ポケットモンスターインフィニティ
















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第二章 迫り来る脅威
第10話 不良優等生レンジ
 ポケモンセンターに預けたら、イーブイの傷もすっかり良くなった。
「行くぜ、それ!」
 ジュンヤの投げたゴムボールに、イーブイは一度振り返って行っていいかを確認してから走り出す。少し控え目とはいえ、こうして十分走り回れる程にまで回復をしているとは、改めてポケモンセンターの技術力の高さには驚かされる。
 イーブイは宙に弧を描く球に飛びかかろうとしたが、威勢良くツルを伸ばすメェークルとクチバシを突き出すヤヤコマを見て、跳躍を中断してしまった。
「……うーん、ひかえめだなあ。イーブイ、もっとぐいぐい行っていいんだぜ」
 とはいえそれがイーブイの性格ならば、言っても変わることはないだろう。イーブイを遊ばせる時は、一匹だけの方が良さそうだ。
「よしよしイーブイ、ポフィンだぞ」
 まだ彼とは親交を暖めてはいない。仲良くなる為にお菓子をあげることにした。
「さあ、どれがいい?」
 甘い、辛い、苦い、渋い、すっぱいと五つの味を並べると、彼は全てを嗅ぎ比べた後、ひかえめに苦いポフィンを一口かじる。
 そしてまだ食べていいの、と聞きたげに、大きくつぶらな黒い瞳でおずおずと顔色を窺って来た。
「全部食べていいよ」
 そう告げると、イーブイはとても嬉しそうに苦いポフィンを頬張り始めた。
「……けど、元気になって良かったよな、本当に」
 嬉しそうに咀嚼するイーブイを尻目に隣のノドカに声を掛ける。
「うん、ほんとだよ。それにしても酷いよね、オルビス団! こんなかわいいイーブイをあんなに傷付けるなんて!」
 ……確かに、それは許せない。あいつらは人のポケモンを奪うだけじゃなく、言われて気がついたが、野生のポケモンすらも必要以上に痛めつけて……。
「……そうだよ、ノドカ。ただ捕まえるなら、あんなに傷付ける必要はないじゃないか……!」
 思い出すだけで胸の奥が燃えるように熱くなり、むらむらと怒りがこみ上げてきた。あいつらはどうして、あそこまでイーブイを……!
「……どうしたの、ジュンヤ」
 いきなり立ち上がったジュンヤへと向けられた彼女の疑問にはぶっきらぼうに「特訓」とだけ返し、ヤヤコマとイーブイを戻してメェークルと一緒に歩いていってしまった……。
「……僕らも行こうか」
「だね」
 少し驚いたが、彼の気持ちは良く分かる。自分達も、ポケモン達を傷付ける彼らのことは許せない。
 とにかく、去ってしまった彼らをダルマッカ、コアルヒー、二人も相棒とともに追いかけることにした。



 ポケモンセンターの裏手のバトルコート。目的はトレーニングだが、運が良いのかこの街の道場に人々は集まっているのか、はたまた田舎だからか。ともかくあまり人気が無いのでちょうど良かった。
「……で、なんだ」
 ……熱烈な視線を感じて、オルビス団への怒りが胸に溜まっていたこともあり思わず刺々しく振り返ってしまった。そこには、一人の少年が偉そうに腕を組んでふんぞり返って立っていた。
「よう、お前ブラドスシティでジム戦してたやつだろ」
 黒の短髪、黒い革のジャンバーに七分丈のジーンズ。両手に赤いリストバンドを巻いている。
「いや、お前は誰だよ」
 八つ当たりは良くない、そう思って態度を改めようと思っていたが、その鼻につく傲岸な態度に鋭い口調の返しとなってしまう。しかし彼は呆れたように肩を竦めるばかりだった。
「ったく、お前みたいな弱そうなやつがジムリーダーに勝ったとは思えねえな。まず質問に質問で返すなよアホ、テストで0点になるって学校で教わんなかったか?」
 ……なんだこいつ、人を馬鹿にした態度取りやがって。
