオレが遊びに行った時だけしか会うことはなかったけどすごく仲の良い友達だった。
 一緒に育て屋を手伝ったりポケモンバトルをしたり、たまには森まで遊びに行ったり……。レイとの思い出は、今でも大事に心にしまってある。
 そんな彼と会わなくなったのは、あの夜からだ。仮面の男が現れ、両親が営んでいた育て屋を燃やし尽くし灰塵に帰した、あの忌まわしい夜。
 ……あの日からしばらくして、ようやくオレ自身が落ち着いた頃にレイに手紙を送っても、返事は来なかった……。気付かなかったのか届かなかったのか、それとも住所を変えたのか……。理由は分からないけど、また出来ることなら会いたいな……。

「それに育て屋は朝がすごく早いんだ」
「へえ〜、大変なんだねぇ……」
 それは育て屋を手伝っていた幼い頃の記憶。新たな街、マラカタウンに着いた彼はノドカとソウスケに自分の体験を身振り手振りを交えて語っていた。レイ、親友の存在を頭に浮かべながら。
「それと辛いのは、預かったばかりの時だな。見知らぬ環境にまだ慣れていないのもあるんだろうけど、ポケモンによってはトレーナーを探して一晩中鳴き続けるんだ。他のポケモン達もオレ達も眠れないから、夜通し世話をしなきゃいけなくてさー……」
 思い出すだけで頭が痛くなってくる。どこから声を出しているんだ、と突っ込みたくなる程の悲痛な大声とそれに腹を立てるポケモン達、宥めるだけでも一苦労で眠れぬ夜も多々あった。
「……眠れないなんて、私には耐えられないかも」
「大丈夫さ、そもそもノドカなら気付かずに眠り続けるだろうからね!」
「そ、そんなことないわよ」
「え?」
「……え?」
 まさか否定されるとは、なんて顔をして戸惑うソウスケとそんな彼の反応に困るノドカ。二人して首を傾げて何やら呟いているが、結局話は預けていたポケモンを返却する為の呼び出しで中断されてしまった。



 マラカタウン。昔はただの田舎だったが、ポケモンジムも名物名所も何も無い為に起こった著しい人口の減少を危惧して近代化に乗り出した町だ。
 道路は既に粗方整備が済んでおり交通の便も整えられ始め、このまま発展を進めればいずれ他の都市と比べても遜色無くなるだろう。とはいっても元が廃れた田舎、未だに人口の少なさや町の面積など、問題点も残っているのだが。
「うん、それじゃあポケモン達も戻ってきたから買い物に行こっか」
「そうだな」
 モンスターボールをベルトに装着して立ち上がり、オレ達はポケモンセンターを出た。
「やあ、待ってたよ」
 自動で開く扉をくぐり、足を踏み出した瞬間突然隣から声を掛けられた。男にしては高めで、女にしては低い中性的な声。
 横に目を向けると、平均的身長のオレと比べて一回り程背の低い少年が立っている。
「……キミ、ジュンヤくん……なんだよね? ラルドタウン出身の」
「え? ああ……」
 少年はボサボサした白銀の髪、黒いハンチング帽に白いシャツと黒のズボン。美人と言っても差し支えない整った顔立ちで……頭で引っ掛かってはいるのだがどうにも結び付けられない。
「生きてたんだね……! 本当に良かったよ……!」
 彼が誰だか……頭の中で巡らせ続けていると少年は突然抱き付いてきた。そして人目も憚らずにいきなり大きな声でわんわんと泣き出した。

 ……しばらくしてようやく泣き止むと、彼は「ごめん、久しぶりに会えたのにみっともなくて」とはにかんだ。
 そんな彼には申し訳ないことなのだが、意を決して残酷な質問をすることにした。
「ところでさ……誰だっけ」
 唯一思い当たる少年は居る、顔になんとなくだがレイの面影はある。だが彼と比べると髪型も色も違いすぎて、そうなると他に選択肢が無くなってしまうのだ。
