第82話 漆黒の暴威
──終焉の刻まで、残り8日。
どこまでも青く広がる、雲一つ無い曇りなき大空。蒼天を望む吹き抜けの天井から、一層強く灼熱で照らす眩い陽射しが白線の引かれた戦場を照らし、舞い上がった埃や砂塵がきらきらと煌めく。
緑のブレザーを羽織った茶髪の少年が、珍しく燦々と降り注ぐ陽光を億劫がるように瞼を細めて、モンスターボールを手に取った。
「……僕がどうしようもなく無力なばかりに、すまない、ジュンヤ」
……今でも、脳裏に蘇る。あの日も同じ……身体を撃ち全てを浚う篠突く雨の日に、全てを焼き払われ、圧倒的な大敗を喫し、絶望の淵に沈んだ親友の姿を。
ジュンヤはこの旅の中で幾度と困難に立ち向かい、壁を乗り越えて強くなった。だが彼は本来ならば根本的に“弱い”人間だ。当たり前のことに怒り、傷付き、荒事を好まず暴力を恐れる。
しかし彼は変わった。“あの日”絶望の淵に沈み、底から救い出してくれた少女を守るという誓いと、もう何も失いたくないという願いから……大切なものを守りたいという想いを掲げて、強くなろうと必死に足掻いていて。
「僕は二度も、ジュンヤが絶望の淵に沈んでいたにも関わらず救えなかった。けれど……だからこそ、強くならなければならない」
ジュンヤは、僕がこの世に産まれて以来の親友だ。だが彼が絶望に堕ちた時に何も出来ず、二度も、ただノドカが彼の心を溶かすのを見ているだけしか出来なかった。
己には……いや、ノドカにだって、誰にも彼の囚われている運命の鎖を断つことは出来ない。強くなって、因縁を越えることでしかジュンヤが本当の意味で再び歩き出す道は無いだろう。
「だから絶対に負けられない、そうだろう、ヒヒダルマ」
力強く握り締めた紅白球の内で、相棒が確かめるように逞しい両拳を打ち鳴らした。
僕らよりも余程過酷な運命に立ち向かっているジュンヤが何度折れても再び歩き出しているんだ、僕が諦めるわけにはいかない。また彼が“ありのまま”で歩き出すことを応援したい、だから……まずは僕が頑張らないといけない。
「そして、もう一つ……」
……僕が強くならなければいけないもう一つの理由。今でも脳裏にこびりついて離れない、壊れそうな程に顔を歪めて嗤う彼の顔を。
レンジ、彼は間違っている。悪に身を堕としたことではなく……『ヒーローになりたい』、そう語っていたから。彼の笑顔が……心から笑っていなかったから。
「彼が求めたのは強さだ、確かに以前とは比べ物にならない。しかし……今の彼にはただ力があるだけだ、その責任を僕も担っている」
諦めずに力を求めた結果辿り着いたのが悪の道ならば、僕には彼を引き戻す責任がある。彼らとの決着は……僕とヒヒダルマ達がつける、次は絶対に勝ってみせる。
「そしていつかにジュンヤと交わした約束を果たし……僕とヒヒダルマ達が、最強の座へと勝ち上がる」
脳裏に、三人で笑い合っていた遠い昔の笑顔が過る。
幼い頃から夢見ていた至高の玉座、目指すは栄光の頂“ポケモンマスター”。其処に至る道はただ一つ、僕が親友の為に出来る応援はただ一つ、強くなること……それだけだ。
この絶望を越えて、僕らの未来へ歩む為に……決してオルビス団に負けられない。変わらぬ夢を心に掲げ、不朽の友情を胸に秘め、変われる強さで想いを貫く。それが僕に出来る……唯一にして誇れることなのだから。
伸ばした武骨な左手のひらを熱く燃え盛る太陽に翳せば、紅く流れる血潮が己の闘争本能を掻き立てる。力強く握り締め、右手に握っていたモンスターボールを覗き込めば相棒ヒヒダルマも胸を打ち鳴らして闘志を燃やしていた。
「ふむ、良い心掛けだ。先んじて待しておるとはな」
