ポケットモンスターインフィニティ
















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第十一章 激化する戦い
第89話 迷いの果て、茜差す暇
 アゲトシティのアゲトジム。帰りを待ち続けていた少女の元へ現れたのは一人の少年。

「……本当に悪かった。なんて謝れば良いのかも分からねえ」
「……ラクライ! 戻ってきてくれたんですね……!」

 穏やかな夕陽の射し込む一室で、彼……レンジは謝罪の言葉と共にモンスターボールを差し出して。
 金髪に眼鏡を掛けた、快活そうな少女がその紅白球を投じると共に目を丸くして座り込んでしまった。
 眼前に潤んだ瞳で佇んで居るのはかつてずっと「取り戻したい」と想い焦がれ続けていた誰よりも大切な相棒。しかし……。

「ラク……ライ?」

 何よりも望み続けていた再会、だがモンスターボールから解き放たれて、眼前に立っていたのは自分の知っているその姿ではなく。
 全身に纏った青い短毛、頭や脚は黄色く静電気により逆立つ体毛に覆われていて、四肢はしなやかに伸びている。

『ライボルト。ほうでんポケモン。
 ライボルトの近くに雷が落ちる為、雷から生まれたと考えられていた。闘いになると雷雲をつくりだす』
「……わりい。おれがレイからモンスターボールを受け取った時にはもうこの姿だったんだ」

 ポケモン図鑑の、抑揚の無い声が読み上げていく。俯いたまま立ち尽くす少女に、彼はなんと言葉を掛ければ良いのか分からず深々と頭を下げて……。

「ライボルト、本当に良かったです、また会えて……!」

 ライボルトは変わってしまった自分が申し訳なさそうに尻込みをするが……エクレアは金髪の尾を揺らして、堰を切るように溢れ出す涙も構わずに大切な相棒を強く、強く抱き締めた。

「ごめんなさい、もう……絶対、離しません! ラクライから姿が変わっちゃってて、ちょっと驚きましたけど……これからは、ずーっといっしょです!」

 もう二度と離さない。欠けた時間は日だまりのように瞬く間に溶けていき、相棒……ライボルトは、そんな主の涙を拭うように幾度と顔を舐めながら、自身も再会の喜びに涙を溢れさせる。
 そうして、二人だけの時間をしばらく過ごしてから……ようやく涙が収まった少女は、おもむろに立ち上がって自責の念に駆られていた少年を真っ直ぐ見据えて。

「……レンジさん」

 その瞬間、パン、と乾いた音が響き渡った。少女が少年の頬を泣きそうな顔で思い切り平手打ちして、叩かれるのも当然だ、彼が再び顔を上げて謝罪を告げようとした時に、遮るようにエクレアは首を振って口を開いた。

「……違います。これは私やライボルトの分ではなく、あなたのポケモン達の分です」
「……そういうことか。ありがとな」

 そう、共に歩む相棒であるポケモン達へ酷い言葉を投げ掛け、道具同然に扱って、そんな仕打ちをレンジ自身でも許せなかった。
 誰にも責められないままでは己の心がくすぶり続ける。目尻に先程とは別の雫を湛えながら、それでも裁いてくれた彼女へ心からの感謝を述べる。
 今でも自分が許せない。だが……ほんの少しだけ、気持ちが楽になった気がするから。

「あたしはあなたを恨んでいません、あなたのおかげでライボルトとまた会えて、あなたは改心したんですから。ですが……あなたのポケモンのことを想うと」
「……その通りだ、一番辛かったのはおれじゃなくてポケモン達なのに。お前にそんなことさせちまって、……本当にわりい」

 先に戻ってきたソウスケから、レンジが自分の行いを悔い改めて償いたいと聞いていた。そもそもラクライを奪ったのは彼ではない、恨む道理も無いのだが……やはり、彼のポケモン達が辛そうに闘う姿がいたたまれなかった。……そして、己を責めるように眉間に皺を寄せる彼自身も。

