ポケットモンスターインフィニティ
















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第二章 迫り来る脅威
第16話 旧知の親友、互いの課題
 ジュンヤは、いつだってそう。何でも一人でやろうとして、いつも一人で抱え込む。もちろんそれがジュンヤの優しさだってことは分かってる、けど……。
「少しは私達に、話してくれてもいいのに……」
 ジュンヤがベッドに倒れこんでから数時間、ヒノヤコマとイーブイはモンスターボールから出て来て彼に寄り添っている。
 未だ眠り続けている彼の隣に座ってその顔を覗き込む。彼の顔にもようやく色が戻ってきた、後は目覚めを待つだけだろう。
 ……ポケモンセンターに帰ってきたばかりの時は余程酷かった。汗だくな上に顔は蒼白、足取りもおぼつかない。それはメェークルとピカチュウもそう。
 ジュンヤは、「ちょっと走り過ぎて疲れたんだ」としか言ってくれなかった。でも、分かってる。ほんとは、あなたは何かに巻き込まれてたんだよね……。
「ジュンヤの容体はどうだい」
 扉を押し開けて、ソウスケが部屋に入ってきた。彼はお盆を持っていて、その上にはジュンヤの好きな砂糖3杯のホットミルクと私の好きなアップルジュース、それぞれが注がれたマグカップとグラス。コロッケや味噌汁、白米など同じく彼の好物が盛られた茶碗数個が乗せられている。
「ソウスケ、それ危ないよ……」
「大丈夫、ギリギリ」
 なんだかジュースとかこぼしそうで怖いけど、ソウスケは謎の自信を見せてきた。
 言いながら彼はジュンヤの眠るベッドの横の小さなテーブルにお盆を置く。
 更に眠っていることも想定済みだったのか、鞄からサランラップを取り出し料理に被せ始めた。
「顔色は良くなってるから、きっともうすぐ起きると思うよ」
「そうか、良かった。メェークル達も安静にしていればすぐに良くなるそうだ」
 互いの情報を交換し終えて、こんな状況で談笑など出来るはずもなく沈黙が続く。
 それに耐えかねたのもある、ソウスケに質問することにした。
「ねえ、ソウスケはどう思う?」
「……そうだね、ジュンヤがここまでやられる程だ、きっと相手は相当の手練れなんだろう」
「……やっぱり、そうだよね」
 ソウスケも、ジュンヤが何者かと交戦したことを前提に話していた。
 ……ジュンヤは絶対隠し事をしている。だけど今のままの私じゃあ、ジュンヤを守ることは出来そうにない。
「ねえ、ソウスケ。私と……バトルしてくれないかな」
 もうこれ以上傷付いて欲しくない。だけどジュンヤはきっと、戦いをやめることはない。ジュンヤはいつもそうだった、あの日からずっとそうだった。
「ジュンヤももう大丈夫そうだね。分かった、受けて立つよ」
 私だってもっと強くなりたい。今のままでは自分達の身も守れない、ジュンヤを守ることなんて出来っこない。
 ソウスケは快く引き受けてくれた。私の今の力じゃあ彼に勝てないのは分かっている。だけどなにも勝つことが全てじゃないんだから、今はソウスケ達から学んで少しでも自分の為になればいい。
「それじゃあ、しよっか」
 静かに眠り続けているジュンヤの髪を優しく掻き分け、その寝顔に微笑みを投げかけてから立ち上がる。
「ヒノヤコマ、イーブイ。ジュンヤのことをお願いね」
 二匹は強く頭を振った。うん、これなら安心して任せられる。まだ少し残るけど、二人で部屋を出ることにした。



 ポケモンセンター裏手のバトルコートは夕暮れに染まっている、やがて闇が覆いかぶさり蛍光ランプが灯されるであろう。
 私とソウスケの手持ちは互いに三匹ずつ、ならば三対三をするのが妥当だ。
「行って、コアルヒー!」
「まずは君だ、ハーデリア!」
 ……もう、なんでソウスケはハーデリアを最初に出すの!?ダルマッカかワシボンだったら弱点を突けたのに……!
「流石に読んでいるさ。コアルヒーなら二匹に弱点を突ける、ならば僕がハーデリアを出すのも当然だろう」
 ……ソウスケの言う通り、だけど。うん、言う通りだけど!
