第105話 差し伸べた光
千人をも優に越える夥しいオルビス団員達を越え、閉ざされた扉の先にはかつて旅の中で巡った古代の城と追憶の洞によく似た光景が広がっていた。
ついに突入した巨悪の根城“剣の城”、その大広間で蒼白く紋様が脈打つ黒柱を仰ぎ慎重に様子を伺う彼らの前に現れたのはオルビス団幹部と名乗る青年、レイの部下ファウスである。
彼に案内され搭乗した長いエレベーターの扉が開き、そこに広がっていたのは天上も壁床も視界を全てを漆黒が覆い尽くした絶望色に染まる世界。
そして何も無い広大な空間の先には、荘厳な鉄扉が聳えていた。伝承に残る三羽の神鳥が巨大な円環を囲みその中央に燃え盛る大樹が刻まれた、最高幹部達の待つ階層へと繋がる唯一の道。
「ありがとうシャンデラ、もう少しだけがんばってね。この先に……わたしやジュンヤたちの大切な友だちが待ってるから」
目を閉じていつかに想いを馳せれば、瞼の裏には少しの間だけだが共に旅路を駆け抜けた友達の姿がありありと蘇る。『大切なものを護る為に』と穏やかに笑っていたその横顔は……とても、優しかった。
ジュンヤの大切な親友であり、この世界へ絶望を齎す悪の組織オルビス団の最高幹部として暗躍し続けていた少年。どうしても聞きたい、聞いて納得したい。レイくんが戦う意味を、戦わなければならない理由を。
今まで支えて続けてくれた仲間達の役に立ちたい。ここまで戦って来た勇姿の一人として真実が知りたい。だからこのバトル、決して負けるわけにはいかない。
「せめてあなた達だけは倒して、必ずレイ様に報いてみせます。少しでも、あの方のお役に立つ為に」
この閉じた世界の中では吹き抜ける風など感じられない。外の世界も今は砂嵐に覆われ、その先には視界を遮り全てを押し流し酷く身体を打つ大雨に呑まれ、きっと穏やかに過ごすことなど出来ない。
けれど……きっとこの嵐が終われば、再び空は晴れるだろう。終焉の枝により齎された混沌の果てに安息の地を創り出せる筈だ。そこできっと感じるのだ、かつて仲間達と浴びた渇きと荒廃を運ぶ風ではなく……皆と共に、希望と輝きに満ちた穏やかに頬を撫でる萌木色の風を。
だから、負けられない。自分や仲間達、ポケモンを救ってくれたレイ様に報いる為に。もっともっと強くなって自分の居場所を奪い取る為に。
「絶対に負けないよファウスさん。私たちにも……先へ進みたい理由があるから!」
「申し訳ありませんが、おれ達も負けられないのですよ。我々を救って下さったレイ様に報いなければならないのですから」
絶対に負けたくない、負けられない。想いを胸に力強く掲げて、握り締めたのは大切な仲間が今かと構えるモンスターボール。
少女が戦場で息を切らしながらも気丈に立ち続ける燐火の灯るシャンデリア──いざないポケモンのシャンデラと顔を見合わせ頷き合って、青年はカプセル越しに笑い掛けると勢い良く紅白球を投擲した。
「それでは次はあなたに任せますよ、ノクタス!」
空を切り裂く一筋の軌跡が色の境界から二つに割れて、現れたのは傘を被った人型のサボテン。全身に鋭い棘を備えたポケモンはカカシぐさポケモンのノクタスだ。イワパレス同様に砂漠を生息域とし、夜になると活動を始め獲物を狙うあくとくさタイプを併せ持ったポケモン。
「わざわざシャンデラにくさタイプを繰り出して来たんだ。奴は確実に……」
「ああ、狙っているだろうな。次の一手で勝負が決まる」
二人は知識と経験則から理解出来る、青年が発動を狙っている技が。その一撃を喰らってしまえば確実に倒れる……ジュンヤとサヤは、固唾を飲んで勝負を見守っていた。
「ほのおタイプのシャンデラに出すなんて、きっとなにかある。けど……行くしかない!シャンデラ、オーバーヒート!」