「お前こそ、まず自分から名乗るのが礼儀って習わなかったのかよ」
 売り言葉に買い言葉、思わず言い返すと短髪の彼は呆れたように肩をすくめた。
「まあいい、名乗ってやるよ。おれはネフラシティのレンジ! ネフラのトレーナーズスクールトップの腕前と言われた天才ポケモントレーナーで、未来のポケモンマスターだ! ああ分かってる、おれとポケモンバトルしたいんだろ? いいぜ、天才のバトルってもんを見せてやるよ!」
 レンジ、そう名乗る彼は一気にまくし立て、ジュンヤ達は思わず顔を見合わせ首を傾げてしまう。
「なあ、オレバトルしてほしいなんて……」
 彼の問いかけに、相棒も困り気味に首を横に振る。ノドカも「言ってない……と思うよ」と否定してくれた。
「だよな」
 ここまでくると呆れてしまう、ジュンヤとメェークルは疲れた表情でため息を吐いた。
「おいおい、いいから早くやろうぜ! おれのポケモン達も待ちくたびれてんだ」
 なんてせわしない男なのだろう。まだ勝負を引き受けるとも言っていないのにすっかりやる気になってしまっている。
 さすがに困って二人を見るが、
「……でも、断るのもちょっとかわいそうだよ。それに私、ジュンヤのバトルが見たいな」
「うん、いいんじゃないかな。もし自称なら叩き潰せばいいし、本当に強いトレーナーなら悔しいけど負けても勉強になるからね」
 とやけに乗り気で、バトルに肯定的である。足元のメェークルやダルマッカ、コアルヒーまでうんうん頷く始末だ。……というかソウスケ、気持ちは分かるけど言い方に少し棘があるな。
「……分かったよ、いいぜ。オレはジュンヤ、ラルドタウンのジュンヤだ」
 しかたない、売られた勝負は買うのがポケモントレーナーだしな。
「ふーん、それよりさっさとしろよ。ま、お前の弱そうなポケモンにゃあ負けねえけどな」
「なんだと……?」
 それは聞き捨てならない言葉だ、自分のポケモン達のことを馬鹿にされるのは許せない……!
「フラットルールでいいな」
「……ああ、いいぜ」
 ……こんな人を見下してくる態度を取るやつに絶対負けるものか。
 心の中で静かに燃える闘志を、角を握ってメェークルにも伝えた。



 フラットルール。互いに手持ち六匹の中から三匹を選んで行われるバトルのことだ。
 自分の手持ち内で同じ持ち物を持たせることと、同じポケモンを入れることは禁止されている。
 その為どのポケモンがどんな持ち物を持っているか、ということを見抜くのも勝利の為の重要なファクターとなる。
「持ち物と技の確認はいいな、後から言い訳は聞けねえぞ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。お前こそ後から見苦しく言い訳するなよ」
「へっ、優等生のおれ様を一般ピープルと一緒にすんじゃねえよ」
 ……なんで煽りあいから始まってるんだろう。
 ノドカとソウスケは疑問に思ったが、突っ込むのも無粋だ、と温かく見守ることにした。
「じゃあ、先発はお前だ! イーブイ!」
「行くぜ、シシコ!」
 イーブイと向かい合うのはシシコ。太い四肢を持ち、大きな耳、橙のたてがみを生やしたわかじしポケモンだ。
「まずはハイパーボイスだ!」
 シシコが吠える。瞬間大気に衝撃が広がった。
「うう、近くで和太鼓を叩かれた時みたい……」
 それはトレーナー達にも影響を及ぼし、ノドカが息苦しげに言葉を漏らした。
「イーブイ、あくび!」
 対するイーブイはその場を動かず大きく口を開け、深くあくびを落とす。だがシシコの咆哮は眠そうに目をこするイーブイの鼓膜を揺さぶり、全身を振動させる。
「次はねがいごとだ!」
 イーブイは身体を内から叩くような声に不快を現すが、続けて瞳を伏せ念じた。
「少しは攻めて来いよっ……! もう一度ハイパーボイス!」
 苛つきを吐き出すような声とともに、再び振動が襲いかかった。