「コアルヒー、ぼうふうよ!」
 ……出鼻は挫かれたけど、勝負は始まったばかり。ジュンヤならきっとそう言うだろう。とはいえ今更交替したところでその隙に攻撃をされるのは目に見えている、このまま突っ張るしかない。
 早速攻撃に入ったコアルヒーが羽ばたいて強風を巻き起こす。
「あなをほる!」
 対してハーデリアは穴の中に潜んでそれをやり過ごそうとする。多分そこから次の攻めに繋げるつもりだよね。
「けど何度もソウスケの戦いを見てるんだもん、そう来るのは分かってたよ! コアルヒー、なみのり!」
 翼を広げると、彼女の足元が黒く湿って直後に高波が噴き上げた。
「浸水させるつもりだね……!」
 もしこのまま隠れていれば逃げ場の無い地中で溺れてしまう、でも今下手な場所に飛び出したところで“なみのり”を食らってしまう。ソウスケはきっと……。
「背後から出るんだ!」
 フィールドほぼ全体を覆うコアルヒーの攻撃、安全地帯は彼女の後ろしかない。だからそこに来るのは予想がついていた。
「飛んで!」
 ハーデリアの技は直接攻撃ばかり、距離さえあれば怖くない。ある程度の距離まで羽ばたき着地する。
「次はぼうふうよ!」
 再び“ぼうふう”で攻撃する。吹き荒ぶ暴威にハーデリアは堪えきれずに吹き飛ばされたが、地面に爪を立てて勢いを殺して立ち上がってきた。
「やるじゃないか。けど、まださ! ワイルドボルト!」
 そして激しく吹き付ける風に真っ向から立ち向かい駆け出した。
 ハーデリアは電気を纏いながら逆風を突き抜け、逃げようと羽ばたき始めていたコアルヒーに突撃を決めた。
 それは、進化後と進化前という能力の差があるからこそ成せた力技だった。
「コアルヒー!?」
 この技はみずとひこうのタイプを併せ持つ彼女が最も苦手とするでんきタイプの攻撃だ、耐えられるわけが無い。
 雷撃を浴びて倒れたコアルヒーは起き上がらない、戦闘不能だ。
「今のはしかたないよ、あなたはよくがんばったね。ありがとうコアルヒー、……ゆっくりお休み」
 申し訳なさそうにモンスターボールの中から見つめてくる彼女にそう励ましと感謝を告げて、ベルトに装着する。
 ハーデリアを見れば、肩で大きく息をしていた。いくら進化後で高い能力を持っていると言っても、ひこうタイプの特殊攻撃技で最高威力を持つ“ぼうふう”に真正面から立ち向かったのだから当然だろう。
 相手は大きく消耗している、“オボンのみ”を食べたところでもはや対して変わらない。コアルヒーに“いのちのたま”を持たせていたのが功を奏した。
「次はあなたよ、お願いフラべべ!」
 ノドカの二匹目はフラべべ、それは相手の持っているであろう“こおりのキバ”を警戒したからだ。
「行くよフラべべ、ムーンフォース!」
 相手の体力は残りわずか、一気に畳みかける!
 月の力を借りて空から光の柱を降らせる。ハーデリアは間一髪下がって避けたが、動くのが辛そうだ。
「ハーデリア、とっしん!」
「迎え撃って、エナジーボール!」
 これが最後の抵抗だろう、ハーデリアはいくら深緑の光弾を浴びても怯むことなく迫ってくる。それはとっしんでの相殺以上に、ソウスケへの思いという原動力があるからこそ彼は走れるのだろう。
 フラべべの小さな身体にハーデリアの身体が激突し、弾き飛ばされてしまう。
「……っ、ムーンフォース!」
 それでもまだフラべべは倒れない、飛ばされながらも両手を上げてハーデリアに空から光を落とした。
「ハーデリア!」
 光が収束する頃には、既にハーデリアの意識は失われていた。戦闘不能、ソウスケは彼を労いながらボールに戻した。
「じゃあ次は……」
 ソウスケが二匹目のモンスターボールを構えたところで、フラべべの全身から蒼白の光を溢れ出した。
「フラべべ、まさか……!」
 進化……!? 彼女を覆う光はみるみる形を変えて、それが晴れた頃にはすっかり見違えていた。
「フラエッテ。いちりんポケモン。
 花畑を飛び回り枯れかけた花を世話する。花の秘められた力を引き出して戦う」
 容姿はあまり変わらないがその身体は二倍にも大きくなっていて、両手で一輪の花を携えている。
 それがフラべべの進化した姿、フラエッテだ。
「君の初陣だ! ワシボン!」
 彼の二匹目、ワシボンは強敵だ。加えてフラエッテは進化したとはいえ消耗している。
「けど、負けないよ!」
 ダルマッカまでは倒せないかもしれない、でも出来ることならワシボンまでは倒したい。