「誰って……ええっ?!」
 彼は分かりやすく驚愕を示したが、すぐにあー、と一人で納得してしまった。
 ……もしかしたら、この少年は本当にレイなのか? 髪に関しては、染めていて、寝癖を放置してるかワックスを使っているのかもしれない。
「……なあ、もしかしてお前」
「バトルしようか!」
「え?」
 レイ、なのか……? そう尋ねようとした瞬間に彼がモンスターボールを構えた。唖然としていると、こう続けられる。
「そうだよ、戦えばボクが誰だか分かるじゃないか。さあ、ボクと勝負してくれるよね。キミもポケモントレーナーなんだからさ!」
 目と目が合ったらポケモン勝負、確かにそれがポケモントレーナーだ。だけど、だからと言ってこんな時までポケモントレーナーでいる必要はないんじゃないか。
 しかし彼はすっかりやる気だ、今更断れる雰囲気ではない。
「……分かった、やればいいんだろ!」
「そう来なくっちゃ」
 ここで戦うのは迷惑がかかる、彼の要望でバトルコートではなく公園に場所を移すことにした。

 公園では子ども達が無邪気に遊んでいる、白銀の髪の少年は目を細めて微笑みながらそれを眺めていたが「よし」と一声入れると振り返った。
「それじゃあ一対一でいいよね!」
 その問いかけに頷いて、互いに距離を取ってモンスターボールを構える。
「行け! メェークル!」
 オレが出したのは相棒のメェークル、一方銀髪の少年は……。
「行くよブーバーン!」
「なっ……!?」
 燃え盛る炎の紋様が走る太ましい身体に、火の玉を射出する大筒の腕。
 ブーバーン。ばくえんポケモンと誇称され高い能力を持っており、とある地方では四天王の一人が相棒にしている程のポケモンだ。
 ただでさえ進化前のメェークルと能力差がある上にタイプ相性でも不利を取られる、呆然と立ち竦んでいると彼は心配そうに声を掛けてきた。
「……ジュンヤくん、大丈夫かな。もしかしてお腹でも痛い?」
「……あ、ああ、なんでもない。よし、やるぞメェークル!」
 ……勝てない。戦ってもいないのに、無意識にそう思ってしまっていた。自分の頬を強く叩いて気合いを入れ直し、戦いに意識を戻して身構えた。
「ブーバーン、やきつくす!」
 早速相手は攻めてくる。片腕を前に突き出して橙に燃える熱線を放った。
「まもるだメェークル!」
 対してこちらは身を低くして光子の円盤を展開し、その火炎を防ぎきる。
「今度はオレ達が行くぜ、いわなだれ!」
 相手はほのおタイプ、この技は効果抜群だ。しかし次々降り注ぐ岩に相手はブーバーンとは思えない身軽な動きでどんどん回避していくが、避けきれず、頭上に大岩が一つ迫っていた。
「めざめるパワーで軌道を逸らして!」
 ブーバーンはその岩の端に緑に輝く光球を当てて軌道をずらして、すかさず横に跳び回避する。
「もう一度やきつくすだ!」
「まもるで防げ!」
 また"やきつくす"……。
 確かにやきつくすもめざめるパワーも間違いなくブーバーンが覚える技だ。だが……何か、違和感がある。思い過ごしかもしれないが、相手が本当にブーバーンであるなら他に選択肢もあるのではないか、と……。
 そもそもいくらやきつくすの追加効果、相手の持っているきのみを使えなくしてしまう効果が優秀とはいえ、かえんほうしゃやだいもんじといった威力の高い技を切ってまで入れる価値があるとは思えない。
 両立、という可能性もなくはないがやきつくすはこの圧倒的有利な現状でわざわざきのみの警戒の為だけに撃たなければならない程の技ではない。
 それに先程のめざめるパワーもだ。なぜいわなだれを弾かずに、軌道を逸らしたんだ……?
