ポケットモンスターインフィニティ - 第十二章 残された七日
第95話 逆境を越えて
 折り返しに近付きつつある決戦。陽光は午前の日射しに眩く煌めき、むせ返るような熱気に包まれた荒廃したバトルフィールド。
 嵌めた手袋の背で汗を拭い、滲む視界を拭い去る。眩く広がる戦場を望んだ少年は、大きく深呼吸をして対峙する青年を見据える。

「これで長い闘いも折り返しだ。……ふう、流石に疲労が溜まってきた、けど」

 フルバトルが始まってから絶えず熾烈な攻防が繰り返され、気付けば影が長く伸び始めていた。体力と精神にも疲労が見え始めてきたが……それでも、以前ツルギと交わした総力戦の時に比べれば心身共に余裕がある。

「よし、まだ十分闘える。オレ達もしっかり成長してるんだ」

 これも鍛練の成果というものだろう。
 前回は差をつけられて敗北したルークさんとも互角に渡り合えて、確かに前に進めているのだと肌で感じる。これまでの戦いは決して無駄ではなかった、今に繋がっているのだと。

「はっは、この旅で随分強くなったみてえだなジュンヤ君。流石だよ、よくも君みたいな少年が此処まで来れたもんだ!」
「みんなが居てくれたからです。オレは一人じゃ強くなれなかった……沢山の出会いが、オレを鍛えてくれました」

 脳裏を過るのは、数え切れない出会いと別れ。強くならんと繰り返した数多の闘いと、大切なものを守る為に幾度と悪の枝葉と交わした戦い。
 挫けそうになった時にいつも傍に居てくれたのが、自分を励まし背を押してくれる優しい女の子と、どんな時でも諦めず前に進もうと燃えてその背中で勇気付けてくれた男の子……昔から同じ日々を過ごして、同じ時を刻んで来た幼馴染み。
 相容れぬ信条を掲げ立ち向かう宿敵、かつて死に別れたと思っていた親友、幼いながらも強く優しい少女……。

「みんなに感謝だな、……本当に強くなったぜ。今のジュンヤ君達なら、幹部とも戦えるかもしれねえぜ」
「ありがとうございます。その為に鍛えてきましたから……そう言って頂けるのは、嬉しいです」

 自分は一人では強くなれなかった。数え切れない出会いと別れがあったからこそ、自分は此処に辿り着くことが出来たのだから。
 エイヘイ地方の未来を賭けた戦い……生半可な強さと覚悟では到底勝つことなど出来ない。だからそれを手にする為に必死になって鍛えてきたが……少なくとも今の自分には、ある程度は備わっているということだろう。

「だが君達の快進撃はそこまでだ。最後のジムリーダーとして、レジスタンスのリーダーとして、何より一人のポケモントレーナーとしてそう簡単には負けられねえからな!」

 ドサイドンは能力が飛躍的に上昇している、並大抵のポケモンに止められるものではない。にも関わらずこれだけの余裕……恐らく後続はきあいのタスキのような、耐え抜く手段を持っているのだろう。
 青年は柔い金色の髪を風に揺らし、勢い良く振りかぶって投擲した。紅い軌跡は空を裂き、蒼天を背に二つに割れると紅い閃光が迸って行く。

「だからこいつで止めてやるよ。来い、その瑞々しい力で奴を貫け……ナッシー!」

 光が象る巨木の影。まとわりつく赤光を払うように幹を揺らすと、羽状の葉が広げた掌の如く繁る中に三つの果実の顔が嗤っていた。
 続けて現れたのはがっしりとした幹の胴体、爪の伸びた二足で力強く大地を踏み締める椰子の木。歩く熱帯雨林と呼ばれるやしのみポケモンのナッシーだ。

「こいつも強いぜ、気を付けな。早速行くぜジュンヤ君! ナッシー、エナジーボール!」

 開幕を告げるように空に向けて放たれた、自然の力を凝縮させた深緑の光球。高く高くへと昇った球は頂点に達するとふわりと浮いて……瞬間、熟れたバンクシアのごとく炸裂し、無数の光弾が雨となって降り注いでいく。

「……っ、そんな攻撃まで出来るのか」
「さあ、これを避けられるかなジュンヤ君、ドサイドン!」

 宙を閃く容赦の無い苛烈な攻勢に、少年は思わず帽子のつばを下げて息を飲む。もしロックカットで素早さが格段に上がっていなかったらどうなっていただろう、あるいは……為すすべなくやられていたかもしれない。

「だけど……今なら当たらない、一気に攻め込むぞドサイドン!」

 苛烈に降り注ぐ光の雨をドサイドンは風となってすり抜けていく。それすら織り込み済みなのだろう、待ち構えていたヤシの木は眼前に躍り出た際へ再びエナジーボールを発射するが……半身を切って容易く躱す。そして天を衝く巨大なドリルの角を超高速で回転させて、

「決めろドサイドン、メガホーンだ!」

 重く鋭い渾身の一撃がナッシーを貫き、なお余りある威力に耐え切れず凄まじい勢いで吹き飛ばされた。為すすべなく壁面に叩き付けられ、その衝撃で壁が深く陥没してしまった。

