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第十五章 闇を裂く星辰
第133話 彼方に奔る兆し
 断ち切れぬ因縁を辿り歩み続けたその先に、とうとう世界を賭けて結着を付ける刻が訪れた。数え切れない戦禍に自ら身を擲ち、あらゆる修羅場を踏み越えてきた少年が漸く追い続けて来た仇敵と真正面から相対する。
 臙脂のチェスターコートを羽織り、外に跳ねた黒髪。利剣の如く研ぎ澄まされた鋭利な眼差しで、翳ること無き惑わぬ意志を瞳に宿す彼の名はツルギ。
 十三年前オルビス団によって悉くを奪われてなお不屈の意志で這い上がり、ようやく此処まで辿り着いた。真紅に煌めくカプセル“モンスターボール”を手に決戦に臨み、対峙する青年を睥睨した。

「相手は最高幹部だ、多少の劣勢など想定している。此処から巻き返せばいい──未来は俺が切り開く」
「生憎私達にも譲れぬ願いがあるのでね。ヴィクトル様が描いた理想へ辿り着くその瞬間まで、勝利を重ね続けると……そう誓ったのさ」

 視線の先に立つのは菫色の艶やかな長髪、黒いハイネックに菖蒲のトレンチコートを羽織ったオルビス団最高幹部──かつてツルギから全てを奪った虐殺者のエドガーだ。
 切長の柔和な眼差し、擦硝子の瞳を以て突き付けられた敵意を真正面から受け止めて、黒に金色の紋様が刻まれた“ハイパーボール”を掴み取り眼前に構える。

「……答えろ。そうまでして、何故貴様は奴に従っている?」
「そうです、エドガーさん……ほんとはこんなこと、したくない、はずです! それなのに……」

 エドガーの悪逆は同じ志で未来を夢見た同胞の虐殺に始まって、数え切れない繋がりを引き裂き圧倒的な強さを以て君臨することでこのエイヘイ地方に混沌と絶望を齎した。
 いくらヴィクトルがかつて英雄と呼ばれ枚挙に暇がない程の功績を残した男であれど、彼が理由も無く恭順を誓い、心が磨り潰されてしまう程に罪を重ね続けるとは思えない。
 苛立ちを露わにツルギが眉間に皺寄せて、隣に立つサヤも瞳に惑いを浮かべながら問い掛ければ……エドガーは、苦笑を浮かべながら半ば独りごちるように口を開いた。

「闇に呑まれて薄れゆく星に、光を取り戻した少女が居たように。虚飾で彩られた空の器に水を注いだ者が居た──ただ、それだけのことさ」
「だから退けない、か……全く、鬱陶しい」

 最高幹部が心に掲げた不毀の忠節は少女の切なる糾弾など意にも介さない。その眼差しは遥か何処の追憶を望み、擦硝子の瞳に暗き黄昏を映してそう答えた。
 ──彼がどんな過去を辿って来たかなど測り得ない。それでもひとつ明確なのは、相容れぬ線上に立っているということだ。
 ならば己を縛る過去など切り伏せて、幾多の悲劇の根源を断つ。舌を鳴らして吐き捨てたツルギは握り締めた紅白球を胸元へ翳した。

「信じてます、ツルギなら……きっと、勝てるって!」

 勝負は生まれ持つポテンシャルを活かしたカビゴンの猛威に始まり、最高幹部エドガーの優勢に動き出した。強大な宿敵を前にしたツルギは、それでも逃げてゆく微かな光を掴み取る為に変わらぬ覚悟で食らい付いていく。
 どんな絶望的な状況だろうと必ずその先に道を切り拓いて来た彼であれば。その積み重ねを傍で見つめ続けて来たサヤならば、根拠が無くとも心からそう信じられる。

「奴はそう易々と崩せる敵じゃあない。次はお前だローブシン、戦局を変えるぞ!」

 そして、暫時の張り詰めた静寂が少年により破られる。紅白球を投擲すれば色の境界から二つに割れて、内より迸る紅き閃光を払い勇士の影が顕現した。
 極限まで研ぎ澄まされた鋼の肉体、丸い赤鼻で白髭を蓄え、頭には髪を束にまとめたような突起が飛び出た老翁。肥大した剛腕で身の丈程に大きなコンクリート柱を握り締め、腰を低く佇むのは“きんこつポケモン”ローブシンだ。

「彼は此処まで攻勢虚しく攻めあぐねている、そろそろ切り込んで来るだろう。だから君にお願いしよう、任せたよカイリキー」

 同じくバトルフィールドに躍り出た黒金の球から溢れ出した赤光が宙を裂き、荒れ果てた場にエドガーの後続が解き放たれる。
 受けて立つのは全身が筋肉の塊であり、同じく鍛え上げられた鋼鉄の肉体。分厚い唇で股間部は黒い模様に覆われていて、ただでさえ脅威的な格闘性能を底上げする逞しい四臂を備えている。
 腰に巻かれた有り余るパワーを制御するベルトが照明を浴びて金に輝き、確かに地を踏み締めれば彼岸に立つ老翁を睨み付けた。
 この世の総ての格闘技を極めたと言われ、発達した四本の腕は攻めも守りも自在にこなす。二秒に千発ものパンチを繰り出すことが出来る“かいりきポケモン”のカイリキー。

