第122話 加速する魂
もう間も無くで、この世界に終焉が齎される。分厚い積乱雲に覆われ嵐が吹き荒ぶ空の下、光無き宙にぽっかりと空いた穴から燦々と降り注ぐ真昼の陽光に照らされて少年が劣勢の中堪え切れないとばかりに笑みを浮かべる。
焦土と化した戦場に立ち塞がるのは山と見紛う巨躯を誇る太古の雪象。全身を剛毛に覆われ猪のように突き出した鼻、力強く逞しい四肢に氷炎を遮るあついしぼうを備えたにほんきばポケモンのマンムー。彼を従えるのは群青の髪を逆撫で青いジャケットを羽織った大柄の壮年、世界を脅かして来た巨悪に君臨する最高幹部アイク。
「ハ、姑息なことしやがってえ……本当にしつけえ奴らだぜえ」
「よく言われるさ。お褒めに預かり光栄だね!」
「あーあ、存分に誇れェ。ここまで食い下がってんだからなあ」
戦場には枷から解き放たれたマンムーが呼び起こした雪崩に降り積もった大雪が聳え、その底に埋もれた友を思い固唾を呑んで襟を正した。
僅かでも気を抜けば瞬く間に圧し潰されてしまう絶対的な力の差に焦燥を浮かべながら──それでもくつくつと抑え切れない笑いが溢れて、観念したようにソウスケが歓喜を叫ぶ。
「いやあ、うん、駄目だな! 劣勢だってのに楽しくってしかたがない!」
「ったくよおぅ……てめえはどこまでも馬鹿な奴だぜえ。まーだ諦めてねえたあなあ」
ずっと心待ちにしてきた決戦なのだ、楽しくってしかたがない。我ながら不謹慎にも程があるが、緊張に張り裂けそうな胸の鼓動を握り締めて。
対するアイクは眩しいくらいに瞳を輝かせる少年に呆れたように溜息を吐き、鼻を鳴らして失笑を零す。
今まで数え切れない程に蹂躙を繰り返して来た、立ちはだかる全てを薙ぎ倒してきたが、滅びが間近に迫る世界の最中に闘争の愉悦を感じるなど彼くらいだ。──自分と相対して、こんなに楽しそうにしていられる者も。
「逆境なんていつものことさ。自慢じゃあないが、僕より強いトレーナーなんて数え切れない程居たからな!」
「……そいつぁ良い、楽しくってしかたがねえだろお?」
「ああ、最高さ! 是非とも君達に同じ気持ちを感じて欲しいな!」
巨悪に聳える最高幹部が、飢餓に悶え獰猛に滾るその双眸が初めて徐に瞬いた。何を映すか細められた眼差し、唇が弓形に歪み哄笑を響かせる。
潜り抜けてきた死線の一つ一つがかけがえのない時間だった。恐怖を上回る愉悦にソウスケの瞳が紅く燃え、奮い立つ闘争心に呼応するように昂るアイクの蒼き双眸が力強く見開かれる。
「だから──こんな愉しい時間はまだまだ終わらせない、終わらせてたまるものか! そうだろコジョンド!」
倒れたウォーグルの意思を継ぎ参上したコジョンドだったが、必死でこだわりハチマキをはたき落とした直後に同じ技しか出せないという枷から解き放たれたマンムーのゆきなだれにより返り討ちに遭い。
何度と友の名を叫んだが未だコジョンドの安否は不明で、少なくとも今返事がこちらへ届いていないことだけは確かだ。けれどソウスケは何の根拠も無くきっと彼は無事なのだと確信めいた自信を抱き、この声が届くまでと何度も何度も声高く呼び掛ける。
そしてソウスケが張り上げた大声を響かせれば氷河と聳える積雪が震え、降り積もった雪の巨塊が末端から崩れ落ちていくと白き底から固く握り締められた拳が突き出し、続けてしなやかな体躯が跳ねるように飛び出した。
「よぉしっ! 間に合ったようで何よりだよ……!」
「コジョンド、無事だったんですね……!? そっか、あの時に……!」
「ああ、『みがわり』を発動してたみてえだな!」
安堵に深い息を吐き出すと歓喜に思わず指を鳴らしてサムズアップを送れば、振り返りながら同様の仕草が長い鞭を棚引かせるコジョンドから返ってくる。たとえ世界を滅ぼす一撃であろうと“みがわり”で分身を生み出しさえすれば凌ぎ切れる、後は時間との勝負だった。
間に合ってくれ、その言葉の意味に気付いて二人は素直に感嘆する。きっとアイクには最初からこの結果が見えていたのだろう、だから『姑息だ』とそう断じたのだ。たとえほんの一時を凌いだところで最後に勝つのは自分とポケモンなのだから、と。
「まだまだ僕らは戦える。ピンチはチャンス、本当の勝負はここからさ!」
「はっは、あれくらいで終わっちゃあつまらねえからなあ。もっともっと本気で来ぉい!」
「ったく、僕らは最初から全力だってのに……そんなこと言われたらやるしかないだろ!」
思わず苦笑を浮かべながら襟を正して深呼吸を一つ、誰に届くでもなくひとりごちると拳を強く握り締めて対する強敵を不敵に睨み付ける。振り返った鼬も迷い無く拳を握り締めていて、これまでの傷を感じさせない程に凛と臨戦態勢を整えていた。
「さぁーて、満身創痍でどこまでやれっかなあ? こおりのつぶてだあ!」
巨象が咆哮を轟かせれば周囲に無数の氷弾が形成されて、震脚と共に一斉にコジョンドへと撃ち放たれる。ほんのわずかでも手傷を負わせれば良い、それだけで逆転への芽は潰れると踏んで。
──悔しいがその読みは天晴れと言わざるを得ない程に的を射ている、だからと言って諦めるわけにはいかない。何としても勝機を掴む、ここから無理矢理にでも巻き返してみせる!
