第05話 二人も捕獲
ネフラシティを西に進んだ、202番道路。ソウスケはそこで、必死に草むらを掻き分けていた。
「あのポケモンはダルマッカと相性良くなさそうだし、あっちは上手く弱点を補えるけど気が合わなそうだ……」
彼は今、自分の二匹目となるポケモンを探している。理由は……。
『頼む、ソウスケ! オレは強くならなきゃいけないんだ……。だから、オレとバトルしてくれ!』
そう、幼馴染みの彼に頼まれたからだ。しかしジュンヤのメェークルと自分のダルマッカはこれまで何度も戦ってきた、ただの一対一では今までと変わらないだろう。
そこで、ルールを変えることにした。ジュンヤは既に手持ちは二匹だ、二対二で戦おう、とソウスケから提案したのだ。
ジム戦に望む際にも新たな手持ちは必要になってくる、これもちょうどいい機会だ。
とはいえ……。
「僕は一人、彼らは二人か……」
ジム戦に挑むのは僕とジュンヤだけでは無い、ノドカもだ。彼女も新たなポケモンが必要になってくる。
ジュンヤはノドカが上手く捕まえられるか心配だから、と彼女と共に行ってしまい、こうして一人で探すことになった。
「ま、構わないけどね」
二人の仲の良さはよく知っているし、お互い心配し合っているのも分かる。それにまた後で合流するのだから。
気を入れ直して、辺りを見回す。しかしダルマッカに合う良いポケモンが見つからない。
「ん、どうかしたかい?」
腰に手を当てそれでも頭を動かして探していたら、ズボンの裾が引っ張られた。足元を見ると、相棒のダルマッカが慌てた様子で背後を指差している。
「ああ、ポケモンを探しているんだね。どれどれ」
彼の指し示す先には、確かに一匹のポケモンが居た。
クリーム色をしたふさふさの毛に顔を覆われた、愛らしい顔の子犬。
「ヨーテリー。こいぬポケモン。
勇猛なポケモンだが相手の強さを確かめて戦いを避ける賢さも併せ持つ」
相棒は、どうかな、と期待に目を輝かせて見上げてきている。
「そうだね。せっかく君が見つけてくれたんだ、捕まえようか」
相性の補完という面では良いと言えない。だが、せっかくダルマッカが見つけたのだ、好意を無駄にはしたくない。
「頼むよ、ダルマッカ」
と言うと、彼は元気に飛び出した。
「まずは、そうだね、ほのおのパンチだ!」
先手必勝、それがソウスケとダルマッカの戦法だ。しかしヨーテリーも負けじと攻めてくる。
ダルマッカが拳を振り上げたが、それを下ろすよりも先に突撃を決めてきた。
どうやら、ヨーテリーの方が素早いようだ。ならば……。
「ニトロチャージだ!」
ニトロチャージは、自分の素早さを上げる効果を持っている。そう、素早さで劣っているなら自分で上げれば良いのだ。
……それに、ダルマッカはあまり打たれ強くは無い。やられる前にやる、だからこその先手必勝の戦法なのだ。
炎を纏って突進して、更に素早さを上昇させる。
「続けてほのおのパンチ!」
そして再び攻めに入る。ヨーテリーが今度は牙を立て飛びかかって来るが、構わず接近して腹に燃える拳を叩き込む。
「行くんだ、モンスターボール!」
打ち上げられたヨーテリーに、追い打ちのように赤いボールを投げつけた。それは空中に投げ出されていて身動きの取れない為にしっかりと命中させられた。
赤い閃光がヨーテリーを飲み込み、モンスターボールの中へと収まった。
ボールが三度揺れ、ヨーテリーが飛び出ること無く無事捕まえられた。
「うん、ヨーテリーを捕まえたぞ。やったな、ダルマッカ」
こうして無事二匹目を手に入れられた。
一方、こちらはノドカサイド。
「いくよ〜! えいっ!」
「わあ、ノドカストップ!」
ノドカの投げたモンスターボールはようやく運良く命中させられることが出来たが、ジュンヤはそれを制止しようとしていた。
え、と困惑気味に振り返る彼女の後ろでボールが無残に爆散してしまい、ジグザグマに逃げられてしまった。
「……そうなんだ、難しいんだね」
ノドカはどうやらバトルに関してはそこそこ知っていても、捕獲についてはあまり知らないようだ。なので体力を減らさなければ捕まえにくい、と説明すると彼女は素直に頷いた。
「ああ、だから慎重にな」
「うん! ……がんばる!」
……ノドカ、張り切ってるな。空回りしないといいけど。
ノドカが失敗したらフォローしないと、とジュンヤは足元のメェークルと顔を見合わせ意気込んでいた。
……そしてしばらく捜索していると、また一匹のポケモンが見つかった。
「見て、あのポケモンすごくかわいい!」
彼女が指差す先には、可愛らしい一輪の花に掴まった小さなポケモンが漂っていた。
「あれはフラベベだな。ほらノドカ、ポケモン図鑑」
「あ、うん。……あれ、あれ? ……あ、あった!」
気付かれないように草むらの中から様子を窺いながら、彼女にポケモン図鑑の使用を催促する。彼女は多少もたついてはいたが、なんとか鞄から引っ張り出すことが出来た。