 気合いを入れて、フラエッテにも「がんばろう!」と声を掛けた。
「まずはムーンフォース!」
 先ほどのとっしんでフラエッテはダメージを食らっている、おそらくワシボンの一撃を耐えられない。ならばせめて少しでも傷を負わせてチュリネに繋げたい。
「ブレイククローだ」
 早速降らせた光も、ワシボンが放ったサマーソルトで容易く切り裂かれる。
「今度は僕らが攻める番だ! 接近してくれ!」
「それなら連続でムーンフォースよ!」
 相手はいくらその場で技を掻き消したとしても攻撃には移れない、接近するのは当然だ。だからそこを狙い撃つ。
 空から降り注ぐ光の雨、しかしワシボンは迷わず一直線に駆け出す。
「いいぞ、だけど少しは上にも気を配ってくれ。右に飛ぶんだ!」
 だがその指示を無視してそのまま走り、案の定光に呑まれてしまう。
「ワシボン! ……ブレイククロー!」
 しかしそれでも勢いは緩むこと無く、フラエッテに迫るとその鋭い爪で掴み上げ跳躍、高所から思い切り投げ落とした。
「……やれやれ。それはフリーフォールだよ、ワシボン」
 だが敵は倒せたのだ、文句は無いだろう。そう言わんばかりにワシボンはそっぽを向いてしまった。
「お疲れ様、戻って休んでね。……せっかく進化してくれたのにごめんね、フラエッテ」
 ノドカの謝罪に、フラエッテは首を横に振った。
「ありがとう」
 そしてボールをベルトに戻す。
 私はこれで後一匹、しかもタイプ相性では不利だ。正直、もうワシボンを倒せる気はしない。だけどここで投げ出したらコアルヒーとフラエッテ、二匹を裏切ることになる。
「チュリネ! 最後までがんばろう!」
 それが彼女達の為になる、チュリネもしっかり頷いた。
 まずは慎重に様子を窺うと、相手は猛然と迫ってきた。
「横に飛んでエナジーボール!」
 ワシボンの軌道は単純で読みやすいが、チュリネにはスピードが早く避けることすら難しい。
 それでも頬に翼を掠らされながらも寸前で回避して、深緑の光弾を発射する。
 しかしワシボンは振り返りながら翼を払ってエナジーボールを弾き飛ばしてしまう。
「あぶない! チュリネ、高く跳んで!」
 その指示の通り、頭上高くに跳ね上がった。直後先程までチュリネが立っていた地面に爪痕が走る。
「駄目だワシボン、誘いに乗るな!」
 それでもワシボンは攻めを緩めない、あちらも跳躍して追いかけてきた。
「やっぱり来た……! チュリネ、リーフストーム!」
 だが彼が相手の技を恐れず攻撃するのはこれまでの戦いで分かっていた、迎え撃つように尖った葉っぱの嵐を巻き起こしワシボンを切り裂いていく。
「ワシボン!?」
 流石にその攻撃は効果は今一つとはいえ堪えたらしい、ついに地面に背中を着いてしまう。が、まだ倒れない。すぐに起き上がって自由落下していたチュリネを掴み、そのまま地面に叩きつけた。
「チュリネ!?」
 チュリネは動かない、ワシボンの強烈な一撃には耐え切れなかったようだ。だがそれもしかたあるまい、今の技はフリーフォールだ、効果抜群な上にチュリネも打たれ強いタイプではないのだから。
「ごめんね、ありがとうチュリネ。おつかれさま」
 勝敗は決した、ソウスケもワシボンをボールに戻す。
「ソウスケもありがとう。おかげで、私達のダメなとこが見えたよ」
 彼に駆け寄り、わざわざ付き合ってくれたことに礼を言う。
「僕こそお礼を言わないと。僕も自分の欠点が見えたよ」
 彼にも思うところがあるのだろう、ワシボンのボールを見つめながら返事が来た。
「ワシボンは僕の指示には耳を貸さなかった。きっとまだ、完全には認めてられていないのだろうね」
 それがソウスケの課題、彼は寂しげに「こんなんじゃ、ポケモントレーナー失格さ」と呟いた。
「気にしないで、っていうのは無理かもしれないけど、ソウスケならだいじょうぶ。だってあなたは誰よりもポケモンバトルが大好きで、そんなソウスケだからワシボンもついて来たんだもん」
 ワシボンは捕まる時に、ソウスケの確認に頷いて自ら共に戦う道を選んだのだ。ならば本当の意味で力を合わせて一緒に戦える日は必ず来るはずだ。
「……ありがとうノドカ。そうだね、ワシボンは僕の夢に共感して仲間になってくれたんだ。きっと、いつか……」
「ううん、きっとじゃなくて絶対だよ! ……根拠は無いけど、なんとなくそんな気がするんだ」
 まるでもしもの願望を口にするような弱い口調のソウスケに、彼女は強く断言した!
