ポケットモンスターインフィニティ
















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第三章 新たな仲間、まもる為の強さ
第18話 発電所を救え
 皆がジムへの挑戦を終え、無事ジムバッジを手に入れて翌日。三人はコーラルシティの北西から発ち205番道路に出ていた。
 ここには発電所があるが、いつでも誰でも無料で見学可能……だった。
 "だった"、それはどういうことなのか。近くにいた少女に聞いてみれば、どうやら数日前から所内の見学はおろか近付くことすら禁じられているようだ。なにか事故があったわけではないみたいだが、理由を聞いても答えてくれないらしい。
「……まあいいんだけど、せっかくだから見てみたかったよなー」
 言ってもしかたないことではあるのだが、つい頭の後ろで手を組みながら不満を漏らす。
「せっかくなんだから、せめて立ち入り禁止のところまでだけでも行ってみないか」
 ソウスケが提案する、それはいいかもしれない。中には入れないにしても、近くを立ち寄ったのだから外観だけでも見ておきたい。
「じゃあ、行こうか!」
 メェークルの角を握って歩きだ……そうとしたら、モンスターボールから勝手にピカチュウが飛び出してきた。
「あ〜、発電所って聞いて気になったんだな」
 ピカチュウはでんきタイプだ、確かに興味を引かれるのも無理はない。オレだって太古の遺構などには心を引かれるし、育て屋があれば自然に足が向かうことだろう。
「だけど、一人で勝手に行きすぎるなよ!」
 最近それで酷い目に遭ったばかりなのだ、全速前進だ! と駆け出すピカチュウをメェークルが蔓を伸ばして捕まえた。
 ピカチュウも今回ばかりは素直に言うことを聞いてくれた、さすがに少しは懲りているらしい。
 ピカチュウもオレ達と足並みを揃えて、発電所への道路を歩き出した。

 後一キロメートル程先には風車に囲まれ、外壁は煉瓦、屋根には四隅に電球、中心にパラボラアンテナが備えられている建物が立っている。どうやらあれが発電所らしいが……。
「なんか、ちょっと暑くないか?」
 発電所に近付くにつれて、温度が上がっているのは気のせいでは無いだろう。ノドカですらも暑そうに手で胸元を扇いでいる、ただでさえ暑いのだから……さすがに勘弁してほしい。
 しかしだからと言って心配する必要は無い、なぜならこれ以上先には進めないからだ。
「ここは通行禁止よ、中に入られたら怒ら……れないけど顔が立たないんだから」
 となんともやる気の感じられない女の警備員が警棒を片手に立っている。
 ……怒られないなんて上司はすごく優しいというか、甘いんだな。
「理由くらいは知りたかったけど、まあしかたない」
 遠目から眺めるだけに留めておこう。とは言ってもそれだけでは面白くない、次の街に進もうと踵を返したその時。
 背後で火花の散る音と女性の悲鳴が聞こえて、急いで振り返る。
「レアコイル……!」
 先ほどの警備員は、倒れて意識を失ってしまっている。そしてその傍で敵意を剥き出しに彼女を睨んでいるのはレアコイル。金属球の体に大きな目、両腕はU字磁石で頭にネジが刺さっている。コイルが三匹連結して進化した姿のレアコイルだ。
 そうか、推理は繋がった。レアコイルはたった一匹居るだけで半径一キロメートルの温度がおよそ1℃上がるらしい、恐らくここは発電所だ、一匹レアコイルが居るなら後何匹かはいるはずだろう。
 レアコイルは今度はこちらを向いた、やはり自分達のことを敵だと認識しているようだ。電気を走らせながら睨んでくる。
「どうやら闘うしかなさそうだね、ここは僕らが引き受けよう」
 口元に笑みを浮かべながら彼が一歩進み出た、足元のダルマッカも熱を帯びた息を吐いて張り切っている。
 対してレアコイルも戦うつもりのようだ、いきなり両腕を突き出し電気を放ってきた。
「っと、早速か。迎え撃つんだ、ほのおのパンチ!」
 拳に炎を纏わせ向かえ撃つ。威力はほぼ互角のようだ、撃たれた電気は拳で辺りに散らされていく。
「次はニトロチャージ!」
 再び飛んでくる電気の束を掻い潜って真下から炎を纏って突進する。しかしレアコイルも巧みに下がって回避、眼前を通りすぎるダルマッカに両腕を突き出し電撃を浴びせられてしまう。
「やるね……! もう一度ニトロチャージだ!」
 だが一撃では倒れない、体内の火炎袋を燃やして回り込み、今度こそ燃える突撃を決めた。
「続けてほのおの」
「やめてくださーいっ!!」
 パンチ、と言い切る前に遮られてしまった。声は発電所の方から聞こえてきた、見ると小柄な少女とラクライがこちらに向かって走ってきていた。
 思わず動きを止めるレアコイルとダルマッカ……それは少女の叫び自体もそうなのだが……。
「待ちなさい、あなたを見逃したらアタシが怒られるでしょ!」
「お、怒られるかな……。あの人優しいから大丈夫かも……」
「怒られなくても、あの人に申し訳ないでしょ!」
「は、はい!」
 少女は、なんだか騒がしい二人組の女性に追いかけられていた。更にその女性達は黒を基調として胸に赤い輪の描かれた制服を着ている。つまりあれは……。
「オルビス団員!」
 以前に遭遇したエドガーの部下とは随分雰囲気が違うが、あの服装は間違いない!