「やったあ! 決まった……よね?!」
「どうかなノドカ、見たまえ」

 ノドカが思わず歓喜をあげる。ヤシの木は深くめり込み、風が吹くとぼろ切れとなったタスキが空に舞い上がった。なお広がる亀裂を背に崩れ落ちた彼が、おもむろに顔をあげるとその眼は青く爛然と輝いていて。

「うそ……」
「……やっぱり持ち物はきあいのタスキか! 構えてくれドサイドン!」
「わりいなジュンヤ君、ぼくはぬるい攻め手は使わんぜ。今だナッシー、放て!」

 やはりナッシーは耐え抜いてみせた、そこまでは想定の範囲内だ。だが彼はなお不敵に笑う、そして高らか空に叫んだのは……。

「さあ、トリックルームだ!」
「……く、しまった……!」

 発動されたのはトリックルーム。広大なバトルフィールド全体を瞬く間に方陣が覆い尽くし、淡く煌めく長方形の結界はついに戦場を包み込んでしまった。それは今までにも幾度か経験した摩訶不思議な世界、遅いポケモン程速さを得る反転空間。
 想定していなかったわけではない、だが……現況を打開し逆転するに最も相応しい一手を打たれ、思わず歯噛みしてしまう。

「この時を待っていたぜ……これで一気に形勢逆転だな。さあジュンヤ君、ドサイドン……トリックルームへようこそだ!」
「……っ、してやられました、流石です。エルレイドが倒された時のケアも考えてたってことですね……いくら能力を上げられても良いように」
「勿論さ、あらゆる最悪の状況を想定してその対策も事前に立てておく。それが出来る大人ってやつだ」

 してやったり、と青年は喜色満面笑顔を浮かべ、対する少年は焦燥を露に戦場を睥睨した。

「あーいつ、ホント性格悪いわよね。調子づいたところを一番最悪の手で潰しに来るんだから」
「いけませんわよハナダ、己の不甲斐なさを棚に上げちゃあ。貴女がその程度だったというだけですもの」
「うるさいわねタマムシ、思い出させないで! クチバ、ほらアンタも何か言ってやってよ!」
「自分か、確かに自分も以前はしてやられた。然り、ルークは的確に相手の機微を読み弱点を穿つ、其の洞察力は感嘆に価する」
「そっちじゃないけどアンタホント良いやつね! はいはい、アタシが悪かったわよ!」

 観客席で苛立ちを吐き出す少女へ困ったように微笑む二人。審判を務めていたグレンは彼らを振り返ると、その団欒に若干の羨望と呆れを抱きながら、苦笑と共に戦場へ向き直った。

「さあ上げていくぜナッシー、奴は今の君には到底追い付けない、一気にカタをつける! エナジーボール!」

 きあいのタスキで耐えたと言っても、最早体力は残り僅か。だが……それだけ残されていれば十分だ。
 空へ撃ち上げられた深緑の光球は蒼天を仰いで刹那に爆ぜて、無数の弾丸となり再び容赦なく襲い掛かってくる。だが先程と違うのは敵が瞬間移動にも等しい高速を得たこと、そして……その弾速が著しく上昇していることだ。

「……っ、アームハンマーで迎え撃つんだ!」

 辛うじて反応が間に合った。幾つかの弾丸を砲台の豪腕で弾き飛ばし、頭上に迫っていた他の光弾へぶつけて消滅させる。だが……気付けば深緑の光球が眼前と後方から同時に迫っていて。

「はっは、これはどうかなジュンヤ君!」
「迎え撃つんだドサイドン、ストーンエッジ!」

 尾で力強く大地を打てば、ドサイドンを覆うように周囲に大地の牙が突き上げる。二つの光球は岩槍に穿たれ霧散して、それを見届けたルークは口元を弓なりに歪めると「ナッシー、エナジーボール!」宙を指差し指示を飛ばした。

「こっちの消耗狙い……いや、まさか!」
「ああ、生憎ぼくはそんなぬるい手は使わないぜ! 続けてサイコキネシス!」

 瞬間破裂した光弾は無数の弾丸となり、雨のごとくに降り注いでいく。そしてナッシーの眼が青く輝くと弾丸全てを強力な念力により掌握し、全方向から一斉にドサイドン目掛けて放たれた。

「こうなったら……ロックカット!」

 力強く大地を殴り付けると、舞い上がった砂塵の嵐が防御壁となり吹き荒れる。だが……全てを遮るにはいかなかった、次第に嵐は掻き消されてしまう。

「そんな……ドサイドン!?」

 そして夥しい弾丸に砂塵を貫かれたドサイドンは光弾の雨に呑み込まれ、衝撃で撒き散らされた砂煙の中に消えてしまった……。

「ドサイドン、戦闘不能!」

 やがて景色は晴れて行き……浮かび上がったのは、虚しく溢れ落ちた砂に塗れて地に伏す一匹の鎧犀。審判が下り、彼は瞼を伏せて動かない身体を鞭打つように大地を強く握り締め……力尽きた。