「花の秘めた力を引き出して自在に操る。フラベベが持つ花はもはや体の一部だ」
翳した図鑑から発せられた、抑揚の無い女性的な音声が説明を読み上げる。そしてそれが終わると、例のごとく鞄に戻した。
「ちなみにもし捕まえるなら、フラベベは気に入った花を見つけると一生その花と暮らすらしいから、間違っても花と切り離しちゃいけないぜ」
「分かった、がんばって捕まえるよ! じゃあお願いね、コアルヒー」
モンスターボールから、赤い光が放たれる。そして今からポケモンを捕まえようと言うのに、そんなこととはお構いなしに、呑気に鳴き声を上げながら一匹の水鳥が現れた。
思わず、あ、と声が漏れる。コアルヒーの声でフラベベがこちらの存在に気付いたらしく、こちらに向けて威嚇の眼光を送ってきた。
不意打ちは失敗してしまったが、しかたない。よし、と気合いを入れ直してノドカ達は真正面からそれに向かい合う。
「フラベベは多分くさタイプだから……」
まずはどう攻めようか、ノドカは口元に手を当て考え……。
「ってちょっと待てノドカ、フラベベはくさタイプじゃなくてフェアリータイプだ」
まず前提が間違っている為、慌ててその言葉に訂正を入れる。
「ええ、うそ? あんなにくさタイプしてるのに」
「確かに下手なくさタイプよりくさタイプしてるけど、フェアリータイプなんだ」
「そうなんだあ……。……そっかあ」
ノドカは自分の言葉を疑うこと無く聞き入れてくれた。そして彼女はなら! と迷いなど晴れたかのように叫んだ。
「コアルヒー、ぼうふう!」
その指示を受けコアルヒーが地を蹴り、勢い良く飛び上がった。そして頭上で滞空しながら、全力で翼を羽ばたかせる。
コアルヒーの巻き起こした風は辺りの草花を勢い良く薙ぎ倒し、そのままフラベベをも巻き込……まなかった。どうやら攻撃は外れたようだ。
フラベベは驚いたように辺りを見回しているが、本体は少し風に揺られる程度の影響を受けているだけだ。だが自分に大した影響が無い、と分かったらしく口から紫色の毒々しい液体を飛ばしてきた。
「コアルヒー!?」
「今のはどくどくだ。ノドカ、早く捕まえてバトルを終わらせるんだ!」
どくどく。相手を猛毒状態に変える技で、時間が立てば立つほどその侵蝕は酷くなっていく。
「分かった! コアルヒー、あまごい!」
コアルヒーが瞼を引き結びながら、天に向かって首を伸ばした。すると突然、頬に冷たい粒が滴った。
見上げれば、頭上では黒い雲が集まっている。それも自分達の頭上のみというかなり局所的な雨雲だ。それがこの技、あまごいの効果だ。
どんどん雨粒は勢いを増し、気付けば立派な大雨をコアルヒー達の下へと降らせていた。
「続けてなみのり!」
ノドカは自分が濡れるのも構わずに指示を出した。そしてそれを受け彼女が大きく翼を広げると、足元から間欠泉のごとく水が吹き出し高波となってフラベベへと襲いかかる。
その大規模な攻撃から逃れる術を相手は持ち合わせていないようだ。目を見開きながら飲み込まれていった。
……少しして水が引くと、フラベベがふらふらと不安定に揺れながら起き上がってきた。
よほどダメージが大きいらしい。しかしそれもそうだ、コアルヒーが降らせた雨の効果でみずタイプの技、つまりなみのりの威力は上昇していたのだから。
「今だ、ノドカ!」
「うん! お願い、モンスターボール!」
……雨の中で手が滑ってしまったのだろうか、それとも単なるノーコンを発揮しただけか。ノドカの投げたボールはフラベベの真上を通り過ぎてしまいそうになっていた。
「まずい、メェークル!」
ジュンヤが角を掴んでいたからだろうか。言うが早いかメェークルが急いで蔓を伸ばして、空振りかけたモンスターボールを弾き軌道修正を加えることで、無事フラベベに命中させられた。
色の境界で割れた球から走る閃光がフラベベを飲み込み、再び球体へと形を戻した。
落下した球は一度揺れ、二度揺れる。
「お願い……!」
そして三度と揺れ……カチッと音が鳴って、それは収まった。
「やった、フラベベをゲットしたよ!」
一応ずっと考えていた決めゼリフを言ってから慌ててフラベベのボールを拾い上げ、コアルヒーに駆け寄る。
「大丈夫、コアルヒー? 今元気にしてあげるからね」
ノドカは先ほどとは違い、迷うこと無く霧吹き型のどくけしを取り出して、苦しんでいるコアルヒーへと吹きかけた。するとみるみるうちに苦悶が引いていき、すぐに元気を取り戻してくれた。
「よし、じゃあ……」
「うん、早くソウスケと合流してフラベベも回復してあげないとね」
コアルヒーはすっかり元気に足元を跳ね回っている。
だな、と相づちを打ってから彼女にタオルを渡して、二人と二匹で歩き出した。
……ノドカに失礼だとは思うがどくけしを早く取り出せた理由を尋ねると、回復系だけは大事だからしっかりと分けているらしい。
それ以外も分けろよ、と思わなくも無かったが、感心したので何も言わないことにした。