ポケットモンスターインフィニティ
















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第十二章 残された七日
第94話 信じる強さ、勝利求めて
 柔く降り注ぐ白い日射しは、燦々と輝く陽光が中天に近付くにつれ次第にその苛烈さを増して行く。突き抜ける蒼の広がる晴天は遮るものなく彼方へ広がり、眩い灼熱が煌々と荒廃した戦場を照らしていた。
 激闘の末にシャワーズとガマゲロゲが共倒れに終わり、残されたポケモンはジュンヤが五匹、ルークが四匹。だが状況は依然として変わり無く、此処で差を付けなければかなり険しい闘いになってしまう。
 互いにどのポケモンを出すか……この対面が命運を分ける。慎重に思索を巡らせていると、不意にルークが口を開いた。

「なあジュンヤ君、君は初めて相棒と出会った時のことを覚えてるか?」
「はい、勿論です。忘れるわけがありません」

 彼は左手に握り締めた紅白球を慈しむように見つめて、楽しそうに声を掛けてくる。勿論だ、忘れるはずが無い。メェークルは……今は亡き両親がオレの為に贈ってくれたポケモンで、いつもその勇敢さで助けてくれたから。

「ぼくは初めて自分のポケモンに出会ってからもう二十数年は経つけどよ、今でもよーく覚えてる。ぼくのかけがえのない最高の相棒だ」

 ルークは瞼を伏せて思い起こす、……今となっては底に埋もれた遠い過去の記憶、まだ幼い時分に出会った一匹のポケモンを。
 ある雨の日に出会った傷だらけのラルトスを拾ったぼくは母と必死に看病をしたが……目が覚めた途端に恩を仇で返すように攻撃して来やがった。
 どうやら野生のポケモンに仲間達が縄張りを侵されたらしい、それで助けを求めている間に……ということだそうだ。一緒に戦い、結局両者和解して平和に暮らすことになったが、ラルトスは子どもの頃のぼくになついて着いてきて。
 いや、エルレイドだけじゃない……ヤヤコマもシママ、皆との出会いは今でも強く心に刻まれている。傷付け合ったことも、皆と共に交わした数え切れない程のバトルも、スタンとの決戦も。

「へ、君が誰を出そうが関係ねえ、こいつで一気に切り崩す! このポケモンがぼくの最高の相棒、心の刃で全てを切り裂け……エルレイド!」

 だから信じてる、この先に待つぼくら皆の勝利を。その為に……相棒で流れを取り戻す時が来た。
 青く広がる午前を切り裂く一筋の軌跡。紅き閃光が宙に舞い、空中に線の細い一つの影が象られていき……赤光を払うように、鋭利な刃が踊って白く閃く。

「ぼくとエルレイドは数え切れない闘いを越えて来た。一緒にあらゆる修羅場を潜り抜けて来た。……さあ、こいつをどう攻略するのか見せてもらおうか!」

 柔く降り注ぐ陽光に照らされて輝く白鎧、光を浴びて煌めく刀。鶏冠の飾られた深い穏やかな緑兜を被り、胸に思念の凝固した紅い突起を備えた白騎士は、肘から伸びる緑刃を伸ばして礼儀正しく一礼をした。
 自ら次の手を晒すのは自信の現れ。何が来ても越えてみせるのだと言う確かな信頼……それは旅の中で培われた経験値があってこ1そのものだ。

「だったら……こいつで攻め込みます。ここはお前に任せた、ファイアロー!」

 対してジュンヤが繰り出したのはセオリー通りのひこうタイプ、疾風の翼で空を駆ける炎の紅隼。まとわりつく光を払うように大翼を羽撃たかせ戦場に舞い戻った彼は、口から火の粉を噴いて闘志を燃やしている。

「うん、相性は有利! これならきっと……!」
「相性だけならば、な。満身創痍のファイアローでは敵わない」
「む、やってみなきゃ分からないよ。なんでツルギくんはいつも勝手に決め付けるの、もうっ!」
「客観的な事実を言ったまでだ」

 嬉しそうに身を乗り出すノドカとは裏腹に冷たく言い放つツルギ。彼女は相変わらず否定ばかりする少年に憤りを見せるが、彼は一瞥もくれずに切り捨ててしまう。

「構わないさノドカ、言わせてやれ。見てるが良いさ、ジュンヤは君が思うような弱いポケモントレーナーではない」
「ああ、信じるのは自由だ。無駄に終わるだろうがな」

 闘いの余波で荒廃した戦場に佇む白騎士と、曇り無き空を背負い羽撃たく隼。緊張の糸が張り詰める中で互いの呼吸の音が響き、バトルフィールドを暫時の睨み合いが続いていく。

「……あいつ、攻めあぐねてやがんな」
「あう……相性は有利なのに」
「エルレイドは、相手の考えが分かる……です」
『エルレイド。やいばポケモン。
 伸び縮みする肘の刀で戦う居合の名手。礼儀正しいポケモン』
「なるほど、だからお辞儀してたのね!」

 ポケモン図鑑が電子音声で捉えた対象の説明を始めていく。
 えらいポケモンだなあ、なんて感心しているノドカだったが、ある一文を見て思わず「あっ!」と声をあげてしまった。そこには『相手の考えを敏感にキャッチする能力を 持つため先に攻撃ができるのだ』と、そう記してあったのだ。