 あくびは浴びせると、少し時間を置いて相手を眠らせる効果がある。交替すれば解除されるが、それでも向かって来るということはこの攻撃で勝負を決めるつもりなのだろうか。
「イーブイ、耐えてくれ……!」
 振動が身体を芯から激しく揺さぶってきて、内から崩壊するような痛みに包まれた。それでも、必死に食いしばる。全ては命を救ってくれた主の為に。
 しばらくけたたましい咆哮が響き続けていたが、やがて声量は弱まっていき、大きなあくびとなって止まった。
 そしてどうやらあくびの効果が発動したらしく、シシコがふらふらと揺れて倒れる。眠ってしまったようだ。
「シシコ起きろ! おい、シシコ!」
 苛立たしげに舌を鳴らすレンジを尻目に、イーブイが懐から取り出した下部が膨らんだ黄色い木の実、オボンのみを食べる。この実は、体力を回復させる効果を持っている。
「イーブイ、スピードスター!」
 続けて実を飲み込んで箒の尻尾を振り払って星形のエネルギー弾を飛ばすが、直撃してもシシコは地に伏し、いびきを掻いたままだ。
 さらにイーブイを暖かい光が包み込む。先ほど使ったねがいごとの効果が発動したのだ、その光で体力が一気に回復していく。
「シシコ! シシコ、おい! 起きてハイパーボイスだ!」
「これで終わりだ! 見せてやれ、お前のとっておき!」
 イーブイを再び白い光が包んでいく。しかし今度は癒やしの光などでは決して無い。
「まずい……! おい、シシコ! 目を覚ませ!」
 その技は、あの「はかいこうせん」などの大技に次ぐ高い威力を誇っている。集いし光が見る見るうちに塊となり、顎を伸ばして寝息を立てるシシコへと放たれた。
 結局眠りが覚めることは無く、塊が激突して弾き飛ばされた。
「シシコ、戦闘不能!」
 ソウスケが右手を振り上げる。
「……わりいなシシコ、ゆっくり休めよ」
 足元に転がるシシコを抱き上げて、労う。戻す
「次はフシデ、お前が行け!」
 彼の二匹目はフシデ。頭部と尻から生えた触角は臙脂を基調としており、節で別れた太く短い身体は深緑色。どく・むしタイプの節足ポケモンだ。
 フシデは見た目の割に素早い、攻撃力もある為注意が必要だ。
「フシデ、どくづきだ!」
 来た、相手は四対の脚を高速で動かし駆けている。一度は掲げられた角を跳んで避けるが、何度も何度も迫ってくる。
「避けろ!」
 最初は余裕を持って回避出来ていたのが、今ではまさしく間一髪での回避となっている。しかしそれは疲労などが原因では決して無い。
 視認も困難な速度でフシデが真っ直ぐ駆け抜ける。そう、軌道こそ読みやすいが、その速度が問題なのだ。
 しかし何故……。最初は少し速い、くらいだったというのに徐々に速度が上がってきている……。
「これじゃあ、まるで『かそく』じゃないか……!」
 「かそく」特性の一つで、時間経過とともに素早さが上がっていく効果を持っている。主な所持者はテッカニンというポケモンなのだが……。
「そう、こいつの特性はかそくだ。ったく、おれも珍しいフシデを見つけたもんだぜ」
 聞いたことがある、通常のポケモンが持っている特性とは異なる、珍しい特性のことを。世間では「隠し特性」などと呼ばれ、それを持っているポケモンは貴重らしい。
 ……オレのヤヤコマの特性を図鑑で見てみたら、不明と書かれていた。隠れ特性の発見自体が数年前と比較的最近のことであり、未だその全てを把握出来てはいないらしい。
 まさか、オレのヤヤコマは……。……いや、今は目の前の戦いに集中だ。
「イーブイ、スピードスター!」
「おせーよ、どくづきだ!」
 イーブイが尻尾を立て、振りかざそうとした。しかし言葉の通り遅すぎた、尻尾を払う前にイーブイの横腹にフシデの角が突き刺さる。
「イーブイ?!」
 弾き飛ばされ、声を掛けるジュンヤの目の前に転がり込んだイーブイに声を掛けるが起き上がらない。だがそれもしかたあるまい、むしろこれまでの健闘を讃えるべきだろう。