「ううん。それよりも……ポケモン達に、優しくしてあげてくださいね」
「……ああ。もう二度と、道を踏み外したりはしねえ。ボスゴドラ達……みんなの為にも」

 エクレアは再び首を振って、泣きそうなのを必死に堪えて気丈な笑みを浮かべてみせる。そんな脆く、芯の強い少女に己が恥ずかしくなる。
 エクレアのことを弱いと言ったが、本当に弱いのは自身だった。自分には出来ない、彼女のように笑うことは。
 差し出された少女の手を躊躇うように握り締め。真っ直ぐに向けられる眩しい瞳に、臆病な心を必死に抑えて、一歩を踏み出すように向かい合う。
 窓辺に注ぐ黄昏の陽射しに中天のような灼熱は無く。しかし、だからこそ……陰りを映す二人の横顔を、優しく暖かく照らしていた。



 すっかり太陽が水平線の彼方へ沈み、訪れるのは永い闇夜。昼の喧騒が、迸る熱気が、鬩ぎ合う激戦が嘘のように世界は冷たい静寂に包まれていて。
 押し寄せるオルビス団達との戦い、悪へ堕ちたかつての友との闘い、決戦に備えて鍛練を続ける者達……皆それぞれのやるべきことに一旦の区切りがついて、一時の休息を入れてから迎えた穏やかな夜。
 壺や観葉植物が飾られ、中央に円卓の鎮座するアゲトシティの会議室。そこにルークやジュンヤ、ソウスケ達全員が座って一人の少年を囲み、ツルギは腕を組んで壁にもたれ掛かっている。

「頼む、おれとボスゴドラ達を……お前達レジスタンスの仲間に入れてくれ! 許されないのは分かってる、それでも……出来ることをやりたいんだ!」
「僕からも頼む、皆! レンジはもう以前のような彼じゃないんだ、やりたいことを思い出して、だから……頼む!」

 少年……黒髪に革のジャンバーのレンジは必死に声を張り詰めて頭を下げる。今までの行いを悔い改めるように、たった一度のチャンスに縋りつくように。
 そしてソウスケも共に深く頭を下げて……訝しげな表情を浮かべるハナダとタマムシ、ツルギは眉一つ動かさず、だがジュンヤやノドカ達は笑顔を浮かべて、彼は真っ先に口を開いた。

「オレは賛成するよ。二人に何があったかは分からないけど……目を見ればなんとなく想像はつく。憑き物が落ちたみたいな顔をしてる、だからきっと大丈夫さ」
「えへへ。私は、いっしょに戦ってくれるなら大歓迎だよ〜! 一人でも仲間が多い方がうれしいもんね!」
「あ、……はは、そうだなノドカ」

 それに、もし裏切ったならオレが責任を持って止めるさ。と付け加えようとしていた ジュンヤを遮って満面の笑顔を咲かせるノドカに、しかし相変わらずの空気を和ませてくれる優しさで彼は肩を竦めながらも微笑みを浮かべる。

「きっと、だいじょうぶ、です」
「……はい。その力を、傷付ける為じゃなくて守る為に……傷付く人を出さない為に、誰かの為に使ってあげてください!」

 それに追従するサヤ。エクレアも複雑そうに眉を潜めるが、しかし、迷いを追い払うように首を振ると意を決して叫んだ。

「あ、あのねアナタ達、そんなカンタンに信じて……」
「彼奴ならば無用な心配だ。ふん、もし裏切るようならば今度こそ儂が勝つ。それで構わぬだろう」
「グレン、貴方は本当にポケモンバトルがお好きなのですねえ。弟子にはすっかり絆されたご様子で」
「然り。自分の眼にも、子煩悩……否、弟子煩悩に映っている」

