ポケットモンスターインフィニティ

















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第十二章 残された七日
第90話 終末の鐘が鳴る
 ──終焉の刻まで、残り7日。



 未だに天は夜闇を残した薄紫に霞み、曙光を待ち侘びるかのように紡がれる鳥ポケモン達の美しいハミングは澄んだ空の彼方へ響き渡る。
 いずれ訪れる決戦へ向けて高まる熱を黎明の冷涼な空気がおもむろに鎮め、帽子をかぶり直した少年は……終局に待ち受ける因縁の宿敵を思い、望郷を眺めるように瞼を細めた。

「……この戦いの先には、どんな未来が待っているんだろう」

 アゲトシティのアゲトジム。三階のバルコニーに立ち街を一望する少年は、首周りに深緑を繁らせた草山羊の歪曲する黒角を握り締めながらなかば一人ごちるように言葉を吐き出す。
 相棒……ゴーゴートは首を幾度か横に振って、瞳に決意を湛えながら小さく嘶き、少年は「ああ、そうだなゴーゴート」と優しく微笑んだ。

「どんな世界になるかを決めるのはオレ達みんなだ、未来はこの手の中にある。だから……絶対に勝とう、オルビス団に、レイ達に」

 東雲の空へ手を伸ばし、柔く降り注ぐ夜明けの光に強く願い……少年の翳した掌を、柔らかい小さな手が包み込んだ。そして武骨で骨張った大きな手が乗せられる。

「ふふ、みんながいっしょにがんばってるんだから、きっとステキな未来だよ。私たちもがんばるからね、ジュンヤ」
「ああ、僕もそう思うよ、共に力を合わせれば越えられない壁はない。絶対に勝とう、僕らの夢を叶える為にも」
「……はは、二人とも、本当にありがとな。オレに付き合ってくれて、いつも一緒に戦ってくれて」

 三つの影が重なり合って一つになる。……此処まで共に戦ってくれた二人へ、心から溢れる感謝を送るジュンヤの頬は、自然と緩んでしまっていて。
 そんなはにかむ自分を隠すようにそっぽを向いてしまった幼馴染みの顔を、少女は跳ねるように楽しげに覗き込み、少年はいたずらっぽく笑いながら表情を窺う。
 恥ずかしさに耐え切れなくなって「や、やめてくれ」と帽子の鍔を深く下げてしまった彼を二人は暖かな眼差しで見守り、しばし流れる心地良い静寂。吹き抜ける萌木色の風に跳ねた茶髪を弄ばれながら、少女はおもむろに口を開いた。

「でもね、お礼を言うのは私の方だよ。えへへ、いっしょに悩んでくれて、いつも私のことを助けてくれて……ほんとにありがとねジュンヤ、ソウスケ!」
「僕こそ君達にはお礼を言わなければだ。この旅の中で二人には何度助けられたか分からないからね。感謝するよジュンヤ、ノドカ」

 照れくさそうにはにかむ、あるいは何の臆面もなく口にする二人の幼馴染み。
 この旅でジュンヤは幾度と己だけでは越えるのが不可能と思える壁にぶつかってきた。それは同じ道程を歩んでいたノドカとソウスケも同じで。度重なるオルビス団との戦い、大敗による恐怖と絶望からの再起、己の弱さと向き合う痛み……それらは、二人と相棒達が居たからこそ越えられたものだ。
 ジュンヤもノドカもソウスケも……一人では強くなれなかった、誰だってみんな同じなのだから。

「懐かしいな、今でも思い出せるよ。ノドカはオレが挫けそうになった時には応援してくれて、怖くても誰かの為にって戦って、いつもそばで支えてくれた。そんなノドカの姿を見てると、オレも頑張ろうって思えたよ」
「ふふ、少しでも力になれてるなら良かった〜。私こそありがとうだよ、ジュンヤはいつも私のことを助けてくれて、何度も私を守ってくれたよねっ」

 ノドカがその優しさで時に励ましてくれて、頑張って立ち向かっていく姿に何度励まされたか分からない。旅の中で彼女は戦いが苦手にも関わらずオレの為に、ポケモン達の為に必死に立ち向かってくれた。
 だが彼女は首を横に振る。助けられたのは自分だと。……本当にノドカは優しい子だ。そもそもオレの旅についてこなければ危険な目に遇うことも無かったのに、こうして笑ってくれるのだから。

「ソウスケはいつでも諦めないよな。どんな強い相手にも果敢に立ち向かって、最後には笑えるお前のその強さは『オレも負けるわけにはいかない』って
「礼を言うのは僕らの方さ。君がどんな困難にも一生懸命向き合って、折れても立ち上がる姿は僕の心を燃やしてくれた。旅の中でも、幾度と僕らは守られたよ」
 