「成る程、良いポケモンを選んだようだね。私のカイリキーを満たすに相応しい鍛え上げられた肉体だよ」
「貴様らの下らん自己満足になど興味ない。此処で後顧の憂いを断つ」

 先刻まで繰り広げられた激しい攻防によって焦土と化した戦場を躊躇うことなく踏み締めた二匹は、これから織り成される闘争の愉悦に血湧き肉躍り快い緊張が肌を刺す。
 対峙する二匹が雄々しく勇壮なる咆哮を響かせて、大地を踏み締めると腰を低く落として睨み合う。

「かくとう対決……でもツルギ、だいじょうぶ、ですか?」

 闘志が鬩ぐその傍ら──ツルギの背後で見守るサヤは、瞳に僅かな不安を浮かべていた。
 無論少女の憂いも当然だ。エドガーが先鋒として選出したカビゴンは存分に猛威を揮ってみせたが、あの巨漢に有利な相性で立ち回れるのはツルギの手持ちにおいてローブシンだけなのだから。

「……何よりも面倒なのは不確定要素だ。手段を選んでいられる余裕はない」

 サヤが危惧を浮かべる通り、願わくばローブシンはカビゴンを討つ為に温存しておきたかったが背に腹は変えられない。
 カイリキーはその並外れた攻撃と優秀な技の範囲から受け出しが難しい。更に特性“ノーガード”によってどんなに命中率の低い技でさえ互いに必中となってしまう。
 ここで退けば最高幹部も次手に移る、再度好機が訪れるという保証は何処にも無いのだ。

「そう……ですね。たしかにカイリキーも、すっごく手ごわいポケモン、です」

 そして十中八九『ばくれつパンチ』──『れんごく』や『でんじほう』に並ぶ、不安定な命中率と引き換えに当たれば一発で状況を覆すかくとうタイプの大技を覚えている筈だ。
 手持ちにそれを透かせるのはギルガルドしか居ない。城砦の如く立ち塞がるカビゴンを討つことも重要だが、ともすれば何よりも厄介な一発逆転という不安の芽は早々に摘み取らなければならない。

「攻め込むぞローブシン、マッハパンチ!」
「バレットパンチで迎撃しよう、カイリキー」

 互いの隙を伺うローブシンとカイリキーは用心深く身構えて、無風の戦場に暫時の静寂が流れていく。
 このままでは埒が明かない。腹を括って切り掛かるツルギに泰然と待ち受けるエドガーも応え、二匹が地を蹴り付けて跡には砂塵が舞い上がる。
 ローブシンが繰り出したのは音にさえ追い付く文字通りマッハの鉄拳、真正面から応えるカイリキーが放つは弾丸という技の名さえ見劣りしてしまう程に疾すぎる音速の剛拳。
 両手に握り締めたコンクリートを置き去りにした老翁と四腕の格闘士が広大なフィールドを駆け抜けて、その中心で二つの技がぶつかり合えばけたたましい衝突音が響き渡る。

「ツルギ、ローブシン。がんばって……ください」

 二秒で千をも越える凄烈なる打撃の応酬はお互いに譲ることなく重なり合う。
 めまぐるしく織り成される二匹の攻防に終ぞ優劣が付けられることはなく、両者の顔面に殴打が炸裂してどちらともなく飛び退った。

「ならばこれはどうかな。いわなだれだカイリキー!」

 息付く暇など与えない、カイリキーが四腕を振り上げれば頭上に無数の巨礫が顕現する。
 まるで空が崩れ落ちたかのように天上に浮かぶ無数の岩石──本来は自由落下に身を委ねる筈の全てが、カイリキーの特性“ノーガード”により老翁へ狙いを定めて敵を討たんと降り注いでいく。

「この程度擦り傷にすらならん、受け止めろ!」
「流石に容易くは崩せないようだね。では接近戦に持ち込ませてもらおう!」

 だが雪崩の如き巨岩の空襲など、自らの肉体と技量を極限まで磨き上げたローブシンに捌けぬ技ではない。
 拾い上げたコンクリート柱を頭上に構えてその悉くを受け止め、砕き、捌き切ると再度柱を足元へと投げ捨てて、瞬きの刹那に距離を詰め眼前へ躍り出て来たカイリキーへと拳骨を握り締めて迎撃する。

「カイリキー、グロウパンチ!」
「お前もグロウパンチだローブシン!」

 “グロウパンチ”は攻撃と自己強化を兼ねる優秀な技だ。撞き出された拳は繰り返し殴り付けることで鍛え上げられた鋼のように硬くなり、打ち込む度に段階的に力を上昇させていく追加効果を備えている。
 二匹の距離は目と鼻の先。愉悦に昂る勇壮なる瞳と老いてなお眼窩の奥に宿る歓喜が殴打の狭間に交錯した。