「ダルマッカ、あの子をこっちに!」
 ダルマッカはニトロチャージの効果で素早さが上がっている、今この場では誰よりも速い。慌てて少女をこちらへ連れてきてもらい、彼女を後ろに隠して構えた。
「事情は分からないけれど、今はやつらを倒すのが先だね」
 レアコイルも現れた新たな敵に意識が移っている、彼はどうやらオルビス団を敵視しているらしい。
 レアコイルとダルマッカが並んで構える。
「よし、じゃあオレ達も!」
「いや、僕らだけで大丈夫さ。君達はその少女を見ていてくれ」
 言いながらソウスケは鞄からオボンのみを取り出して、二匹に放り投げる。彼らもそれをすかさず口に放り込んで体力を回復した。
「来い、この悪党め!」
 と見栄を切るが、彼女達はなぜかジュンヤを見ながらなにやらこそこそ話している。
 だがジュンヤが「なんだよ」と反応すると焦って誤魔化しながらポケモンを繰り出した。
 相手はマダツボミとクラブだ、ならばどう攻撃するかは決まりきっている。
 レアコイルはウツドンを睨みながら電気を溜めていた。
「駄目だよレアコイル、マダツボミに10まんボルトは効き目が薄いんだ! やつは僕らに任せて、君はクラブに攻撃してくれ!」
 指示の通りに電気の束がクラブを貫く、その隣ではダルマッカがマダツボミに炎を纏った拳を叩き込んでいた。
「お、覚えてなさい! あの人に言いつけてやるんだから!」
「ゆ、許しませんよ……! あなた達なんて仲間にやられちゃえ……!」
 一瞬にして相手は倒され、女性達は小学生並みの典型的な捨て台詞を吐いて走り去っていった。
「さ、これで大丈夫だよ」
 ダルマッカを肩に乗せて、ソウスケがジュンヤ達を振り返った。

 どうやら少女の名前はエクレアというらしい。ブロンドのツーサイドアップ、黄色を基調としたキャミソールに眼鏡を掛けた快活そうな女の子。その足元にはラクライ、彼女のパートナーだ。
 とりあえず彼女の名前に「おいしそう」と漏らしたノドカを軽く小突いておいた。
「あの、ほんとにレアコイルがごめんなさい! いい子なんだけど、ちょっと早とちりしちゃったみたいで……」
 とりあえず一度研究所から離れて人通りの多い道路に移動した、そして名前を聞き出した後に突然彼女は頭を下げてきた。
「大丈夫さ、僕らは無事だし気にしていないよ」
 ……そうだよなソウスケ、お前はレアコイルとのバトルを楽しんでたもんな。
 それにあの後分かったことだけど、やる気の無い警備員はオルビス団員だったみたいだし大丈夫だろ。
「ところでレアコイルは君のポケモンかい?」
「ううん、この子は近くに住んでる野生のポケモン。バトルが好きなあたし達のライバルで、優しいんですよ!」
「ほう……。あ、と、ところで君はどうして追われていたんだい? やつらに追われるなんてそれなりの理由があるんじゃないかな」
 彼女が"バトルが好き"と言った瞬間ソウスケの目の色が変わったのをオレ達は見逃さなかった。だがすぐに正気を取り戻して質問したのを見て、オレとノドカが内心安心したのは内緒だ。
「けど……」
 迷っているかのようにうつむき、瞳が伏せられる。だけどそんなことは許さない、とソウスケが彼女の肩に手を置き語気を強めて言った。
「数日前から、あの発電所は見学はおろか近付くことすら禁止されているらしいね。迷惑なんかじゃない、何か事件に巻き込まれているなら教えて欲しい」
 誰かに助けてほしい、そんな思いがあったのだろう。彼女はもう誤魔化そうとはしなかった。隠すことを止めて、ポツリポツリと話し始めた。



 発電所、入り口には見張りが一人立っている。
「さて、どうするか……」
 それを茂みの中に隠れて眺めながら、オレ達はどうやって突破するかの案を模索していた。
 ……エクレアちゃんは言った。奴らは数日前に突然現れ、瞬く間にこの発電所を乗っ取ってしまったと。彼女や研究員達は酷い目には遭っておらずしっかり食事も摂り、日給までもらっているが、助けを求める通信や外部の人間との接触は禁じられていたようだ。