「ダメです、今のコジョンドがあんな技を喰らったら……!」
「心配無用、当たらなければ問題ない! はたきおとすで迎え撃て!」
背水の陣に立つ友に観戦するエクレアとレンジが焦燥を浮かべ、流石のソウスケですら強気な言葉とは裏腹に瀬戸際の窮地に冷や汗をかいている。
氷雨は風前の灯火を吹き消さんと満身創痍の身体に容赦無く降り注いだ。迎え撃つコジョンドは決死に吼え音速を越える速度の鞭と巨岩をも砕く蹴撃で辛うじて礫を凌いでみせるが、それでも捌き切るには限度がある。
既に幾つかが身体を掠め、まだ傷というには浅く済んでいるがこのままでは被弾は免れない。咄嗟に跳躍すると弾丸が軌道を変えてなおの追撃が眼下から迫るが辛うじて鞭を振り乱し、首の皮一枚繋げると後の無い状況に固く拳を握り締める。
「分かってるさコジョンド、ここからは本気の本気で行くぞ! 両腕の鞭を引き千切れ!」
躊躇っている暇も余裕も無い、今こそ一世一代の大勝負。決意を映した紅眼を瞬かせ振り返ったコジョンドの強い意志に当然だと言わんばかりに主人は頷き、逆転に賭ける決意は声高らかに空へと響く。
「ふむふむ、……へえ!?」
「おいおいマジかよ! ああそうだ、確か……」
言われるがままに躊躇無く腕の先から伸びる紫毛を咥えたコジョンドはその鋭い犬歯で鞭を噛み千切り即座に吐き捨て、進化する以前の姿勢のように腰を低く落として深呼吸をすると両腕を前後に伸ばして用心深く睨め付けた。
これが自分達が出来るたった一度の奥の手だ。エクレアとレンジは素直な驚愕を露わに目を見開いて、しかし覚えがあると思い至った少年がポケモン図鑑を開いて鼬へと翳した。
『コジョンド。ぶじゅつポケモン。真の強敵と 会うと身軽になるため、両手の毛を噛み千切り 捨ててしまう』
ポケモン図鑑の電子音声がその生態を読み上げていき、彼らの行為を説明する。そう、以前ポケモンバトルの勉強をしていた際に見かけたことがあったのだ、コジョンドの本領は鞭にあらずということを。
そして少しの間を置いて改めて読み返し、不意に顔をあげると「ってことはテメェらおれ達とのバトルの時は手抜いてやがったのか!?」──ソウスケの背中に向かってそう叫んだ。
「そんなわけないだろうるさいな!?」
「でもテメェおれとのバトルの時はこんなことやってなかったよなあ!」
「ああもう、黙っていてくれ! 頼んだエクレア!」
「アイアイサー!」
自分は真の強敵では無かったのか、ライバルだと思っていた、など緊張が緩んでしまうやかましい抗議を飛ばして来たが、ぎゃいぎゃいうるさいのでエクレアに頼んで黙らせてもらう。彼の一番の弱点である「ライボルト利用されて悲しかったなー!」の一言によって。
──ここからはたった一度の被弾も許されず、三度もみがわりを発動したことで既に体力は限界に近い。あるいはたったの一撃でも致命傷になりかねないのだ、なんとしてでも先手を取らなければならない。
「僕らは己の限界を越えてみせる、絶対に君達をぶっ倒してやるさ!」
「くたばり損ないがあ……吠えやがってえ!」
だが不幸中の幸いにも“はたきおとす”は当てられた。先程までは射程を伸ばす為にどうしてもこの鞭が不可欠だったが、道具を落とした以上もう用済みだ。
だから──ここからは自分達ですら見たことのない本気を出せる。聳え立つ壁は余りにも高く、それでも必ず越えてみせる!
