ポケットモンスターインフィニティ



















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第九章 反逆の旗を掲げ
第65話 真夜の闘い 前
 ノドカとサヤちゃんと話をして、それからも暫く街を歩いていると……差し掛かったポケモンセンターの裏手から、激しい武器がぶつかり合う音、天に昇る光と幾度と飛び散る火花、繰り返す派手な爆発……激しい攻防が伺えてる。

「これはいったい……」

 こんな時間、こんな事態の中でポケモンバトルとは珍しい人もいたものだ。頭の中で「ソウスケみたいな人なんだろうなあ」なんて苦笑を浮かべながら駆け足で裏手に回り込むと……。




****



「フーディン、サイコカッター」

 黄色の人狐が命じられるままに持っていたスプーンを薙ぐと、念波が実体化した三日月の風を切り裂きながら迫ってきた。
 対峙するのは翼を撃たれた巨大な鷲。既に消耗が激しい、食らえば戦闘不能もあり得るが……膝を屈していることから傷は深いらしく、避けようなど無いかに思えた。

「最大の危機こそ最大の好機だ。攻めようウォーグル、ブレイククロー!」

 それでもそのトレーナーの瞳に諦めは映らない、彼には退くという文字は無いようだ。迷わず指示を飛ばすと彼のポケモンも不満を零しながら、最後の力を振り絞り駆ける。

「……すごいです、ソウスケさん、ウォーグルも」

 その迷い無く突き出された一手に思わずエクレアが感嘆を漏らした。あたしならきっと、同じことをしようとしても躊躇った……と。
 正面から無数の刃が放たれるのも厭わず駆け出し、だがそこに作戦などあるはずも無かった。ただ突き進む、そして突き破る。自慢の脚力を限界まで引き上げ一閃爪で薙ぎ払えば思念の刃など易々と粉砕し、徐々に標的との距離を詰めていく。

「……来るぞフライゴン、奴らの足掻きだ」

 黄色の人狐は低く構えた。紅蓮の鷲は果敢に飛び掛かった。

「今だ──!」

 真上から迫ってくる猛禽の爪に、眼前に迫る怒濤の攻勢に人狐は動かない。最後まで主の指示を待ち続け……。

「行こうウォーグル、これで決めるぞ!」

 鉤爪が狐の右肩を固く捉え、右脚のみの力で鷲は天空へと飛翔した。翼が折れ、なおそれを可能にしたのは常軌を逸した桁外れの脚力。
 正に大空の王者と呼ぶに相応しい威容が月を背景に顕現し、黄色の人狐は為す術が無く振り回されている。

「……フリーフォール!」

 だが、相手は念動力を持っている、離してやるつもりなど毛頭無い。鉤爪で力強く標的を握り締めた緋鷲は慣性に任せ急降下していき、

「……なんだ。この、手応えの無さは……いったい」

 ぼそりと呟いたソウスケの言葉を、ウォーグルも聞き逃してなどいなかった。対戦相手……ツルギを伺えば彼は相変わらず壁のような無表情をしているばかりで……。
 ぐんぐんと地上が接近していく。凄まじい勢いで落下する二匹は、流れを掴んだ天の大鷲とされるがままの人狐は、迫り来る地を同時に捉え。

「……もういいぞ、フーディン。サイドチェンジだ」

 ツルギが待ちわびたようにこぼした瞬間、世界は瞬く間に反転した。
 最大まで加速した勢いに乗せてフーディンを投げ飛ばし、彼は勢い良く大地に激突するかと思われたが……その両手に携えたスプーンが輝いた瞬間、二匹の位置が入れ替わったのだ。

「サイドチェンジはお互いをテレポートして、己と対象を入れ替える技だ……!」

 ソウスケが、最初からこの一瞬を狙われていたことに気付いて歯軋りする。
 投げ飛ばされていた筈のフーディンは天へ。技を決めたはずのウォーグルは勢いそのまま地上へ激突。これだけでも致命的なダメージではあったが……彼らの攻勢は容赦が無い。
 引導を渡すかのごとく、三度スプーンが翳された。地に臥し、尚闘志を燃やし立ち上がろうとしている背中に無数の刃が飛来して……しかし、今度こそ正真正銘防ぐ手立てがどこにもない。

「ウォーグル……!」

 背後から切り裂かれた疲労困憊の紅蓮の鷲は、天空を舞うことなどありえない。無様に地上にもたれるだけで……。

「ウォーグル……ウォーグル! まだだ、君の負けん気はこんなものじゃないだろう!」
「無駄だ、急所を貫いた、既に肉体が限界に達している」

 未だ奇跡を信じて焦がれる主と、冷徹に告げる敵対者。
 信頼に応えたい、奴に目にもの言わせてやりたい、……負けたくない。必死に己を奮い立たせ、緋鷲は最後の力で鎌首をもたげるが……。