「ほんとだ、サヤちゃんの言うとおり……! そっか、だからジュンヤは……!」

 辛酸を舐めるにも似た声色で零れたレンジの呟きを聞いて、難しそうな顔をしていたノドカにサヤが心配そうに補足を加えた。
 ポケモン図鑑の電子的な機械音声が無慈悲に響く。そう、先に攻撃をされては疲弊したファイアローではかなり厳しい、『満身創痍では敵わない』とは……先手を取られれば、一撃で倒されかねないからなのだろう。

「このまま睨み合っても埒が空かない。攻め込むぞファイアロー、オーバーヒート!」

 意を決した少年が帽子のつばを下げて叫んだ、読まれても関係ない技で攻めれば良いのだと。瞬間紅隼の全身が熱く朱く燃え盛り、凄まじい灼熱の光線となって迸り……眩く逆巻く炎が瞼を伏せて佇む騎士へと迫っていく。

「おいおい、やる気は十分か……だがぼくのエルレイドが切り伏せてやるよ! 突っ込め、サイコカッター!」

 だが彼は物怖じせずに立ち向かう。肘の刀に纏わせた思念を実体化させた刃で降り注ぐ熱線を逸らしてダメージを最低限に抑えながら、地上が余波で赤熱し溶け爛れていく中を高速で駆け抜けていく。

「くっ、流石にこれ以上は難しいか……!」
「はっは、どうした、エンジンがついてないじゃねえか!」

 ここに来て疲労と反動が頂点に達し、その名の通りのオーバーヒート……熱線が不意に降り止んだ。激しく燃やし過ぎた身体の燃料が切れ始めた、灯火が燻る紅隼の影が落ちる真下に辿り着くと彼は対敵めがけて勢い良く跳躍し……。

「切り裂けエルレイド、もう一度サイコカッター!」
「それでもこの距離なら……ファイアローの方が速い! ブレイブバードだ!」

 再び肘の刀に思念を纏わせたエルレイドが素早く振り抜き、三日月の刃が高速で空を切り裂いていく。だが……その程度では捉えられない、翼を折り畳んだ紅隼は刃を容易くすり抜けて、「……エルレイド!」空中で身動きの取れない騎士へと鋭く突き刺さった。

「やったあ、ほら見たツルギくん!?」
「注意散漫だな」
「な、なにようっ! ほら、ファイアローがエルレイドをかっこよくやっつけ……」
「……っ、いや、まだだ! 見るんだノドカ!」

 ……はずだった。

「エルレイド、……トドメだ!」

 たった今貫かれた筈のエルレイドが、いつの間にか低空を飛行していたファイアローの頭上に躍り出て肘の刀を鋭く構える。
 手傷を負っているようにはとても見えない、「……躱された、テレポートか!」唇を噛み締めると、ルークはご明察、とからから弓なりの笑みを浮かべた。

「……くっ、頼むファイアロー、おにびだ!」
「今のそいつを倒すに十分! 構わねえさ、突っ込め!」

 咄嗟に振り返って最後の力を振り絞り、紫黒の鬼火が放たれる。だが彼はそんなこと構わないとばかりに自ら炎の中に飛び込み、不気味に身体を燃やし焦がす中で振り抜かれた思念の刃が胸を切り裂いた。
 既に激闘を越え傷が深く、満身創痍の紅隼を倒すにはその一撃で事足りた。ファイアローは意識の灯火が吹き消されたように不意に羽撃たきを失い地に墜ちて……数度転がった後に、瞼を伏せた。

「ファイアロー、戦闘不能!」
「……お疲れ様、よく頑張ってくれたな、ファイアロー。後はオレ達に任せて、ゆっくり休んでくれ」

 グレンの審判が厳かに響き、少年が帽子のつばを下げてモンスターボールを掲げると柔い赤光が優しく傷付いた戦士を包み込んでいく。
 紅白球の中へと舞い戻った彼は鋭い矢の眼差しで問い掛けて来た、己の活躍を。

「はは、十分過ぎるくらいさ、きっとお前じゃなきゃルークさんのファイアローを倒せなかった。いつもありがとな、おかげで……勝利が見えてきたよ」

 それを聞き届けると、彼は安堵で深い眠りに就いた。意地っ張りで仲間想いな彼にとっては……前に進めた、それが一番聞きたい言葉だったから。

「惜しかったなジュンヤ君、ファイアロー同士の対決でそいつは既に限界が近付いていた。もし全力を出せたなら、エルレイドでもテレポートが間に合わなかったろうさ」
「……流石ルークさんですね、完全に不意を突かれました」
「これが手加減なんざ一切無し、ぼくら皆の本気の力ってやつさ」

 ルークさんの事だ、一筋縄では行かないとは思っていたが……想定よりもずっと険しい闘いになりそうだ。あのエルレイドを倒すだけでも、かなり骨が折れるだろう……!
 次は誰を繰り出すか。腰に手を伸ばして逡巡していると、不意にルークが口を開いた。