「さて、これならどうかな。ばくれつパンチ!」
「受け止めろローブシン、アームハンマー!」

 四本の腕が抑え切れぬ昂りに火花を散らしながらほとんど同時に放たれて、迎え撃つ老翁が掌を組んで鉄槌と為すと剛強たる大技が真正面から激突した。
 あまりの衝撃に風圧で砂塵が舞い上がり、敵を穿たんと相打つ四腕と鉄槌が譲ることなく拮抗する。哄笑を響かせ激しく鎬を削る二匹だが、伯仲した威力の均衡が崩れるのを待つことなくどちらともなく飛び退った。

「息つく暇など与えないさ。いわなだれだカイリキー!」
「その言葉そのまま返させてもらう、なげつける!」

 主人の眼前に降り立った両者はすぐさま次手を繰り出した。老翁は拾い上げた二つのコンクリート柱を迷わず立て続けに投擲し、対する格闘士が双掌を突き出せば頭上から巨礫の雨が降り注ぐ。
 残された二本の腕では勢いを殺し切れずに柱の直撃を受けたカイリキーは、地を踏み締めながらも数メートル程後退。かたやローブシンは岩の雪崩に埋もれてしまうが、すぐさま巨腕を以て瓦礫を押し退けた。

「もう一度だ、投げつけろローブシン!」
「バレットパンチ、この程度を捌き切るなどわけはない」

 幸い弾なら無数にある。足元に転がる適当な岩礫を機関銃の如く連続で投げ付けるが、猛然と駆け出したカイリキーが弾き出した無数の弾丸はその悉くを打ち砕き目にも留まらぬ速さで距離が詰められていく。

「アームハンマー、地を穿て!」
「成る程、奥ゆかしいね。いや……君らしいと言うべきかな?」

 このまま懐に潜り込むなど許すつもりはない。両手で足元を殴り付けると戦場が深く陥没して衝撃で砂塵が巻き上げられた。
 組織の最高位に君臨する幹部が相手であろうと、必ず勝利を奪い取る……その為なら卑怯な手段であろうと躊躇いはない。閉ざされた視界の中で老翁は猛然と駆け抜けて、その先に立つカイリキーが腰を低くして待ち構える。

「再びアームハンマー!」
「受け止めるんだカイリキー!」

 暗礁から迫り来るローブシンが数歩先で鉄槌の如く腕を振り上げた、ならばと格闘士が一歩退がり二腕を交差させて盾の如く翳すと可能な限りにダメージを殺して受け止める。
 スウェーバックで避けるのではなく敢えて自らの身体で受け止めた、その意図を察せぬ老翁ではない。此方に離脱する隙など与えず確実に反攻の機を掴み取らんとする為だ。

「君は此れまで──淡く微かな星を標に、幾千の夜を越えてきたのだろう」

 すかさず後退しようと軸移動をするローブシンだが、みすみすと見逃す最高幹部ではない。残った手隙の双掌で老翁の肩を捕らえたカイリキーは掌を強く握り締めて、一点へと全霊を収斂させていく。

「けれど我らに光は無かった、闇を辿ることには慣れているんだ。影に紛れようと位置を捉えることなど容易いさ、ばくれつパンチ!」
「……っ、やるな」

 砂煙の先に宿敵の影が悠然と佇んでいて、自らの踏み締めた過去に裏付けられた言葉が紡がれる。その語気には惑うことなき確信が込められていて、ツルギが苛立ちと焦燥に舌を鳴らした。
 そして、怒涛の闘気を纏い燃え滾る渾身の力を込めた烈拳が繰り出されて……砂塵の中で、ローブシンの胸筋が深く撞き穿たれた。
 勢い良く吹き飛ばされた老翁は平衡感覚を失ってしまう程の眩暈に見舞われて、受け身が取れずに数度転がってから辛うじて自我を取り戻すと咄嗟に地を蹴り体勢を立て直す。

「そっか、ばくれつパンチのせい、ですね……!」

 サヤが狼狽を浮かべる通り、“ばくれつパンチ”には当たれば必ず相手をこんらん状態にしてしまう追加効果が備わっている。無論本来であれば命中率の低さというリスクはあるが、特性ノーガードのカイリキーが外すことなど有り得ない。
 加えてこんらんはあくまで状態変化だ、ローブシンの特性である“こんじょう”も発動しない。時間経過で回復するとはいえ放っておけば訳も分からず自身を傷付けてしまう、出し惜しみなどしていられない。

「ラムのみを使えローブシン!」

 混乱してしまって足元の覚束無いローブシンだったが、主人の喝により朦朧とした意識に微かな光が射し込んだ。
 辛うじて正気を取り戻した老翁は意識が保てる刹那に、すかさず懐に忍ばせていたあらゆる状態異常を癒す緑色の果実“ラムのみ”を数度咀嚼してから呑み込んでみせる。
 “こんらん状態”から解放されたローブシンの瞳が愉悦に彩られて、こんなところで倒れる筈が無いと滾る闘志を迸らせると対峙するカイリキーを睨み付けた。