 闘いを交わし、見届けたグレンだからこそ確信を持って言える言葉。彼の心に蔓延る迷いは焼き払われた、既に己の内に在る悪との決別を果たし……故に、少年のことを信じられる。
 はずが。日頃の行いなのだろうか、ハナダとタマムシ、クチバ三人からのツッコミを受けて、老人はへそを曲げたのか「フン、もう良いわ」と口をつぐんでしまった。

「ツルギ、アンタはどうなのよ」
「この状況だ、戦力は多い方が良い。それに……この程度、御すのは容易い」
「おい、今のは訂正しろよ。疑われるのはしかたねえが……裏切ってもカンタンに止められる、ってのは腹が立つぜ」
「事実だ。だからお前は奴らへ与したのだろう」

 壁にもたれていた彼はそれまで無言を貫いていたが、意見を求められると淡々と告げて、喰って掛かった少年の怒りも興味ないと言わんばかりに切り捨てる。

「てめえ、それはどういう……!」
「き、きっと、ツルギは『だからこれから、弱さを受けとめて……強くなれば、いい』って、言いたいんだと、思います!」
「言ってくれるね、それは彼に辛うじて勝利した僕への挑戦と受け取った。バトルだ!」
「それ以上疲労を蓄積させようとは、余程足手まといになりたいようだな」

 友への、ひいては己にも繋がる侮辱に当然食って掛かるソウスケだが、その一言で気炎をすぐさま衰えさせる。確かに彼の言うことは最もだ、ヒヒダルマ達にはまだ休息が必要だろう、と。

「……確かに、君の言う通りだ、すまない。あれだけ力を酷使したヒヒダルマ達を闘わせるのは流石に酷だね」
「己の状態を把握してからものを言え、鬱陶しい」

 ……思わず食って掛かってしまったが、ポケモン達の状態を考えれば無茶はさせられない。ソウスケは残念そうに、しかし仕方がないとレンジと共に大人しく引き下がった。

「……まあなんだ。ぼくは構わんぜ」

 ようやく話に区切りがついた。今まで機会を伺って中立な沈黙を貫いていた金髪の青年……ジムリーダーのルークが、重い腰を持ち上げるように厳かに口を開く。

「確かにハナダやタマムシさんが警戒するのは分かるぜ、レンジ君はつい今日までオルビス団の一員だったんだからな。もしかしたら裏切るかもしれない」
「でしょ、ルーク? こいつは平気で悪事を働いてたのよ、二枚舌のコウモリ野郎かもしれないじゃない。そしたら」
「ぼくだって気持ちは分かるさ、だが……スタンの奴ならきっとこう言った。『まずは信じてみる。その後のことは後に考える』ってな」

 悪の首領の下に破れ去った親友にして最大の好敵手……チャンピオンから未来を託されたのだ。だから彼が信じたものを信じて、必ず勝利を掴み取る。
 四天王達の脳裏にもスタンがそう言って爽やかに笑う表情が容易く想像出来た、確かに彼なら受け入れるだろう。
 ……自分達は四天王、玉座を守り頂点に従う四つの剣。ならば、素直に従う他無い。

「それに幹部の力は強大だ、オルビス団員達も此処に来て更に勢いを増している。戦力は少しでも多い方が良いのも事実だろ?」
「……言っても聞かなそうね。はあ、バカのスタンなら絶対そう言うわ、カンタンに想像出来る」
「ええ、頂点に全てを託された貴方が決めたんですから。従うしかありませんものね」
「よーし決まりだな、物分かりが良くて助かるぜみんな。どっかのバカチャンピオン様とは大違いだ!」

 ルークが何を思い出したのかイラつき混じりに吐き捨てながら立ち上がり、不安そうに成り行きを見守っていた革ジャンの少年へ歩み寄って手を差し伸べると……彼は、心底安堵したように胸を撫で下ろして、くすぐったそうに口元を綻ばせていた。

「じゃあ……おれ達を仲間に加えてくれるんだな!?」
「ああ、君をぼく達レジスタンスへ迎えるぜ。さ、じゃあまずは……君の知っていることを洗いざらい話してもらおうか」
「おう、おれの知ってることで良ければな!」