「無理をし続ければガタが来る、当然のことだ。ファイアローだって全てを出し切って、此処が限界だったろう。なあ、君はどうかな……ジュンヤ君?」
「オレ達は……それでも戦わなきゃいけないんです。限界以上を出し切ってでもこの戦いに勝つ、……そうじゃなきゃ、きっとオレとゴーゴートは前に進めないから」
「ああ、君の気持ちは痛い程分かるさ、ぼくもスタンを失ってからは……まるで世界が色褪せたみてえで。だが勇気と無謀は違うんだぜ、君は確かに強いが……危なっかしいんだよ」

 そう、確かにジュンヤ君……彼は強い、このエイヘイ地方指折りの実力者なのは間違いない。だがそれ以上に色々と見ていて不安になる、まるで生き急いでいるような、捨て鉢にも似たような……。

「大丈夫です、オレ達だって今はあなたが思っている程危うくは無いですから。支えてくれたみんなのおかげです」
「……はは、まあそれなら良かったさ、今のは流石に意地が悪かったか。ぼくだって人のこと言えた義理じゃねえもんな」

 ……確かに、ジュンヤ君は以前に比べて良い顔をするようになった。少しは精神的にも余裕が出て来たように思えてくる。
 だが……全く、オルビス団の奴らは本当にろくなことしねえな。多くの人生を狂わせ、数え切れないかけがえのないものを奪った結果彼やツルギ君達みたいな子どもを大勢生んで。
 ルークは心の中でそう呟いて肩を竦めて、一層強い想いで戦場に向き直る。

「……だからこそ、少しは無茶をしてでも強くなりたいんです。この戦いを終わらせて……使命感とか罪悪感とかじゃなくて、それがオレのやりたいことだから」
「……どいつもこいつもしかたねえ、ぼくらも頑張らねえとな」

 ルークの表情からある程度は考えてることが理解出来る。オルビス団への憎しみを沸々と滾らせる少年が、帽子のつばを下げて力強く呟いた。
 そして彼も改めて決意させられる、もうこんな悲劇を、犠牲者を生み出してはいけない……親友の願った永久なる平穏を守り抜くのだと。

「次は……よし、お前しかいない。頼む、任せたぞゲンガー!」
「はは、良いねえ、そいつならエルレイドの弱点をつけるからな。だが負けねえぜ!」

 続けて繰り出したのはゲンガー。影のように濃い紫黒の身体、紅く不気味にぎらつく眼。口は避けたように大きく無数の牙が並んでいて、背中に棘が生え揃ったシャドーポケモン。
 彼は震える指先を隠すように力強く拳を握り締め、彼ら最強のジムリーダーに圧倒的な力への恐れを必死に圧し殺して……腰を低く落として冷静に構える白衣の騎士へと向かい合った。

「そのゲンガー、……君に似ているな。いや、ゲンガーだけじゃねえ。臆病な自分を隠して立ち向かうそいつに、過去と決別する為に強くならんともがくシャワーズ、守る為に強さを求めて奮起するゴーゴートに……だろ?」
「……そうかもしれません。あはは、お見通しですね、ルークさんには」
「おいおい、そりゃあ分かるぜ、ぼくだって若くて強くてハンサムだがジムリーダーだからな。闘ったら相手がどんな人間か、どんなポケモンか……ある程度は見えてくるもんさ」

 ジムリーダーとして多くのポケモントレーナーとバトルしてきた中で培ってきた経験が、相手の抱えた何かを教えてくれる。少年達は一人で背負うには重すぎる荷物を抱えている、仲間達と共に支え合って来たからこそ今向き合っているのだろう。

「だが君達はこうして此処に立っている。臆病風に吹かれず、強大な力に屈せず良く立ち向かった。立派だと思うぜ……勝負には勝たせてもらうけどな!」
「いいえ、負けません、勝つのはオレ達です! そうだろ、ゲンガー!」

 主の言葉に強く頷く影霊。迷って怯えている暇など無い、大切な仲間達の為に……今はただ前に進むだけだ!
 相手はやけどを負っている、有利に立ち回れるはずだ……そう考えたのも束の間、騎士は主人に催促されて、懐に隠していた木の実を頬張り始める。
 それはあらゆる状態異常を回復する果実。瑞々しい緑色の実……ラムのみを食べ終えた彼は、その大きな種子を吐き捨てた。

「やっぱりラムのみを持たせていたか……」
「はは、そりゃあな、じゃなきゃわざわざおにびに突っ込まねえさ」

 状態は振り出しに戻ってしまったが、それでも勝ちは譲らない。対峙する二匹のポケモン、光射す戦場が熱く眩く輝く中で……再び戦局が動き始めた。

「行くぞゲンガー、シャドーボール!」
「迎え撃てエルレイド、サイコカッター!」

 影を集束させて解き放った紫黒の弾丸、思念を固めて生み出した三日月の刃。
 鬩ぎ合う影弾と念刃の威力は拮抗、鬩ぎ合いの果てにどちらともなく砕け散り、思念の残滓と影が淡く戦場に舞い散った。

「連続で放つんだ!」
「懐に潜り込めエルレイド!」

 続けて放った無数の弾丸、しかし相手の感情を把握し軌道を読むことで半身を反らし、首を傾げ、跳ね打ち払ってことごとくを掻い潜り攻め込んでいく。
 ついに眼前へと躍り出た。肘の刀に思念を纏わせた構えた瞬間、「躱してくれ!」主の指示でゲンガーはすかさず影に潜り込み、刃は虚空を切り払った。