 もし、相手が本当にあのオレの親友の「レイ」であったならば……。まさか、あのブーバーンは……。
「メェークル、接近しろ!」
「迎え撃つんだ、やきつくす!」
 やはりそうだ、やきつくすを撃ってきた。腕の先から熱線が迸る。
「危ないよ、避けないと!」
「構うな、そのまま突っ込め!」
 ノドカの叫びを聞き入れるつもりはない、メェークルも相手に不審を抱いていたのかオレの指示を迷うことなく受け入れた。
「ジュンヤくん、まさか……!」
 首元に茂る葉に炎が点る、更にそれは胴に、脚にと徐々に広がっていく。それでもメェークルの脚は止まらない、何故なら致命的なダメージにはなっていないからだ。
「うそっ、メェークルすごい!」
「やるじゃないか!」
「……フフ、気付いたみたいだね……!」
 無邪気に歓喜するノドカとソウスケ、一方銀髪の少年はこちらも嬉々を漏らしている。
 全身を炎に包まれながら、メェークルがブーバーンの足元へ躍り出た。
「お前にはこれが効くんだろ」
 ブーバーンの皮を被って厚い唇を吊り上げ笑っている、その裏側へと語りかける。
 銀髪の少年が、彼が静かに笑った気がした。
「かわらわりだ!」
 振り返り、"ブーバーン"に二本の後ろ脚で思いきり力を込めて、強烈な蹴りを叩き込んだ。
 "ブーバーン"の巨体が宙に浮いた。いや、蹴り飛ばされた、というのが正しいだろうか。
 本来それはメェークルの力で成せることではない、そしてブーバーンというポケモンがされることでもない。だが実際目の前で起こったことなのだ。
 何故なら、それは……。
「やっぱり、お前だったんだな」
 跳ね上げられた"ブーバーン"の身体が突然黒い霧に包まれたかのようにモヤに覆い隠されてしまう。そして再びその姿が現れた時には、全く別のポケモンと成り変わってしまっていた。
「大丈夫、ゾロア!?」
 銀髪の少年が叫ぶ。赤毛混じりの黒い体毛、首元にマフラーのようにふさふさの毛を生やした子狐のポケモン、ゾロア。先程までブーバーンであったそのポケモンの正体がとうとう白日の下に晒された。
「ゾロア……」
 ノドカが興味深そうにポケモン図鑑開く。
「ゾロア。わるぎつねポケモン。
 相手そっくりに化けているようにみせかけ、だましたり驚かしてそのすきに逃げだすこと多い」
 そのポケモン、ゾロア。かつてのオレの親友、レイの相棒もそのポケモンだった。
「なあ、そのゾロア……。お前は、レイなんだよな」
 ゾロアは幻のポケモンというわけではないが、目撃例も少なく大変稀少なポケモンだ。そんなポケモンを連れている人間を、オレはレイ以外に見たことがない。
「正解! キミならイリュージョンを見抜いてくれるって思ってたよ!」
 銀髪の少年、正体はやはりレイだったみたいだ。ゾロアも着地して元気良く鳴いた。ゾロアの特性イリュージョン、それは先程のブーバーンのように全く別のポケモンになりきり戦うことが出来るというものだ。
「アハハ、ブーバーンを見た時のキミの反応は面白かったよ! ゾロアの見せている幻に過ぎないのに、気付かずに怯えちゃってさ!」
「う、うるさいな!」
 ……やれやれ、最初にブーバーンが出て来た時は本当にびびったよ。無理やりバトルに持っていったのは、いたずらが好きなレイのことだ、きっとドッキリを仕掛けたかったのだろう。
「さっ、それじゃあバトルを続けようか! 」
「ああ、行くぜ!」
 まだ互いにポケモンの体力は残っている。メェークルも既に全身を包む炎を振り払って臨戦態勢は整っている、ゾロアも然りだ。
「行くぜ、リーフブレード!」
「ゾロア、みきりだ!」
 角に光子を纏わせ突撃するメェークル、対するゾロアは鋭く瞳を光らせその技を見切って寸前で身を翻す。
「ナイトバースト!」
「まもるだメェークル!」
 技を回避した、その次は暗黒の衝撃波がドーム状に広がっていく。眼前でその技を発動されてしまうメェークルだが、こちらも光子の盾を周囲に展開して身を守る。
 技が終わると、どちらともなく距離を取った。
「やるね! ジュンヤくん、メェークル!」
「お前もな! レイ、ゾロア!」
 互いに互いを認め合うが、だからと言って勝利を譲るつもりは毛頭無い。二人はそれ以上言葉を送らず指示を出していく。
「接近してくれ、メェークル!」
「近付かせないよ! やきつくす!」
 駆け出すメェークルを立ち塞ぐように目の前に広がる火炎、しかしそんなもので止められる程やわではない。
「跳ぶんだ!」
 高く跳躍して炎を飛び越える。当然相手もそのくらいは予測していたのだろう、今度は飛び掛かるメェークルに緑色の光弾、めざめるパワーを何発も射出してきた。
「無駄だ、切り裂け!」
 だがそれも次々に角に光子を纏わせ切り裂き弾き返し、とうとう目の前まで辿り着いた。
「来たね! ゾロア、ナイトバースト!」
「まもるだ!」
 漆黒のエネルギーが周囲全体に撒き散らされて二匹の姿が覆い隠されるが、光のドームを広げて防御出来ているはずだ。
 衝撃波が消え去ると、やはりメェークルが無事な姿で立っていた。
「よし、決めろ! かわらわりだ!」
 メェークルが前脚を構えた。ところが……先程まで眼前で技を使っていたはずの相手がいない!?