「だったらやってみろよなあ、こおりのつぶて!」
「言われるまでもない、心待ちにするといい! まずは全弾撃ち落とす、はたきおとすだ!」
天地が震える高らかな“暴威”の哄笑に最強を望む少年が決意を高く空へと叫び、瞬間鼬が風の如く駆け抜けた。迫り来る無数の弾丸に臆することなく飛び込み軽やかに間隙をすり抜けて、避け切れない氷刃は目にも止まらぬ速度で殴り蹴り付けて撃ち落とし、瞬く間に距離を詰めていく。
だがそう易々と近寄らせてはくれない。「つららおとしだあ」続けて突き立てられた氷柱が進路を遮る目障りな壁となり、飛び膝蹴りで蹴り砕くと既にその先から巨躯は掻き消えていた。
「流石の瞬発力だよ、これでも捉えられないなんてね。だが僕らもそう易々とは捕まらないさ!」
最初から突破されることまで織り込み済みなのだろう、着地した瞬間に鋭利な氷槍が頭上から翳されるが迫る切っ先を全力で蹴り付け軌道を逸らし、すぐさま振り返れば背後に回り込んでいた巨象は既に次手を構えていて。
「こいつはどうだあ、じしんだマンムー」
太く強靭な両前脚で力強く焦土を踏み鳴らせば大地が震えて立つこともままならず、波のように拡がる地震の衝撃波が凄まじい速度で押し寄せて来る。それでもここで倒れるわけにはいかない、必死で脚に力を込めて不恰好ながらも辛うじて跳躍するが安心するにはまだ早い。
じしんは周囲の全てを砕きながら突き進む。突き立てられた氷柱はその衝撃波に呑まれて容易く砕け、飛び散った破片はそのままコジョンド目掛けて襲い掛かった。
「この程度! まだまだここから、きあいだまで迎え撃て!」
しかしすぐさま体勢を立て直したコジョンドは主人とシンクロするように不敵に笑い、右掌に収束させた渾身の力を光弾と解き放ち氷片を砕きながら巨象を討たんと空を穿つ。
効果抜群の一撃だ、命中してしまえばその高い耐久を持ってしてもダメージは避けられない。けれどマンムーは迷い無く光弾目掛けて踏み込むと突き出した氷牙の側面を滑らせ、見事に背後へ受け流し未だ空中に止まるコジョンドへの接近を許してしまった。
「──っ、迎え撃つんだコジョンド!」
「阿呆、力のぶつかり合いで勝てるわけぁねえだろうがあ!」
「それでも……っ!」
眼前に巨躯の影が落ち双眸に天を衝く二本牙が迫る。分かっている、単純な力では劣っている事くらい。だからって逃げ出したりはしない、歯を食い縛り恐怖を上回る興奮で己を奮い立たせて必死に食い下がる。
頑強な氷牙としなやかで強靭な蹴脚が真正面からぶつかり合い、だが文字通り地に足の付かない蹴りでは体重を乗せたマンムーに太刀打ち出来ない。
「さーあ見せてみろよお、次はどうするってんだあ! じしん!」
「こうするのさ! きあいだまで突破するぞ!」
容赦の無い一薙に打たれ数メートル程弾き飛ばされ、咄嗟に身を翻して受け身を取ると傷を最小限に抑えて顔を上げた時には眼前にまで迫っていた衝撃波。
回避するにも間に合わない、それでも諦めたりはしない。咄嗟に力を収束させ跳躍と共に撃ち放った光弾で目と鼻の先の大技を迎え撃ち、瞬きの刹那侵攻が緩んだ“じしん”は爆風に乗せられ上昇の勢いを増したコジョンドの指先を掠めて眼下を通り過ぎていった。
「まだまだ! きあいだま連弾発射!」
「こおりのつぶてえ!」
続けて着地を待つことなく降り注ぐ氷雨を渾身の光弾で撃ち落とし、それでも捌き切れなかった幾つかが軌道を変えて頭上から降り注ぎ咄嗟に避けようと跳躍すれば背後から氷壁が築き上げられて。
逃げ場を失った、歯軋りしながらも必死で氷礫を打ち砕いてみせるが息を吐いている暇も無い。マンムーが咆哮し冷気を放つと四方八方から氷壁が檻のように突き上げ、逃げ場を封じられてしまった。
「そんなものでは風を掴めやしない!」
「だったらこいつはどうだあ? つららおとしだ!」
「何が来ようと僕らは前に進むだけさ、『きあいだま』でぶち壊せ!」
このままでは手傷を負わせられないと判断したのだろう、指示を切り替えれば一際大きな氷槍が閉ざされた氷壁に蓋をするように重く鋭く降り注いだ。それでも振り返ることはない、この壁を越えれば関係ないから。
掌に収束させた気を砲弾と解き放てば分厚く聳える氷壁に中心から亀裂が走り忽ち崩れ落ちて、すぐさま大地を蹴れば背後で氷柱が地面に衝突しそれでも脚を緩めることなく突き進んでいく。