角が取れたような、厳しくも暖かいしわがれた声が背後から投げ掛けられた。
畏怖、緊張、期待、悦び……ついにこの時が来た。思わず口元が綻び、昂る闘志を隠すことなく師である老年を振り返った。
「ふ、当然ですグレンさん。何故なら僕は……この闘いで貴方に勝利するのですから」
「大した自信だ、過信は慢心を招くぞ」
「これは確信です。僕は強くなりました、今なら……四天の将に後れを取ることは無いのだと」
「ならば良い。その眼は曇り無く燃えている、儂も……全力で愉しめそうだ」
二つの焔が晴天に猛々しく燃える。抑え切れない闘志が火花を散らす。腰に装着されたモンスターボールへ手を伸ばし、力強く掴み取って振り翳したその瞬間に「大変よグレン、ソウスケ!」突然飛び込んで来た女性の怒号が響き渡った。
「ハナダか、この愉しみを遮るとは……如何用で参った」
「どうもこうも無いわよ、バトル脳も大概にしなさい!」
「お主に言われたくは無いわ」
「うるさいわねグレン! って、ああもう、そうじゃなくて……オルビス団の幹部が現れたの!」
その瞬間、鼓動が嫌に早鐘を打つ緊張が迸った。終末への宣告が為されてから、オルビス団の活動が活発化して構成員は今までにも幾度と暴れていた。しかし……遂に幹部が出て来てしまった、今ルークとツルギは他の街に現れた構成員の対処へ当たっており、最早迷っている暇など無い。
「ハナダさん、教えてくれないか。幹部は一体何処へ現れたのかを」
「……分かってるのかしら。相手は幹部よ、今のアンタには敵いっこないわ」
「分かっているさ、奴らはこの旅で出会った誰よりも強い。だが……それは悪を看過する理由にはならない、僕らは反旗を掲げるレジスタンスなのだから」
ハナダは迷わず現場へ向かおうとするソウスケを引き留める、だが……それは大局を見ての判断ではない。確かに大体の住民は疎開を終えている、それでもまだ慣れ親しんだ地から離れられない人々が居るだろう。
無辜の住民を見捨てることを是とするわけがない、しかし戦友が自ら死地へ踏み込むのを見過ごせる程ハナダは冷淡ではない。どちらも選べない二律背反の感情に、彼女も決断しかねているのだ。
「ハナダ、この少年の胸に点る焔を信じるが良い。ソウスケはお主より強い、四天王ならば強者を次へ導くのが役割であろう」
「言っとくけどアタシの方が……まあ良いわ、アタシ達じゃアンタのウインディを倒すことが出来ないのはホントだし」
グレンは四天の将だ、この街を守る為に離れるわけにはいかない。しかし唯一の弟子である少年になら幹部との闘いを任せられる、その一言で、ハナダも惑いを払って決意を固めたようだ。胸に手を当てて、深呼吸をした後に幹部の現れた街の名を伝える。
「エイヘイ地方の東北東にあるモリオンタウンよ。215番道路と216番道路の間で……って、知ってるかしら」
「ああ、以前その街のジムに挑戦したことがあるからね」
「……信じてるから。もし負けて帰って来なかったら絶対許さないわよ」
ソウスケの顔に人差し指を突き立てて、苛立たしげに言い放つが、彼は微笑みながらその指を払い退けてモンスターボールを空へ投擲すると声高らかに宣言した。
「ふ、案ずることはないさ。僕とヒヒダルマはいずれ最強になる男、その夢が届く日まで胸の灯火は尽きないのだから」
現れたのは力強い双翼を羽撃たかせる真紅の猛禽、勇猛勇敢に天を飛び回る大空の戦士。
「行くぞウォーグル、目指すはモリオンタウンだ!」
少年がブレザーの裾を靡かせながら大鷲の背に飛び乗ると、吹き抜けの天井を突き抜けて、巨悪の幹が聳え立つ戦地へと飛び立っていった。