 しかも中にはその厚待遇に懐柔されている仲間が何人も居て、チャンピオンのスタンさんが聞き込みに来た時も何の問題も無い、と世間話を交えながら報告し、その後スタンさんは血相を変えて飛び出していってしまったらしい。
 このままでは静かに発電所を乗っ取られてしまう、そう考えて彼女はあのレアコイルの協力を得て脱走したとのことだ。
「そういえばエクレアちゃんが脱走したとこからは」
「普通に見張り居るんです……」
 どうやら彼女は人が居る中堂々と脱出したらしい。なるほど、まあ二人組に追われてたもんな……。
「となると、正面突破するしか無いよね」
「ですね!」
「……ソウスケ、お前はそういうやつだよ。それにエクレアちゃんまで……」
 この二人、実は気が合うな。
「……分かった、そうしようか」
 それが二人の意思なら尊重しよう。どうせそ遅かれ早かれそのうちバレるんだ、だったらそれが一番手っ取り早い。
「で、でも……」
「大丈夫」
 言い淀むノドカにサムズアップで返すソウスケ、更にエクレアちゃんも続く。二人の押しには彼女も耐えきれなかったらしい、もはや折れるしかなかった。
「じゃあ……行くぜピカチュウ!」
「ラクライ、皆さんと一緒に研究所を取り戻しましょう!」
「コアルヒー、がんばろっか……」
 最後に未だ何も言わないソウスケに目を向ける。彼は、レアコイルを見つめていた。
「じゃあ君は僕と一緒に戦おうか、レアコイル!」
 何かが通じ合っているのか、はたまたバトルを交えた絆からか。いつの間にか二人は手を組んで、共に戦いに臨んでいた。
 辺りに他には人がいないことを確認して、見張りの前に飛び出す。
「あ、あなた達は何者!?」
「通りすがりのポケモントレーナーさ。さあ、痛い目に遭いたくなかったらそこを退いた方が賢明だよ」
「くぅ〜っ……!」
 流石に四対一では敵わない、と思ったのかその見張りは鍵を開けて素直に入り口から退いてくれた。ドアノブに手を掛け、回すと扉が開く。
「よし、入ろう……!」
 ついに中に突入を開始する、意を決して所内へ足を踏み入れた。

 中は白いタイル張りの床とクリーム色に塗られた壁、隅には観葉植物が置かれている。少し歩いて角を曲がると広い部屋にはいくつもの発電機が回っている。
「待ってたわよ、観念なさい!」
「邪魔しないでください」
 どうやら待ち伏せされていたようだ。四人程がポケモンを連れて奥の扉から飛び出して、一列に並んで一斉にポケモンを繰り出してきた。
「観念するのはお前達だ!」
「この発電所は返してもらうよ!」
 ポケモンはそれぞれズバット、スカンプー、ドガース、グレッグル。
「ラクライ、ズバットにでんげきは!」
 ラクライが構えて電撃を放つ、それは蝙蝠を的確に捉えたが倒しきることは出来なかったようだ。牙に毒を纏わせ襲いかかってくる。
「レアコイル、ラクライを守るんだ!」
 だが、二匹の間にレアコイルが割って入る。どくどくのキバが鋼の身体に立てられるが、はがねタイプを持っている為攻撃は全く通らない。
「10まんボルト!」
 そして両腕のユニットを身体に押し付け、直接電気を流し込む。
 流石に耐え切れなかったようだ、ズバットはふらふら落下して気絶した。
「ピカチュウ、スカンプーにかみなりパンチ!」
 隣ではジュンヤが指示を出す。スカンプーが投げてくるヘドロの塊を鋭い動きで掻いくぐって懐に潜り込み、腹に雷を纏った拳を叩き込んだ。
 更に殴り飛ばされ宙に投げ出されたスカンプーにレアコイルが10まんボルトを決めると、そのまま起き上がることはなかった。
「グレッグル、どくづき!」
 しかしただやられる相手ではない、技を繰り出し終えたばかりのピカチュウにグレッグルの拳が降り下ろされる。
「させない! コアルヒー、ぼうふう!」
 がら空きの無防備な背中に飛びかかっていたグレッグルは、しかしその拳を届かせる前に突風に叩き付けられる。そのまま壁に激突し、戦闘不能となったようだ。