「……う、ウォーグル、戦闘不能」

 望みは届かず、遂に戦闘不能を迎えてしまった。思わずエクレアが審判を下すと、ソウスケは固く握り締めた拳をほどき。

「……ありがとう。よく頑張ったね、お疲れ様ウォーグル」

 微笑み、労いを伝えながら今まで戦ってくれた相棒を戻した。

「してやられたよ、まさかフリーフォールを読まれるどころか、逆に利用されるとはね」
「眼前まで接近を許してなお技を構えないとなると、自ずと技は絞られる」
「直前で動き出したらどうするつもりだったんだい」
「決まっている、……お前は直情型だ、その可能性は低い。もっとも、動いたところで受け止めただけだがな」

 なるほど、つまりはどこまでも手のひらの上だったというわけか……やはり面白いよ、君は。

「戻れ、フーディン。……まだ闘うつもりのようだな」

 己でも気付かぬうちに、新たな紅白球に手を伸ばしていたようだ。
 当然だ、僕らはポケモントレーナー、最後まで戦い抜くのが道理なのだから。だがそれ以上に……相手がこんなに強いんだ! すごく楽しくてしかたがない!

「ああ、まだ僕には……こいつが残っているからね」

 モンスターボールの中で、相棒が今か今かと心を踊らせ待ち続けている。
 そうなれば最早誰にも止められない。敗北した仲間達の想いを込めて、「行こうヒヒダルマ!」と全力で紅白球を投擲した。

「さあ、これが最後だ、全力で行くぞ! 君も最強のポケモンを出してくれ、ツルギ!」

 紅の狒々が勝鬨にも似た勇猛な雄叫びをあげ、握り締めた拳で胸のドラムを打ち鳴らす。
 ヒヒダルマの気炎は満ち満ちていた。まるでこれから遊びに出掛ける幼子のように、どこまでも無垢な表情でそう言ってみせる少年とその相棒に……ツルギですら、思わず呆れを覚えてしまう。

「相変わらず可笑しな奴だな。望み通り、力の差を教えてやろう」
「ありがとう。君達の全力を肌で感じたい、僕達の全力でどこまでいけるのかを試したい……よし! 僕は勝つ、グレンさんにも、君にも、ジュンヤにもだ!」

 上着の襟を正して、気合いを入れ直したようだ。先程よりも精悍さの増した面持ちで宣言したその言葉の裏には、どこまでも果てなく続く闘いの道……最強になるという夢が隠れていた。

「出来るものならやればいい、俺のフライゴンがその全力をねじ伏せる」

 あくまで顔色は変えず、しかし確信のこもった声色と共に放られた紅白球が二つに割れて。まさに、天より降りし精霊のように……美しい翡翠色の鱗に身を包んだ竜が、菱形の翼を羽撃たかせながら現れた。



****


 ……ソウスケみたいな、じゃない! ソウスケその人だ! あいつが戦っているのは宿敵ツルギ。
 以前ソウスケは彼に大敗を喫したらしいが、バトルの様子を見ていると未だ隔たりはあるものの……それでも、随分差は埋まっているように思えた。
 この旅の中で強くなったんだ、ソウスケ達は。そしてきっとオレ達も。残された時間はたったの二週間だ、だが……逆に言えば二週間もの猶予がある。
 ともかく、まずはこの闘いを見守ろう。そして明日のバトルでオレ達が今どんなレベルなのか……確かめなければ。

「ああ、きっとソウスケなら一矢報いるさ」

 問い掛けるような眼差しを相棒に向けられ、緊張しながらも自分にそうやって言い聞かせる。
 ……角を握った手のひらからは、伝わってしまったのかもしれない。ツルギの実力を確認することへの……。……この手の、微かな震えと不安が。

■筆者メッセージ
ソウスケ「む、今回もバトルできないじゃないか!と思ったら僕のバトルだやったー!」
ジュンヤ「良かったなあソウスケ……お前、ポケモンバトル好きだからな」
エクレア「今回はあたしもいますよー!……背景で」
ソウスケ「ごめん、僕はポケモンバトルに集中したいから」
ジュンヤ「オレも物陰に隠れてるからごめん……」
エクレア「いいですけど!きっとそのうちメイン回来ますから!多分!」
ソウスケ「はは、まあ言うだけなら自由だからね。好きに言いたまえ」
ジュンヤ「オレがメインのポケモンバトル回もそろそろほしいな。多分もうすぐ来るかもだし楽しみにしよう」
ツルギ「残念だったな」
ジュンヤ「うるさい!バーカ!分かってますー、ソウスケ対グレンさんだって!」
ソウスケ「あはは、そういうわけで次回もよろしくお願いします!ツルギとのバトル楽しいな!」
せろん ( 2018/04/07(土) 19:54 )