「ち、面倒なことをしやがるぜ。だがエルレイドは相手の考えが分かる、どこからでも掛かって来い!」

 確かに、その通りだ……生半可な攻勢に出たところで返り討ちに遇うだけだ。加えて時間が経てば経つ程相手に思考を読むだけの猶予を与えてしまう、……手をこまねいていても不利になるだけだ。

「速攻で畳み掛けるぞ、シャドーボール!」
「切り刻めエルレイド、サイコカッター!」

 エルレイドの背後に射す薄影から飛び出したゲンガーが、既に蓄えていた紫黒のエネルギーを機関銃のごとくに連打する。
 無作為に放たれた弾丸は壁と言わず床と言わず衝突と共に炸裂し、砂塵と影の舞い散る中で白騎士は瞼を伏せて腰を落とした。

「当てずっぽうか、いや、君に限ってそれはない。だがまずは……いくら撃とうが切り捨てる!」

 緑刃が閃き、影が容易く霧散する。衝撃で舞い上がる砂塵の中に煙る霊を捉えんと胸の赤角が輝いた瞬間、彼は僅かな違和感に気付いた。

「なるほど、今度は背後か! だが君の狙いは読めてるぜ!」
「今だゲンガー、シャドーボール!」

 再び影に潜り、その背後に躍り出ていた影霊が湛えた漆黒を弾丸と放つ。しかしそれも想定していたエルレイドは感情から軌道を予測して半身を切って容易く躱し、思念を纏った刃を振り下ろした。

「……っ、ゲンガー!」
「……言ったろ、君の狙いは読めてる、ってな」

 だが……目と鼻の先まで刃が迫った瞬間に、刃が急に静止してしまった。思わずジュンヤが息を詰まらせ、ルークが不敵な笑みで高らか嗤う。

「しまっ……!」
「あん? どういうこった、何故ルークさんは攻撃を止めた?」
「……相も変わらず呑気な奴だ。一度見られた手を用いるとはな」
「あっ、そっ、か。ジュンヤさんの……狙いは……」

 少年は己の失策に固唾を飲み……疑問符を頭に浮かべるレンジとは対照的に、ツルギは呆れたようにため息を吐いて、その言葉で大体の者が意図を察した。
 そしてエルレイドの眼が紅く閃き、周囲に思念を固めた無数の弾丸が形成されていく。
 そう、既に全てを読み切られていた。「隙をつくって背後から攻め込む」ことも、「それが読まれていることを想定している」ことも、……「あえて攻撃を食らい、“カウンター”で返り討ちにする」ことも。

「悪いが君のバトルは既に見た、そう簡単には食らってやらねえぜ。エルレイド……サイコショック!」
「くっ……ごめん、迂闊だった。シャドーボールで迎え撃ってくれゲンガー!」

 ゲンガーが紫黒の濃影を凝縮し、解き放たれた弾丸は空を貫き白騎士の胸に飛び出た紅角に鋭く刺さり……しかし、それでも思念の攻撃は止まらない。一面を包囲する念弾が着弾と同時に炸裂し、無数の爆発が忽ちゲンガーを焼き尽くしていった。

「っ、大丈夫か、ゲンガー!?」
「さあな、もう満身創痍かもしれねえぜ?」

 幾重に重なる衝撃、炸裂する思念は熱く霊体を溶かしていき……。
 隠すように装備していた赤と黄色、二色の襷……完全な状態であれば、如何なる攻撃にも一度だけ耐えられる持ち物“きあいのタスキ”がぼろきれになってはらりと落ちた。
 辛うじて耐えられた、だが……既にゲンガーは疲労困憊だ。振り返った彼は、覚悟を決めたように頷いていて。

「……ゲンガー、ごめんな。分かった、任せたぞ!」
「君だって分かってるはずだぜ、ぼくがその程度読んでることは! エルレイド!」
「それでも……速さはゲンガーが勝ります!」

 相手の技構成は恐らく三つが攻撃技、そして一つがテレポート、補助技を防ぐことは出来ない。ならば……やられる前に発動するだけだ!

「させねえぜ、エルレイド、テレポート!」
「行こうゲンガー、みちづれだ!」

 二人の声が高らか響くが、刹那……ルークの感情をキャッチし指示を把握したエルレイドが初動で勝った。
 紅い眼が輝いて、足元からは黒く濃い影がエルレイドを捉えんと鋭く伸びていく。だが……時既に遅し、その眼が、影が道連れにせんと標的を定めるより速く眼前から消えた白騎士は、頭上高くに逃れていて。