「……ありがとうドサイドン、よく頑張ってくれたな。おかげでエルレイドを倒せたよ、だから後は任せてくれ」

 モンスターボールを掲げれば、微かに煙る視界を割く紅い閃光が迸る。光は戦闘不能と果てたドサイドンを暖かな輝きで包み込み、紅白球へ集束していくと広い戦場ではヤシの木が歓喜に掌状の葉を踊らせた。

「ドサイドン、ゲンガー、ファイアロー……お前達が居てくれたからあのエルレイドを倒せたんだ。本当に助かったよ」

 右手に握り締めたカプセルの中で、敗北の悔しさに拳を握り締める彼に優しく言葉を投げ掛ける。それでもなお納得が出来ずに、もっと暴れたかったと言わんばかりに口を尖らせるが、「はは、ありがとな、気持ちは嬉しいよ。大丈夫、このくらい巻き返してみせるから」と返事をすれば、照れ隠しを見透かされた恥ずかしさに顔を逸らしたドサイドンは狸寝入りをしてしまった。

「いじっぱりだなあ本当に。素直に『仲間達の為にもっと活躍したかった』って言えば良いのに」

 呆れ混じりに苦笑を零すジュンヤの言葉は、どうやら眠っているドサイドンには届いていないようだ。微笑みながらボールを腰に装着し、彼は残された片方の紅白球を手に取った。

「これでトリックルームの相手をするのは三回目だけど、相変わらず厄介だな。この逆境を巻き返すには……これしかない」

 遅いもの程速さを得る摩訶不思議なトリックルームの世界を破るには幾つか方法があるが、今の自分が取れる手段は一つだけだ。
 残されたポケモンは最早ゴーゴートとライチュウ、たったの二匹。一手見誤れば即敗北に繋がるこの窮地、緊張に嫌に鼓動が速くなるが……こんな時、いつも勇気をくれるのが幼馴染みだ。

「ジュンヤ、だいじょうぶよ。あなたならこのくらい何とかなる、だから……がんばってね!」
「窮地と好機は紙一重。この逆境も君達なら跳ね返せるさジュンヤ、諦めるんじゃないぞ!」

 ノドカとソウスケ、二人はいつでもオレが弱気になった時には励ましてくれる。状況だけ見れば圧倒的に不利なこの窮地、だが……確証もないのに、そう言ってもらえると不思議と何とかなる気がするからすごい。

「……行けるよな、ライチュウ」

 構えた紅白球の内では電気鼠が力強く両手を握り締めて、頬を派手にスパークさせている。彼もやる気だ、攻略法……と呼べる程大したものでは無いが、一応あるにはある。ならば……彼のやる気を無駄にしない為にも負けるわけにはいかない。

「よし、巻き返してみせる……お前に任せたぞライチュウ!」

 投擲されたモンスターボールから溢れ出す赤光を払い、現れたのは長く伸びた尾の先に稲妻型の集電器官を携えた、大柄な橙色の電気鼠。
 頬の黄色い電気袋からは抑え切れない電気を溢れさせ、長い耳を垂直に立てて準備が万端だというとこを表していた。
 彼もモンスターボールの中で闘いを見ていた、ある程度はどう攻めてくるか分かっている。ここまで必死になって戦ってくれた仲間の為にとやる気を溢れさせていて、全身に蓄えた電気は空気を焼いて焦げっぽい匂いが辺りに漂う。

「へ、君にしては随分思い切った大胆な対策だな。トリックルームで相手が速くなっているなら、それを上回れば良いだけだ……なんてよ」
「悔しいけど、今のオレ達にはそれしか打つ手が無いですから。だったら出来ることをやるだけです」

 帽子のつばを下げて顔を隠し、我ながらなんて作戦だ、と少年は溢れた苦笑を隠した。
 電気鼠は振り返ると力強く頷いて拳を握り締め、指示を待っている。自分達なら絶対に 行ける、この先に待つ勝利を信じて。

「さあ、それじゃあ攻め込ませてもらうぜ、エナジーボール!」

 宙に撃ち上げられた光の球体が熟れた果実のように弾けて、炸裂した無数の光弾は五月雨となって降り注いでいく。

「続けてサイコキネシスだ!」

 更にナッシーの眼が青く輝けば、夥しい光弾全てが意思を持つ楔となって前後左右から縦横無尽に襲い掛かってくる。だが……天を仰いだ彼らは、物怖じすることなく高く叫んだ。

「……お前の速さなら行ける。突破するんだライチュウ、でんこうせっか!」
「っ、このバトルに備えて覚えさせてきやがったか!」

 そう易々と食らってやる程彼らものんきではない。電気を全身に巡らせ身体機能を最大限まで高めると、戦場を駆け抜ける一筋の閃光となり追尾してくる無数の光弾を次々と躱して突き抜けていく。
 「まずい、距離を取れナッシー!」目にも留まらぬ超高速、気が付けば至近距離まで接近を許してしまっていた。