「イーブイ、戦闘不能!」
「よくやったなイーブイ。ありがとう、後は任せてくれよ」
 彼を労いボールに戻しながらフシデを見る。……一瞬だが、まるでフシデは痛みを堪えるかのように表情を歪ませていた。
「……持ち物は、いのちのたまか」
 いのちのたま、それは技の威力が上昇する代わりに技を使えば自分も痛みを伴う持ち物だ。どくづきを使っていたのに反動ダメージを食らってしまった理由はそれしか考えられない、恐らくかそくと合わせて少しでも多くの敵を倒す為なのだろう。
「けど、なんだろうとこいつで射抜くだけさ。次はお前だ、ヤヤコマ!」
 こちらが出したのはヤヤコマ。勿論単純にタイプ相性で有利なのもあるが、それ以上にヤヤコマならば今のフシデをも追い抜けるはずだからだ。
「ヤヤコマ、つつく!」
「……なっ、はえぇ?!」
 ヤヤコマのひこう技は素早い、加速したフシデですら追い抜けない程に。その速度は、避けんと動き出していたフシデに容易く追い付いてみせた。
 それはレンジを心底驚愕させたが、さすがエリートを自称するだけはある、一呼吸で平静を取り戻した。
「位置は分かるな、どくづき!」
 ヤヤコマは背後から低空飛行で徐々に迫っている、尻の触角で感じ取った空気の流れと風切り音が教えてくれている。
「とうとう追い付かれた、今だ!」
「……ヤヤコマ?!」
 フシデは走りながら背後を振り返ることなく尻尾を振り下ろした、それはヤヤコマの頭を的確に捉える。
 ヤヤコマは地面を何度かバウンドした後、羽ばたいて再び飛翔した。
 相手は「いのちのたま」を持っている、ダメージは相当だったはずだがそれでも持ちこたえてくれたようだ。
「……っ、一撃じゃあ倒しきれなかったか」
 レンジが舌を鳴らす。
 ヤヤコマは再び矢となり射られた、しかし今度は先ほどと違い高度を上げている。
「いいぞ、つつくを決めろ!」
 平行に地と空とを駆る二匹の距離は縮まっていく。そして頃合いを見計らって急降下、見事走るフシデの背中を捉えた。
「だったらころがるで勝負だ!」
 相手は身体を丸めて、ひとりでに動くタイヤとなり地面を転がり始めた。ころがるは効果抜群の技、当たれば恐らくやられてしまうが……ならば、当たらなければよいだけだ。
 勢いを付けたフシデが跳ね、飛び込んでくる。
「……ここで避けたところで、状況は変わらない。ヤヤコマ、すれ違い様に横を蹴ってやれ!」
 対してヤヤコマも空を滑り、立ち向かう。そして二匹がいよいよ激突する、その直前にヤヤコマは横にずれてフシデの体側に蹴りを叩き込んだ。
 フシデは衝撃で軌道がずれ、またバランスを崩したことで無様に落下し仰向けに倒れてしまう。
「よし、つつくだヤヤコマ!」
 相手は腹を剥き出しにうごうごと脚を動かしている、だが一向に起き上がれないようだ。そこを逃さず狙い撃つ。
 腹にヤヤコマが刺さった瞬間フシデは一瞬のけぞったが、やがて脚を畳んで静止した。
「フシデ、戦闘不能!」
 レンジが何度呼び掛けても反応を示さない。その審判が下され、彼は労いながらフシデをボールに戻した。
「さあ、おれの三匹目を刮目しろ! こいつがおれの相棒だ、カモンココドラ!」
 ついにレンジの最後の一匹、現れたのはココドラだ。鋼の鎧に身を包んだポケモンで、顔や背中の一部が陥没している。背中には突起が一つあり、足は重たい身体を支えるには不釣り合いな小さい四足だ。
「ヤヤコマ、はがねのつばさ!」
 ヤヤコマが突撃する、ココドラは動かずそれを待つ。そして直撃した翼を顔面で受け止め、しかしびくとも動かない。
「やっぱり硬いな……!」
 ココドラははがねといわ、二つのタイプの複合だ。はがねのつばさの相性は悪くないはずだが、持ち前の硬さのおかげで傷一つを付けるのが精一杯だ。
