第02話 最初の遭遇、捕獲完了
エイヘイ地方は形で言うと円に近いだろう。中央には険しい山々が連なっており、人々はその山を囲んでいるので、街や道路もまるで円を描くかのように築き上げられているのだ。
よって、当然ではあるが旅人達も円を描くようにこの地方を回ることとなる。
ジュンヤ達の故郷ラルドタウンはエイヘイ地方の東南端に存在し、街々が造り上げる輪からは外れた場所に位置している。
そして次の街がネフラシティ、ラルドタウンを北上した先にあり、ここから街々の輪に入るのだ。
今三人が立っているのは、その二つの街を繋ぐ201番道路。
草むらが膝丈程の高さで生い茂り、眼前に広がっている。
「頼むぞ」
その中に入ると、世界は一変する。突如として襲い掛かる野生のポケモン、それにいつでも対抗出来るよう、相棒をボールから解き放っておく。
現れたメェークルは、自分を包む赤い光を振り払うように首を振り、見上げてきた。
「じゃあ行こうか、ノドカ、ソウスケ」
隣で相棒を従える二人と合図を取り、メェークルの角を握る。
メェークルは角を握られることで、その相手の力み具合から気持ちが分かるという。そして進化するとその精密性も大幅に上昇し、僅かな違いから相手の気持ちを読み取り一体となれるらしい。
ジュンヤが少し強めに角を握り、伝えたのは警戒の気持ち。メェークルもそれを理解して、周囲の音が良く聞こえるように耳を立てた。
そして一斉に草むらに足を踏み入れる。
しばらくは何も起こらないまま進み、拍子抜けしなくもなかったが気が緩み始め、全身を包む緊張感はすぐにほどけて消えてしまっていた。
いつの間にか三人は談笑を始め、すっかりくつろぎムードになってしまっていた。
だが、忘れてはならない、彼らがまだ草むらの中を歩いていることを。野生のポケモン達は、思わぬタイミングで飛び出してくる。
「それでさ、ノドカ。……っ!?」
話題を更に盛り上がらせる為話の種を投入しようとしていたところで、突如メェークルが動いた。
「どうしたメェークル!?」
慌てた様子で振り返り、見上げる相棒。三人も同様に焦りを表しながらその視線の先を見ると、一羽の鳥が羽撃たいていた。
「あのポケモンは……」
赤い頭部に灰色の翼、矢羽に似た黒い尾羽。つぶらな瞳で見下ろしてくる一匹の小柄な鳥ポケモンに、ジュンヤがポケモン図鑑をかざした。
「ヤヤコマ。コマドリポケモン。
人懐っこい性格。美しいさえずりと尾羽を振る動きで仲間に合図を送る」
機械音声が説明を読み上げ、聞き終えるとポケットにしまった。
ヤヤコマ。そのポケモンはまるで弾き出された矢の如く、一直線にメェークルを狙っていた。
「……っ! メェークル、まもる!」
その指示を受けたメェークルが構えると、まるで自身を守る盾のように光の円盤が展開する。それは敵の突撃を難なく弾いて、粒子となって散っていった。
なんて速さだ。予想外のスピードに一瞬間反応が遅れてしまったが、防御は間一髪間に合った。
「やるな……。気を付けるぞ、メェークル」
その速度は、元来ヤヤコマという種族の持つスピードを遥かに上回っているように思えた。
このヤヤコマ、ただのヤヤコマでは無い。相性の不利もある、野生とはいえ気を抜いていては倒されてしまうだろう。
「行くぞメェークル、まずはエナジーボールだ!」
その指示でメェークルが口を開ける。するとそこから、自然を連想させる深緑の輝きを帯びた光球が放たれた。
だが相手も素早く、……とは言っても先ほどに比べると遅いが、旋回して避け、翼を広げながら向かって来た。
「つるで掴め!」
恐らく「はがねのつばさ」という技だろう。しかしこちらもそう簡単には食らうわけにはいかない。メェークルの首に生い茂る葉の中から伸びた蔓が敵の翼に巻きつき、その動きを止めた。
「引き寄せてかわらわりだ!」
蔓をどんどん手繰り寄せ、目の前で暴れるヤヤコマに蹄を打ち下ろした。
無論相手は逃れる術が無い、直撃して飛ばされてしまう。
「よし」
攻撃を上手く当てられたことに一喜するが、相手は今の一撃で闘争心に火が点いたらしい。先ほどの倍以上の速度で突撃し、
「もう一度つるで捕まえてくれ!」
と伸ばした蔓を、錐揉み回転で弾きながら、目にも留まらぬ速さで眼前に迫る。
「つつく、だけど、それにしては速度が……」
「あっ、危ないよジュンヤ!」
冷静に相手の分析をするソウスケの隣でノドカが叫ぶが、ジュンヤは焦りを見せていない。
「……確かに、さっきとは比べものにならないくらい速い。だけど、問題無いさ。まもる!」
直撃する、ノドカがそう思った瞬間メェークルの前に光の盾が現れ、攻撃をした筈のヤヤコマが弾かれていた。
まもる、それがその技の効果だ。例えどんな技でも防ぎ、守る盾。
「今だ、リーフブレード!」
弾かれて無様に放物線を描くヤヤコマに、メェークルが跳躍後間もなく追いついた。
そして角から伸びた光の剣を振り下ろし、一閃。ヤヤコマは地に叩きつけられてしまう。
「今だ、モンスターボール!」
体力もすっかり削られていることだろう、起き上がるのに手間取っていた。ジュンヤはその隙を逃さない。
腰に装備されたモンスターボールを手に取り、ヤヤコマ目掛けて勢い良く投じた。紅白球は対象に命中した瞬間境界で二つに割れ、中から赤い閃光が迸る。
光はヤヤコマを飲み込み、再び元の球体に姿を戻した。
「どうだ……?」
ボールが一度、二度、と大きく揺れる。しかしジュンヤ達は固唾を飲んで見守り続ける。
そして張り詰める緊張の中三度目の揺れが起こり、カチリ、という音が鳴って動きが止まった。
それに歩み寄り、拾い上げる。
「よし。ヤヤコマ、捕獲完了!」
高々と掲げた腕の先で、紅白の球が真夏の太陽光線を浴びて輝いた。
足元で嬉しそうに小躍りするメェークルと共に、ジュンヤも威勢良く叫んだ。
旅に出て、数十分。ジュンヤ初のポケモンゲットが完了し、これで仲間が二匹に増えた。