「そうでしょうね、あなたならそう来ると思いました。みがわり!」
ノドカも、彼が仕掛けてくることは理解していた。だからこそ最初の“からをやぶる”のように何か行動を起こされる前にと最大級の技を放つ……放ってしまう。
瞬間一切を焼き尽くす夥しい爆炎が視界を朱くに覆い尽くし、凄まじい熱を持って自身を照らす熱線が眼前まで迫ったサボテンは不敵に笑って、焔が全てを飲み込んでいった。
「……っ、ノクタスはどこ!? 」
彼が最後に叫んだ指示は嫌な予感となって胸にざわつき、必死になって戦場を見渡すが吹き荒ぶ爆風で何も見付けることが出来ない。
見えない、まずい、どうしよう。こうなれば一か八かでもう一度技を放つしかない。必死に焦燥を抑え大きく息を吸い込んで、叫ぼうとした瞬間に「今ですノクタス、ふいうち!」青年の声が無慈悲に響き渡った。
「上っ……シャンデラ!?」
見上げた時には、無数の棘に飾られた剛腕が既に目の前まで降り注いでいて。咄嗟に火炎を放たんと息を吸い込むが、迎撃が追い付かない……不意を突いた強烈な一撃が顔面を捉える。
効果は抜群だ。そのまま殴り抜けられ吹き飛ばされたシャンデラはノドカの背後の障壁に激突し、目を回して気絶してしまっていた。
「……ごめんね、ありがとうシャンデラ、よくがんばったね。とっても偉かったよ」
振り返ったノドカは、ほんの僅かに一瞬……悔しそうに眉をしかめて唇を噛み、しかしすぐさま普段の朗らかな笑顔を咲かせると、目を覚まして申し訳なさそうに床に転がり風前の灯火を揺らすシャンデラを優しく撫でた。
その言葉に、彼女は疲労困憊の中で得意気に胸を張り、既に疲れ果てた身体で軽く翳されたモンスターボールへと帰っていった。
「……ねえファウスさん、一つ聞いても良いかな?」
「構いませんよ、なんでしょう」
不意に、少女が口を開いた。青年は怪訝に眉を潜めながらも彼女の性格から悪意は無いと、小首を傾げて受け止める。
「あなたは、きっとほんとは優しい人な気がして……だから、なんでオルビス団の幹部になったの?」
「まさか、おれは優しくなんてありません。この手で数え切れない程誰かからポケモンを奪ってきた」
それはファウスの親しみやすい語り口、ポケモンを大事にして大切な人の為にと戦う想い……なによりレイに救われたという言葉の意味を知る為に問い掛けた疑問であり、何故戦わなければならないのかという悲しみ。
青年はからりと笑って肩を竦める。もし優しいのだとすれば、それは仲間に対してだけの屑だと言わんばかりに。
「簡単なことですよ。おれはオルビス団に侵略され、同郷の仲間を守る為に降伏し、部下にならざるを得なかった」
「で、でもそれじゃあなんで」
「ですが決して、レイ様は降伏した人々を悪いようには扱わなかった。おれと仲間達を受け入れてくれて、暖かな帰る場所がある……無縁だった筈の拠り所が出来た、だからおれは戦うのですよ」
ノドカは何も言えなくなってしまった。彼らの悪行は決して赦されず、悲しみすらも奪われた人は数え切れない──それを理解していても糾弾出来なかった。寄る辺の無い悲しみも、手を差し伸べてもらう喜びも
理解出来たから。
「おれだけじゃない、レイ様の部下はみんなそうだ。あのお方はおれのような薄汚い盗賊も、無能な落ちこぼれも、はぐれもの達を分け隔てなく受け入れてくれた」
……思えばレイくんの部下達は、確かに強く彼のことを慕い働く姿がよく見られた。そして私に言われたくはないだろうけど、彼女達の中には悪の組織に属しているとは思えない子たちも少なくなく。
