ポケットモンスターインフィニティ

















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第二章 迫り来る脅威
第17話 気合いと仲間との挑戦
 ここコーラルシティは、歴史を今に伝える街だ。煉瓦造りの家屋が立ち並び、石畳の道が続く。そして徒歩二十分程の距離に立っているのは、その中でも一際目立つ大きな建物。
 なんでもこの街のジムリーダーはじめんタイプのエキスパートらしい。つまりでんきタイプで相性の悪いピカチュウは今回出番を与えられないわけだ。
 その代わりと言ってはなんだが、外に出してはいるのだが……。
「なあ、ごめんってピカチュウ」
 ピカチュウは不機嫌を全面に押し出しながら、大股で足元を歩いている。しかもこれが演技じゃない分余計にたちが悪い。
「……しかたないな。ジャジャーン! これ、ポフレ!」
 こいつの思考の多くはバトルとお菓子、好奇心が占める。短い付き合いだがそのくらいは理解出来ている。
 しゃがんで目の前に差し出すと、案の定ピカチュウはすっかり歓喜を溢れさせポフレに飛び付いてきた。
「お前って本当、単純だよな……」
 それでいいのか、と突っ込みたくなるのは何度目だろうか。扱いやすいからこれはこれで良いのかもしれないが、いつか変なおじさんに騙されてさらわれてしまうんじゃないか、と正直不安になってくる。
「これだ大丈夫だ、行こう」
 いつの間にやら肩にピカチュウを乗せながらジュンヤが立ち上がった。ピカチュウは彼に猫撫で声で甘えている、もうすっかり上機嫌に移ったようだ。
 そんな彼の背中を微笑ましく眺めながら、ノドカ達も彼に続いて歩き出した。

 それはもはや館と言うのが相応しいだろう、街の中央に立っている暗い橙の屋根瓦の大きな建物。ブラドスシティのポケモンジムとは打って変わって地味な色合い、それこそがこの街のジム、コーラルジムだ。
 なんでも昔はもっと目立つ色で染まっていたらしいが、街の人々の抗議とジムリーダーの意向を汲んだ先代チャンピオン、ヴィクトルさんがポケモンリーグに掛け合い改装の許可を得たそうだ。それからこの街のジムは地味で街に合った外観になったらしい。
 そんなコーラルジムの前に立ってこれからの戦いに向けて大きく息を吸って、吐く。
「……よし」
 昨日は運が良かったとしか言いようが無い。オレ一人じゃあ同時に相手するのが今は四人が精一杯、悔しいけどツルギには救われた。その後のエドガーもそうだ、スタンさんが居なければ今頃どうなっていたか分からない。
 オレもメェークル達もまだまだ弱い、もっと強くならなければならないのだと言うことが痛いくらい身に染みた。
 オレにはこのジム戦で負けている暇なんて無い。どれだけ苦しくても、走り続けなければたちまち置いていかれてしまうのだから。
 来るものを拒むような重苦しい威圧はこれで二度目だが、まだ慣れない。それでも立ち止まっている時間は無い、意を決して足を踏み出した。
 化石が埋め込まれた洞窟風の通路を通って、バトルフィールドに出る。
 広く敷かれた砂利の先には一人の女性が立っていた。
「よろしくね、チャレンジャー君!」
 小麦色の肌に薄い茶髪のポニーテール、探検家風な格好の快活な彼女がこの街のジムリーダーのようだ。
「あ、あの人!」
 観客席にいるノドカとソウスケが声を上げた、一方彼女も二人に昨日ぶり! と手を振っている。
「え、なに知り合い?」
 どういうことだ、まるで意味が分からんぞ。さっぱり状況が分からずにいるとノドカが教えてくれた。なんでも昨日偶然会った、オタクっぽい人らしい。
「あたしはマルーン! 今をときめく熱血探検家よ、よろしくね!」
「オレはラルドタウンのジュンヤです! よろしくお願いします!」
 威勢良く自己紹介する彼女に負けないように、こちらも勢いを込めて挨拶する。客席でノドカに抱えられているピカチュウも、前脚を振り上げて鳴いた。
「元気でよろしい! 前のチャレンジャーはすごく強かったけど、ノリ悪かったからねー」
 マルーンは腕を組みながらしみじみと頷いている。強いけどノリが悪い、それはまさかツルギのことだろうか……。
 いや、それより!
「そろそろバトルを始めましょう、マルーンさん!」
 オレは雑談しに来たわけじゃない、目的はジム戦に勝ってバッジをもらうことなんだ!