 ソウスケの不屈の闘志と熱い心は、「自分も諦めないぞ」と前に進む勇気をくれた。旅の中でどれだけ強い相手と闘っても諦めず、逆境に面して膝を折った時にも結局すぐに立ち上がって、オレのことを気遣ってくれて。
 だが……そう思っていたのは自分だけでは無かったようだ。彼も同じ想いを抱いていたらしく、少しこそばゆい気持ちになってしまう。

「……やっぱり、オレはオレなんだ」

 改めて、自分はツルギとは違うのだと思い知らされる。己は一人では強くなれなかった、仲間が居たからこそ此処まで辿り着けたのだと。いや、きっとそれはオレだけではなく……誰だってみんな同じなのだから。
 隣で目を細めていた相棒の角を握り締めれば彼はこそばゆそうに顔を背ける。勿論ずっと側に居てくれたのはノドカとソウスケだけではない、相棒もずっと同じ想いで戦ってくれて。
 だからその感謝を角を握って伝えたのだ、言葉では表し切れない感謝を。ゴーゴートはふい、とそっぽを向いたまま首元に茂る葉から蔦を伸ばして、少年の頭を優しく撫でた。

「あ、いつのまにかお日さまが出てるよ!」
「はは、本当だ。……暖かいな」

 日が昇り、暖かに世界を照らし出す。闇夜を払う曙の陽光に照らされた少年は、眩しそうに、慈しむように目を細めていた。
 そしてエイヘイ地方の中心に佇む巨大な鉄塔……剣の城を仰ぎ見て、強く誓う。あそこで二人の親友が自分のことを待っている、レイとビクティニ……絶対に二人との時を取り戻してみせるのだ、と。
 角から伝わってくる主の心にゴーゴートも深く同調する。かつて出会い仲を深めた親友達のことを想い……力強く頷いた。



 あくびが出てしまいそうな、暖かく穏やかな昼下がり。今日は珍しくまだ事件が起きていない、四天王達はパトロールに出払っているが、ジュンヤ達は皆で揃って昼食を摂っていた。

『さあ、ぐんぐんとギャロップが追い付いて行きます! ドードリオ更に加速する、もうゴールは目の前です!』
「おお、二匹ともすごい速いなあ。どっちが勝つんだろうこれ……!」
「ギャロップ、頑張るんだ! もうすぐで勝てるぞ!」

 食堂に備えられたモニターではどの局も再放送かニュース番組しかやっておらず、かといって情報収集の為に見ていたニュースの内容も食事中に流すには向いていない。
 結果昔のアニメの再放送を見ていた彼らなのだが、思ったよりもソウスケが白熱していて、ジュンヤやレンジも初めて見る為に手に汗を握って眺めている。なんだかんだで十分楽しめているようだ。

「それにしても、やっぱりノドカのつくった料理は美味しいな」
「ああ、これで時折砂糖と塩や、醤油と麦茶を間違えたりしなければ文句は無いのだがね……」
「あ、あの時はごめんね〜! で、でもみんな、昔の話だからね!? 最近はそんな間違いしてないんだから!」

 満足そうに頷くジュンヤに、苦い顔をして呟くソウスケ。周囲は苦笑やひきつった笑顔を浮かべており、エプロンを着けて食事を運んでいたノドカは慌てて名誉挽回の為にと叫ぶ。
 まず昔やってたことがどうなのか、と誰かがぼやくが、その通りである。

「つーかマジかよ、すげえきついじゃねえかそれ……」
「はは、ジュンヤが文句も言わずに全部食べたから大丈夫さ」
「……ジュンヤ、てめえ。……漢だな」
「ノドカがかわいそうだろ、残したら」
「あ、わりい、おかわり頼むぜノドカ」

 居心地が悪そうに、少し機嫌が悪そうにそっぽを向いてしまった彼女だが……レンジは先程あんなことを言ったばかりの口で普通におかわりを要求する。

「し、舌の根も乾かぬうちによく言えるな」
「……もうっ。はいはい、今持って来ます〜! あ、分かったわヒヒダルマ。サヤちゃん、ごめんね、おねがーい!」
「はい、かしこまり、です!」

 流石にソウスケも唖然としてしまう。人のことは言えないが、ノドカが機嫌を損ねているのは理解出来る。図太くないかな、だから友達が居なかったんじゃ……とか考えていた彼だが、少女は頬をむくれさせながらも渋々と料理を運んでくれていた。相変わらず優しい。