「生憎心中ってのは趣味じゃなくてな。やるなら勝つのがぼくの主義だ、勿論オルビス団との戦いもな!」

 単にみちづれを躱されただけならもう一度放てば良いだけだ、だが……彼の狙いは。完全に読み切られ、対処されてしまったことに思わず唇を噛み締める。

「トドメだエルレイド、サイコショック!」

 ……いや、それすらも間に合わない。思念を凝縮させ生み出した無数の念弾が一斉に周囲を包囲する、影に逃げようにも既に弾丸は放たれ間に合わない。

「念には念だ、わりいな」
「……っ、ゲンガー!?」

 一斉に無数の思念が着弾していき、絶え間ない炸裂の衝撃で砂塵が舞い上がり一帯が爆風に飲み込まれていってしまう。そう、それこそがルークの真の狙いだ。

「……あれ? 今ゲンガーの足元を狙ってた……?」
「ああ。みちづれは相手から攻撃を受けないと意味がない。だからもし仮に再びのみちづれが間に合っていても……」
「おう、トドメを刺したのが砂塵なら、みちづれが効かないってこった」

 最大限の用心はするということだろう。尤も……いずれにせよ再発動は間に合わなかったが。
 視界を覆い尽くしていた吹き荒ぶ砂煙がやがて晴れて行き、跡には深く抉れた大地と、あまりの爆発に曝され耐え切れずに地に臥せていた影霊、そして悠然と立ち尽くし深く頭を下げる白騎士の姿であった。

「ゲンガー、戦闘不能!」
「……お疲れ様、ありがとうゲンガー、ゆっくり休んでくれ」

 勇敢に戦い抜いてくれたゲンガーへモンスターボールを翳せば、穏やかな紅い閃光が安息の地へと優しく誘う。
 紅白球へと戻したジュンヤは、「お前は悪くないよ。しかたないさ、オレが戦略で上回られたんだんだから」と優しく微笑みかけるが……彼は自分を責めるように俯いてしまった。
 ……もし、自分がもう少しでも速くみちづれを発動出来ていたのなら……自ら突っ込めば、道連れを狙えたのだから。

「いや、お前は十分頑張ってくれたよ。エルレイドを見てくれ」

 言われて視線をエルレイドに向けて、カプセル越しに白騎士を眺めたゲンガーは思わずあっと声をあげた。ルークは背中しか見えない為に気付いているか分からないが……彼は痛みに眉を潜めながら、胸から突き出た紅い突起を抑えていて……。

「これできっと勝利へ繋がる、ここから巻き返してみせるさ。だから……後は任せてくれ」

 ……きっと、ジュンヤが言うのならそうなのだろう。彼は根拠の無い励ましをするような人間じゃない、勝てる見込みがあるから言っているのだ。
 友達の為……少しでも、役に立てたのなら良かった……。
 安堵したゲンガーは、おもむろに瞼を伏せて……暫しの深い眠りに就いた。

「さ、これで形勢逆転だなジュンヤくん。次は誰を出してくるんだ? まあ君達の性格を省みりゃあ想像はつくけどな」

 厄介なポケモン達を一体一体倒していたつもりでいた、だが……ルークにとっては現況は殆どが想定の範囲内であったのだろう。自分達は彼の手のひらで踊らされていた、ならば……。

「……決まってます、こいつで必ず巻き返す!」

 オレに残されたポケモンは三匹だ、此処から逆転するには……彼のパワーで無理矢理にでもひっくり返すしか無い。
 腰に装着されたモンスターボールを掴み取り、覗き見ればそのポケモンは鉄槌の如き巨大な腕を振り上げて、溢れんばかりのやる気に満ち満ちていて。

「……そうだな、前に一度エルレイドに負けてたもんなお前は。頼んだぞドサイドン!」

 勢い良く紅白球を投擲し、青空を裂く一条の軌跡。空中で二色の境界から二つに割れて……眩い閃光が迸っていく。
 現れたのは天を衝くドリルの双角、砲台のように巨大な逞しい剛腕の先では掌に穴が開いていて、全身にマグマでも耐える凄まじい耐久性能を誇る頑強なプロテクターを装着し尾の先に鉄槌を備えた巨躯を誇る鎧犀。

「よし、ここでエルレイドを食い止めよう! お前なら行けるさ、なんてったって負けず嫌いだからな!」

 際限無く高まっていく戦場の熱が、仲間達が噛み締めた無念が、以前の敗北の屈辱が……何より、主人の応援が分厚く身体を覆う装甲に秘めた闘志を荒ぶらせていく。
 振り返ったドサイドンは腕を高く振り上げ、モンスターボールの中から俯瞰する仲間達に届くように勝鬨をあげた。皆の想いを無駄にはしない、勝利への道を切り開く……そんな心で声高く。

「気合いは十分だな。気を付けろエルレイド、きっと……ここからはぼくらの想定をこれまで以上に越えてくるぞ!」

 空気が震える程の咆哮に、思わず体毛が逆立ち肌が痺れる。仲間達の想いを背負い、リベンジを誓う鎧犀は既に最高潮に達しており……深く弓形に笑顔を湛えて、緑衣の勇者と白衣の騎士は愉しげに嗤ってみせた。

「む、ナッシーに交替しないのですね」
「あ、そっか。相性は良いけど……」
「ああ、交替出来ないのだろうね。ドサイドンはメガホーンを覚えているかもしれないのだから」
「食らえば最悪一撃で戦闘不能。交替の隙を突かれれば、たとえきあいのタスキを持たせていようが役に立たないからな」

 冷淡に解説をする少年の、その道具扱いも同然の口振りにノドカ達だけでなく四天王も眉を潜めるが……少年は興味が無いと言わんばかりに、眉一つ動かすこと無く戦局を俯瞰していた。