「もうすぐで……届く! 僕らのを想いを受け止めてくれ!」
「それぁ楽しみ、届けばなあ。迎え撃てえ、もう一度つららおとしだあ!」
「何度でも来い、真正面からぶっ壊してやるさ!」
突き出した両掌の先に燃える赫灼の光弾が再び断崖と突き立てられた蒼き氷柱を打ち砕き、今にも次の技を放とうと脚を構えていた山のように聳える巨象の眼前に踊り出た。
高揚する闘志に燃える視線が火花を散らしてぶつかり合い、高速で駆け抜けたコジョンドは半ば無理矢理その懐に潜り込んでみせる。
「さあ行くぞコジョンド、これで決めてやる! とびひざげり!」
交錯する視線の先に瞬くマンムーの瞳は凍えてしまいそうな程に冷たく、しかしその深奥にようやく暖かな灯火が見えた気がした。
しなやかで強靭な両の脚で力強く焦土を踏み締めて。今度こそぶち当てる、絶対に越えてみせる、熱く燃え盛る闘志を燃やして勝利を掴むのだと高く叫んで渾身の力で飛び上がった。
「ハ、その程度か……遅えんだよ」
それは失望、あるいは落胆か。半ばひとりごちるようなアイクの声が冷たく響いて、言うが早いかマンムーが身を反らせばコジョンドの全霊を込めた一撃は鼻先を掠め眼前をすり抜けてしまう。そして通り過ぎざまに凝縮し鋭利な切っ先を形成していく氷片が視界の端を冷たく掠め──。
「しまっ……!? 頼む、間に合ってくれ……!」
「言ったろ、遅えって。こおりのつぶてだマンムー!」
「コジョンド! みがわりだぁっ!」
その技を食らってしまえば最悪瀕死へ一直線だ、貫かれるわけにはいかないと必死に叫ぶが、先制攻撃を前には身を削っての分身による防御も間に合わない。鋭利な氷礫の切先が無慈悲に身体に突き刺さり、威勢を失い撃ち落とされたコジョンドは冷厳と佇むマンムーの足元に倒れ伏してしまった。
「そんな……」
「……っ、駄目だ、耐えられるわけがねえ」
「コジョンド……!」
観戦していた二人の瞳は信じたい気持ちに瞬く一方でそれ以上の諦めにも似た色に彩られていて、流石のソウスケですら満身創痍で一撃を受けては焦燥を露わにしてしまう。
それでも最高幹部に油断はない、相手が対等な強敵だと認めているから。悠然と佇むアイクとマンムーはすぐさま攻撃を放てるように用心深く身構えて、眼下に倒れ伏す傷だらけの鼬を眉間に皺寄せ見下ろしている。
「それでも……君なら立ち上がれる!」
──指一つ動くこと無く横たわるコジョンドの瞼の裏で、これまで走り続けた戦いの日々が走馬灯のように駆け抜けていく。競い合って来た好敵手の背中を追って強さを求め、認め合える人間と出会い仲間になって、長く険しい旅を通じて数え切れない程に強敵と闘って此処まで来た。
身体中が痛くて堪らない、思うように動かない、けれどまだ斃れるわけにはいかない……負けた痛みに比べたら、この程度の傷。今にも掻き消えてしまいそうな意識を築き上げて来た絆で無理矢理繋ぎ止める、風前の灯火はなお燃えて……この闘志は未だ灰になどなってはいないのだからっ!
「僕は信じているよコジョンド、ここまで頑張って来た君の想いの強さを! だから……立つんだ、立ってくれ!!」
「奴らは最後の最後まで諦めねえ。そろそろとどめだあマンムー、もう一度こおりのつぶてえ!」
そこまで主人に信頼されていたら──無理にでもやるしかないだろう。
「……コジョンド!? よおし、行くぞ!!」
最期の力を振り絞ったコジョンドが、半ば無意識で立ち上がる。焦点の定まらない瞳で顔を上げると降り注ぐ氷礫を見据えて、矢継ぎ早に迫る弾雨の間隙を軽やかな身のこなしですり抜けると高く空へと舞い上がる。
「まだだっ! 僕らの想いは終わらない……心火はまだ尽きていないぞ!!」
太陽を背に浴びたコジョンドは懐に手を伸ばすと海の力を宿すと言われる白い果実──“チイラのみ”を咀嚼する。それは窮地に食することで攻撃を上昇させる木の実だ、残された最期の力を振り絞り眼下の巨象を討たんと身構えた。
「行くぞコジョンドォッ! とびひざげりだあっ!!」
「はっは……受け止めろお!」
絶対に勝つ、譲れない想いが今にも燃え尽きんとする身体を突き動かして。己を鼓舞せんとあげたコジョンドの絶叫は天を衝き、全身全霊を一点に込めて渾身の力を解き放った。
回避も反撃も間に合わない。対するマンムーは力強く大地を踏み締めると咄嗟に氷牙を盾と突き出し鈍い音を響かせ衝突。