「そうね! じゃあお願い!」
 彼女が審判に向かって手を振り上げて、合図を送る。
「ルールは三対三、ポケモンと持ち物の重複は禁止。交替は挑戦者のみ認められます!」
「じゃあ行こっか! グライガー!」
 出てきたのは両腕に大きなハサミ型の爪を携え、鋭いトゲを尻尾に備えている。さらに飛膜を持っていて飛行が可能な紫色のとびさそりポケモン。
「まずはお前だ、イーブイ!」
 先陣を切るのは彼だ。じめんタイプと一括りに言っても色々いる、その中にはひこうタイプを備えているポケモンも。
 しかしイーブイの弱点はかくとうタイプのみ、少なくとも弱点をタイプ一致で突かれることは無い為彼を選んだのだ。
「行くぞ、まずはあくびだ!」
 開幕早々、イーブイが大きく欠伸を一つ。つられてグライガーも気だるい吐息を零した。
 よし、と小さく拳を握る。ジム戦ではジムリーダーは交替出来ないという縛りがある、あくびはほぼ確実に決まるだろう。
「次はスピードスターだ!」
 続けて尻尾を振るって、幾重の箒星を発射する。この攻撃はホーミング弾、避けることは出来ない。
「グライガー、ほのおのキバ!」
 相手は真正面から向かってくる、開いた大口には牙を象った炎が浮かんでいる。
 星型弾と炎牙が激突する。しかしイーブイの特性は"てきおうりょく"だ、自分と同じノーマルタイプであるこの技の威力は倍にも上がっているのだ、打ち負けるはずが無い。
 しかし……。
「なっ!?」
 燃える牙は次々星を噛み砕いていく。そして滑空しながら全てを咀嚼し、目の前まで迫った。
「威力はこっちが上のはずなのに……!」
「残念だったねー、惜しかったねー。けど、これがあたし達の……気合い! の力だよ!」
 気合い……だからってそんなのありかよ! 思わず文句を言いたくなったのを堪えて戦いに意識を戻す。
「下がるんだイーブイ!」
 間一髪、跳躍して歯牙にかからずに済んだ。一方グライガーはあくびの効果が出たのか頭から地面に突っ込んで、寝息を立て始めた。
「よし、今だ! スピードスター!」
 これで大きな隙が出来た、一気に畳み掛ける! 早速着地して箒星を……。
「グライガー、じしん!」
 イーブイが尻尾を振ろうと振り返ったその瞬間、地を走る衝撃波に背中を打ち付けられた。
「どうして……?! まさかこれも気合いの力なのか……!」
 マルーンさんは熱血探検家を自称するだけある、まさか眠りも意味を為さないなんて……!
「ああ、ラムのみを持たせてたのよ! だって先陣を切るポケモンだもん、こういう事態にも対応出来ないとね!」
「ああ、なんだ……」
 ラムのみ、それはあらゆる状態異常を治す木の実だ。それを持ってさえいれば眠ってしまっても起きることが出来る、蓋を開けてみればなんてことはない普通の理由だったわけだ。
「ジュンヤ、マルーンさんに影響されてるよ!?」
 ノドカが困ったように叫んだ。……そうだ、危なかった……。ノドカの言う通りじゃないか、オレは何を言ってたんだ!
 先ほどのスピードスターの相殺、それが尾を引き今も気合いで乗り切ったと早合点してしまう……。それは自分が彼女の雰囲気に飲まれている何よりの証拠だった。
「……ありがとなノドカ。よおし、まだまだここからだ!」
 そもそも、思えばスピードスターは複数の弾を放つ代わりにそれぞれの威力はさほど高く無い。同時に食らったなら確かに大きな威力となるが単発では大したことはないのだ、相手が一つ一つを的確に潰していったとするならばほのおのキバで相殺出来たのも納得がいく。
 それも相手は鍛えられたジムリーダーのポケモンなのだ、そう難しいことではないだろう。
「行くぞイーブイ! 勝負はまだ始まったばかりなんだ!」
 彼女に飲まれないようにこちらも気合いを入れ直し、声高く叫んだ。イーブイも持たせていたオボンのみを食べて体力を回復し、これで完璧にとは言えないが仕切り直しだ。
「おおう、すごい……! でもあたし達も気合いじゃ負けないよー!」
 マルーンさん達も負けじと叫び返して来た、しかし今さら怯むことはない。種も仕掛けも分かってしまえば恐れるものは何も無いのだから。
「まずはスピードスター!」
「それじゃあもう一度ほのおのキバ!」
 早速放つ星屑、対する相手は再び灼熱の牙を掲げて接近してくる。
 先ほどはその技に突破されてしまった、しかし彼女達の"気合い"の種は既に予測が付いている、ならばここは引かずに突き進む!