「ごめんなノドカ、そんなに働かせて。オレも手伝えれば良かったんだけど……」
「ううん、ジュンヤはゆっくり食べてて! あなたはいつもがんばってるから、だいじょうぶ!」
「それに、君は手伝ったところで大したことは出来ないだろう。僕もだがね!」
「そ、そこで開き直るんですか、ソウスケさん……!」

 得意気な顔で胸を張る幼馴染みの少年に、思わずエクレアは苦笑をこぼしてしまう。
 あくびが出てしまうような穏やかな昼下がり。既にドードリオはギャロップに敗北しており、新しく始まった映画を横目に眺めていると……途端に、画面が暗転してしまった。 

「これはまさか……」
「停電!?」

 思わず皆が息を呑み、ノドカだけが事態を把握出来ないまま賑やかだった食堂は一瞬で静まり帰って、緊張が限界まで伸びた弦のように張り詰めた。
 皆が固唾を呑んで見守る中で……瞬いた画面の先に居たのは、頂点の証であるマントを羽織り玉座に腰掛けた、初老の男性だ。
 ヴィクトル・ローレンス……オルビス団の首領にして、このエイヘイ地方で長い間チャンピオンの座に立ち続けていた誰もが認める最強の男。

『諸君、終末への余暇を如何お過ごしかな』

 彼は大層愉しげに口元を深く弓形に歪め、百獣の王の唸りにも似た、誰もが身を竦め畏れる低く威厳に満ちた声で言葉を紡ぎ始めた。

『残り七日……其処でこのエイヘイ地方は終焉。迎える。だが案ずることはない、これは始まりでもあるのだから』
「……なんだって?」

 “始まり”、その言葉の意味するものは、考える間も無く理解することとなる。

『もう間も無くこのエイヘイ地方の歴史は幕を下ろし……新たな世界が始まるのだ。強くなければ生きられない……力が全てを支配する、素晴らしい世界が』

 それを聴いた誰もが戦き、思わず我が耳を疑った。だが聞き間違えている筈がない、それは……“最強の男”がつくろうとしているのは、間違いなく混沌だ。
 強くなければ生きられない世界、力が全てを支配するふざけた世界。ヴィクトルがその頂点に君臨する……あの剣の城の、頂上に。

『さあ、最後の一週間を……心の赴くままに過ごすと良い。私は引き続き剣の城の頂で、諸君ら勇士の挑戦を待っている』

 そして……画面が果てなき漆黒へと暗転した。皆が息を呑み、何も言えずに呆けていると、数度の明滅の後に再び映像が撮し出されて。

『ヤッホーみんな。知らない人は初めまして、知ってる人はこんばんは! ボクはレイ、オルビス団の最高幹部さ』

 男にしては高い、女にしては低いよく通る心地の良い声。黒いハンチングを被り、黒い制服を羽織った銀髪の少年レイ。
 彼はガラス張りの一室を背に、柔和な笑みを湛えて腕を後ろ手に組んで立っていた。オルビス団最高幹部の一人、巨悪の中枢を為す幹である少年の背後には大勢の人達……オルビス団員ではなく、皆異なる格好をして、ポケモン達と心の赴くままに人工的な庭園で戯れている。
 恐らくこの終末から逃れる為に。彼の甘言に乗せられてオルビス団に下った人々なのだろう。世界の崩壊がすぐ其処に迫っていることなど知らないかのように、己の大切な家族であるポケモン達と過ごす彼らの表情は内から溢れ出す自然な笑顔を湛えていて……。

『ボスが言った通り、もう間も無く弱者には存在価値すら与えられない混沌の世が訪れる。でもね、ボクはそれでみんなが居なくなるのは本意じゃないんだ』

 それが、少年の言葉に更なる説得力を加えていく。彼に任せれば救われるのではないか、終焉から逃れられるのではないか、と。

『だから……死にたくない人はみんなオルビス団に投降すると良い。誰だって大切なものを護りたいと思う、だから最高幹部のこのボクが、部下になってくれたみんなの安全を保証するから!』

 確かに、その言葉は真実なのかもしれない。天使の御告げにも似た悪魔の囁きは、画面に撮し出された理想郷は、絶望の泥濘に沈む無辜の民が縋るには十分過ぎる蜘蛛糸の希望で。

