ポケットモンスターインフィニティ



















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番外編
長い列車旅
 窓の外に見える景色は、耐えず移り変わっていく。
 初めは煩雑なまでに建ち並ぶ無数のビル群が、次第に整備された舗道に聳える民家へとなり、やがては人気が無くなり雄大に広がっていく自然。
 がたんごとん、と規則正しく振動する鉄の箱に揺られ続けてはや二時間。行き先の街まではまだ遠く、それでも彼らは目的に、あるいは旅そのものに。皆理由は違えどこの旅をとても楽しんでおり、心がとても高揚しているようだ。

「ああ、楽しみだね、みんな! バトル大会が僕らを待っているんだ!」
「へ、おれは負けねえぜソウスケ。てめえにもジュンヤにもツルギにもな!」
「うん、君とも闘いたいから僕と当たるまでは負けないでくれよ」
「お互い様だ、バカ」

 向かい合って憎まれ口を叩き合っているのはソウスケとレンジだ。まだまだ街までは遠いというのに早くも大会のことを考えていて。

「えへへ、おいひいねえジュンヤ! ……ごくんっ。やっぱり列車といったら駅弁だよね〜」
「分かります、あたしも食べ歩きはけっこうー好きなんですよね! あ、これあたしの買ってきたエクレアです、良かったらノドカさんもどうぞ!」
「ありがとうエクレアちゃん、私エクレア好きなんだ! ……ってこの流れだと、私がエクレアちゃんを食べるみたい」
「きゃーっ、食べられちゃいます!」
「えへへ、食べちゃうぞ〜! がお〜っ」

 ノドカとエクレアは同じ食いしん坊として気が合うのか、列車に乗る前に買っていた駅弁を食べながら話に花を咲かせていた。

「あはは……。サヤちゃんは、人が多いけど大丈夫か」
「はい、ありがとう、ございます。ジュンヤさんは、やさしいです」
「そんなことないよ。そうそう、それで目的地は……」

 一ヶ月ほど前に、大会が開かれると知って購入したパンフレットを鞄から取り出し机に広げる。
 サヤちゃんは身長が低くて見えないらしく、彼女を抱いて膝の上に乗っけると、はにかみながらも感謝をくれた。
 どうやらこれから行く街で行われるバトル大会は「豊穣祭」と呼ばれる、千年前から続く由緒正しい祭祀らしい。
 曰く千年以上もの昔、激しい嵐と暴風により起きた飢饉の際、現れた豊穣の神が忽ち作物を実らせて……と、神話に基づく感謝祭のようだ。

「すごいです、迷わないようにしないと」
「心配なら、ゴーゴートの角を握ってるといいよ」
「……は、はい。ありがとう、ございます」

 彼女は人混みが多い場所には慣れていないらしい。誰かがついていてあげないと、と思っていたところでソウスケが楽しそうな顔で声を掛けてきた。

「ジュンヤ、どうやらタッグバトル部門もあるそうだよ! 一緒に優勝しよう!」
「さ、参加するのは良いけど優勝って強気だなお前」
「僕の攻めと君の守り、二つが合わされば無敵で最強だからね! 負ける気がしないさ!」
「はは、言い切ってくれるな。けどオレもお前と一緒ならどんな相手にだって勝てる気がする、そう、ツルギにだって!」

 ソウスケのことは誰より信頼しているし、オレのゴーゴートとはタイプ的にも戦法的にも相性が良い。自慢じゃないが旅の中で随分鍛えられた、並大抵の相手にならば負けないだろう。

「じゃ、ボクはツルギくんと組んで二人をぶっ倒しちゃおうかな!」
「それはせこいぞレイ!?」
「いいじゃないか、ますます燃えてくるよ!」
「アハッ、ジョーダンジョーダン! ボクと組んでくれるとは思わないし、ボクも彼とは組みたくないからね!」
「……まあ、たしかに」
「もーお腹いっぱい〜……」
「おいおいノドカ、また太るぞ」
「ふとっ……! ……はい、気を付けます……」
「あたしもムリです〜……」

 ツルギの性格だ、誰かとわざわざ組んで出場をするなんて有り得ない。
 言われてみれば当たり前すぎて皆が苦笑する中で二人が仲良く倒れ込み、窓際で二人して机に突っ伏してしまっている。
 それからもソウスケとヒヒダルマが大食い競争を始めたり、レンジが構ってもらえなくて拗ねてたらレイに散々煽られたり、サヤちゃんが電車に酔って倒れたりと……つくまでの間夢のような、穏やかなひとときが流れ続けていた。

■筆者メッセージ
 この章の説明にも書いてある通り、本編ではあり得ない状況なので、本編関係ない平和な謎時空と思ってください。
 もう長く連載しているせいでどうにも愛着が湧いてしまって。時折更新するかもです
せろん ( 2018/06/18(月) 01:32 )