「もう一度エナジーボール……いや」

 咄嗟に眼を閉じて戦場の対端へと移動したナッシーを見て、ルークは僅かの逡巡の後に決心をした。それに気付いた彼も主の決断に覚悟を固める。
 電光石火の超高速を相手にしては、トリックルーム下でもいつまで逃げ切れるのか分からない。そしてこの空間が終われば元も子もない、ならば……。
 戦場の端と端とで電気鼠と椰子が睨み合い、緊張の糸が張り詰めた。

「しかたがねえ、行くぞナッシー! ……だいばくはつ!」
「もう一度でんこうせっかだライチュウ! 頼む、間に合ってくれ……!」

 これ以上の継戦は難しい、ならば最後に花火を上げる。ナッシーは決意を固めて全身に漲るエネルギーを高まらせていき、膨張し抑え切れない力は閃光となって四方八方に溢れ出していく。
 このままでは全てを破壊し尽くす大爆発が起きてしまう。身体中に電気を駆け巡らせたライチュウは大地を蹴り付け、超高速の弾丸となって広い戦場を駆け抜けた。

「相変わらずねアイツは、本当性格悪いと思うわ」
「っ、まずいぞジュンヤ! ライチュウを倒されては敗北は必至だ!」
「まにあって、ください……!」
「お願いライチュウ、届いて……!」

 皆が口々に焦燥を、あるいは呆れを浮かべて、ノドカが固唾を飲んで勝利を祈る。
 なおもナッシーは膨張を続け、抑え切れない力の高まりに大気が激しく震動していく。身体から溢れ出す光が必死に戦場を切り裂くライチュウごと辺りを照らし、エネルギーが、ついに最大限まで達してしまった。そして……。

「……これで」

 ……腹部を、紫電の弾丸が貫いた。
 速さだけしかない一撃、だがそれだけでも十分だった。既にドサイドンにより満身創痍に追い込まれており、僅かな余力で繋ぎ止めていたのだから。
 空は鳴動を止め、膨張していたエネルギーは急速に収縮を始めていく。そしてついに意識が途絶えたナッシーは、数歩よろけた後に仰向けになって倒れ込んだ。

「……ナッシー、戦闘不能!」
「……ふう、危なかった。ゼブライカに対抗する為にでんこうせっかを入れたけど、こんなとこで役に立つなんてな」

 安堵に胸を撫で下ろした少年は、冷や汗を拭って深く息を吐き出した。そしてバトルフィールドで安心して尻餅をつきながら後ろ足で耳元を掻いているライチュウへ「よくやったな、すごいぞ!」と声を掛ければ、彼は嬉しそうに両手を上げた。

「はは、参ったね。まさかライチュウにでんこうせっかを覚えさせてくるとは足を掬われたぜ」
「そうでもしなきゃゼブライカには対抗できない……と思ったんですが、意外なところで役に立ちました」
「はは、違いねえ。賢明な判断だぜジュンヤくん」

 元から並大抵のポケモンを追い抜ける速さのライチュウにはあまり必要の無いその技が、全く予想だにしない形で勝負をひっくり返したのだ。互いに予想外な展開に、どちらともなく苦笑を溢してしまった。

「お疲れ様ナッシー。良い働きをしてくれたな、おかげで勝利が近付いたよ」

 労いと共に戻した椰子は申し訳なさげに見上げてきたが、とんでもない、彼は十分すぎる働きをしてくれたのだ。そう伝えると安堵に三つの顔が明るくなり、ようやく安心できたのか一斉に眠りについた。

「よくもこの逆境を跳ね返せたよ。大したもんだ、このまま全抜きするつもりだったってのに」
「オレ達はこの旅の中で、数え切れない程困難に立ち向かって来ました。そう簡単にはやられませんよ!」
「はは、そいつもそうだ」

 ジュンヤくん達はオルビス団やツルギくんを始めとした、多くの強力な敵に立ち向かって来た。今更一つや二つの困難でやられる程にやわではない。
 侮っていたわけではない、だが……此処まで追い詰められると、素直に感嘆が溢れてしまう。

「参ったね、これでぼくも残されたポケモンは僅かの二匹。だったら……もう、出すポケモンはバレちまうか」
「ええ、来てください! オレのライチュウもリベンジに燃えていますから!」
「おう、見せてやるよぼくの五匹目のポケモンを! 次は君に任せたぜ……ゼブライカ!」

 ルークはナッシーを戻して新たな球を構えると、勢い良くスーパーボールを投擲した。
 夥しい光を切り裂き現れたのは雷電を操る漆黒の馬。全身に迸る稲妻の白い縞模様を浮かべ、雄々しく逆立つたてがみと天を衝く双角を備えたらいでんポケモンのゼブライカ。

「あいつは稲妻の瞬発力の持ち主だ、簡単に勝てる相手じゃない。だけど、トリックルームの発動されている今ならお前の方が速い! ライチュウ、かわらわりだ!」

 暫時の睨み合い、先に動き出したのはジュンヤ達だ。
 紫電一閃。目にも留まらぬ高速で駆け抜けていく電気鼠。眼前に躍り出て尾の伸ばし、その首元を穿たんと突き出した。だが余裕を崩さずに佇むゼブライカは、不敵な笑みを浮かべて腰を落とした。