更にこの終局で一気に大勢の働かない部下達を増やして剣の城にて匿って。きっとレイくんはこの終焉を知っていた、ならば彼の言う『一つでも多くのものを護る』というのは、やっぱりきっと。
「ありがとうございます、答えてくれて」
「お気にせず。あなたは本当にお優しいのですね、おれ達とは違って……」
ほんの一瞬、微かに憧れるように瞼を細め、しかし一呼吸の内に再び敵意を映した瞳が現れる。ノドカも真正面から受け止めて腰に手を伸ばす、この戦いは負けられないのだと決意を胸に。
「状況は奴らが有利か」
「……ああ、ノドカの手持ちはもう手負いのデンリュウと多分スワンナ。残りの一匹次第では負けるかもしれない、けど」
戦場に立つノドカを見れば、彼女は先程までの狼狽はどこへやら、まだ少し冷や汗をかきながらも幾分己の呼吸を取り戻している。流石はいつも穏やかでマイペースなノドカだ、崩されても調子が戻るのが早いのが彼女の長所だろう。
「きっとノドカなら勝てるよ。大丈夫、そんな気がするんだ」
「はい、ノドカさんは……がんばって、きましたから」
そんな彼女の様子を眺めていると、不思議と希望を抱いてしまう。『だいじょうぶ』それはノドカがいつも投げ掛けてくれる信頼の言葉、きっと……彼女なら勝利してくれる。なんだかそんな気がする。
「えへへ、ありがと二人とも。それじゃあ私は……あなたに任せたよ、デンリュウ!」
冷えた目をしたツルギは呆れたように溜め息を吐きながらも、何も言うことなく戦場を眺める。少女は二つ目のボールを構えて、勢い良く投げ放った。
勢いが空回りしたのか球は足元へ落下して、内から閃光が溢れ出していく。光を払い現れたのは再びのデンリュウ、勢い良く尾を輝かせてやる気を露にしている。
「再び現れましたか。ですが相性はノクタスが有利、早速攻め込みますよ!」
「受け止めてデンリュウ!」
焼け爛れた床をサボテンは猛然と駆け抜ける。大地を力強く踏み締めて、両腕を突き出し身構える電羊へ向け棘の生え揃った鉄槌が力強く降り下ろされた。
しかしリフレクターの効果はまだ続いている。いかなる物理攻撃をも半減する防壁に守られている今ならば大したダメージにはならない、そう思っていたのだが。
「甘いですよ、そのリフレクターはここでぶち壊して差し上げます! さあ行きなさい、かわらわり!」
降り注ぐ拳を受け止めんと朧に霞み始めた光が懸命に瞬くが、その一撃に穿たれた途端一気にひびが走り始めて光壁は無数の欠片と散ってしまう。
光の残滓が幻想的に降り注ぐ中で拳が強烈に叩き込まれて、しかし最終進化しただけのことはある、電羊は伝わってくる衝撃を地面に流して持ちこたえて見せた。
「そんなっ!? ……でも、まだまだ行けるよ、でんじは!」
「厄介ですね、相変わらず! みがわり!」
かわらわり、その技には貼られた“リフレクター”や“ひかりのかべ”を物理的に壊してしまう力がある。だがノドカの目には然程の動揺は無い、すぐさま次の指示を飛ばした。
すぐさま飛び退るノクタスだが至近距離から放たれた微弱な電気を避けられない。咄嗟に人形を盾に入れ替わろうとしたがその前にでんじはを浴びてしまった。
「ううっ、みがわり強いなあ……! かみなりよデンリュウ!」
「構いません、ニードルアーム!」
みがわりはどんな攻撃でも一撃は遮ってしまう厄介な技だ、ならばまずは壊すしかない。放たれた強力な電撃の束はたちまち人形を焼き尽くし、直後現れた本体がその棘だらけの腕で身構えるデンリュウの腹部を穿つ。
「お願い、デンリュウ!」
「これ以上攻撃はさせません、ノクタス!」
電羊は吹き飛ばされながらも今にも技を放たんと体勢を整えており、それを遮らんとサボテンが動き出す。二人のポケモントレーナーは声を揃えて高く叫んだ。