だが全てを懸けた魂の一撃はそう容易く止められるものではない。“チイラのみ”により能力を底上げされたコジョンドの大技を真正面から受け止めてなお大地を踏み締め食い下がっていたマンムーだが、次第にその大牙が欠けてひび割れていく。
「僕らは絶対に勝つ、この先に進む為に! 押し切れえっ!!」
──そして咆哮と共に亀裂が一気に広がって、その根本から砕け散ると盾を突き抜けた矛が巨象の眉間に深く突き刺さった。
効果は抜群だ。マンムーが絶大な威力を必死に堪えんと歯を食い縛り大地を踏み締めるが、それでも勢いを殺し切れずにアイクの眼前にまで後退してしまい。
既に手負の状態で全身全霊を賭けた大技を食らったのだ、並大抵のポケモンならば耐え切れる筈がない。しかし──。
「……はっは、よおく此処まで切り返したあ! その度胸に免じて引導を渡してやる!」
相手は最高幹部アイクの操るポケモンだ。着地もままならず足をもつれさせ、片膝を突いてしまうコジョンドの全身に悪寒が走り。見上げれば鋭利な氷柱が頭上でたちまち凝結していき、動かない身体に喝を入れんと必死に叫ぶが声は枯れ果て、思い出したような激痛に指先すらも動かすことが出来ない。
「マンムー、つららおとし!」
無慈悲に振り翳された巨槍の切っ先が容赦なく疲れ果てた戦士を貫いた。既に体力も限界だったコジョンドに耐え切れる筈がない、白目を剥いて意識を失った彼はうつ伏せに焦土へ倒れ込んでしまう。
「そんな、コジョンド……コジョンド!?」
ソウスケが必死になって友の名を叫ぶが、横たわる鼬が目覚めることはない。当然だ、持てる限りを奮い立っているのもやっとな程に疲弊し切っていたのだから。
必死になって歯向かって来た小さく強き好敵手が倒れ戦闘不能になるのを見届けたマンムーは、深く白い息を吐き出すと数歩程歩いて立ち止まった。黒き瞳を徐に瞬かせて、その口元には満足げな笑みを浮かべながら。
「まさか……?」
「ま、よくやったあ」
瞼を伏せて聳え立つ巨象は凍り付いたように身動き一つせず、砕けた牙も戻らない。時代に取り残された寂寞のように独り佇むその影には深く暗い孤独が射し、時が止まったような暫時の静謐の果てに──徐に揺れた巨体は膝から崩れ落ち、コジョンドに遅れて横倒れに大地に身体を委ねた。
「……君の奮闘に感謝するよコジョンド。ありがとう、後は僕らに任せてゆっくり休んでくれ」
「戻れえマンムー」
コジョンド、マンムー、共に戦闘不能だ。魂を削りぶつかり合った激戦は両雄の相討ちで決着し、両者共に感謝を胸に倒れた同胞へとモンスターボールを振り翳す。
「あれだけ頑張っても相討ち、ですか……!」
「ま、あの劣勢からここまで行けたんだ、二匹がかりとはいえ上出来じゃねえか!」
これだけ必死で食らい付いてもなお力強く立ち塞がり、まだ彼らに追い付くことが出来ないでいる。火を見るよりも明らかな実力の差に唇を噛み拳を握るエクレアだが、隣で観戦するレンジは呑気な口調で朗々答える。
「ですがまだリードされてるんです、このままだと……!」
「気揉みすぎだ、アイツは羨ましいくらいに馬鹿だからな。どうせなんとかしやがる馬鹿なんだから馬鹿を心配するだけ馬鹿馬鹿しいだろ」
「その馬鹿に負けましたもんねレンジさん」
「うるせえよ! ……ま、あいつは本当に強いからな」
それは自分の勝利を心から信じてくれているからこそなのだろう。そうまで信頼されているとは嬉しいけれど、あまりにも全幅の信頼が過ぎて少しこそばゆくすら感じる。
後ろで繰り広げられる愉快なやり取りに失笑しながらカプセルの中のコジョンドを見れば、彼は先行きへの不安を残しつつも全てを出し切った楽しさに笑顔を浮かべていた。
「はは、楽しんでくれたなら何よりだ。大丈夫だよ、僕らは絶対に勝ってみせるから」
その言葉に安堵したコジョンドは自身の奮闘を誇るように胸を張ると強く拳を握り締めて激励を送って来た。そうだ、まだまだ戦いは続く、気を引き締めなければなければならない。
マンムーの力を考えれば被害は最小限に抑えられた方だろう、ここで相討ちとはいえ瀕死に持ち込めたのはかなり大きい。おかげで少しずつ逆境を乗り越えて未来への活路が拓けて来た。それに──。
「ふ、そろそろ慣れて来たな」