「此処までの立ち回りから鑑みるに、そのローブシンの特性は“こんじょう”だろう。君はあらゆる状況を想定してポケモンに道具を持たせている、一筋縄ではいかないね」
「すごいです、持ち物が、しっかりと活きてます! でもツルギ……どうして、です?」

 だがサヤはツルギとジュンヤのバトルを思い出してふと疑問を抱く。以前は状態異常を受けたところで有利になるから問題無いのだと『ぼうだんチョッキ』を持たせていたはずだ。

「鬱陶しい、貴様を相手にして特性の発動など期待出来ないからな」

 そう、相対するのは他でもない最高幹部だ。こちらに有利になると理解していながらやけどやもうどく、マヒを狙ってくれる筈が無いのは分かり切っている。
 以前から割れていたエドガーの手持ちは二匹、対策を打つにも限度があった。だからこそ突破性能の高いローブシンに最悪の事態に備えて『ラムのみ』を持たせていたのだが……その判断は幸い功を奏した。

「さあ、此処からはファイナルラウンドだ。ハーフタイムなど不要だろう、いわなだれだカイリキー!」
「答えるまでも無い。マッハパンチ!」

 カイリキーが両腕を翳せば頭上に夥しい数の巨岩礫が顕現していき、老翁が猛然と駆け抜ける。
 頭上から降り注ぐ無数の雪崩を背後に抜き去り駿馬の如く駆けたローブシンが眼前へと躍り出た。格闘士が四本の腕で防御をするが老翁は予測していたかの如くに掬い上げるアッパーカットを放ち、筋骨隆々の肉体が軽々と宙に打ち上げられる。
 そして頭上に構えるカイリキーの背後へ跳躍して回り込み、両腕の筋肉を隆起させて渾身の鉄槌を振り下ろした。

「さっきの礼だ。ローブシン、アームハンマー!」

 たとえ二秒で千のパンチを繰り出し、四腕を自在に操れる怪物といえど骨子の通った生物である以上その可動域には限界がある。
 向き直り様に辛うじて薙ぎ払った右双腕は間に合わない。脇腹を殴られ吹き飛ばされたカイリキーは、自らが放ち何処までも敵を追尾する“いわなだれ”に体側から激突。
 無数の岩礫が砕けてなお勢いは収まらず、体勢を立て直してから着地することでようやく制止させられた。

「今のは効いたよ、君達も随分鍛えたじゃあないか。だがまだまだ倒れるつもりはないさ、オボンのみを使うんだカイリキー!」
「見え透いた世辞など結構だ。息を吐く暇も与えるな、なげつける!」

 息を切らせながら大地を踏み締めたカイリキーは左手を背中に回し、隠し持っていた瓢箪型の黄色い果実──体力を回復する効能を持つ“オボンのみ”を頬張って疲労を癒やすと対する敵を睨め付けた。
 ツルギがついに訪れた僅かな好機を逃す筈が無い。先程投擲してから無造作に転がっていたコンクリート柱を拾い上げたローブシンは、間髪入れずに二茎を立て続けに投擲して僅かな隙を逃さんと畳み掛けていく。

「これ以上掻き乱されては少々厄介だね。まずは無粋な柱から打ち砕こう、ばくれつパンチ!」

 無論彼らが棒立ちで食らってくれるとは考えていない、此処で使い捨てる覚悟は出来ている。
 当然エドガーもそう何度も撹乱されるのは面倒だと感じたのだろう。迷いなく指示を飛ばせば全霊を拳に込めた打擲が炸裂し、爆風が吹き荒れコンクリート柱がいとも容易く砕け散る。
 高過ぎる威力が仇となり、舞い上がる砂塵と爆煙に視界が閉ざされた。無数の破片が身体に刺さり、砂の一粒一粒が肌を打つ──その程度で闘争の愉悦に昂る二匹を止められる筈がない。

「布石を打つ、やれローブシン!」
「分かっているよ、君は此処で勝負になど出る程浅はかではない。迎撃するんだカイリキー!」 

 そして、爆煙を越えて肉薄したローブシンと悠然と構えていたカイリキーが真正面から向かい合う。
 その距離は瞬きの刹那にほんの数歩まで接近、両者共に剛腕を握り締めれば互いの視線が交錯して──。

「グロウパンチ!」

 ツルギとエドガーの声が重なった。猛然と放たれた硬き鉄拳は互いに譲ることなくぶつかり合って、激突する度に鋼の如く強靭なる業物へと磨き上げられていく。
 最早かつてない程に研ぎ澄まされた拳は軽く掠るだけでも深手は避けられない。鬩ぎ合いは熾烈な拮抗を呈し、地を踏み締めてなお抑え切れない程凄まじい衝撃に両者が弾き飛ばされてしまった。