「あまごいよデンリュウ!」
「ふいうちです、ノクタス!」
──この一手は、ノドカが上回った。ふいうちは相手が攻撃を放つ隙を穿つ技、逆に言えば攻撃しなければその不意を撃つことが出来ない。
着地したデンリュウは空を見上げて高く嘶き、たちまち天井は黒雲が渦巻き積乱雲を形成していく。
「これは……まずいな、やってくれますね」
「良いぞノドカ、うまく相手の攻撃をかわしたな!」
「さすがです、ノドカさん。これで、少し差を縮めました!」
不意に青年の頬へ一滴の雫がぽつと零れて。それは二度、三度と何度も続いて、次第に雨足は強まり始める。それが“あまごい”の効果、天候をノドカとポケモン達の得意とする雨へと変えてしまうものだ。
「どうファウスさん、今まではみんなの真似をしてたけど……ここからは“私とポケモン達のバトル”だよ!」
「良いでしょう、幹部の位を頂く者として全力で迎え撃ちます!」
「行くよデンリュウ、かみなり!」
「今度こそ……させません! 今こそ道具を発動ですノクタス、ふいうち!」
再び電気を放とうと激しく帯電するデンリュウだが、瞬間掲げた黒い宝石が眩く砕け散り、稲光が迸る寸前にその鳩尾を鋭い拳の一撃が捉えた。
ずん、と鈍い音と共に目を見開いた電羊は千鳥足で数度彷徨った後に膝から崩れ落ちて倒れ込んでしまう。
「あくのジュエル発動です、惜しかったですね」
「そんな……デンリュウ!?」
少女の叫びは虚しく響き渡り、降り注ぐ雫は頬を冷たく射貫く。翳したモンスターボールが開くと紅い閃光が雨を切り裂き、安息の寝処へと帰還した……。
「ありがとねデンリュウ、あなたは最後まで仲間のためにフィールドを繋げてくれた。お疲れさま、あとは私と相棒に任せてね」
軽く握り締めたカプセル越しに、デンリュウが相手を一匹も倒せなかったことを謝罪してきた為にそう告げた。最後に残されたのは最も信じる相棒だ、天候も味方につけられた、だからこのバトル……きっと勝てる。
「さあ見せてください、あなたの相棒を。レイ様の為……おれとポケモン達は負けません!」
「もちろんです、この子はずっといっしょに育ってきた相棒。どんなこともいっしょに乗り越えてきて、だから……私たちも仲間の為に勝つんだから!」
仲間の為に少しでも役に立ちたい、そう思ってこの旅でも特訓を続けて来て……今、成長していることが実感出来る。
昔の私ならきっとポケモン達の特徴を活かせず負けてしまっていた。この旅でずっと眺めていた仲間の背中が、立ち向かってきた全てが自分を強くしてくれた。
今なら少しは理解出来る、ジュンヤたちの背負ってきたとてつもない重みが。だから……終わらせてみせる。
少女は穏やかな瞳を力強く瞬かせて、最後の一つとなるモンスターボールを徐に構えた。
「ねえスワンナ。私ね、あなたやみんなのことが大好きよ」
このポケモンが負けてしまえば、何の役にも立てないまま、ポケモン達に報いれないまま終わってしまう。
そんなのは嫌だ、なんとしても勝ちたい……緊張に強張る手のひらは紅白球を握り締めるのに必死で、震える指先で掴んだ胸を心臓が内側から激しく叩き続ける。
こんな重圧に、みんなは今まで耐えてきたんだ。きっと昔ならこの窮地に堪え切れなかった、だけど今は違う。
「大丈夫さノドカ。自分のバトルを、一緒に戦ってくれる相棒達を信じるんだ」
「ノドカさん、わたしは……ノドカさんたちが強いの、知ってます。だから、あなたとポケモンたちなら……勝てます!」
仲間達が背中を押してくれている、だから自分を信じられる。ポケモンの力を引き出し勝ってみせるのだと勇気が沸いてくる。