「まだまだ、もっともっとスピードスターだ!」
 一度の量で足りないならば、飽和に達するまで食わせてやれば良いだけだ。
「大丈夫だ、撃ち続けろ!」
 イーブイはスピードスターを使いながらも不安そうに相手を見ている。それに檄を飛ばすと彼は凛々しく頷いた。
 滝のごとく口に雪崩れ込んで来る大量の星に、グライガーも必死に堪えながらイーブイの眼前まで辿り着いたが、ついに限界を迎え牙を突き立てる前に弾け飛んだ。
「よし、まだまだ! もう一度スピードスター!」
 地を転がる相手に追い討ちをかける、箒星を放つとグライガーは地面の中に隠れた。
 いくら必中技のスピードスターと言えども穴の中にまでは追尾出来ない、星は地面に当たって爆ぜてしまった。
 どこから来る……? いや、オレ達にそれを突き止める術は無い。攻撃を食らったその後を考えねば。
 タイミングは分からないが、グライガーは恐らく足元から飛び出す同時に攻撃してくるだろう。ならば即座に対応出来るよう備えておかなければ。
「イーブイ、すぐジャンプ出来るよう構えるんだ」
 指示を受け彼は脚を曲げる。後は足元の地面が隆起するのを待つだけだ。
 ……静寂の中、とうとう試合が動き出す。彼の足元がわずかに盛り上がったのだ。
「今だ、飛んでスピードスター!」
 イーブイが垂直に跳ね、追いかけるようにグライガーが地面から飛び出す。二匹の距離が徐々に縮まり、しかし顔面に激突する星型弾によりグライガーは再び地面に叩きつけられた。
 技を当てることには成功した、だが問題はその後だ……。グライガーは頭を振って半身を起こして、続けて尻尾を使って立ち上がった。一方イーブイは自由落下に入っている、相手の攻撃を避ける術が無い。
「くっ……スピードスター!」
 苦し紛れのその技もハサミで容易く切り裂かれる。
「グライガー、じしん!」
 更に着地の隙を突かれて地を走る衝撃波に打たれてしまう。
 かなりの威力を誇る"じしん"、二度目の直撃はいくらオボンのみを食べていたとはいえ相当堪えたはずだ。
 それでもイーブイは歯を食い縛って立ち上がるが、このままではグライガーに先手を取られてやられてしまうだろう。
「イーブイ、戻ってくれ!」
 それは苦渋の決断だ。この交替は戦闘中に行われるもの、ボールから出た隙は無防備で交替した先には負担がかかってしまう。それでもせざるを得なかったのだ、ここでイーブイを失わない為にも。
「頼むぜヒノヤコマ!」
「グライガー、つばめがえし!」
 続けて出したのはヒノヤコマ、それは相手の持っているであろうひこうタイプ技への警戒ゆえだ。
 同時にグライガーが飛びかかり、光を払って現れたばかりのヒノヤコマを切り裂いた。
「ごめん……!」
 ヒノヤコマは何も言わずにただ首を横に振る、それは謝る必要が無いということだろう。
 それもそうだ、謝罪も感謝も少なくとも眼前の敵を打ち倒してから。だからそれまでは彼らへの言葉は取っておかなければ。
 相手のグライガーとて無傷なわけでは無い。特性"てきおうりょく"を持つイーブイのスピードスターを二度も食らったのだ、相当堪えているはず。
 ここはこれ以上のダメージを受けずに乗り越えてみせる!
「ヒノヤコマ、早速行くぞ! こっちもつばめがえしだ!」
 空を裂く、その一撃はまさしく疾風。回避すらも許さずグライガーを一閃のもとに切り伏せた。
「グライガー、戦闘不能!」
 審判が判断を下す。
「……はやっ!?」
 どうやらマルーンさんは"はやてのつばさ"を知らないようだ。だからここは思いきり言い返すしかない
「これがオレ達の気合い! です!」
 見栄を切って宣言する。
 ある意味間違ったことは言っていない。この技はオレ達の気合いと努力! の結晶なのだから!