「畳み掛けようカイリキー、いわなだれ!」

 カイリキーが掌を翳すことで降り注ぐ巨岩の礫さえ勢いが激しく、先刻までの比ではない。限界まで攻撃が上昇したことにより質量も速度も跳ね上がり、必中必殺の雪崩が徒手の老翁へ容赦無く降り注いでいく。

「確かに一撃でも浴びればそれでお終いだが……その程度では捉えられん。マッハパンチ!」

 カイリキーの特性は“ノーガード”、互いにどんなに命中率の低い技でさえ必中になる特性だ。裏を返せばこの岩塊全てが老翁目掛けて狙いを定めて降り注ぐ。
 何処からどんな軌道を描いて迫って来るのか、それさえ読めているのであれば対処法は幾らでもある。
 地上に留まったままでは容易く懐に潜り込まれてしまう──跳躍して自ら巨岩の驟雨に飛び込んだローブシンはその悉くを音速の連打で殴り砕き、最後に迫り来る二つの岩石を掴み取ると「なげつける!」格闘士へとすかさず投擲した。

「君達は本当に手癖が悪い、勝利への執着が伝わって来るよ。ならば続けてばくれつパンチ!」

 瞬く間に眼前へ迫り来る巨岩礫を容易く殴り砕いて、舞い散る破片の奥には既にローブシンが肉薄していた。互いの腕が振り翳されて目と鼻の先、此処で一発でも貰ってしまえばそれだけで致命傷になりかねない。

「当然だ、貴様を越える為なら手段など選ばん! バレットパンチ!」
「そうだろうね、だから君には本領を揮える。マッハパンチで受け止めるんだ!」

 ソニックブームが轟く音の速度で放たれた技の余波で大地は抉れ、幾千もの打擲が広大なバトルフィールドの中心でぶつかり合ってなお譲ることなく攻防が繰り広げられる。
 極限に高められた攻撃を以て織り成される技の応酬は最早誰も分け入れない程に凄烈で、言葉よりも雄弁な拳で己が想いを交わし合い。

「カイリキー、あなたも……そう、なんですね」

 かけがえのない主君の為に、いつかに願った愉悦の為に臨む格闘士の瞳を見据えてサヤが徐に呟いた。
 ──かつて、まだ未熟で進化もしていないワンリキーだった頃の自分はいつも独りだった。群れの仲間達とは遥かに望む景色が違う、辿り着くべき未来の異なる彼らと共に在るのは耐え難い苦痛だった。
 無論皆に非など無い。彼らは自身の程度を弁えて、身内で磨き上げた筋肉を競いながらヒトと共存し様々な仕事に従事しているだけなのだから。
 けれど、安定した平穏は着実に渇望の芽を育ててしまう。時折除くテレビの画面の向こうでは、割れんばかりの喝采の中でめくるめく試合が展開していた。互いの魂を懸けて行われる闘争には雷に打たれたかのように心が震えた。
 きっといつか、自分も遥かな高みへ辿り着くのだと──憧憬を抱いてしまえば、旅立つまでにそう時間は掛からなかった。

「恐れ入るよ、カイリキーの拳速に付いてくるとは相当磨き上げられている」
「俺達は力を標にここまで来た。そう易々と道を譲る筈がないだろう!」

 ただでさえ全ポケモンの中でも屈指の筋肉を誇る二匹が“グロウパンチ”の追加効果によって限界まで強化されている、今の彼らが揮う技の威力は計り知れない程に絶大だ。
 衝撃波の中でなおも譲れぬ熾烈な攻防が繰り広げられ、激しい鬩ぎ合いの果てにこのままでは決着が付かない、とどちらともなく飛び退る。
 恐らく次が最後の一撃になるだろう──疲弊した身体に鞭を打ち、呼吸を整え命を振り絞れば今にも尽きてしまいそうな灯火を燃やして拳を握り締めた。

「これでケリを付けるぞ。ローブシン、アームハンマー!」
「正面から受けて立とう。カイリキー、ばくれつパンチ!」

 ずっと、命の限りを尽くせる闘争を待ち望んでいた。最高位に並び立つ幹部では一切の呵責無く全力を揮える余裕など与えられない、かつて夢を見た大舞台でさえこの渇望を満たすには至らなかった。
 何の憂いもなく渡り合える敵を求め続けて、世界の命運が決する審判の日に至って……ようやく、本当の意味で心骨を捧げられる相手に巡り逢えた。
 絶対に勝つ。両者の怒号が響き渡れば二匹の距離が瞬く間に近付いていき──掬い上げるように繰り出したのは全霊を込めた渾身の鉄槌、対して四腕を以て振り下ろされるのは逆巻く怒涛の闘気を纏いし爆烈の剛拳。
 ただひたすらに高みを目指して生き続けて来た二匹が撞き出した大技は、しかしその軌跡が交わることはなく。心魂を捧げた拳が対峙する敵を穿つのは殆ど同時だった。