 もちろん言った通り無根拠なのだが、普段のソウスケを見ているとそう思えたのだ。
「つまり、ただの勘だね」
「ご、ごめんなさい……」
 真剣に悩んでいる相手に言うのはら少しまずかったかもしれない。反省していると、ソウスケが私の頭に手を乗せて優しく撫でた。
「はは、なんだかなんとかなりそうな気がしてきたよ。ありがとう、君のそういうところ僕は好きだよ」
「えへへ、ありがとう」
 ソウスケが少しでも元気になれたのなら良かった。……だけど、私は。
「そうだ、ノドカの駄目なところってどこだい」
 先程のバトルを振り返っていたら、ソウスケが手を下ろして尋ねてきた。
「私達は、単純な力押しに弱いみたい」
 ハーデリアにもワシボンにも、それでやられてしまった。それは逆に言うとこちらの力不足でもある。
「そうだね、それなら」
「それならじめんタイプね!」
 ソウスケの言葉を遮って女性が口を挟んで来た。
「あなたは?」
 女性は探検家のような格好で、小麦色に焼けた肌に薄い茶髪のポニーテールだ。見たところ年齢は20前後といった感じで、突き出した片手には人差し指が立てられている。
「あ、あたしはマルーン! こう見えても熱血探検家です!」
 マルーン、そう名乗った彼女はドン、と胸を叩いて誇らしげにしている。
「この街の博物館にも私が発見したものがいくつかあって、それは今度ゆっくり紹介してあげるわね!」
「あ、あの……」
「ご、ごめんね! つい勢いで語っちゃった……」
 恥ずかしそうに頭を掻きながら謝る、かと思えば再び人差し指を突き立てた!
「それで、力押しに弱いならじめんタイプとかどうかな!? じめんタイプはいいわよ、力強く美しく洗練されている! そう、それはまるでかつて大理石で造られた男性の像のように……!」
 な、なにこの人!? ……言ってることはよく分からないけど、いわゆるオタク?
「えーっと……」
「それと君、ソウスケ君? も大丈夫! 根気強くポケモンに向き合えばきっと応えてくれるわ! だって発掘現場がそうだからね!」
 ……うん、とりあえず励ましてくれてるみたい。
「あの、ありがとうございます!」
「気にしないで、悩める青年に手を差し伸べるのは大人の義務なんだから!」
 そしてマルーンさんは、「じゃあね!」と清々しい笑顔で去っていった。
「うん、じゃあ私たちも帰ろうか」
「そうだね」
 マルーンさん、いい人だったな。また会えるといいなあ。
 ……それと、ジュンヤはだいじょうぶかな。やっぱり、まだ心配だな。



「やあエドガーくん、お帰り。新人の尻拭いお疲れ様、どうだった?」
 それは男にしては少し高く、女にしてはやや低い。性別の判別し難い中性的な少年の声だ。少年は膝に乗って喉を鳴らしている黒い体毛のポケモンを優しくなでながら、彼、オルビス団幹部エドガーに親しげに尋ねる。
「ああ、気になる少年が居たな。黒髪で、ナックラーを連れていた」
「へえ、その人が以前邪魔したって男の子かい?」
「いや、それは栗色の髪に赤い帽子、青いジャケットでメェークルを連れた少年だ。彼のポケモンは愛情を込めて育てられていた、きっとポケモンを大事にする良いトレーナーだと思うよ」
 それを聞いた瞬間、少年は驚いたようにメェークルを連れた彼のことを尋ね直していた。
 そして本当だ、と返されると膝に乗せていたポケモンを抱えて立ち上がった。
「分かってるよ、キミも気になっているんだよね。うん、早速調べてみようか! ありがとうエドガーくん!」
 少年はあっという間に部屋を出ていってしまった。その背中を見送ってから、エドガーはメタグロスを呼び出しポフレを差し出した。

■筆者メッセージ
abyssさんの作品「ポケットモンスター ディスティニーコネクト」にてコラボすることになりました!ジュンヤとツルギが出る予定なので、ディスティニーコネクトもよろしくお願いします!
せろん ( 2015/04/15(水) 20:51 )