「ううー……!あたしだって気合いじゃ負けてないはずなのに、ずるいわよー……」
 それをあなたが言うか、なんてツッコミは野暮だろう。労いながらグライガーを戻す彼女を見て、こちらもヒノヤコマを一度交替することにした。
「じゃあ次はあなたに任せたわよ、ヌオー!」
 二匹目はヌオー。湿った肌に間抜けそうな顔のみずうおポケモン。
「よし、行くぞメェークル!」
 ポケモンの重複は禁止ということで、グライガーを倒した今心置きなく彼を登場させることが出来る。そして幸いにもこちらは相性の面でとても有利だ、その上で機動力でも勝っている。
「まずは……まもる!」
 それでも油断するわけにはいかない、相手はジムリーダーなのだからいくら有利だからと高を括れば足を掬われてしまう。
「ヌオー、ねっとう!」
 ヌオーは大口を開けて熱く煮えたぎる水を発射してきた。なるほど、状態異常"やけど"を狙ってくる型のポケモンか。多少厄介だ、出来ることなら攻撃を食らう前に倒したい。
「メェークル、接近しろ!」
 とはいえ動きの鈍いヌオーの攻撃、そう簡単には当たらない。不規則なステップを踏んで容易く攻撃を回避しながらふところに潜り込む。
「決めろ、リーフブレードだ!」
 一閃、光子を帯びた角で切り払う。
 ……よし、確実に当たった。これで……!
「もう一度ねっとうよ!」
 倒せた、そう確信を得た直後背中に熱湯をかけられた。
 ……まさか、素で耐えたのか?! いや、違う。ヌオーの口元にはなにかを食い散らかした後がある。
 それはおそらくリンドのみの欠片、効果抜群の技を食らった時一度だけその威力を半減させる木の実。
 更にメェークルの体が突然発火した、これがねっとうの追加効果"やけど"だ。じょじょに体力を奪われ、加えて痛みを伴う為全力が奮えず攻撃力が下がってしまう。
「……っ、もう一度リーフブレード!」
 それでもヌオーを倒すくらいの力は残っている、返し切りで二太刀目を浴びせると今度こそヌオーは大人しく倒れてくれた。
「お疲れ様ヌオー、あなたは十分働いたよ!」
「ヌオー、戦闘不能!」
 数の上では、これで三対一だ。しかし皆既に消耗している、必ずしも有利とは言えないだろう。
「あたしのヌオーはカウンターを持ってないし、れいとうビームじゃ倒しきれそうに無かったから次に繋げることにしたの」
 つまり最後の一匹に全てを託すということだ。ポケモンバトルはチーム戦、仲間の為に働くことで勝利に繋がる道が開ける。彼女のエースなら出来る、その信頼があるからこそヌオーも作戦に乗ったのだろう。
「最後は……行こう! ネンドール!」
 彼女の最後の一匹はネンドール。土偶のような体型、梟に似た顔をいくつも持っている。サイコパワーで常に浮かんでいる太古の泥人形だ。
「行くぞ、リーフブレード!」
 出来ることならまもるで様子を窺いたいが今のメェークルはやけど状態だ、なるべく勝負は急ぎたい。
 ネンドールは微動だにせず鎮座して、攻撃を待っている。それはおそらく確実に攻撃を当てる為だろう。
 だからと言ってここで引いても状況は好転しない、行くしかない。
「ネンドール、れいとうビーム!」
 光子の刃を一閃、同時に凍てつく光線に貫かれる。
「……メェークル、ありがとう」
「メェークル、戦闘不能!」
 メェークルは玉砕を覚悟で挑んでくれた、彼には本当に感謝しなければ。そしてそんな彼の覚悟を無駄にしない為には、勝たなければならない。
「次はお前だ、イーブイ!」
 イーブイは最初の戦いで消耗している、このままではあまり長くは戦わせられないだろう。
「まずはスピードスター!」
「迎え撃って! れいとうビーム!」
 イーブイが尻尾を振って箒星を飛ばす、対してネンドールは腕から凍てつく光線を放った。
 光線はかなりの威力だ、次々に星を撃ち落としてイーブイに迫る。
「っ……、避けろ!」
 危うく転がるが、先ほどまで居た地面はすっかり凍り付き氷柱が立っていた。
 ……なんていう威力だ、スピードスターととっておきしか攻撃技の無い今のイーブイには技を当てられるかも怪しい。ならば、ここは……。
「イーブイ、ねがいごとだ!」
 イーブイが目を閉じ、祈る。
 彼で敵わないのだとしても、なにも出来ないわけじゃない。ポケモンバトルはチーム戦だ。最後の一匹に、ヒノヤコマへと託した願いが空の星へと飛んでいく。
「隙だらけだよ、れいとうビーム!」
 ようやく祈りを済ませて瞳を開いたイーブイを、蒼白の光線が貫いた。もともと体力がわずかだったイーブイに耐えられるはずが無かった。
「イーブイ、戦闘不能!」
 これでオレも後一匹だ。イーブイに感謝してモンスターボールに戻し、最後の一つを構える。
 ……あのネンドール、サイコキネシスなどで事足りる場面でも必要以上にれいとうビームを撃ってくる。おまけにあの技の威力、恐らく持ち物はこだわりメガネなのだろう。
「さあ、行くぜヒノヤコマ! 勝って必ずジムバッジを手に入れるんだ!」
 メェークルの覚悟、イーブイの願い。想いを託された両翼を広げ、光を振り払いヒノヤコマが羽ばたいた。
「つばめがえし!」
 低空飛行で接近し、翼で切り上げる。背後から冷気の光線が放たれるが旋回して回避、しかしネンドールの腕が突如として目の前に現れた。
「れいとうビーム!」
 そうだ、ネンドールはサイコパワーで腕を自由に動かすことが出来るんだ……!