 差し出された手を力強く掴み取る。手と手が固く結ばれて、共に永平を守ると誓った皆が口元に微笑を湛えながらそれを見守る。
 そして話が長くなるかもしれないから、と小休憩が挟まれて、事情聴取も兼ねた会議の再開は十五分後となった。



 お菓子と飲み物を用意した彼らは、再び円卓を囲うように着席をしていく。一番最初に到着していたのはツルギだ、腕を組みながら壁に背を預け、十分前に着席するのがソウスケ。
 五分前にはレンジやサヤ、四天王達も次々に着席していき……。

「ご、ごめんなさ〜い、遅れてないよね!?」
「ごめんみんな、なるべく気を付けてはいたんだけど……!」

 時間丁度、時計の長針が十二を指すのに合わせるかのように部屋に飛び込んで来たのがジュンヤとノドカの二人だ。

「いつもそうだ、ノドカはどんくさいから早くても時間ぎりぎりだし、それに付き合うジュンヤも必然遅れる。本当に、君達は相変わらずだね」

 ソウスケはそれを微笑ましそうに見守って、レンジは「おいおい、おせーぞー」と茶々を入れる。ルークが呆れたように肩を竦めて、皆が見守る中二人がソウスケの右、サヤの左に着席してついに会議が再開した。
 
「ねえねえジュンヤ、お菓子と飲み物はなに持ってきたの!?」
「勿論ホットミルクとヒウンアイス、個室の冷蔵庫に入れてたんだ。ノドカは?」
「えへへ、私はチョコケーキとシュークリームとココアだよ〜。どっちも大事に残してた最後の一個なの……! ねえねえ、ソウスケとかサヤちゃん達は?」

 砂糖の溶けたミルクは甘い匂いを漂わせ、ジュンヤが机に置いたメェークル印のマグはバニプッチを模したアイスの隣で温かな湯気を立てている。
 その横に腰掛けたノドカは手に持ち切れなかったのかお盆にかわいらしいコアルヒーのコップとスイーツを乗せていて、周囲から呆れの眼差しを向けると「な、なによ、あげないんだから〜!」と的外れな抗議をしていた。

「僕はスポーツ飲料と団子だよ。流石に今日は疲労が溜まっているからね、すぐに無くなりそうだけど」
「あ、わたしは……」
「ほら無駄口はそこまで、真面目に始めるぞ〜」
「はーい!」

 ソウスケに続いてサヤが喋ろうとしたところで手拍子と共に話が遮られた。濡羽髪の少女は不服そうに金髪の青年ルークを見つめるが、彼はそれに気付かないまま話が進行していく。

「んじゃレンジ君、早速よろしく頼むぜ」
「おう、任されたぜ。……悪いけど、おれも奴らの内部事情をあまり詳しくは知らねえ、だから知ってることだけ話して行くぜ」

 そして進行役である金髪の青年……ルークに振られて、レンジが覚えている限りをまとめたノートを開いて、記憶を辿りながらおもむろに口を開き始めた。

「まず三幹部についてだが、あいつらはおれには目的も何も話してはくれなかった。多分、始めから信用されては無かったんだろうな」
「実際こうして裏切った。やるねオルビス団、敵ながら賢明な判断じゃないか……!」
「使えないな。お前は何の為に来たんだ」
「ツルギ、……ほんと、ですね。それです」
「サヤちゃん!?」
「うっ……ソウスケもツルギもうるせえよ! 話はまだ続くんだから黙って聞いとけよなー!」

 真面目に話しているのに茶々を入れられて素直にへそを曲げる少年。しかしこのまま話をしないわけにもいかない、一度大きく咳き込んで、間を置いてから再び話しを続けていく。