「さあて、それはどうかな?」

 瞬間電気鼠を越える高速で動き出したゼブライカは、ライチュウの真横を通り抜けると背後に回り込み力強く大地を踏み締めて腰を浮かせた。

「なっ、ライチュウよりも速い……!?」
「へ、意表が突かれたろ。やれゼブライカ、にどげりだ!」
「……っ、受け止めてくれ、アイアンテール!」

 そして渾身の力で両足が突き出され、咄嗟に鋼鉄の尾を翳して受け止めるが衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされてしまった。
 尻尾を地面に刺して勢いを殺し着地する電気鼠だが、彼は速度で上回られたことに驚き目を白黒させてジュンヤを振り返る。

「あ、あれ? トリックルームって遅い方が速くなるんだよね、なのに……どうして?」
「分からない、だがジュンヤの口振り的に本来ゼブライカの方が遅いということは無いはずだ」

 ライチュウ同様に頭に疑問符を浮かべるノドカ達と、真っ先に理解して短く頷くジュンヤとツルギ、レンジ。だが一人、でんきタイプを相棒とする少女は「あっ、分かりました……!」と、合点がいって思わず叫んだ。

「……っ、そっか、帯電量の差です! ゼブライカは意図的に電気の量を抑えてライチュウよりも遅くなってる、だけど……」
「は、その子の言う通りさ。ライチュウはさっきの攻防で最高速に達せるだけの電気を生み出してしまった、今から遅くなるのは難しいよなあ!」

 そう、でんきタイプのライボルトを相棒とするエクレアだからこそいち早く気付くことが出来たのだ。調子良く煽るルークに、ハナダやタマムシは呆れと苦笑のない交ぜになったため息を吐く。

「その場凌ぎじゃなく先の展開を見据えて闘っている……流石です。だけど、オレ達だって……!」

 トリックルームは本来雷速が何よりの長所のゼブライカには相性が悪い。だが……なお臨機応変に動きこの空間を活かすルークの対応力に、流石のジュンヤも息を巻いた。電気鼠が悔しそうに牙を剥いて対峙する雷馬を睨み、雷馬は冷静に蹄を鳴らして佇んでいる。

「それじゃあツルギくん、もしトリックルームが切れても……」
「ああ、帯電により上回られる」
「最強のジムリーダーを豪語するだけある、本当に厄介な立ち回りばかりだね。この状況……どうやって巻き返すんだい、ジュンヤ?」

 確かに、ライチュウ得意のでんき技もでんきエンジンにより効き目が無く自慢の素早さでも上回られている。このままでは勝ちの目が限り無く低い、それでも……可能性は必ずゼロではない。
 相手の特性を利用して敢えて加速させようにも、易々とは食らってくれないだろつ。何より徐々に朧に霞み始めたトリックルームの消滅までに勝負を決めきるのは至難を極める。だから、まずは。

「防戦に徹するんだ、トリックルームの消滅まで耐えてくれ!」
「へ、来ないならこっちから行くぜ、接近しろゼブライカ!」

 相手も今下手に電気を放てば追い越してしまうからだろう、技の選択を縛られている。
 不思議な空間の後押しを受けて、瞬く程の超高速で駆け抜ける雷馬はすぐさま電気鼠の眼前へと躍り出て。

「分かってるな! 迎え撃てライチュウ、かわらわり!」
「躱してにどげりだ!」

 僅かの逡巡も無い、彼は一切速度を緩めること無く真正面から攻撃を仕掛けて。敵を穿たんと突き出された稲妻形の尾を首を軽く傾けることで頬を掠めながら突っ込んで来た。
 まず左前脚で蹴り上げて、続けて右前脚で力強く蹴り飛ばす。重く鋭い一撃にその身体が宙に浮いて、吹き飛ばされてしまうライチュウだが……そこからがジュンヤの言った言葉の意味だ。
 勢いを殺し切れずに投げ出されてしまった電気鼠は、しかしそんなことは予測していた。直ぐ様長い尾を伸ばしてその先端の稲妻型をゼブライカの首に引っ掛けて、力強く自身を手繰り寄せると雷馬の顎を渾身の力で蹴り上げた。

「よし、まずは一撃やり返したぞ! まだ大丈夫だよな、ライチュウ!」

 主の声に、彼は当然だ、と言わんばかりに笑いながら振り返る。ゼブライカは募る苛立ちを抑えるように対峙する電気鼠を睨み付けると、もう十分だ、と言わんばかりにその身体を激しく帯電させていく。