「大丈夫かヒノヤコマ?!」
 ヒノヤコマの持ち物は現在"いのちのたま"、攻撃の度に反動が伴う。加えて先ほどのつばめがえしと今のれいとうビーム、相当傷を負っているはずだ。
 背中を撃たれたヒノヤコマは地に落ちて、返事こそすれ起き上がれずにいる。
「さあ、これで終わりだね!」
 ネンドールが再び腕を飛ばして這いつくばっているヒノヤコマに突き付ける。
 腕の先に冷気が集まり、じょじょにエネルギーを蓄積させていく。
「いいや、オレ達はまだ諦めていない」
 そう、願えば必ず届くのだから。
 その時、透き通るような水色の輝きがヒノヤコマを包んだ。
 だがとうとうその光線が放たれた、後一瞬でもねがいごとの発動が早ければ避けることが出来たが……あまりにも遅すぎた。
 巨大な氷のオブジェがフィールドに現れ、その中にはヒノヤコマが閉じ込められている。
「さあ、これで動けなければあたし達の勝ちだよ」
 彼女がそう言っている傍では、ネンドールが腕に冷気を溜めている。
 ……何を言っているんだ。オレとヒノヤコマにようやくイーブイの願いが届いたんだ、それにメェークルの思いも受け取っている、このままで終わっていいはずがない。
 いや、それだけじゃない。観客席ではピカチュウが応援してくれている、彼の声援だって無駄には出来ない。
「行くぜ、ヒノヤコマ」
 こんな状況だからこそ、意地っ張りな性格だからこそ、ヒノヤコマはさらに燃えているのだろう。それはきっと氷に閉ざされた中でも変わりは無い。
 その熱が身体から溢れ出し、厚く高く覆っていた氷柱はじょじょに溶け出てフィールドに流れていく。
「そんな……溶けるの早くない?!」
「ヒノヤコマ、ニトロチャージ!」
 氷壁の中から、燃え盛る炎が噴き出した。そして自由を得た翼が弾丸の如く放たれる。
 今ヒノヤコマの火炎袋は熱く滾っている、その速度に対応しきれず腹に直撃されたネンドールはついに大きく体勢を崩した。
「続けてつばめがえしだ!」
 もう相手も体力はほとんど残っていない。続けて翼で切り上げると、巨大な泥人形は力を失い活動停止した。
「ネンドール、戦闘不能! よって勝者、ラルドタウンのジュンヤ!」
「……もう少しだったのにね。ありがとねネンドール、ゆっくり休んで」
 惜しむようなマルーンの声とともに、ネンドールはモンスターボールへと戻っていく。
「よく頑張ってくれたな、ヒノヤコマ……。本当にありがとう!」
 そして彼をモンスターボールに戻す。もちろんそれは彼だけではない、今もボールの中で休んでいる仲間達もだ。これはみんなの気合いと頑張りが、仲間へのサポートがあったからこそ掴めた勝利なのだから。
「あーあ、負けちゃったわ! ジュンヤ君達の気合い! には勝てなかったみたい」
 彼女は嬉々と弾んだ口調で歩み寄ってきて手の平を差し出した。
「これはストラタバッジ、あたし達に勝利した証よ!」
 そこには茶、赤茶、焦茶と三色に分かれた小さな金属の平行四辺形が乗せられている。
「ありがとうございます、マルーンさん!」
 それを受け取り、摘まみ上げる。
「よし……! ストラタバッジ、入手したぜ!」
 これでジムバッジは二つ目だ。仲間達との協力で手に入れた、それを掲げて声高く叫んだ。

せろん ( 2015/04/21(火) 20:27 )