「……っ、ローブシン……!?」

 ──地を穿つ星の如き壮絶なる衝撃。耳を劈く破裂音が轟き爆風が戦場に吹き荒れて、凄まじい勢いで吹き飛ばされた二匹が背後の壁面に激突した。
 固唾を呑んで見守っていたサヤが悲痛に彩られた声でその名を呼び掛ける。多少の余波などではびくともしない程に堅牢な要塞の壁面に、深く大きなクレーターが穿たれた……どれ程の痛みが彼らに降り掛かっただろう、と。
 暫時訪れた沈黙を経て、壁面に深く埋没した二匹が徐に剥がれ落ちて地へうつ伏せに倒れ込んだ。彼らが意識を保っていられる筈など無く、瞼を伏せて背後に横たわり。

「戻れ、ローブシン」
「おつかれさまでした、ローブシン。ありがとう、ございます……すごく、かっこよかった、ですよ」

 強さを求め続けた果てに訪れた死闘、互いのプライドを賭けて臨んだ彼らは拮抗の末に相討ちで幕を下ろした。最高幹部に先勝を譲らなかったのだ、十分な結果と言えるだろう。
 冷淡に掴んだモンスターボールを振り返ることなく背後に翳せば色の境界から二つに割れる。口元に微笑を湛えながら倒れ伏す老翁を溢れ出した紅き閃光が呑み込むと、束の間の暇へ誘っていき。
 身体が縮小してカプセルの中へと収まったローブシンは、己が闘争心の赴くままに最後まで臨ませてくれた主人へと心からの感謝を告げた。

「今必要な択を選んだに過ぎない、無用の言葉だ」
「ふふっ、だけど……あなたが楽しめたのなら、うれしい、です」

 無論ツルギが此方の感情に配慮していないことなど理解している、そうでなければ彼に失望するだろう。
 それでも──心を満たす歓びを求めて生涯を闘争に捧げ、胸躍る激戦を求めて彷徨い続けて来た過去を思えばこの充実感は表せない。
 これ以上望むものなど無い。瞳に穏やかな満足を映したローブシンへツルギは淡々と言い捨てて、その隣で背伸びをしてモンスターボールを覗き込んだサヤは自分のことのように嬉しげにはにかんだ。

「よく限界まで働いてくれたね、感謝するよカイリキー。さあ、立てるかい?」

 一方広大なフィールドの彼岸では青年の艶やかな長髪が翻り、うつ伏していて自分では起き上がれずにいるカイリキーへと歩み寄ったエドガーが微笑みながら左手を差し伸べる。
 激しい攻防によって刻まれた傷はあまりにも重く身体に圧し掛かり、酔いが醒めたかのように現実へ戻れば灼け付く痛みに立ち上がることさえままならない。
 それでも……大切な主人に手を差し伸べられてしまっては、いつまでも無様に倒れてなどいられない。カイリキーが残されたほんの僅かの精魂を枯れるまで振り絞り辛うじて片膝を立て、己の不甲斐なさを恥じ入り頭を下げると主人は首を横に振って労いの言葉を贈った。

「いや、君は期待の通りに働いてくれたよ。ローブシンを倒せたのだから十分じゃあないか」

 ──かつてヒトと共に日々を営む同胞に別れを告げて旅立った幼いワンリキーは、世界中を旅して己の心身を鍛え続けてきた。
 いつか憧れた檜舞台で輝くポケモン達のような高みへ至るのだと数え切れない決闘を繰り返して、戦い続けた末にいつのまにか誰もが恐れるレベルに至っていた。
 だが……野生のポケモン達に勝負を仕掛けても逃げられてしまい、鍛錬ばかりが増えていく。考える時間が増えれば否が応でも気付かされてしまう、自分は独りきりなのだと。
 大切なもの程手放すまでは気が付けず、振り返るには遅過ぎた。心に空いた小さな穴は少しずつ拡がり始めて、冷たい孤独が音を立てて着実に這い寄って来た。

「お疲れ様、戻って身体を休めたまえカイリキー。心配など無用さ、後は我々に任せればいい」

 胸元にカプセルを翳せば眩い赤光が迸り、穏やかに微笑む青年に見守られながら安息の処へと還っていく。
 ──ハイパーボールの中で疲労困憊の身体を休めながら瞬くカイリキーの瞼の裏に映るのは、人生の岐路となる遠き日の出逢いだ。
 武を己の証として、揺らがなき頂点を目指して世界を廻り続けて……星が見えないある夜に、人生の岐路となる瞬間が訪れる。
 エドガーのポケモンになってからの日々は本当に楽しかった。競い合える存在が出来て、同じ時を過ごす仲間に恵まれ、いつか越えたいと思える目標も出来た。
 無頼者には釣り合わない、とても輝かしい日々だった。

「私も多少は君の心を理解しているつもりさ。これまで長い道程だったろう、いつか見た景色には辿り着けたかな」

 全身全霊を出し尽くしたカイリキーはカプセル越しに主人の瞳を見据えると、徐に頷いてから満足そうに微笑んだ。
 武の極致に辿り着いて、燃え尽きる程熱き戦いを繰り広げる。幼き日に夢を見てからずっと変わらない願いが結実したのだ。
 動かない身体とは裏腹に確かな充足感が胸を満たしていて……ついに限界に達したカイリキーは、糸が切れたように崩れ落ちると幸福を抱いて眠りに沈んだ。