「……上かっ!」
 太陽を背に、メェークルの頭上をゾロアが舞っていた。
 やられた……! 先程のナイトバーストは目眩まし、本当の狙いは頭上を取ることにあったんだ……!
「やきつくす!」
 上空から炎が降り注いできた、回避も防御も間に合わず全身を燃やし尽くされてしまう。
「メェークルッ?!」
 そんな呼び掛けも虚しく響くばかり。焼き焦がされたメェークルはついに意識が途切れ、途端に脚先から崩れて倒れてしまった……。
「やった、ボク達の勝ちだね! ありがとうゾロア!」
「……お疲れ様。ごめんな、メェークル」
 嬉しそうに駆け寄りゾロアを抱き上げるレイ。一方ジュンヤは謝罪を込めた瞳で見つめてくるメェークルの角を握って、感謝を伝えてモンスターボールに戻した。
「さあ、それじゃあポケモンを回復させてあげないとね!」
「ああ、そうだな」
 そうしてオレ達は、四人でポケモンセンターに向かった。
 ……帰りながら話していたのだが、ふと思い出して気にかかった。
 イリュージョンは、公式戦ではなりきる姿は手持ちのポケモンからだけと決められている特性だ。まさか、レイの手持ちにブーバーンがいるのか……?
 だがレイを見ると「どうしたの?」と無邪気な笑顔を向けられて、思い直した。
 きっとレイはオレのことを驚かせたくて、だけどルールでは手持ちからと決められているからバトルコートじゃなくて、誰に変身するのも自由な公園でのバトルを提案したんだよな……?



 今はポケモン達は皆ポケモンセンターに預けている。回復は済んでいるのだが、今は健康のチェックを頼んでいる最中なのだ。
 オレとレイは今、せっかく久しぶりに会えたのだから、というノドカとソウスケの配慮で二階の宿泊部屋で話していた。
「それで、あの事件の後ボクはラピスタウンを離れたんだ……」
 今レイから聞いていたのは、オレがいくら手紙を書いても返事をくれなかった理由だ。どうやら彼もオレが手紙を送っていたことを今知ったらしい。
「ジュンヤくんは……その、ご両親を亡くされたんだよね……。言い方は悪いかもしれないけど……、キミだけでも生きててくれて良かった……!」
 今にも泣きそうな顔をするレイに、オレまで目頭が熱くなってきた……!
 ……そういえばレイは、先程の会ったばかりの時にも「生きていて良かった」と言っていた。オレとメェークルは……奇跡的に命拾いすることが出来たのだ。確かに、手紙も届いていなかったことを考えるとあの反応も無理はない。
「それに……。今、こうして昔とあまり変わらないキミと話せるなんて……。……本当に、夢みたいだよ」
 その言葉はオレ達が生きていた、というだけでなく、両親を亡くした絶望から立ち直れたことも言っているのだろう……。
「……オレが立ち直れたのは、ノドカとソウスケのおかげだよ」
 ……ノドカは、絶望の底に叩き落とされ、塞ぎ込み、自暴自棄になっていたオレを救ってくれた。それにソウスケだってオレのことを心配して励まそうとしてくれていた。
 ノドカとソウスケ、二人が居なかったら、今のオレは無かったと言っても過言ではない。
「そうなんだ……。じゃあ、ノドカちゃんとソウスケくんには感謝をしないとね」
「ああ、本当にな……。だから、いつか二人には何かお礼をしたいんだ」
 二人にはあの時本当に苦労を掛けてしまった。これまでお礼の言葉や手紙を送ったことはあったが、やはり何かプレゼントとして渡したい。
「それなら、一緒に買い物に行く? 今買わないにしても、何か方向性だけでも決めた方がいいと思うんだよね」
「……そうだな。よし、それじゃあメェークル達が帰ってきたら二人で行くか!」
 二人で行くのは、勿論渡す相手には内緒にしておきたいからだ。
 そんな約束を交わしてから、オレとレイはノドカがモンスターボールを渡しに来るまでしばらく積もる話を語り合い続けた。

せろん ( 2015/04/30(木) 00:50 )