ポケットモンスターインフィニティ

















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第二章 迫り来る脅威
第08話 エイヘイの歴史
 ブラドスシティの図書館。このエイヘイ地方の中でも随一の蔵書を誇り、様々な地域や地方に伝わる創世の伝承から、現在に至るまでのあらゆる歴史を納めていると言われている。
 故に汗牛充棟のこの建物に訪れる者は数多く、著名な知識人や学会で権威を持つ人物すらも呼び寄せる程だ。

「……エイヘイの歴史 〜古代の戦争編〜、か」

 日当たりの良い位置に備えられた楕円の長机。ジュンヤ、ノドカ、ソウスケは、三人並んで座って自分の手に取った本を読み耽っていた。
 ジュンヤが気になり、手に取ったのは分厚い本だ。表紙には淡い色彩で荒野が描かれ、中央には大木が鎮座している。
 そして読む前に気になったことが、一つ。その大木は、先端から燃え盛る炎を発しているのだ。
 この絵の意味は分からないが、下手に考えるよりも、自分で確かめた方が良いだろう。
 挿し絵を途中途中に挟んでくれるおかげで、読む上で情景を想像する助けになる。そうして所々ページを飛ばしながら、読んだ話を纏めるとこうだ。

 かつて名も無き地方で、大規模な戦争があった。その戦火は地方全土を巻き込み、大地は活力を失い、ありとあらゆる生命が失われていった。
 この戦争を、一秒でも早く終わらせなければ。この地方の、全ての命を飲み込んでしまう前に。
 一人の男が立ち上がった。仲間達と共に、一つの兵器を携えて。
 男は生き残っていた生命を避難させ、仲間と共に、命と引き換えに兵器を起動させた。
 ……挿し絵には、表紙と同じ、大木の枝から燃え盛る炎が放たれた図が描かれている。
 その兵器はこの名も無き地方を焦土に変えることで争乱を終結へと導き、やがて長い時を経て生命が芽生え、そして新しい世界が築き上げられた……、らしい。

「……もう二度と、こんなことが起こってはいけない」
「そんな望みを、永久なる平和を願って、この土地に『エイヘイ』という名が付けられた」

 ジュンヤが呟いた文章の続きを、何者かが読み上げた。
 ぎょっと心臓を鷲掴みにされたような驚きを抱えて振り返ると、一人の青年が「やあ」と、軽く手を振っていた。
 中世貴族のような服装の上に黒いマントを羽織っており、群青に染まった髪を後ろに流している。
 その姿には、見覚えがあった。たまにジュンヤ達の故郷、ラルドタウンを訪れる青年で、

「あなたは……」

 現在、このエイヘイ地方に於いて最強と謳われるドラゴン使い。

「やあ、久しぶりだねみんな」

 青年は、腕を組んで威風堂々と構えている。

「スタンさん……」

 今の地位に就任以来、不敗の男。それが彼、チャンピオンのスタンだ。



「スタンさん、ローベルト博士、今日はどうしたんですか」

 場所を移してポケモンセンター。いくら顔見知りの相手とはいえ、相手はチャンピオン。そんな人物と旅先で偶然出会ったことにも驚かされたが、彼と博士が一緒に居ることにも驚いた。何故二人が一緒に居るのか、尋ねると、彼は「これだよ」と一冊の本を差し出した。
 ……それは、十三年前のある事故に関連する資料だった。

 かつて、人々の生活をより良くする為に生体エネルギーの開発と利用の研究をするある組織があった。
 「Pr.リュウザキ」、本名「リュウザキ ミツノブ」。彼を主任として研究は進められていたが、彼を始めとする研究員達は、十三年前に突如巻き起こった大規模な爆発事故により死亡。研究施設自体も跡形も無く焼け尽きてしまったらしい。
 未だ行方が不明の者も居るようだが、今更になって生還する可能性は限りなくゼロに近いだろう。そして何故か事故がメディアに昇ることは殆ど無く、人々の間ではしばらく水面下で騒がれた後風化されることとなった。
 この事件は、世間では主任であるPr.リュウザキが暴走した結果起こってしまった事故と囁かれている。故に彼は現在マッドサイエンティストと呼ばれ、カルト的な人気を得てオカルト雑誌などでは生存説が流れる程だ。

 ……そんな旨の説明を、ローベルト博士が説明してくれた。要約すると、リュウザキという男による暴走の結果引き起こされた爆発事故らしい。

「……どうして、スタンさんはそんな昔の事故の資料を?」

 彼がその事故についての資料を見る理由を知ってどうする、ということに気付いたのはそれを言ってからだ。親類がその事故に、という可能性も考えられる、今更になって取り返しのつかないことを言ったのではないかという思いに駆られた。