こちらの手をことごとく読まれていても、相手が圧倒的な力を以て蹂躙する災害の如き暴威だとしても。遥か上を行く強き者との戦いにようやく肌で慣れて来た、自分達が限界以上を振り絞り続けていれば決して希望は失われない。
今のはコジョンドが限界を振り切って一矢報いれたに過ぎない、まだまだ気合いを入れねば決して最高幹部に追いつけやしないが一筋でも勝機があれば十分だ。
「……おい、楽しかったかあ?」
黄色い線の走る黒白球を見つめて、カプセル越しに覗き込んで来る黒い瞳に呼び掛けた。片牙が折れ、もうこれ以上は動けない程に疲労困憊で丸くなり、それでもマンムーは躊躇うことなく頷いてみせた。
本気を振るっても押し潰されない程の強敵を相手に一切の加減無く己の力を解き放つ悦び、自身が従うに足る認め合った主人と共に戦う歓び、全てを賭けて臨んだバトルが楽しくないはずないのだから。
「そうかよ、そいつぁ良かったなあ」
──マンムーと出会ったのは、誰も足を踏み入れない険しい凍土だ。自分に付いて来られるだけの強き者を求めてただひたすらに彷徨い続け、本能の赴くままに辿り着いたクレバスの洞窟にて分厚い氷の中で深い眠りについていて。
いつから眠り続けていたのかなんて知らない。あるいは数千、一万の永い時を越える過去のポケモンかもしれないし、つい数年前に野生進化した個体がたまたま事故で凍っただけかもしれない。
一つ確かなのは、凍える瞳をしていたということだけだ。氷を溶かせば覚醒したマンムーは目を見開いて獰猛に暴れ、崩落する氷河の底で我を忘れて慟哭に叫び。だから無理矢理ねじ伏せて手中に収めた、その眼に映された深い孤独に……どこか、感じ入るものがあったから。
「ま、てめえは寝とけえ。また起こしてやるからよお」
ああ、彼のポケモンで本当に良かった……瞼の重さに耐え切れず閉ざしながらも、浮かんでは消える追憶に心の底から感謝が溢れる。
アイクや仲間達と共に過ごした時間は本当に幸せだった。同じ痛みを分かち合える仲間達と居られることへの安堵、彼についていくことでどこまでも強くなれる喜び、自分はもう独りじゃないんだと思えたから。
だから……皆で目指した未来の為に全力を奮った。此処で倒れてしまうなんて我ながら不甲斐無い、けれどアイク達ならば絶対に勝利を掴み取ってくれる。
もう、時間に取り残され氷河に閉ざされた孤独なポケモンは何処にも居ない。共に歩んで来た仲間との暖かな思い出に抱かれながら、マンムーの意識は混濁の淵に沈んでいった──。
「さあて、ようやく少しは巻き返せてきたな!」
残された手持ちはこちらがヒヒダルマ、オノノクス、ムーランドの三匹。対してアイクはサザンドラとプテラ、未知の二匹の計四匹。
トレーナー同士の力量差は言わずもがな、一匹一匹の地力でも総合的に見れば劣りその上で戦況は不利。これが常人であれば既に諦めていたかもしれない、けれどここに立つのは他の誰でも無い自他共に認める諦めの悪さを誇る穂村ソウスケだ。
世界の命運を賭けた最後の決戦にそれでも少年は愉悦に笑い、心底愉快そうに腹から哄笑を上げて対峙する最高幹部を睨み付けた。
「だったら、次はあ……ああ、てめぇが良いなあ」
「さあ、ここが進化した君の初陣だ。相手に取って不足は無い、存分に暴れると良い!」
大きく息を吸い込んで、吐き出したソウスケは襟を正して吹き抜ける風に緑衣の裾が軽やかにはためく。腰に装着された紅白球を掴み取ると眼前に翳し、そのカプセルの中で爪を研ぐ竜と目を見合わせて腰を低く構えた。
彼が進化したのは、この運命の日まで残り八日と刻一刻と終末が迫る時に繰り広げられたレンジとの決戦の最中だった。あれからはずっと修行を続けていて正式なバトルの機会は訪れなかった、だからこれが進化してからの初戦となる。
「一気に逆境を跳ね返す、任せられるのは君しか居ない! さあ頼んだぞオノノクス!」
同時に投擲されたモンスターボールが空を裂く。溢れ出した夥しい紅光は次第に二つの影を象り、咆哮と共に粒子を払いその姿が現れた。
かたや真鍮色の鎧に全身を覆われ力強い後脚で立ち上がる、顎に半月状の大斧を携えた巨躯の竜。
優しく温厚な性格だが縄張りを荒らす者には 容赦せず、鋼鉄の柱すら容易く切り落とし刃毀れすることのない頑丈な牙を持つあごおのポケモンのオノノクス。
「任せたぜえキノガッサァ」
対するは穴が空いた緑のキノコ笠を被り硬く鋭い爪が伸びる伸縮自在の腕、毒の胞子で出来た種を携えた尾が伸びる人型。