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「させるか……! ツンベアー、つららおとし!」
三つ首を備え全身を強靭な鱗に覆われた漆黒の暴竜が、鎌首をもたげて蒼天を仰ぐ。其処に降り注ぐのが幾つも連なる巨大な氷柱、鋭利な矛先を持って竜の身体に刃を突き立てるが……その三対六翼に粉砕され、かろうじて届いた氷柱も鱗によって弾かれる。
「はっは、その程度かよお。サザンドラァ、あくのはどうだあ」
必死の猛攻を嘲笑うかのような渇いた嘲笑も束の間、暴竜の威容とは打って変わった、間延びした低い声で指示が出される。
そのポケモン……サザンドラの主は裸に青い上着を羽織り、ぼさぼさの髪をした恰幅の良い気だるげな大男。地べたに寝そべりながら戦っている、オルビス団最高幹部の一人アイク。
対峙するのはモリオンタウンのジムリーダーであるシアン、銀髪にスーツを着こなしたこおりタイプの使い手の青年。
しかし文字通りに「レベルが違う」、あまりの実力差に相性が有利にも関わらずほとんど傷を負わせられず、残り一匹にまで追い詰められていた。
「シアンさん!」
「やめろオルビス団! シアンさんに酷いことをするなー!」
「……悪い、皆。私は此処で終わりのようだ」
道路は酷く抉り飛ばされ、ビルは上半分が崩落し、酷くひしゃげた電柱に跡形も無く吹き飛ばされた一軒屋。
死にもの狂いで食い下がって、ようやく残された僅かな街の住民が避難するだけの時間を稼げた。しかし……まだ何十人も残されているにも関わらず、己には其処が限界だったようだ。
逆巻く漆黒の波動を前に無力を噛み締めながら、せめて後ろに居る彼らを守らんと瞼を伏せた。
「オレ達が絶対に守ってみせる……ゴーゴート! まもるだ!」
その瞬間、眼前に現れた外套とマフラーを纏い眼鏡を掛けた少年が叫び、深緑に覆われた山羊が構えると眩く輝く極光の障壁が展開した。
全てを砕く悪意の塊、螺旋を描く紫黒の波動が固く拡がる障壁に阻まれ辺りに撒き散らされていく。
「なんとか間に合ったみたいですね、シアンさん」
「あーん? そのゴーゴートォ……はは、まあこの程度は防いでもらわなきゃあー困るぜぇー」
「今だ、早く逃げてくれ!」
彼は相も変わらず寝そべりながら、渇いた哄笑を響かせる。黒竜は自身の技を防がれたことに苛立ちを募らせるが、主の様子に歯を噛み締めながら怒りを抑える。
突如現れた少年の言葉に、シアンの後ろにいた人々は頷くと共に「ありがとうございます、助かりました!」「誰かわかんないけどありがとー!」とポケモンの背に跨がって走り出していった。どうやらジュンヤの変装が功を奏し、またこの緊急事態だからか気付かれなかったようだ。
「は、だったらこれはどうだァ? りゅうせい……あー、めんどくせえ」
「ヒヒダルマ、フレアドライブ!」
次は最大級の大技を放つ……そう指示を出しかけたが、上からの気配にアイクは寝そべりながら頭を掻いた。
黒竜が天を仰いだ瞬間に大空高くから灼熱を纏いし小恒星が降り注ぐ。相棒サザンドラは咄嗟に顎を上空に向けると直ぐ様口元に漆黒の波動を蓄え解き放ち、空中で火炎の塊と悪意の螺旋がぶつかり合った。
「ソウスケ……まさか再会がこんな形になるとはな」
「久しぶりだねシアン、そしてまた会ったなアイク」
唐突に頭上へと飛び降りて来たソウスケは、ジュンヤ達の前に着地すると空で羽撃たくウォーグルへとモンスターボールを翳して紅い閃光が飲み込んでいく。
火球と波動は激しく余波を撒き散らし辺りの道路を粉砕しながら鬩ぎ合い、しかし未だその威力には届かないようだ、螺旋が灼熱の鎧を貫かんとしたその時に、「まもる!」極光の盾を展開したゴーゴートが二匹の間へと飛び込んだ。