「やるねえ、だったらこいつはどうだ! 行くぜゼブライカ、かみなりだ!」
「地面に尻尾を突き刺すんだ!」

 昂る感情に呼応するように、電気を帯びて逆立つたてがみから荒ぶる稲妻が迸っていく。紫電は太く一本へ束ねられると大地を穿ち破片を撒き散らし、命令と共に地面へ尾を突き立てた電気鼠を貫いた。
 身体に流れ込む電流、直撃すれば効果は今一つといえど無傷では済まないが……アースの役割を果たした尾を伝って雷が流し込まれた戦場は瞬く間に捲り上がって、遅れて雷鳴が仰々しく轟いた。

「っ、便利なことをしやがるぜ。よく生態を活かして偉いなジュンヤくん!」
「ええと、今のは……」
『ライチュウ。ねずみポケモン。
 尻尾がアースの役目を果たして電気を地面に逃がすので、自分自身はしびれたりしない』
「あ、なるほど。それでかみなりもあんまり効き目がなかったのね!」

 このバトル、ノドカでは理解が追い付かないことが多すぎた。誰かに聞いてみる前にポケモン図鑑を開いてみた彼女は、その説明で何となくだが納得をする。
 そして……戦場全体を覆っていた摩訶不思議な空間が、幾度か明滅を繰り返すと不意に露と消え失せた。トリックルームは時限制で展開される、攻防を繰り返す中で時間切れとなったのだ。

「よおし終わりか、此処からはぼくらも全開だ! ジュンヤくん、ライチュウ、ぼくらの本気についてこれるかな?」
「勿論です。ついていきます、越えてみせます……だよな、ライチュウ!」

 その呼び掛けに、抑え切れない電気を散らし興奮しながら電気鼠は腕を掲げた。
 此処からは全力でぶつかり合える。己を縛る枷が外れて二匹はまさに目の色が変わる、抑圧せざるを得なかった力を惜しみ無く解き放ち、戦場は激しく迸る火花に焼かれていくと焦げ臭い匂いが漂い始めた。

「早速行くぞゼブライカ、ワイルドボルト!」
「迎え撃つんだ、かわらわり!」

 これで何者にも縛られない。悦びに震える雷馬は高く響く嘶きと共にたてがみから膨大な電気を解き放ち、それを自らの鎧と纏い大地を蹴り付けた。
 一筋の稲光が轟きと共に走り抜け、しかし軌道を読んでいた電気鼠は咄嗟に横に跳躍する。突撃してくる雷馬が一睨と共に真横をすり抜け、すかさず振り上げた尾の先端が腹部を鋭く突き刺すと、その表情が僅かに歪んだ。
 見事に急所に入ったようだ、ライチュウは得意になって拳を握り締め、ジュンヤも「偉いぞライチュウ、その調子だ!」と声を掛ける。

「やるねえ、だが既に速度は十分上がった!最早誰も追い付けねえさ、もう一度ワイルドボルト!」
「あそこまで速くなったらもう避けられない……受け止めてくれライチュウ、アイアンテール!」
「だろうな、君はクレバーだから的確に対応してくる……だからこそ読めるぜ! 突き破れ、にどげり!」

 超高速で眼前に迫ったゼブライカは、しかし急停止して地面を滑り、砂塵が巻き上がる中に力強く逞しい脚を突き出した。左脚、一度目の蹴撃で盾と翳される尾を弾き、二の太刀で電気鼠の腹部を蹴り付けるとそのまま高くへ打ち上げた。

「さあ行くぜ、焼き尽くせゼブライカ! オーバーヒート!」

 そして極大の灼熱光線が放たれて、身動きが取れず目を見開いているライチュウを青空ごと赤く焼き尽くしていく。
 やがて爛然と燃えていた破滅の焔は収束を始め……瞼を伏せた電気鼠が、地上へ向けて落下した。

「ライチュウ!?」
「……大丈夫だ、そうだよなライチュウ!」

 その呼び掛けに、彼は瞼を見開きすかさず体勢を整えて着地を見せた。ライチュウは身体のあちこちが焦げ、肩で息をしているがそれでも無邪気に笑ってみせる。純粋に楽しいからこそなのだろう。
 ゼブライカが懐から取り出した、能力の低下を回復するしろいハーブを頬張って下がった特攻を回復し、ルークはそれくらいは耐えてもらわなきゃ困る、と笑顔を浮かべた。

「さあ、こいつで終わらせてやるぜ! 決めろゼブライカ……ワイルドボルト!」

 この攻撃を避けられない、だが疲労困憊のライチュウでは直撃すれば耐えられない。一体、どうやってやり過ごせば……。
 雷光を纏い、身構えるゼブライカに必死に思索を巡らせたジュンヤは……「そうだ、試す価値はある!」この闘いを振り返り、一つの策に思い至った。

「……あいつに勝つにはこれしかない。終わらせません、行くんだライチュウ……ボルテッカー!」
「ジュンヤ、なんで……ゼブライカが速くなるだけだよ!?」
「てめえ、血迷いやがったか!?」