喜び混じりに思わず歯噛みしてしまう。現れたのは達人以上の絶技を持ち、軽やかなフットワークで敵に近付いて伸び縮みする腕で拳を繰り出すきのこポケモンのキノガッサ。
「っ、厄介なポケモンが出て来たな……!」
「ですね、気を付けてくださいソウスケさん……!」
そう、キノガッサはかなり高い攻撃力と技術を備えているが、何より厄介なのが“キノコのほうし”という技を覚えることだ。それは吸えば忽ち昏睡してしまう胞子をばら撒く技で、数ある敵を眠らせる催眠技の中でも屈指の凶悪さを誇っている。
それでも決して怯みはしない、一陣の風が吹き上着の裾が風に舞う。オノノクスと呼吸を合わせて焦土を望むと慎重に対する敵を睨み付け、確かめるように頷き合えば闘争心を空に叫んだ。
「一気に畳み掛ける、ドラゴンクロー!」
「迎え撃てえ、マッハパンチ」
先手を取ったのはキノガッサだ。地を蹴り弾かれるように駆けるオノノクスに対して目にも留まらぬ超高速で突き出された右腕が鳩尾を狙い弾丸のごとく撃ち出され、咄嗟に身を躱して紙一重ですり抜けるが眼前に左爪が突き付けられて。
だがそう易々と貫かれる竜ではない。頑強な竜鱗に覆われた右腕を構えて軌道を逸らし、猛然と距離を詰めると眩く迸る碧き竜気に覆われた左爪を振り翳した。
「……へーえ、躊躇無えなあ。躱してマッハパンチだあ!」
──此処まで至る程の男がキノガッサへの接近を警戒しないとなれば、十中八九対策が講じられているのだろう。ならば真正面から受けて立つ、眼前で空を切る竜爪が届くより速く音速に達する程の拳が突き出され、甲高い衝突音を響かせて力と力が鬩ぎ合う。
「この威力、特性はテクニシャンか。いや……それだけじゃない!」
拳闘士と顎斧竜が咆哮を響かせ拮抗し、押しも押されもせぬぶつかり合いにふとソウスケが眉間を皺寄せた。
いくら火力に秀でたキノガッサといえど、本来であれば威力の低い“マッハパンチ”でポケモンの中でも屈指の攻撃力を誇るオノノクスと真正面から拮抗出来る筈がない。
キノガッサの特性は三つあるが、『テクニシャン』は威力が低い技の威力を上昇させる効果を持つ。だがそれだけならばまだ単純な力比べならばオノノクスに分があるだろう。
どちらともなく飛び退れば軽やかに顎斧竜は焦土を踏み締め、対するキノガッサは痛みを堪えるように歯を食い縛り。
「やはり持ち物は『いのちのたま』かっ!」
「は、そりゃあ見え透いてるよな」
それは所持者の命を削ることで技の威力を上昇させる道具『いのちのたま』、ただでさえ高い攻撃に加え力を底上げされるなど実に単純にして厄介でしかたがない。
確信した少年の高らかな叫びに最高幹部が不敵に嗤い、時を待つことなくバトルは動きつづける。
「だが真正面からの殴り合いならば負けないさ、接近しろ!」
「良いぜえ、望み通り食らわせてやるよお。マッハパンチだあ!」
「ふ、そう易々と食らってやらないさ!」
それでも負けるつもりはない、現状で拮抗出来るのならば勝機は十分にある。音速の拳に身を翻して肩の装甲で受け流し、二の太刀を左爪で払い除けながら懐に潜り込むと粒子を纏いし竜爪で掬い上げるように切り裂いた。
だが流石は達人以上と言われる拳闘士。身体を逸らして右腕で受け止めることでダメージを最小限まで抑えて、勢いまでは殺せず打ち上げられるが狙っていたと言わんばかりに笠に隠れた顔に笑みを浮かべる。
「っ、来るぞオノノクス!」
「見せてもらうぜえ、きのこのほうしだあ!」
「アイアンテールで吹き飛ばせ!」
恐らく最初から気を窺っていたのだろうが、こちらも警戒を怠る程愚かではない。降り掛かる胞子に臆さずアイアンテールで大地を殴り、その衝撃により生ずる風圧で胞子を吹き飛ばし竜爪を構える。
これで目障りな障害は消えた。一気に距離を詰めんと地を蹴り駆け出した顎斧竜を遮るように「近寄らせるかよお、がんせきふうじだあ」降り注ぐ岩石が障壁を成すが、斧の一振りは凄まじく障壁はいとも容易く砕け散る。
しかしそれも織り込み済みなのだろう。舞い上がる礫岩を突き抜ける音速拳が衝撃波を伴い眼前へ迫って、咄嗟に腕で弾くと焦土を貫く拳を辿るように腕を収縮させて瞬く間に眼前へと躍り出る。
「はっは、本当に大したもんだあ! あの矮小だった小僧が……随分強くなったなあ!」
「当然さ! 僕らは誓ったんだ、もっともっと強くなるとね!」