「行くぞドサイドン、ストーンエッジ!」

 闘いが始まる。鎧犀が逞しい腕で大地を殴り付けると天を穿つが如き鋭利な岩槍が列を成して無数に突き上げていく。

「甘いぜ、躱してサイコショック!」

 敵を屠らんと聳える幾多の岩柱は、しかし騎士を貫くには至らない。嘲笑うように軽やかな身のこなしで上空高くに跳躍すると、思念を凝縮させた無数の念弾が降り注いで来る。

「……迎え撃つんだドサイドン、ストーンエッジ!」

 だがそう易々とは食らわない。掌に空いた穴から機関銃のように矢継ぎ早に鋭い岩の弾丸が放たれ、迫る念弾を正確に撃墜していった。

「やるじゃねえか、悉く撃ち落とされちまうとはな。だが……サイコカッター!」
「だったらアームハンマーだ!」

 さながら曲芸師のような軽やかさ。身を翻して岩の雨をすり抜けると瞬く間に懐に潜り込まれてしまう。
 装甲が薄い腹部を切り裂く一撃。だが同時に振り抜いた鉄槌が白騎士を渾身で殴り付け、勢いを殺し切れずに吹き飛ばされた。

「やるねえ、流石のタフネスだ。だが根本的に……速さがちげえ!」

 しかし大地を蹴り付け容易く受け身を取ると紅い眼が輝いて、周囲一帯が夥しい念弾に包囲されていく。この数はストーンエッジでも対処しきれない、ならば……!

「ドサイドン、ロックカットだ!」

 鎧犀が地面を殴り付ければ、砂塵の嵐が吹き荒んで硬い鎧に覆われた身体の表面を摩擦によって研磨していく。そして放たれた念弾もその砂嵐に巻き込まれ、掻き消されるとまではいかないまでも威力が削られ、ドサイドンの装甲を貫くには至らなかった。
 着弾と共に連鎖的に爆発していくが……マグマすら耐える凄まじい耐久力。黒煙舞う中に悠々と立ち尽くしていた。

「やるなジュンヤくん、まさに攻防一体、こんな簡単に防がれるとは思わなかったぜ。だが高速になってもまだ並んだに過ぎない、攻め込むぞ! サイコカッター!」
「進化して強くなりましたから! 迎え撃つんだドサイドン、アームハンマー!」 

 互いに高速で広大な戦場を駆け抜けると、その中心で鉄塊の如き巨大な拳と鋭利な思念を纏わせた思念の刃が激突する。暫し鎬を削る鬩ぎ合い、力ではドサイドンが勝るが刃で逸らして左刃を降り翳し、だが刀は鉄槌に受け止められてしまう。

「……っ、負けねえぞ! そうだろエルレイド!」
「ルークさん、エルレイド……オレ達だって! そうだろドサイドン!」

 
 幾度と折り重ねる激しい剣戟。めくるめく火花が舞い散る中で……冷静を保っている白騎士の眼は僅かに悲しみに揺れていて。
 彼らの覚悟は紛れもない……当然だ、親友を奪われた悲しみは計り知れない。だからこそ必死に憤怒や悲しみ……ない交ぜになった感情を抑えて闘っているのだから。
 剣閃が激突する度に抑え切れずに溢れ出す感情が伝わり……このままでは、埒が開かない。どちらともなく飛びしさると、

「ストーンエッジ!」
「サイコカッター!」

 大地が牙を剥くように突き上げる列成す岩槍、思念を具現化させた鋭利な三日月の刃。
 刃は眼前に迫り上げた岩柱をバターのように切断し、足元に亀裂が走ると同時に跳躍。

「テレポートだエルレイド!」

 瞬間その姿が影のごとくに掻き消えて……気付けば、懐に潜り込まれてしまっていた。

「行くぜエルレイド、……そいつの圧倒的な耐久力は小手先の攻撃じゃ砕けない。一気に切り崩す、インファイト!」
「……まずいドサイドン! ロックカット!」

 重厚に纏った鎧を貫く程に重く、鋭い思念を纏った砲弾の拳が鈍い炸裂音と共にドサイドンを殴り抜いた。たったの一撃で鎧が凹み、装甲の下の肉体に衝撃が伝わる鋼の拳は一度だけではない、何度も何度も超高速で鎧犀を貫いていく。
 技の発動すら許さないつもりなのだろう、事実両腕は地面に届かせられず……だが、彼の武器は鉄槌の剛腕だけではない。先端に鎚の備えられた尾で戦場を打つと、忽ち砂塵の嵐が迸って行く。

「……流石のハードロックだ、これだけ浴びせても止まらねえとはな! あじな真似をしてくれるぜ!」

 吹き荒ぶ砂塵に弾かれたエルレイドは己の至らなさに悔しげに眉間を皺寄せながら軽やかに着地して、細かい無数の砂嵐が先程研ぎ澄まされた身体を更に鋭く研磨させていく。
 やがて晴れて行く景色の中で、更にドサイドンは懐に仕込んでいた薄緑の紙、前回と同じ持ち物……じゃくてんほけんを発動させる。それは弱点の攻撃を受けた際に自身の攻撃と特攻を飛躍的に上昇させる道具、これで一気に形成は逆転した。