 その指示にノドカだけではない、ソウスケやレンジまでもが意図を図りかねていて思わず叫んだ。
 ライチュウは困惑を浮かべながらも電気袋に蓄えた膨大な力を解き放ち、夥しい紫電を鎧と纏い雷光と見紛う超高速の弾丸が弾き出された。
 二条の稲光が閃いて、夥しい稲妻を撒き散らしながら突き進む双雷が戦場の中心でぶつかり合った。荒々しく猛る電気が轟いて、どちらともなく飛び退ったが、かたや反動に歯を食い縛りながら焦燥し、かたや昂る興奮を浮かべていて。

「敵に塩を送るとはこの事だな! 君のことだ、何か企んでいるのだろうが……真正面からブッ飛ばしてやるぜ!」

 高らかに笑うルークに呼応するように、全身から激しく火花を散らして嘶く雷馬。そう、ゼブライカの特性は“でんきエンジン”、でんきタイプの技を受けた時にそのエネルギーを全て自身の力へと変えて加速する特性だ。
 ただでさえポケモンの中でも屈指の素早さを持つゼブライカだ、それが加速してしまっては手が付けられない。だが振り返って映ったジュンヤの目を彩るのは諦めではない、ならば……きっと、大丈夫だ。

「ゼブライカ、もう一度ワイルドボルト!」
「……行くぞ、もう一度ボルテッカーだ!」
「はっは、諦めな、いくら辛うじて凌いだところで……」

 再び激しい稲光が迸り、広大なバトルフィールドを切り裂き瞬く間に駆け抜けていく。だが少年は僅かの逡巡もなく指示を飛ばし、「……そういうことかよ。っ、躱すんだゼブライカ!」ここでようやく青年も思惑に気付き、焦燥を浮かべ指示を飛ばしたが……既に遅かった。
 稲妻に追い付くあまりの速度に、呼び掛けた時には既に急停止もカーブも間に合わない。再びぶつかり合った稲妻は激しく辺りを焼き尽くしていき……ゼブライカは、どんどん高まっていく己の力に、鼻息を荒く大地を蹴り付けた。

「……しかたねえ、ゴーゴートヘ温存したかったが……ここで仕留めるぞゼブライカ、オーバーヒート!」

 対する電気鼠を追い詰めたつもりでいたルークだが……袋小路に立たされていたのは自分だったのだと、ここに来てようやく気が付いた。これ以上闘いを長引かせれば、ただでさえ懐から奪われ始めた勝ち目が更に無くなってしまう。
 かみなりではライチュウを捉えることが出来ない、ならば撃てる技はこれだけしかないと彼は一気に勝負を決めに来た。

「真正面から受けて立ちます! ライチュウ、ボルテッカーだ!」

 一帯を焼き尽くす灼熱の光線が迸り、凄まじい熱気と共に眼前へ炎が迫って来る。
 同時に全身に雷を鎧と纏い、弾き出された紫電の弾丸。荒ぶる稲妻が辺りを砕き、降り掛かる焔を焼き焦がし灼熱の中を突き進んでいく。

「いけ、押し切るんだライチュウ!」

 そして、三度稲妻が雷馬を貫いた。夥しい電気がゼブライカの全身に駆け巡って行き、その身体全体に飲み込まれていく。
 ボルテッカーの勢いまでは殺し切れない、数十メートル程後退ったゼブライカの目は力強く見開かれていて、鼻息を荒く叫んでいた。

「ね、ねえ……ゼブライカ、どうしちゃったの?」
「それはですね、多分」
「鬱陶しい、ポケモン図鑑を開け」
「あ、うん、ありがとねツルギくん!」
『ゼブライカ。らいでんポケモン。
 激しい気性の持ち主。荒ぶるとたてがみから雷を四方八方に放電する』

 言われて開いたノドカはポケモン図鑑を読んでいく。
 ……気性が荒いらしいけど、さっきまではゼブライカ大人しかったし。稲妻のような瞬発力は関係ないだろうし。少女が困って苦笑を零すと、彼は呆れたようにため息を吐いた。

「……元来ゼブライカは気性が荒い。それに、一説ではでんきタイプは帯電量の増加がストレスに繋がると言われている」
「そっか、そういえばさっきライチュウのとこに、たくさん電気が溜まってる時は攻撃的になるって書いてあったけど……」
「ああ、奴も興奮状態に陥っている。それが狙いだろうな」
「……全部、言われてしまいました……」

 ツルギの解説に、ノドカやソウスケが「なるほど」とスッキリした顔で頷いて、エクレアは自分が言いたかったのだとがっくり肩を落とした。

「まさかこんな方法で突破しようとするとはな! ゼブライカ、ぼくの声が聞こえるな!」
「今だライチュウ、懐に潜り込んでくれ……でんこうせっか!」

 果たして声は届いているのか、いないのか。ついに抑え切れなくなったゼブライカは、雄々しく猛る咆哮と共に天を仰ぐとたてがみから溜まり切った凄まじい雷電を無作為に放出し始めた。
 降り注ぐ無数の雷を躱しながら、高速で広大な戦場を駆け抜けていく電気鼠。
 激しく幾重にも枝分かれして迸る稲妻の穂先は深く周囲を穿ち砕き、大地は焼け溶け、夥しく降り注ぐ乱雷は近付くにつれその密度を著しく増していく。