「てめえもモークタウンで会ったなあー。くく、懐かしいぜえー、吹き飛ばされたサザンドラを思い出すと笑えちまう」
「オルビス団幹部のアイク……答えてくれ、お前達の目的は一体なんなんだ! 罪も無い人々を傷付けて……何が楽しいんだ!」
どうやら彼の口振りからすると、以前の邂逅……モークタウンで初めて激突したことを覚えているらしい。くつくつと込み上げる嗤いに漆黒の暴竜は怒りを顕に咆哮をあげるが、アイクは気にも止めずに退屈そうにあくびをこぼす。
「組織の目的かぁー……めんどくせえなあ。ヴィクトルちゃんが言ってたろ、挑戦者を待つってなあー。あいつに聞きに行きなぁ、ウキウキで答えてくれるぜぇー」
ジュンヤの問い掛けに彼は興味無さそうに答えるが、ふと思い付いたようにあくびを噛み殺すと愉しげな嗤いを浮かべて口を開いた。
「ま、おれが此処に来た目的は一つだぜえ。今なら抑える必要はねえ、好きなだけ暴れられる、ジムリーダーがおっ死んじまう前に遊びに来たんだよお」
「……そんなことの為だけに、街一つを壊したのか……!」
「はっはー、結果的にはそうなるなあ。気ぃにすんなよお……どうせ終焉の刻には総て塵に還るんだぜぇ、遅いか早いかだけじゃねえかあー」
アイクの相棒サザンドラの暴虐によって酷く荒れて壊された街の景観を見回しながら、ジュンヤは怒りを顕に怒号を飛ばす。
しかし気にするな、彼は平然とした口調で、あっけらかんとそう言い放った。彼の中では終焉は確定している、其処に悪気も悪意すら感じられず、ただの決定事項でしか無いのだろう。だからいくら壊しても良い……そんな道理など、通るはずがない!
「ふざけるなよ……オレ達がそんなことはさせない、このエイヘイ地方はオレ達が守り抜く!」
「あー……喋るのも飽きた、時間稼ぎに付き合うのもめんどくせえしな。そろそろ始めようぜぇ」
「……気付いていたんだな。でも良かった、無事に逃げられたみたいだ……」
目論見を見抜かれていた、心臓が跳ねそうになりながらジュンヤ達が振り返ると、既に避難していたモリオンタウンの住民達の姿は見えなくなっていた。どうやら……少なくとも街の郊外辺りまでは逃げられたのかもしれない、安堵に胸を撫で下ろすが……。
「はははは、サザンドラァ……りゅうせいぐんだあ」
「なっ、その技は……!」
……地の底から響くかのような低く獰猛な咆哮が大気を震わせ、見上げれば……虚空に無数の流星が閃く。
宙の彼方より呼び寄せられた巨大な隕石群、有無を言わせず全てを蹴散らすドラゴンタイプ最強の大技に……シアンは、思わず絶句してしまう。
「っ、すまない、頼んだぞ!」
「任せてくれソウスケ。みんな、オレの側に来るんだ! ゴーゴート……まもる!」
隕石は無慈悲に全てを破壊し尽くしていく。街のポケモン達の命を支えるポケモンセンターも、かつて街外れでジュンヤとレイが対峙した廃工場も、無数に建ち並ぶ“誰か”がかけがえのない日々を過ごしていた家屋も……悉くが、隕石の衝突によって跡形も無く潰れ、跡には無惨な残骸と巨大なクレーターだけが残されていた。
「くく、愉快だぜぇ、街がぶっ壊れていくのはよぉー」
渇いた大地に水を差したかのような、悪意に満ちた哄笑が響き渡る。
絶えることの無い滅びの爆轟、黒く吹き荒ぶ身を裂く爆風、その中心で……真昼の極光が、翠緑の輝きを湛えて全てを守る防壁を展開していた。
纏っていた外套と眼鏡、マフラーを投げ捨てて、青いジャケットに薄橙の長ズボン、両手に革の手袋を嵌めた少年が赤い帽子の鍔を下げながらジムリーダーである青年を振り返った。