「悪いノドカ、助かったよ」
「ううん、無事で良かった!」
 そして最後の一匹、ドガースは猛然とコアルヒーに迫るが、
「かみなりパンチだ!」
 横から飛んで来たピカチュウの拳に直撃、壁に叩き付けられる。
「ラクライ、でんげきは!」
「コアルヒー、れいとうビーム!」
 続けて放たれる追い撃ちの二発も食らえば流石に耐えられない、ドガースもとうとう戦闘不能となった。
「つ、つよ!? もしかしてあの帽子の子、本物じゃ……!」
「……だから、なんなんだよさっきから!」
「べ、別に? あの人が探してるとかじゃないんだから! 勘違いしないでくれるかしら!」
 そして彼女達はポケモンを戻して、奥の部屋に帰ってしまった……。
「……ったく、なんなんだよ」
 さっぱりわけが分からない、ため息を吐くが、だからといって何が変わるわけではない。ともかく今はこの発電所を救うのが先だからな……。
 オレはピカチュウを肩に乗せ、他もそれぞれの形で仲間を連れてやつらを追うことにした。
 そして扉を開ければ、そこには……。

 白いタイル張りの床、部屋には長机が三つ並んでいてその上には何台もパソコンが置かれている。
 そして職員達は列を成し、オルビス団員から封筒を受け取っていた。
「来たわね。あなたのことを報告したら、あの人はとても嬉しそうにこう言ったわ。『あ、もういいよ。給料あげて帰ってきなよ』ってね……!」
「……はぁ」
 団員はもう彼女しか残っておらず、苦々しい声色で上司の言葉を伝えてきた。そんなこと言われても困るし……なんだこの平和な現場は。悪の組織とか言うくらいだから全員縛られて身動き取れなくなっている、とか想像していたのに。
「もしあの人から見放されることになったら、あんた達のことは許さないわよ……!」
 そして封筒を全て渡し終えたらしく、彼女は窓から外に出てひこうポケモンに乗って飛び去ってしまった……。
 もう一度見渡してみても、やはりもう団員は居ない。本当に皆帰ってしまったみたいだ。
「パパ、大丈夫?!」
 エクレアちゃんが白衣を羽織った優しそうな男性に抱き付く。その人が彼女の父親らしい、男性は優しく彼女の頭を撫でて宥めている。
 他の人達も「心配しすぎだ」とかみんなで彼女を慰めており、とてもこれまで監禁されていたとは思えない程平気な様子だ。
「……これで一件落着、なのか?」
 エドガーの時のような危なげもなく、研究員達も普通に元気そうで、なんだかあっという間に終わってしまった。三人で顔を見合せ困惑していると、エクレアちゃんとそのパパさんが歩み寄ってきた。
「この度は君達に大変迷惑を掛けてしまった、本当に申し訳ない!」
「みなさん、ありがとうございました!」
「い、いえやめてください! オレ達なら全然大丈夫ですから!」
 突然頭を下げる二人に困惑するばかりだった。それでも彼は言葉を続けようとしていたが、突然ポケットから電子音が鳴って電話に出た。
「……そうか、そっちの方も解決したか。それは良かったよ」
 しばらく何かの報告を受けていたようだが、声を震わせながらそう言って彼は電話を切った。
 しかし通話の途中に、病院やら重症やら……何やら不穏な言葉が混じっていた。何が起きたかを聞くと、彼は「別の場所でも起こっていた発電所乗っ取り事件が、チャンピオンの力で解決したみたいなんだ」と答えた。
 こちらは無事だったが、その発電所の方は酷い有り様になってしまったらしい。
 病院に搬送された人が続出、風車は折れ発電機も半数以上が使い物にならなくなったり奪われてしまったり……。
「酷い……!」
 聞くに堪えない悪行が重ねられ、幹部のアイクと名乗る男とスタンさんが激闘を繰り広げた末にようやく撤退させることが出来たそうだ。
 ……酷すぎる、ここを乗っ取った奴らとは大違いだ。
「こういうのを不幸中の幸い、と言うのだろうな。我々は怪我一つ無く、数日間家に帰れなくなっただけなのだから……」