「……ああ、それは」

 困惑を浮かべるジュンヤ達に、スタンが神妙な面持ちを近づける。

「……実は、ヴィクトルさんも十三年前事故を起こしてしまったある組織の研究員だったんだ」

 「ヴィクトル」先代チャンピオンであり、スタンのポケモンバトルの師でもあった男の名だ。
 彼は悲痛を必死に押し殺すように顔をしかめながら、語り出す。

「ヴィクトルさんは、まだ行方が不明なだけだ。あの人は強い、きっとまだどこかで生きている筈……」

 そう独り言のように呟く彼は、まるで風前の灯火に縋るような儚さで、……本当に生きていると心から信じている風には見えなかった。

「だ、だいじょうぶですよ! 絶対にヴィクトルさんは生きてます!」
「……はは、ありがとうノドカちゃん」

 彼女の励ましに、笑うスタンには力が感じられないのは恐らく気のせいでは無いだろう。

「ヴィクトルはある日突然チャンピオンの座を退き、世間からは隔絶して研究の世界に身を置いた。そしてその数年後、つまり十三年前の事故で、行方不明になった。
 スタンはヴィクトルの弟子だった、誰よりも強いあいつのことを知っている分、どうしても諦めがつかないのだろう」

 ローベルト博士が、スタンの肩に手を起きながら語った。

「……近年、少し不穏な気配を感じているんだ。その調査と平行して、未だ謎が多いあの事故についても調べているんだよ」

 ……彼はヴィクトルさんの行方を知る為に、調べているのだろう。その事故を解き明かせば、もしかしたら分かるのではないかと。生きている可能性が限りなく低いのは理解しているが、それでも諦めきれずに半信半疑を抱えている。そしてどんな真実にぶつかったとしても、生死をハッキリさせたいと。

「……不穏な気配って?」

 ……だが、そこには踏み込まずに話を続ける。

「いずれ君達も出会うかもしれないが、近年各地で騒ぎを起こして世間を騒がしている集団のことさ」

 それは、自分達も噂だけなら聞いたことがある。

「確か人のポケモンを奪う悪の集団、でしたっけ」

 なんでも輪の描かれた制服を着ており、悪事を働くということを聞いたことがある。

「ああ、自らを『オルビス団』と名乗る怪しげな輩さ。噂話ではあるけど、様々な場所で同時期に同じような証言が出始めたんだ、見過ごすわけにもいくまいよ」
「……さすがですね」

 さすがはチャンピオンだ。人々を守る為に、危険な芽を少しでも早く摘み取る為に尽力しているとは。
 自分も見習わなければ。そしてきっと、

「オレも、スタンさんみたいな立派なチャンピオンになりたいです。……いや、なってみせます!」
「あっ、抜け駆けはずるいよ。僕も必ずチャンピオンになります!」

 オレとソウスケがそう叫ぶと、スタンさんは面食らったように目を瞬かせた。……さすがに唐突過ぎたかな、と自省していると、オレ達はくしゃりと頭を撫でられた。

「……君達なら、きっとなれるよ。おれなんかよりずっと立派で、ずっと強い。みんなを守れる、優しいチャンピオンに」
「そ、そんな……!」

 その言葉が嬉しくて、思わず口元を綻ばせながら見上げると、……何故だかスタンさんは、遠い目でオレ達のことを見つめていた。

「……スタンさん?」
「……え? あ、はは、なんだか懐かしいなって思ったんだ……」

 呼びかけると、彼は素っ頓狂な声を漏らしてから笑った。

「おれも昔は、みんなみたいに純粋に夢を追ってたな……って」

 ……どうしてだろう。その言葉が、なんとなく引っかかった。

「……そしてチャンピオンになったんですよね、すごいですよ」

 だけど、違和感の正体が分からない。それでも自分で彼を褒めながらも、やはりなんだか気になった。

「そんなことは無いよ。……そろそろ行きましょう、博士」

 スタンがおもむろに立ち上がり、ローベルトも頷きそれに続いた。
 それを見送ってから、ノドカ達と顔を見合わせる。

「オレ達もがんばらないとな!」
「ああ、なんたってチャンピオンにあんなことを言われたんだからね!」
「ふふ、二人とも応援してるよ」

 頷き合うオレとソウスケに、ノドカが微笑みかけた。

「ありがとな、ノドカも一緒に頑張ろうぜ!」
「うーん……うん!」
「なんだよ、その微妙な返事」

 ま、いいや。

「じゃあ早速特訓だ、行くぜメェークル!」

 ポケモンセンターを飛び出して、相棒に跨がった。そしてノドカの困惑とソウスケの追随を背に、オレとメェークルは駆け出した。

■筆者メッセージ
色々設定出してすみません。後昔話はエックスワイの話のパクリ……じゃないですよ、本当ですよ
せろん ( 2015/02/27(金) 19:53 )