「これで一匹撃破! でも……相討ちになって、しまいました」
「あのカイリキーの能力を考えれば妥当だ、上々の首尾と言えるだろう」
「そう、ですね……これでやっと、です」

 ──最高幹部の圧倒的な暴威を前にして、これまで幾度と打ちのめされて来た。何処までも遠く、断崖のように険しく、一騎当千の絶対強者は手を伸ばしても届かない遥かな頂に君臨していて──この終局に至るまで、刃を突き立てることすら叶わなかった。
 それ程までに遠かった背中に、翳した鋒がついに届いた。エドガーのポケモンを相討ちとはいえついに一匹討ち倒せたのだから、きっと、これは大きな前進と言って良い筈だ。
 自信が湧き始めてきたサヤだったが……対照的にツルギの表情は未だ険しく、腰に手を伸ばして次に選び出す球を掴み取っている。

「ツルギ……この調子なら、きっと、だいじょうぶですっ!」
「逸るな、まだ奴の掌の上だ」

 エドガーは初手に数的な優位を狙い、次に崩れ掛けた体勢を立て直す暇を与えず状況の優位を形成した。
 温存しておけば確実に場を掻き乱せるカイリキーを犠牲にしてまでローブシンを倒したのは、カビゴンとミロカロスを相手に有利に立ち回れるからに他ならない。裏を返せば、あの二匹とメタグロスさえ健在であれば此方が劣勢に在ることに変わりはない。
 依然予断を許さない状況にある──それを理解しているフライゴンは、カプセル越しに用心深く荒廃した戦場を睥睨した。

「まさか、私としても相討ちになるとは思わなかった。老いてなお壮んとは恐れ入るよ」
「よく言う、見え透いた余裕を隠すつもりもないだろう」
「此処に辿り着いた君であれば、想定を上回ることなど想像に難くない。驚く程のことでもないだけさ」

 此処に至るまでありとあらゆる修羅場をくぐり抜け、ついには対等な地平に立って切っ先を突き付けてくるポケモントレーナーを相手にして想定通りに試合を運べるなどと思い上がってはいない。
 そう答えればツルギは苛立たしげに舌を鳴らして、サヤが綻びかけていた表情を慌てて固く引き結ぶ。

「ああ、ツルギの次手には見当が付いている。それでは君にお願いしようかな」

 カプセル越しに『自分が出る』と告げて来た友に最高幹部は頷いて、次なるハイパーボールを選び取ると彼方を見遣り微笑んだ。

「──今頃、レイやアイクもそれぞれ因縁の相手と切り結んでいる頃だろうね」
「ああ、そうだろうな」

 此処ではない何処で友が繰り広げられているであろう決戦へ、瞼を細めて想いを馳せる。
 悉くを滅ぼす古代兵器と無限の力を持つ勝利の星を手に入れて、大願の成就に王手を掛けた総帥より与えられた『二週間』という猶予は最高幹部にとっても僥倖だった。
 各々が果たすべき責務、向き合うべき過去、此処に至るまでに背負い続けて来た枷を外して悔いなき明日を迎える為に。
 ──レイは此の二週間で同じ明日へ旅立つ同胞を加速度的に増やして、アイクはエイヘイ地方に残った強者のほとんどを真正面から打ち倒した。
 そして運命が決する此の日にあって、最後の戦いに臨んでいる。たとえどんな結末が訪れたとしても遺恨を残さない為の、最高幹部として君臨し続けて来た総決算だ。

「君はどう思うかな、ツルギ。君達の仲間が我々に勝利出来ると信じているかい?」
「俺も奴らも強さは明確にお前達に劣っている、可能性は低いだろうな」

 少年は忌憚のない意見を淡々と吐き捨てる。奇跡などは存在しない、この終局に至っての成長など出来たところでたかが知れている。
 もし劣勢を覆して差を埋められるだけの要因があるとすれば、縋るにはあまりにか細い糸だが──誰にもままならぬ運否か、或いは奴らの言う“心”や“絆”などという曖昧なものだけだ。

「ああ、実に的確で客観的な判断だね。だがその言い様、それでも彼らなら勝利を掴み取れると信じているのかな」
「勝ってもらわなければ困る、それだけだ」
「そうです、わたしもツルギも、信じてますっ! だって、みんな、たくさんがんばったのを……見て、来ましたから!」

 もし彼らが敗れてしまえば、ツルギは総帥であるヴィクトルだけでなくレイをも倒さなければならなくなる。アイクを野放しにする事でどれ程の被害が出るかは計り知れない。
 仮に体力を回復する猶予が残っていたとしても、疲労だけは引き摺り続ける。そうなれば大局での勝機はほとんどゼロに近いだろう。
 だから信じざるを得ない、そんな逼迫から吐き捨てるツルギの背後では少女が力強く宣言して、彼は何も言うことなく眉を顰めた。