「ああ、それと剣の城……オルビス団アジトの構造は大体把握できたぜ。あの城を地面に突き立てられた文字通り一振りの剣に見立てたとすれば、部下が出入り出来るのは刀身の部分だ。鍔から上は立ち入りが禁止されていて……」

 ……彼の話を要約すると、剣の城は中心に巨大な分厚い円筒が通っていて……多分光線を放つ砲身なのだろう。そして鍔から上に行く為の扉には常に見張りがついていて、エレベーターもその階までしか通っていない。
 また刀身の部分は全てのエリアが解放されている為に時間の合間を縫って隈無く探してみたが、あるのは居住区域や訓練場、食堂といった差し障りの無いものばかりで、牢獄やそれらしいものは見付からなかった。恐らく捕まったポケモン達や最高幹部の三人は、普段鍔から上のエリアに居るのだろう、と。

「なるほど、構造が大体分かったよ、ありがとなレンジ。目指すべき場所は頂上だ、きっとビクティニは……そこに囚われている」
「チャンピオンへの道と同じだね。艱難辛苦を越えて頂点に辿り着く、単純明快で良いじゃないか!」
「う、うう〜ん、同じなのかなあ……?」

 彼の話を聞きながらおおよその見取り図を取っていたジュンヤが、うん、と頷きながら感謝を述べて、茶髪の青年……ソウスケが我が意を得たりと言わんばかりに目を輝かせている。
 首を傾げるノドカ、それだと言わんばかりにしきりに頷くエクレアを尻目に呆れたように肩を竦める周囲に同調しながらもレンジは更に話を続けていった。

「……とまあ、おれが知ってるのは大体こんな感じだぜ。はー、疲れた〜!」

 全てを話し終えたレンジは、深く息を吸い込んで、吐いて、肩で大きく息をした。一日に三度のフルバトルだけでも相当な疲労だというのに、自分自身と向き合って、嫌な過去も含めて記憶を辿っては精神面も相当な疲弊だろう。
 だが、これである程度はオルビス団の内部事情も把握出来た。
 オルビス団員達は幹部ごとに部下の傾向も分かれているが、多数を占めるのはレイの部下達。居住区でポケモン達と過ごしている者が大半であり、一部がレイの為にと働いている。
 エドガーの部下達は訓練場で鍛練をしていてる者や研究員に分かれていて、アイクの部下達は自由に戦いの日々を過ごしているようだ。恐らく……普段から居住区に居る人達の大半は、この終局に自ら生きる為にと悪へ下った者達なのだろう。
 そしてレンジは強くなる為に、一週間不眠不休での戦いやオルビス団員百人抜きへの挑戦、一方的にアイクやレイから闘いという名の蹂躙に臨んでいたりと……強くなる為に殆どの時間を闘いに割いていたらしい。
 あと痛いし疲れるし休む暇も無く戦わなければいけないしで、強くなる為自ら望んだとはいえ、今に思えばもう二度と経験したくないらしい。この話の途中でツルギは「鬱陶しい」と席を外し、サヤもそれを追い掛けて「すみません!」と居なくなってしまった。

「ふむふむ、ありがとなレンジ、オルビス団の事情がある程度は分かったよ」
「最後の君の愚痴は全く要らなかったがね! え、というかあれ僕ら本当に聞かされる意味あったのかい?」
「おれだって大変だったんだから聞いてくれても良いだろ! 情報だって十分提供したんだし!」
「……えへへ。うん、お疲れさまだね〜!」

 ……レイは何故、戦いもしない、働かない本当に居るだけの部下を増やしているのか。考えられる可能性は三つ。一つ目は人質、二つ目はツルギからの情報が本当なら予備の動力源、そして、三つ目はあくまでオレのかなり主観の入った予想に過ぎないが、──為。
 それに決戦の場、剣の城へ乗り込むとなれば最悪大勢のオルビス団員達との戦いになるかもしれない。その上で幹部と戦うとなればかなり厳しいものになる、準備は万全にしておかなければ。まずは……。
 と、ジュンヤが思索を巡らせている横では純粋な、殆どの人が抱いていた疑問を真っ先に浮かべるソウスケにレンジが不満そうに食って掛かって、一部がしきりに頷いている中ノドカは困ったように笑っている。