『ま、焦らなくてもまだ一週間も猶予がある、ゆーっくり考えて良いからね。じゃあね、みんなが来てくれるのを待ってるよ!』

 まるで隣人に話し掛けるかのように気さくに、恋人に話し掛けるにも似た甘く囁く暗闇は……眩く手を差し伸べて、別れを告げた。
 そして画面は再び暗転して……先程まで流れていた映画が映し出される。画面では少年達が線路を辿り歩いていき……「……ふざけるな!」栗色の髪の少年が拳を握り締め、瞳に湛えた怒りを堪えながら、絞り出すように叫んだ。
 今にも張り裂けそうな早鐘を打つ鼓動。皆が“頂点”の言葉に、偉容に、存在に無意識の畏れを抱いて食堂を変わらぬ緊張が支配する。
 それでも畏れを越えて追従するソウスケは「どんな理由があろうと、許せない」と呟き、エクレアが眉間を深く皺寄せる。誰もが“最強の男”のエゴイズムに憤りや悲しみを募らせ……。

「この世界を混沌に陥れるなんて……オレ達が絶対に許さない。誰もが長閑に過ごせる永久なる平穏……それがこのエイヘイ地方なんだ」
「みんな……うん、きっとだいじょうぶよ! みんなでいっしょに力を合わせればきっと守れる、だから……ね、ご飯もおいしいし!」

 皆が思い詰めた顔をする中で、少女は椅子に足をもつれさせそうになりながらも辛うじて立ち上がって……一人一人の顔を覗き込んで、焦燥を隠すように明るい向日葵の笑顔を咲かせた。

「ノドカ……はは、そうだな、お前の言う通りだよ。思い詰めて余裕を無くしてたら、守れるものも守れなくなる」
「自分でつくっといて自分で言うのかよ。まあ確かにうめーけどよ」

 彼女が場を和ませようとしてくれているのは理解出来る、ジュンヤがその優しさに口元を綻ばせたその時……レンジの言葉に、ノドカが笑顔を強張らせた。

「あ、いや、それはそのー……。た、たしかに……」
「……ノドカ。オレは好きだよ、お前のそういうとこ」
「も、もー、しかたないじゃんか〜! あんな放送の後なんだから、私だって緊張しちゃったんだもん!」
「……ふふ、ノドカさん、かわいい、です。わたしも、そんなノドカさん、好き、ですよ」
「サヤちゃんまで〜!?」

 彼女の一言で、つい先程まで重苦しい緊張に包まれていた空気が途端に賑やかになっていく。幼馴染みの少年も「君はやはりすっとこどっこいだね、ノドカ」と臆面もなく笑顔を浮かべ、金髪の少女も必死に堪えようとしながらも、口元から笑みを漏らしていた。

「……流石だよ、ノドカ」

 少年が、傍らに置いたトレードマークの赤い帽子を見遣りながら素直な感嘆に瞼を細める。彼女はいつもそうだ、昔から場の空気を和ませるのが誰よりうまくて、一緒に居ると心が暖かくなって……だから、素直に尊敬しているし何度助けられたかも分からない。

「……だけどアイツ、レイのヤロー、相変わらずふざけたこと言ってやがる。オルビス団の部下になれだなんて、こんな事態を引き起こしたのはてめえらじゃねえかってんだ!」
「全くだね。それで徒に人心を惑わせる……我が友ながら、厄介な輩だよ。だがレンジ、己の棚上げは良くないな」
「……うっせえソウスケ、バーカ!」
「ま、まあまあ。レンジさんも心を入れ換えたじゃないですか! たとえ発言が帰って来るとしても!」
「いやてめえもうるせえなエクレア! ……スミマセン、ハンセイシテマス」

 改めて、彼の発言を咀嚼して苛立ちに叫ぶレンジ。だが確かに言っていることは最もなのだが、と横から口を挟んでくる少年少女によって完璧に威勢を削がれ、借りてきたニャースのように縮こまってしまった。

「はは、楽しそうだなあ三人とも。……やっぱり、レイは」
「どうしたの、ジュンヤ?」
「あ、いや、なんでもない! ただ……」

 隣で苦笑を浮かべていた幼馴染みが、一呼吸してから神妙な面持ちで俯くのをノドカは見過ごさなかった。彼の思案を察して、しかし平静を装って話し掛けると、少年は少しの間を置いてから穏やかに、力強く決意を語る。

「あいつがどんな想いで戦っていたとしても、負けるわけにはいかないって思ったんだ」
「……ふふ、あなたならだいじょうぶよ。だって、こんなにがんばってるんだもん!」
「……はは、不思議だな、ノドカが言うと本当にそんな気がしてくるよ。ありがとう、期待に応える為に頑張らないとな!」
「えへへ、ジュンヤ、ファイト〜!」

 そしてこの終局が夢みたいに思える、暖かな団らんの時間が再び始まる。皆が和気藹々と目の前に並ぶ食事や、録画されていたかわいいポケモン達のテレビ番組を見ながら団らんを築いていると……突如食堂の扉が開いて、金髪の青年……ジムリーダーのルークが飛び出して来た!