「……大丈夫だ、お前なら行けるさライチュウ!」

 標的まであと数メートル。蜘蛛の巣の如く張り巡らされた稲妻の束に思わず尻込みしてしまうライチュウだが、主の一言が背中を押した。

「……ゼブライカ、溜め込んだ全てを解き放てえっ! ワイルドボルト!」
「いくら速くたって、軌道さえ分かれば対処は出来ます! 迎え撃てライチュウ!」

 まさに稲妻のごとく。音すら置き去りにする雷速が戦場を切り裂き、ゼブライカは凄まじい雷電を纏い突き進んだが……ライチュウの姿が、気付けば眼前から消えていた。
 ルークが叫ぶ、「……背中だ、振り落とせゼブライカ!」と。そう、一度雷馬が放たれれば追い付けない、だからあらかじめ跳躍して身構えておき、伸ばした尻尾を眼下を通り抜ける際に引っ掛けて背中にしがみついたのだ。

「そうはいきません、これがオレ達の最後の勝機なんですから!」

 溢れ出す夥しい雷光の穂に視界が遮られ、興奮しているゼブライカはおろかルークすらも電気鼠に気付くのが僅かに遅れてしまい……その一瞬が、勝敗を分けた。

「……決めろライチュウ、かわらわり!」

 尻尾は今だ絡めたまま。文字通り馬乗りになったライチュウは迸る雷電に身を焼かれるのも厭わずに、暴れる背中に必死にしがみついている。
 主の指示と共に全霊を込めた拳を振り下ろし、ごっ、という鈍い音と共に渾身の拳が首筋を貫いた。
 ……そして、遅れて耳をつんざく雷鳴が轟いた。ゼブライカはしばし駆け抜けた後に脚をもつれさせると、勢いを失い地面へ横倒しに倒れ込む──。

「……ゼブライカ、戦闘不能!」
「っ、速くなっても活かせなきゃ宝の持ち腐れだ。粋なことしてくれるぜ」

 背中から飛び退いたライチュウは用心深くその様子を見つめていたが、グレンの審判と共に肩の荷が降りたように深く息を吐き出した。
 ルークは感嘆と悔しさのない交ぜになった声を吐き出して、口元に笑みを浮かべるとスーパーボールを取り出した。

「お疲れ様ゼブライカ、よくやったな、あとは任せろよ。しかたねえさ、あんな戦法を取られたら流石に君だってどうしようもない」

 蒼と白の球から閃光が迸り、雷速の縞馬を優しく包み込んでいく。赤光の抱擁の中で謝罪を述べる彼に対して青年は「相手が上手だった」と優しく微笑み、ゼブライカはこの先に待つ勝利を信じて光と消えた。

「……はっは、これでぼくも最後の一匹か。まさかまさかだよ、たったの一週間と数日で最強のジムリーダーと渡り合う程に強くなるなんてな」
「大切な約束を果たす為に頑張ったんです。オレ達は勝ちます、あなたの最後の切り札にも」
「本当によく頑張ったよ君達は。だがぼくらも負けるわけにはいかねえのさ、だから……覚悟するんだな」

 腰に装着された最後の一つ、バンギラスが己の出番はまだかと待ち侘びるカプセルを掴み取った青年は瞳を蒼く燃やして嗤う。
 最後に残されたのはカイリューやメタグロス達と共に最強の一角を成すポケモンの一匹。だが……諦めるわけにはいかない。

「大丈夫さライチュウ、オレ達ならきっと勝てる。……だから、行こう」

 ルークに残されたポケモンは残り一匹。ジュンヤに残されたのは残り二匹。空気は緊張に冷たく張り詰め、この場に居た誰もが強大な力の予感に息を呑み込む。
 勝ち残るのは果たしてどちらか……泣いても笑っても間もなく決する。譲れない願いを胸に掲げ、巨悪への憤怒を心に萌やし、仲間達の想いを背負い、ついに……最後の闘いが幕を開ける。

■筆者メッセージ
ノドカ「ついにもうすぐバンギラスだねー!スッゴい強いんだろうなあ……がんばってねジュンヤ!」
ソウスケ「すごい強いなんてものじゃあないぞ!片腕を薙ぐだけで山が崩れるからな!」
レンジ「そして山を守ってるボスゴドラが頑張って山を元の形に戻すらしいぜ。かわいそうにな」
ノドカ「ボスゴドラえらいのに、かわいそう…」
ルーク「しかたねえだろ事故なんだから。バンギラスも崩れただけだって言ってるぜ」
レンジ「事故で済んだら警察はいらないんだよ!」
ルーク「事故で済むじゃねえか!君日頃休まず頑張って働いてるお巡りさんに謝ってこい!」
レンジ「断るぜ、なあボスゴドラ!」
ルーク「認めないからな!」
ツルギ「鬱陶しい」
ジュンヤ「……なあ、そろそろバトル再開して良い?」
サヤ「おつかれさま…です」
せろん ( 2019/09/19(木) 15:03 )