「……なんて威力だ、危なかった……!」
「君は……現在目下指名手配されているジュンヤじゃないか」
「う……だから変装して来たんです。もう必要は無くなりましたけど」
この街の住人はあらかた避難を終えた以上、最早変装の必要は無いだろう。
ヒビ割れること無く眩く聳える極光の盾が微かな光となって消滅し、渦巻いていた黒煙が次第に影を薄めていく。
やがて晴れ渡った景色の先で、跡形も無く潰滅して荒廃した世界の中で、未だに寝そべりながら気だるげにあくびをこぼしていたアイクが口元を歪めた。
「貴様、よくも私のモリオンタウンを……!」
「はっは……、まさか防いじまうたぁたまげたぜぇ。さーっすがレイのトモダチィイ、前にもこいつの技を防いだもんなあー」
暴竜が自身の最大級の技を防がれたことに苛立ち怒号を響かせるが、アイクは大して驚愕はしていないようだ。恐らく……ゴーゴートを見た時点で、彼がジュンヤであることにも気付いていたのだろう。
「気持ちは分かる、だが……抑えろツンベアー! ……気を付けろ二人とも、奴の技は極めて強力だ。まさに嵐のごとく吹き荒ぶ暴威……気を抜けばたちまち吹き飛ばされるぞ」
「……ああ、分かってる。幹部の強さは身に染みてるから」
「ふ、僕らとて心得ているさ。だからこそここに来たんだ」
己の愛する街を吹き飛ばされた、その怒りはシアンの心に火をつける。しかし冷静さを失うわけにはいかない、憤怒を必死に抑えて相棒であるツンベアーが激情に委ねようとしたのを制止し、ジュンヤに対して注意を促す。
オルビス団の幹部……彼らとはこの旅の中で何度も打ちのめされた、ジュンヤとソウスケもその脅威は痛い程に理解している。視線を交わして頷き合うと、暴竜を見据えて構えた。
自身の技を妨害されたこと、自身の最大級の大技を防がれたことが相当堪えたのだろう、三つ首の暴竜は耳をつんざくような轟咆を叫ぶ。
だがアイクはそんなことを意にも介さず自身に立ち向かう三人と三匹を一瞥すると、退屈そうに頭を掻いて、しかしその気だるげな眼の奥に野性をぎらつかせながら立ち上がった。
「ま、三人がかりだろうが、おれのサザンドラには歯が立たないっつうことを教えてやるよぉ」
今までは大した注意を払わず、半ば観戦のような気分で臨んでいた彼がほんの僅かな敵意の片鱗を顕す。
肌が粟立つように総毛立ち、緊張に暫時は呼吸すら忘れる。対峙する相手を気で飲み込むかのような獰猛な野性、蛙を睨む蛇のように見るものを竦ませ圧倒する威圧感……しかし、今の彼らはそれで戦意喪失する程弱くは無い。
ジュンヤは帽子を一度かぶり直し、ソウスケは上着の襟を正して対する幹部と向かい合った。
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石造りや木製の家屋が建ち並び、街の中心では華やかな噴水が飛沫を上げる。道路には石畳が敷き詰められ、商店街はこの終末の時に会っても今だ活気に満ちている。
そんな終末に抗う数少ない街の一角で……眼鏡を掛けた薄金の髪の少女と、黒い革のジャンバーを着た短髪の少年が向かい合っていた。
「約束です、あたしが勝ったらラクライを返してくださいレンジさん!」
「勝てたら、だがな。エクレアだったか……てめえとおれじゃあレベルが違うんだよ」
少年……今はオルビス団に下ったレンジが、威勢良く鼻を鳴らしながら、モンスターボールを遊ばせる。
その中にはかつてエクレアと夢に向かって走っていた相棒が居る。この闘い、負けられない……決意を固めて、腰に装着された紅白球を握り締めた。