「はは、ノドカは優しいなあ。確かに自分から強くなろうとしたとはいえ、それは二度とごめんだな」
「あ、ジュンヤ、このすっとこどっこい……!」
「だろ!? 信じられるかよ、レイのやつ」
「ま、丁度話しにも区切りがついたよな。時間も遅いし、今日はそろそろお開きにしようぜ」

 これは彼の女々しい愚痴を加速させてしまう。まずい、とソウスケが息を呑んだその時に金髪、緑衣のジムリーダーであるルークが無理矢理話を終わらせるように手拍子を入れて宣言した。
 ナイス! その場に居た殆どの者が心の中でサムズアップを、あるいは苦笑をして、「それにしても、おいしかった〜!」というノドカの呑気な言葉を皮切りに途端に気持ちが緩んでしまう和やかな空気に包まれていく。

「んじゃ、明日も早いしそろそろ帰らせてもらうわねルーク」
「儂も暇させてもらう。これ以上此処に留まる理由もあるまい」
「よし、僕も帰って少し鍛練したら寝ようかな。今日はもう疲労困憊だ」
「え、ちょ、待て待て待てお前ら。おれの話まだ終わってねえんだが」

 呆然と佇むレンジを尻目に、まずはハナダ、続いてグレンとソウスケ、と皆立て続けに会議室を退室していく。

「じゃあオレ達も戻ろうかノドカ。……ところでさ、良ければ明日ポフィンつくってくれないか。ノドカも大変なのは分かってるんだけど、ゴーゴート達はノドカのつくったお菓子が良いらしくて」
「うん、勿論良いよ〜! えへへ、それなら張り切ってみんなの分つくらないとだね、サヤちゃんにも手伝ってもらおうかな!」
「あ、あたしも手伝いますよノドカさん! ええと……お疲れ様でした!」

 そしてジュンヤとノドカ、エクレアも退出し、ルークとタマムシも「そういうことでぼくも買えるぜ、また明日な〜」「それではわたくしも失礼いたします」と取り残されないように慌てて会議室を後にして。
 皆が次々に席を外していく中、ただ一人無言で残り続けていたクチバが厳かに口を開いた。

「……自分で良ければ、話を聞こう」
「……わ、わりい、疲れたから帰るわ。気持ちは嬉しいぜ、あんがとな」
「なっ……!?」

 そしてレンジも会議室を出てしまった。

「何故……」

 そして……一人取り残されてしまったクチバが寂しげに呟いた言葉は、広い会議室の中に虚しく響いた。

■筆者メッセージ
レンジ「っつーわけで今日から加わることになったぜ。本当にわりい、ありがとう。これからよろしくな!」
ソウスケ「ああ、よろしく後輩。今後は共に戦おうじゃないか!」
レンジ「おう、勿論だぜ……って、あ?なんだよそれ」
ジュンヤ「サヤちゃんが喜んでたんだ。後輩が出来るって」
サヤ「はい、やっとわたしに、後はいです……うれしい」
レンジ「何言って」
ノドカ「レーンージーくーんー?」
レンジ「……お、おう、そうだな先輩」
サヤ「!は、はい!もっと言って、いいですよ」
ノドカ「サヤせんぱーい!」
ソウスケ「流石はサヤ先輩だ、今日も素敵なポケモンだね」
ジュンヤ「うん、先輩が優しい素敵な人で良かったよ」
サヤ「……ふふ、ありがとうございます。楽しい、です、これ……!」
ノドカ「えへへ、それは良かった!」
サヤ「後はい、ジュース、買ってこい……です」
レンジ「しかたねえな……って、はあ!?」
せろん ( 2019/06/21(金) 23:01 )