火花を散らして何度と激しくぶつかり合う拳と拳、燃え盛る炎のように激しく迸り空を焦がす両雄の闘志。哄笑を響かせ爛然の眼を見開くアイクは自身を満たす少年の成長に掛け値のない賞賛を贈り、対するは心底の悦びに笑うソウスケが自身を強くしてくれた過去と見据えた彼方に想いを馳せて声高らかに言葉を返す。
「だったら聞かせてもらうぜえ、強くなってどうするつもりだあ?」
「強くなって、更に強くなる! この世界の誰よりも強い最強のポケモントレーナーになる!」
「その果てにあるのが絶望だとしてもかあ!」
なおも鬩ぎ合い、世界の命運には似つかわしくない程に心底愉快そうに両者は高らか笑ってみせる。
果て無く広がる空を望んで、強さを求め続けた先にあるのは孤独と怠惰だった。同じレベルに並び立つ者が居らず、あれ程望んでいた闘いが蹂躙という退屈に変わり、結局得たものはどうしようもない虚無だけだった。
だからこそ問い掛ける。その少年が未来に何を見出すのか、強さを極めた先の景色へ如何に向き合うってみせるのか。
「僕らは君達とは違う、絶望なんてしない! その先にあるのが……どんな景色だとしても!」
ソウスケの瞳は惑わない、いっそう激しく燃えると天を衝く決意に雄々しく吼えた。
この旅で出会って来た強き者達が脳裏を過ぎる。頂点に立つチャンピオンは没し、ジュンヤの親友である最高幹部のレイは友と敵対することになり、史上最強と謳われた月桂冠の勝者ヴィクトルは瞳に深い絶望を湛えていて。
今までに触れた者は強くなる程に嫌が応にも大切なものが失われていた。求めた彼方に何があるのかなんて分からない──けれど一つだけ確かなことがある、自分は一人じゃないということだ。
「共に戦う仲間が居てくれる限り折れたりしない、いつまでも熱く燃え続けてやるさ!」
拮抗し続けた拳の鬩ぎ合いの均衡が少しずつ崩れ始めた。命を削り技を放っているキノガッサにその反動が現れ始めたのだ。
この旅の中で身が凍えてしまうような恐怖とどうしようもない絶望が降り掛かっても、自分を信じられなくなって挫折しても、数えても数え切れない敗北に打ちひしがれても、何度壊れてもその度に立ち上がることが出来たのは支えてくれる皆のおかげだ。
「弱えやつ程よく群れるってなあ!」
「だから僕らは強くなれた!」
だから決して折れたりはしない、彼らが居る限り立ち上がれると信じているから。『いのちのたま』の反動に唇を噛みその痛みに一瞬キノガッサの力が緩んでしまい、その好機を決して見逃さない。
眩く逆巻く竜爪に渾身を込めると更に激しく迸り、巨大な掌を成した『ドラゴンクロー』による爪撃に弾き飛ばされながらも、すかさず音速の拳を伸ばしたキノガッサの鋭い一撃が竜鱗の薄い腹部を貫いた。
「よく言ったあ、それがてめぇの強さだなあ!」
「そうだ、僕は一人で強くなんてなれない! 何処に辿り着いたって独りじゃないさ!」
共に闘争にしか生きられない獣でありながら、自分達が踏み締めてきた道は正反対だ。誰よりも強かったゆえに強くなればなる程に孤独へ堕ち続け現在に至ったアイク達。弱かったからこそ仲間に支えられ一歩ずつ強さを築き上げて此処に到達したソウスケ達。
違う道を歩んで来た彼だからこそ出せるその答えはあまりに未熟で、ともすれば幼くてんで参考にならない拙いもので。けれど……その惑うことなく燃える瞳には、不思議と彼ならば大丈夫だろうと思わされる。
「君達が歩んで来た絶望なんて分からない、僕らが辿り着く未来なんてまだ見えない! けれど……今この瞬間が最高に楽しいよ!」
「は、良いこと言うじゃあねえかあソウスケ! ──違えねえ!」
焦土に立ち向かい合うキノガッサとオノノクスは互いに一歩も引くことはない。逆巻く光子を纏い振りかざされた竜爪は衝撃波を伴う音速の拳を的確に迎え撃ち、目にも留まらぬ超高速で拳と拳を撃ち合い続ける。
終末の日に歓喜を露わに刃を交える二人の獣の闘争心は蒼く突き抜ける空をも焦がす程に高まり合い、まだまだ終わることない至福の決闘になお激しく燃え盛り。
逆境の中で研ぎ澄まされし牙を鳴らして此処から反旗を翻すのだとソウスケは迸る闘志を叫び、蹂躙ではない対等な強敵との闘いにアイクは心の底からの悦びを吼え、互いを高め合うように抑え切れない心が溢れ出す強者と強者の決戦は何処までも熱く加速していく──。