「大丈夫かドサイドン!」

 晴天に佇む重厚な鎧犀、進化して磨きを増した防御力に加えて弱点技の威力を削減する特性”ハードロック“で圧倒的な防御力を誇る彼は威勢の良い雄叫びで振り返ってみせた。

「おいおい、今のがエルレイドの最大火力だぜ? 流石進化しただけあるな、こりゃあ後一、二回叩き込まなきゃいけなそうだな!」

 焦燥を浮かべながらも笑顔を絶やさないルークと不敵に嗤うエルレイド。この劣勢においても余裕を絶やさぬ彼らは、流石自他共に認める最強のジムリーダーだけのことはある。
 だが……それは決してただの虚勢などではない。読心の力と瞬間移動を持つ彼らはそれでも手強い相手なのだから。

「ここで一気に決めるぞドサイドン、アームハンマー!」
「わ、はやぁい!?」
「だがいくら速くなろうが、火力が増そうが当たらなけりゃあ良いだけだ! エルレイド、サイコカッターで迎え撃て!」

 さながら風のように。装甲に覆われた身体は摩擦を知らぬかのように鋭く煌めき研磨されていて、目にも留まらぬ超高速で対峙する白騎士の眼前へと躍り出た。
 だが流石の反応速度だ、振り下ろされた鉄槌を半身を切って容易く躱すと思念を纏った刃ですれ違い様に胴を切り裂く。

「後ろだ、ストーンエッジ!」
「甘いぜジュンヤくん、言ったろ、当たらなけりゃあ良いって! テレポート!」

 咄嗟に右腕を突き出して騎士の眼前に翳すと掌の穴から鋭岩を放つが、弾が届くよりも速く其処から消滅した騎士は上空高くで眼を紅く輝かせる。

「来るぞ、躱せドサイドン!」

 一斉に周囲を包囲する思念の弾丸。今の機動力で避けるのは容易い、次々降り注ぐ念弾を踊るように軽やかな身のこなしで躱していくが……「注意散漫だな! 足元注意だ、インファイト!」いつの間にか瞬間移動で接近していたエルレイドが再び砲弾の如き拳で鎧犀を殴り付けた。

「させません、ドサイドン!」

 じゃくてんほけんで能力が上がったおかげだろう。次々に叩き込まれていく拳にも動じないドサイドンは腕を降り翳すが、引き際を弁えている騎士は力強く装甲を蹴り付けるとその反動で自ら距離を取ってしまう。

「回り込めドサイドン!」
「させねえさ、テレポート!」

 そして……超高速で背後を取って、翳した掌から弾を放つが、瞼を伏せての瞬間移動で易々と逃げられてしまった。

「……っ、流石ですねルークさん。そう簡単には越えさせないってわけですか」
「当たり前さ、ぼくらを誰だと思ってるんだ? ぼくらだって勝利を譲るわけにはいかねえんだよ……エルレイド!」

 ……戦場の中心を挟み、距離を置いて睨み合う二匹。此処からは慎重に動かねば、どちらがいつ倒れてもおかしくない。慎重に相手の様子を伺いながら動こうとするジュンヤだが……。

「……そっか、分かったよドサイドン」

 自分はバカだから考えるのは性に合わない、だが……仲間の為に負けたくない。振り返った彼はそう言いたげにはにかんで、主人に全幅の信頼を寄せて指示を仰いでいて。だから全てを委ねる、勝利を共に掴むのだ、と。

「へえ、良い目だ、本当に信頼しあってるねえ君達は」
「当たり前です! ここまで何度も共に苦境を越えてきた大切な仲間ですから!」

 ポケモンと互いに信頼し合う……それは当たり前のことだが、何より大切なものだ。ルークの素直な感嘆に、彼らは笑顔で答えて見せる。
 ……そこまで信頼されているのならやるしかない、ドサイドンの心が分かればきっと勝てる。長引かせればそれだけ速さに適応されてしまう、短期決戦が望ましい……此処から一気に切り崩す!

「どう攻めるつもりだい、ジュンヤ、彼のエルレイドは脅威的だ」
「分からないけど……きっと、ジュンヤならだいじょうぶよ!」
「……行くぞ、ストーンエッジ! 拡散させろ!」

 地面を殴り付けると周囲を覆うように岩槍が突き上げていき、力強く尾を薙ぎ払うと容易く粉砕しその破片が四方八方に矢と放たれる。

「奴は火力が上がっている、真正面から迎え撃つのは不得手だ! テレポート!」
「頭上だドサイドン、反動で跳躍しろ!」

 此処までの闘いでルークさんの戦法は把握出来てきた、そして短期決戦に持ち込みたいのはあちらも同じ。となれば……自ずと出現箇所は絞られる。
 二人が同時に叫ぶとドサイドンはすぐさま思考を切り換えて、渾身の力で尾で大地を打つとその反動で高く跳躍する。瞬間眼前に現れたエルレイド。このままでは捉えられる……咄嗟に再びテレポートを発動したが、「下方に来るぞ!」その指示を耳にした瞬間、焦燥と共に遠方へ消えた。

「……っ、やっぱあの時の一撃が……此処に来て響いたみてえだな」

 ルークも薄々感づいていた。ゲンガーによってエルレイドの胸の紅角が傷付けられ、思考を読む精度が落ちたのではないかと。それでも今までは自身の指示と培ってきた経験で補えていたが……流石に、潮時と言うものかもしれない。

「どうやら決着の時が来たみてえだな! このまま押し切る、エルレイド……一気に決めるぞ!」
「良いや、勝つのはオレとドサイドン達です! みんなの為にも……行くぞ!」

 持ち物を消費させたファイアロー、的確な一撃で思考を読む力を挫いたゲンガー……倒れた仲間達の想いを背負って闘っているのだ。絶対に……此処で勝ってみせる!