「残念だがこの世界は不平等だ、報われない奮励など路端の石の如く転がっている。それを誰よりも身に染みて理解しているのがツルギだ、そうだろう?」
「……ああ、だから強くなり得るポケモンを蒐集し続けた」

 かつて──己が生存する為に多くの命を蹴落とした者を知っている。焦がれ続けても終ぞ宿願に至れなかった者がいる。命懸けの覚悟も虚しく何も成せなかった者がいる。
 確かに努力は必ず跡に何かを残す、それでも……天より与えられた“資質”の差ほどに無慈悲で残酷なものは他にない。強さの極致に届かせるには、手段を選んでなどいられなかった。

「誰にも勝る天賦の才、古より受け継ぎし血族、恵まれた環境、厭くなき渇望──君達の誰一人として、そんなものを持ち合わせてはいないというのにね」
「だが結局、俺も奴らも弱さを糧に這い上がって来た。互いに理解出来ないだろうがな」
「だから君達は彼らを信じている、か。成る程、我らに持ち得ぬ何かを見出しているのなら……勝負の行方は未知数だろうね」

 弱者の苦悶を強者に理解することなど出来る筈が無い、その逆もまた然りだ。
 ポケモンバトルはその幕が降りるまで、誰にも結末は分からない。自らの信じて来た“強さ”を掲げて臨むからこそ付け入るほんの僅かな隙が生じる。
 ツルギが奇跡など信じる筈がない。どれ程細く微かな可能性であろうと──此れまでの道程で培って来た実績と、幾度と織り成されてきた経験から僅かな可能性に賭けられるだけの信頼があるのだ。

「……君達のような未来ある若者が、もっと早くに現れてくれていればね」

 交わした約束を道標に、数え切れない修羅場を潜り抜けて研ぎ澄まされたツルギ。
 守りたいという願いで何度と限界を越えて立ち上がって来た大園ジュンヤ。
 闘争の愉悦を糧に燃え尽きる程熱く邁進する穂村ソウスケ。
 英雄を夢見て紆余曲折を経て鍛え抜かれた黒鉄レンジや、そんな彼らを支え続けて来た大切な友とかけがえのないポケモン達。
 もし、彼らのような瑞々しい兆しがもっと早くに芽吹いていれば──或いは彼の“月桂冠を戴く勝者”も、凶行になど及ばなかったのかもしれない。

「……ああ、分かっているさ、我々は力を証とする同胞だ。此の終局の先に如何な結末が導かれようと──彼らに勝利を譲るつもりはない」

 カプセルの中で出番を待つ相棒達に届く程の声量で呟いて、黒金の球を眼前に翳す。
 過ぎ去った過去を回顧するエドガーの瞳の奥には昏き悲しみが湛えられていて、それでも主人の覚悟は固まっている、ならば自分達が揺らぐわけにはいくまい──たとえ此の道の果てに導かれるのが、絶望の未来だとしても。

「そうだなフライゴン……ようやく、微かだが可能性が開けて来た。これまでの大差を思えば十分な勝機だ」

 腰に装着されたモンスターボールの中で、利剣の如き決意を閃かせながら宿敵を睨み付ける相棒にツルギは徐に同意を示す。
 何度惨めに地を這い続けただろう。数え切れない敗北、刻まれた痛み、その全てが己の糧となり決戦の場へと導いた。
 互いに譲れない道がある。此の先に閉ざされた未来を取り戻す為に、たとえ望まぬ結末であろうと己が忠義を貫き通す為に。
 ──左手に握り締めた紅白球を構えれば、最高幹部の握り締めたハイパーボールが側方に突き出される。固唾を呑んで見守るサヤは、祈るように掌を重ね合わせた。

■筆者メッセージ
サヤ「ようやく一匹!ほんとにやっと、ですね…!」
ツルギ「所詮は数居る手持ちの一匹に過ぎない、取り立てて騒ぐことじゃあない」
サヤ「だけど、それでも、うれしいです。今までは…とても遠い場所、でしたから」
ツルギ「…まあ良い、俺の邪魔をしなければな」
サヤ「それにしてもツルギ、なんだか今は…いつもより、優しい気がします。エドガーさんにも、いっぱい話しかけて、いますから」
ツルギ「どうしても奴の真意を知る必要がある、それだけだ」
サヤ「わたしも、知りたいです。どうして…エドガーさんが、最高幹部になったのか」
ツルギ「人もポケモンも環境を選べない、それだけの話だろう」
サヤ「そう、ですね。ツルギは、今の環境に…不満とか、ありませんか?」
ツルギ「あの赤い帽子、あいつは存在が鬱陶しい」
サヤ「他には…」
ツルギ「お前にはないのか?」
サヤ「ツルギがきびしすぎること、ですねっ!」
ツルギ「…お前も本当に鬱陶しい」
せろん ( 2022/09/13(火) 20:43 )