「大変だみんな、オルビス団が現れた! あのむかつくにやけ野郎……じゃない、レイの部下で、住民達は既に数日前から過半数が避難を終えているが、まだご老人を始めとした一部の方達が残っている!」

 その言葉に満腹で絨毯に寝転がっていたソウスケとヒヒダルマや、天井を仰いで満足げにお腹をさすっていたレンジとボスゴドラ、テレビ番組に夢中になっていたジュンヤとゴーゴートが立ち上がった。

「はい、オレ達はすぐに行けます!」
「了解、僕らも行こうかヒヒダルマ!」
「っしゃ、行くぜボスゴドラ! ヒーローになってやろうじゃねえか!」
「よしジュンヤ君とソウスケ君、レンジ君は待機な!」
「えっ、なんでですか!?」

 三人と三匹が口を揃えてぶーぶーと文句を垂れるが、ルークは大きく息を吸い込んで、吐き出すと目いっぱいの声で叫んだ。

「指名手配マンと疲労困憊マン二人がうるさーい! わりいノドカちゃん、エクレアちゃん、サヤちゃん、頼めるか」
「はーい、了解いたしました! スワンナ、強くなった私たちを見せつけちゃおう!」
「まかされ、ました。サーナイト、がんばりましょう」
「勿論です、困っている人達を見過ごせません。行きましょうライボルト!」

 息を失ってふて腐れたように座り込んでしまうジュンヤ達男の子組。女の子組はその様子に苦笑を零しながらもやる気いっぱいに立ち上がり、皆で敬礼のポーズを取ってみせた。

「そういえばルークさん、ツルギは?」
「別の街に現れたアイクの部下達と戦っている、ぼくも今から増援に向かうつもりさ」
「分かりました。ところでオレ達は……」
「だーかーらー、待機!」
「じゃあ行ってくるねジュンヤ、ソウスケ、レンジくん! 良い子にしてたらおいしいポフレつくるから、待ってないとダメだよ!」

 ま、まるで駄々をこねる子ども扱い……!
 食堂を後にする三人を為す術なく見送った彼らがショックで呆然としていると、ジムリーダーは腹立つ笑顔で「ほら、ママの言うことはしっかり守れよ。じゃ、ぼくらも行ってくるぜ!」と追うように飛び出してしまった。

「……ま、しかたねえ、ルークの言うことも事実だしな」
「ああ、今は鍛練に注力するのが良さそうだね。ツルギの言う通り、自分の状態を把握しなければ」
「はは、そうだな。よしソウスケ、レンジ、食器を片付けたらゴーゴート達と一緒に走り込みしようぜ」
「構わないぞ! よおし、じゃあ誰が街の外周を一番速く周り切るか勝負しようじゃないか!」

 そしてジュンヤ達も……洗い物や掃除を終えるとアゲトジムを我先にと飛び出した。
 ──これは、エイヘイ地方の存亡を賭けた運命を掴む為の戦いだ。皆がそれぞれに己の出来る精一杯で望み、「この世界を守りたい」という同じ想いを胸に戦っている。
 泣いても笑っても……決戦の日まで残り七日だ。終焉へ向けて刻み続ける時計の針は、無慈悲に回り続ける。
 見上げた天上は遥か彼方まで青く広がり、中天に燦々と燃える太陽は眩く世界を照らしていた。

■筆者メッセージ
ジュンヤ「いやー、ご飯おいしかったな!さすがノドカだよ、本当に、旅が終わっても毎日食べたいくらいだ」
ノドカ「ま、毎日!?え、ええと、その……」
ソウスケ「はは、ジュンヤの家は毎日祖父が料理を作っていたから、好みがあまり合わなかったろうからね」
エクレア「え、あ、え、無視ですかソウスケさん!?」
ソウスケ「何がだい?君やレンジなら無視しても構わないとは思うけれど」
レンジ「おいどういうこったよそれえ!」
サヤ「わたしも、毎日、食べたいです」
ノドカ「えへへ〜、ありがとねーサヤちゃん!よしよし、かわいいねえ」
サヤ「ふふっ……。……ジュンヤさん、ノドカさんは、わたしません、です」
ジュンヤ「……何が?ま、まあ仲が良さそうで良かったよ」
ソウスケ「なら僕はヒヒダルマのフンは渡さないぞ!」
レンジ「んなもんいらねえよ!」
せろん ( 2019/06/30(日) 21:06 )