 単純にオルビス団員といっても、色々な人が居るのだろうか。ここに現れた連中みたいに大したことをしない者から、その発電所を襲撃したやつらのように暴虐の限りを尽くす人間まで。
 それがどういう基準で分けられているかは分からないが……もしもう片方を襲った団員とオレ達が戦っていたら、どうなっていたのだろうか。……いくら考えても、嫌な結末ばかりが浮かんでしまう。
 ……流れる静寂は息苦しく、誰も何を言うことも出来ずにいる。そんな中彼女が状況を打ち破るように口を開いた。
「と、ところでパパ! そういえばあの話はどうなったの?」
 あの話? 首を傾げていると、パパさんがあー、と思い出したように部屋から出て、しばらくすると小包を抱えて戻ってきた。
「届いているよ。本当は早く渡そうと思っていたのだが、やつらが襲撃に来たせいで渡せずにいたんだ」
 それを受け取ったエクレアちゃんは意気揚々と開いて、中から機械を取り出した。
「じゃじゃーん! ポケモン図鑑! です!」
 ポケモン図鑑……ローベルト博士が送ったのだろうか。ということは、彼女もまさか!
「はい、あたしとラクライも旅に出るんです! つまり皆さんとは、これからライバルになりますね!」
 あんな話を聞いた後だからこそ、明るい話題はより心を暖かく照らしてくれる。
「おめでとう、けどオレ達だって負けないぜ!」
「良かったじゃないか、ライバルが増えるのは嬉しいよ!」
「えへへ、一緒にがんばろうね〜」
 オレ達が彼女に祝いの言葉を送り、彼女もはにかみながらお礼を口にした。



「じゃあ、あたし達はまずはブラドスシティに行きますね!」
 そこにはひこうタイプのジムがある、ラクライを相棒に持つ彼女ならちょうど良いと判断してソウスケが進めたのだ。
「どんなポケモンが待っているのでしょうか……すごく楽しみです!」
 205番道路に出て、彼女は声を弾ませ旅へ向けた想いを語り出す。しかしつまらなそうにしているのはレアコイルだ。自分も旅に出たいのだろうか、彼女と足元のラクライを羨望と嫉妬の眼差しで睨み付けている。
「レアコイル、待っていてくださいね! いつか強くなって、あなたに勝てるようになって帰ってくるから!」
 そんな宣言を受けたレアコイルは、余程旅に出るのが羨ましいのだろう。とうとう我慢ならずに身を震わせてソウスケに掴みかかった。
「……そうか、分かったよ。僕と一緒に旅に出たいと言うんだね!」
 レアコイルは強く頷き、次にエクレアちゃん達へと目を向ける。
「……はい、分かりました! 旅の途中で会うことがあるかもしれませんが、その時は負けませんよ!」
 それは中断されたとはいえ一度対決をして、さらに共闘を経てソウスケと息が合った、というのもあるだろう。あるいは彼の実力や人間性に惹かれたのかもしれない。
 だが、もしかしたら……。これは勝手な推測に過ぎないが、彼女の負担になりたくなかったのではないだろうか。タイプが被れば当然弱点も被ってしまう、穴が大きくなる程に埋めることにも労を要する。それか彼女のライバルとして、ソウスケと共に強くなることで立ちはだかり目標になりたかったというのも考えられる。
 ともかくソウスケと共に歩む道を選んだのは……きっとエクレアちゃんとラクライへの思いやりも、少なからずあったのだろう。
「じゃあ、あたし達はそろそろ出発しますね!」
 そう言い残して、彼女とラクライは軽快なステップでコーラルシティに向けて歩き出した。
 それを見送り、オレとノドカとソウスケ、レアコイルがその場に残される。
「さあ、レアコイル」
 ソウスケがモンスターボールを突きだし、レアコイルもそれに頷き返す。そしてその開閉スイッチを押すと光に呑まれ……揺れは少しすると収まり、これで晴れて捕獲となった。
「うん、レアコイルを捕まえたぞ!」
 紅白の球を高く空へと掲げ、光の反射で白く輝く。
 これで新たな仲間が増えた。ベルトに装着して、205番道路の道中を再び進み始めることにした。

せろん ( 2015/04/26(日) 02:53 )