「ココドラ、アイアンヘッドだ!」
 そして返しの一撃、すでに体力を殆ど削られていたヤヤコマに耐えられるはずが無い。ジュンヤの目の前に転がり込んできた彼は気絶してしまっている。
「ヤヤコマ、戦闘不能!」
 ヤヤコマまでもがやられてしまった……とはいえ、相手は苦手なタイプなのだ、しかたあるまい。それにかそくが厄介なフシデを見事撃破してくれたことを感謝しなければ。
「お疲れ様、必ず勝つからなヤヤコマ」
 ヤヤコマは赤い粒子となってモンスターボールに戻された。
「お前が相棒なら、オレだって相棒だ! 行くぞメェークル!」
 イーブイとヤヤコマの健闘を無駄にはしない、二匹の為にも必ず勝つ。投げたモンスターボールが割れ、光が溢れ出す。そしてそれは一匹の形を成して弾けた。
「行くぞメェークル、かわらわり!」
「迎え撃て、アイアンヘッド!」
 メェークルとココドラ、二匹が駆ける。
 二匹の蹄と頭とがぶつかり合い、しかしココドラは効果抜群の一撃にも怯まず鋼の頭で押し切りメェークルを打ち上げた。
「なんて力だ……!」
 これほどの威力、持ち物は自分の攻撃が大幅に上昇するこだわりハチマキだろう。いや、それより!
「メェークル、大丈夫か!?」
 慌てて声を駆ける。あまりの威力に彼は無抵抗に落下して地面に激突してしまったが、それでもすぐにたべのこしをかじりながら立ち上がってくれた。
 ……流石だなメェークル、あの威力の技を耐えてくれるなんて。とはいえお互い後が無い、次で勝負を決めなければ。
「無駄だ無駄、この勝負はもらったぜ!」
 勝った、そう確信を得て、余裕の生まれたレンジは得意な顔で腕を組んでいる。
「行くぞココドラ、もう一度アイアンヘッド!」
「メェークル、ギリギリまで引き付けろ!」
 相手は恐らくこだわりハチマキを持っている、正面衝突は危険だ。彼はその場で身を低くして構えた。
「まだだ、メェークル」
 相手は短い四足で駆けどんどん近付いてくるが、まだ足りない。そして徐々に互いの距離が縮まり、ついに目と鼻の先まで来た瞬間動き出す。
 ココドラが大きな頭を突き出した。
「メェークル、今だ。右に跳んでかわらわり!」
 対してこちらは右にステップを踏む。急に横移動した相手に、しかし瞬発力の低いココドラが今更対応出来るはずが無い。
 真横を通り過ぎるココドラに、メェークルは後ろ脚でかわらわりを決めた。
「……よし」
 どうやらココドラはバランスを崩したようだ、横に倒れて重たい音が鳴った。
 レンジが必死に呼び掛けるが、ココドラはまるで銅像のように倒れた姿のまま動かない。
「……ココドラ、戦闘不能! よって勝者、ラルドタウンのジュンヤ!」
「……へへ、やったぜメェークル!」
 負けなくて、本当に良かった……! 思わず駆け寄り相棒を抱き締めた。
「どうだ、これでもまだ弱そうって言えるのか!」
 戦う前に言われたその言葉、これでメェークル達の顔に泥を塗らずに済んだ……!
「……ウソだろ、このおれが、こんな弱そうなやつに負けるなんて……」
 ジュンヤの言葉を受けてかは知らないが、レンジはココドラをボールに戻して呆然としている。
「お前なあ、まだそんなこと……」
「井の中の蛙大海を知らず、ということが分かって良かったじゃないか」
「……うるせえ!」
「え」
 ……ソウスケとしては、今のは悪意があって言ったことでは無いのだろう。だが馬鹿にされたと捉えた彼は怒りで顔を紅潮させながら叫んだ。
「……いいか、次は絶対負けないからな! ヒーローは最後に必ず勝つんだ、覚えとけよ!」
 そしてそう捨て台詞を吐いて、走り去ってしまった……。
「……ヒーロー?」
 なんだあいつ、ヒーロー物好きなのか? 最後の言葉はよく分からなかったが、オレ達はポケモンセンターに戻ることにした。

せろん ( 2015/03/11(水) 23:51 )