「エルレイド、テレポートだ!」
「迎え撃てドサイドン、背後にアームハンマー!」

 眼前に立っていた白騎士が、瞬間移動で影と消えた。出現場所を予測していたジュンヤの指示で背後に振り返り様に裏拳を振り抜くが、騎士は腰を落として頬を掠められながらも回避する。そして肘の利剣を鋭く伸ばして……。

「行くぜ、サイコカッターだエルレイド!」
「この時を待っていました……ストーンエッジ!」

 すれ違い様の一閃がドサイドンの頑強な鎧を切り裂き、同時に翳した掌から放たれた岩石の砲弾がエルレイドの体側に深く突き刺さった。
 ……白騎士はそこで限界を迎えたようだ。鈍い破裂音と共に吹き飛ばされるとルークの眼前まで幾度も転がり、意識の糸が切れたように力尽きたが……彼は、満足そうに瞼を伏せて眠りについていた。

「エルレイド、戦闘不能!」
「……お疲れ様、よくここまで闘い抜いてくれたな。流石相棒、すげえ強かったぜエルレイド」

 青年ルークは必死になって戦い抜いてくれた大切な相棒を深く労い……彼と共に歩んできた旅路を思い、エルレイドに歩み寄って優しく撫でながらスーパーボールを軽く翳す。
 己の弱さを恥じるように、強く唇を噛み締めていた白騎士はその一言で救われたのだろう。柔らかな閃光が穏やかに戦士を包み込み、役目を終えた彼は暖かな煌めきと共に蒼白の球へと還っていった。
 
「はは、やるなジュンヤ君、ぼくの最高の相棒を下すなんて思わなかったぜ! ぼくも生半可な覚悟でこの闘いに望んでねえんだがな」
「ファイアローにゲンガー、ドサイドン……みんなのおかげです。本当に強かったです、あなたのエルレイド」
「へへ、だろ、自慢のパートナーだからな。さ、これで残るは三対三、やっと前半戦が終わりってわけだ」

 そう、ついに残されたのは互いに三体ずつ。この長かった総力戦もようやく折り返しを迎え……残されたポケモン達による、勝敗を賭けた熾烈な闘いの第二幕を開けるのだ。
 残されたポケモンはジュンヤがゴーゴート、ライチュウ、そして能力を格段に上昇させたドサイドン。対するルークは恐らくゼブライカ、ナッシー、バンギラス。
 この勢いで進むことが出来れば勝利は近いが、そう易々と越えさせてくれるとは思えない。

「……よし、気を引き締めて行くぞ、ドサイドン、みんな! このフルバトル……絶対に勝つ、勝ってその先へ行く!」

 帽子をかぶり直して強く想う。振り返ったドサイドンだけではない、モンスターボールの中で闘いを終えた仲間達が、己の活躍を待ちわびる皆が同じ心で繋がっているのだ。
 激しい闘いで火照った身体を心地の良い清涼な風が一陣吹き抜け、溜まり切った熱気はなんの気も無しに拐われてしまう。見上げればとうに夜闇を忘れた陽射しは燦々と輝き、眩く煌めく広大なバトルフィールドは冷め遣らぬ熱戦に燃え盛っていた。
 大切なものを守る為に、いつかの約束を果たす為に、そして自分とポケモン達の為に……負けられない。目指すものは“勝利”その二文字だけだ。疲労を払うように頬を叩いて気合いを入れ直した少年は、晴天を仰ぎ高く叫んだ。

■筆者メッセージ
ノドカ「はあ……息がつまっちゃうバトルだよ〜!」
ハナダ「本当ね、あいつら相変わらず勝つことしか頭に無いんだから。男ってバカよねえ」
ソウスケ「おや、その理屈なら君もおバカさんということになるなハナダ」
ツルギ「同意だな、不用意な発言は自分を傷付けるだけだ」
ハナダ「アンタ達うるっさいわね!?だーれがブーメランよ!アンタ達だって同じ穴の狢じゃない!?」
グレン「お主とバカ弟子を一緒にするでないわ!」
ハナダ「親バカは黙ってなさい!」
クチバ「自分の輩達が済まぬ。彼女達とて悪気は無いのだ」
サヤ「ふふ、だいじょうぶ……です」
タマムシ「本当、ハナダってば大人げないのですから。まるで子どもみたい」
ハナダ「アンタはおバカさんじゃなくておばあさんね」
タマムシ「あらまあ……」
せろん ( 2019/09/06(金) 20:42 )