ジュンヤはいつでも見守り背中を押してくれた。サヤちゃんはいっしょに成長してくれた。ツルギくんも、何も言ってはくれないけど信じてくれているのは勘違いじゃないと思う。
「さあ行くよ、スワンナ。このバトルに勝って……みんなの道を切り開こう!」
大切な人たちが居てくれたから、ここまで戦い続けて来れたのだ。握り締めたモンスターボールを勢い良く投擲すれば、真っ直ぐに雨を掻き分け紅い閃光が迸る。
溢れ出す輝きは一つに収束すると徐々に影を象って、高い鳴き声と共に広げた双翼が纏わりつく光を払い美しい白鳥が顕現した。
「ほう、スワンナですか……美しく育ちましたね」
「ありがと、だけどバトルは勝たせてもらいます!」
それはノドカの幼馴染みであり、最も信頼を寄せる相棒。純白の美しい身体に強靭な翼、長く鋭利な黄色いくちばしを備えて繊麗な眼差しのみずどりポケモンスワンナ。
キメ細やかな体毛、引き締まった筋肉に素直な称賛を送るファウスだが、すぐに意識を戦場へ切り替えると再び戦いが動き出す。
「行くよスワンナ、早速ぼうふう!」
「お願いしますノクタス、みがわり! 続けてふいうちです!」
白鳥は美しい双翼を羽撃たかせると全てを吹き飛ばす強風が巻き起こり、生命力を使って生み出したみがわりの人形をたちまち吹き飛ばしてしまう。
だがシャンデラの時同様、雨を掻き分け駆け抜けたノクタスはいつの間にか眼前に躍り出ていて。無数の棘を備えた一撃を叩き込もうとしたその瞬間、身体が痺れて動かなくなってしまう。
でんじはにより負ったマヒの影響だ。笠に隠れた顔が歪むとサボテンが身を切り裂く暴風に押し飛ばされて、頭から地上に激突してそのまま気を失ってしまった。
「……お疲れ様ですノクタス、あなたはよく働いてくれました。我々を信じてゆっくり休んでくださいね」
ノクタスもこれで戦闘不能だが、二匹を立て続けに倒して邪魔な壁も壊し三匹目を引っ張り出す……とても目覚ましい活躍を見せてくれた。ならば後は相棒で勝負を掴むだけだ、満足げに瞼を伏せた彼を紅白球に戻すと、カプセル越しに微笑みかける。
「おれもこれで最後の一匹、天候を制されいささか劣勢……ですが」
「誰だろっか、気を付けないとねスワンナ……!」
この対面が時には勝負の明暗を分けてしまう、最後の一匹次第では一気に敗北へ繋がってしまい……だから、固唾を呑んで戦場を見つめる。
「最後はあなたに任せましたよ。来なさい、おれの相棒ワルビアル!」
「っ、ワルビアル、懐かしいね……!」
大きく息を吐き出して、乾坤一擲投げ放たれた。モンスターボールは篠突き注ぐ雫を弾きながら真っ直ぐに戦場へと投げ込まれ、境界から割れると夥しい赤光が溢れ出す。
徐々に影を象り光が晴れて、現れたのは巨躯を誇る砂鰐。暗紅色の鱗に覆われ顎は長く突き出しており、目元はサングラスのように黒い膜に覆われた二足歩行。
イワパレスやノクタス同様に基本は砂漠に生息していて、凶暴で執念深いと言われるいかくポケモンワルビアルだ。
「あの時は三人でようやく勝てたけど……今は違う、私たちは強くなったんだから」
そのポケモンとは、ノドカ達にも一度交戦経験があった。かつてアイクの部下である老人がシトリンシティで強襲を仕掛けてきた時、自分とソウスケとジュンヤと相棒達で応戦したが……辛うじてようやく撃退出来た程であり、あの頃の自分達にはかなり手強い敵だった。
だけど、今は違う。四天王であるハナダさんに鍛えてもらい、あの頃よりもずっと強くなったのだ……だから勝つ。恐怖を思い出し震える指先を仲間達の応援で必死に抑えて、気丈に彼らを睨み付ける。
残されたポケモンはお互いに一匹。間も無く決着が付くこの戦場を俯瞰するように、巨大な鉄扉は無機質に荘厳に佇んでいた。