ポケットモンスターインフィニティ

















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第六章 "あの日"の先に
第42話 再会、そして闘い
 ジュンヤ達はしばらくラピスタウンを観光し……それから、特に長居をすることもなく町を出ることにした。本当にいいのか、ノドカが問うたがジュンヤは帽子のつばを下げてあくまで声色は変えることなく、

「いいんだ、オレ達にはまだやるべきことがある。感傷に浸るなら後でも出来る、それより今は……前に進んで強くならないと」

 そう答えて歩き出した。

「じゃあな、ビクティニ。オレ達はもう行くけど……これからも、元気で暮らしてくれよ」

 213番道路へ踏み出して、ジュンヤが言った。ノドカは予感がしていた為にただ寂しそうに俯くだけだったが、ソウスケとビクティニは驚愕に目を見開いた。

「いいのかいジュンヤ、せっかく会えた友達なのだろう!?」

 ビクティニもその言葉に精一杯の追従をする、ソウスケも更に言葉を重ねて説得しようと試みる。だが彼の意思は固いらしい、「駄目だ」「お前を危険には晒せない」の一点張りだ。
 ……それでもビクティニは諦めない。必死に言葉で訴えかけ、涙をこぼし……思いの丈をぶつけ続けると、ようやくジュンヤの表情が苦痛を堪えるように歪んだ。

「ねえ、ジュンヤ。言ってることは分かるけど……でも、それでもビクティニはいっしょに居たいんだよ。だってずっとジュンヤに会えなくて、大切な人達が居なくなって……やっぱり、ビクティニはすっごく寂しかったんじゃないかな」

 ノドカの言葉にもビクティニは同意を示して彼にすがりつく。そして「もう離さない」そう言わんばかりに、眉間に皺を寄せて歯を食い縛っているジュンヤのことを強く強く抱き締めた。

「……ああそうだ、分かってる、オレもそのくらいは分かっているさ。……だけどビクティニ、お前は“幻のポケモン”なんだ、旅に出るのはきっと危険だぞ。怖い人に狙われるかもしれない、それでもいいのか」

 そんな愚問には即答だった、ビクティニは蒼い瞳を瞬かせて笑顔でVサインをしながら頷く。

「……しかたがないな。だけど危なくなったらオレ達に構わずすぐに逃げる、周囲に誰かがいる時や単独行動の際は透明化をする、知らない人にはついていかない! いいな!」

 はーい! そう言っているようにしか聞こえないくらいビクティニの返事は元気なものだった。
 まるで彼に合わせたかのように力強い風が吹き抜けて、辺りの草木はざわざわと盛り上がる。

「まったく、しかたないなビクティニは」

 呆れたように溜め息を吐くジュンヤは、しかし喜びが隠し切れず声色に現れ口元も自然に綻んでしまっている。
 
「ふふ、でもジュンヤ、嬉しそう」
「……当たり前だろ、大事な友達とまた一緒に居られるんだから」

 言いながらジュンヤは足を踏み出した、その後ろではビクティニが光を屈折させるキメ細やかな体毛を巧みに操り姿を世界に溶かしていく。
 これでビクティニは誰からも見ることが出来ない、透明だ。
 ジュンヤは安心して振り返り、姿が見えなくなったのを再確認すると威勢を張って声を掛けた。

「さあ行くぞみんな、出発だ!」

 ゴーゴートが角から伝わって来た感情で一足早く頷き、遅れて皆も各々思い思いに言葉を返す。
 新たな仲間が加わって、意気揚々と足取り軽く彼らは歩き始めた。



 213番道路、ここには道無き道の先に昔のお城があるらしい。ジュンヤ達が道路にある喫茶店で休憩がてらその位置を地図で確認している傍ら、ソウスケが軽く散歩をしていると……。

「あ、ソウスケさん! お久し振りです!」

 快活なよく通る声とともにブロンドのツーサイドアップが揺れる。黄色を基調としたキャミソールの彼女は……以前と異なり眼鏡を外してしまっている。

「やあ、久しいねエクレア。元気にしていたかい」
「もちろん! ……あなたのおかげです、あの時は本当にありがとうございましたソウスケさん!」
「はは、礼を言われる謂れは無いさ。思い出したのは君自身なのだからね」
「それでもソウスケさんのおかげですよ!」

 彼女はエクレア、かつてオプスシティでソウスケによって本当の記憶を取り戻したという少女だ。なぜ眼鏡を外したのか尋ねると、彼女は気まずそうにはにかみながら「変わらなきゃって思ったんです。ラクライともう一度会って、また一緒に旅をする為にも」そう答えた。

「ふむ、なるほど。あの頃と比べて前に進めたかい?」
「もちろん、答えはNOじゃありません! ポケモンだって何匹も仲間にしましたし、ジムバッジだって今はもう五個も手に入れたんですよ!」
「そうか、頑張ったんだねエクレア。よしよし、偉い偉い」
「……そ、ソウスケさん! もうっ、あたしは子どもじゃないんですよー?」
「む、それもそうだね、すまない。いつもジュンヤがノドカを撫でてあげたら満更でも無さそうにしていたものだから喜ぶかと」
「あ、いやその、嬉しい……ですけどね!」
「それよりどんなポケモンを手に入れたんだい? 良ければ僕らにも見せてはくれないかな」
「……あ、はい、もちろん! では一対一でいいですよね?」
「構わないよ」

 果たして今のはバトルをする流れだったのか、ソウスケは不思議に思わなくもなかったが気にしないことにした。何故ならそう……僕もバトルが大好きだからさ!

「では行こうか、ハーデリア!」
「行きましょう、エテボース!」

 辺りは遮るものなど何も無い原っぱだ、バトルをするにはちょうどいい。お互い適度な距離を取って向かい合っている。
 ソウスケが出したのはハーデリア、対するエクレアのポケモンは尾が二又に別れ、腕同然に器用に扱える程発達している。紫の体毛に覆われた猿のエテボース。 

「……ソウスケさんには感謝の気持ちがいっぱいあります。けど、絶対に負けません! ラクライを取り戻す為に……負けられないんです!」
「ああ、だろうねエクレア、君達の気持ちはよく分かる。けれど僕らもそう簡単には負けられないさ。以前は君とダルマッカに敗北してしまったけれど……今度こそ勝ってみせる!」

 互いに闘志をぶつけ合って低く構える、そしてどちらともなく高く叫んだ。

「ねこだまし!」
「おんがえし!」
「続けてなげつける!」

 先手を取ったのはエテボースだ、駆け出したハーデリアの眼前でパン、と強く両手を叩き合わせて音と衝撃で威圧する。ハーデリアは一瞬怯んでしまったがすぐさま持ち直して構え……しかし、投げ付けられたのは“するどいキバ”だ、再び痛みに怯んでしまう。

「はは、驚かされたな、効いたよエクレアとエテボースの怯みコンボ。そのエテボース、特性はテクニシャンだね」
「はい! ……でもハーデリアの特性は“いかく”、大したダメージにはなっていないみたいですね」
「言ったじゃないか、そう簡単には負けられないって」

 “ねこだまし”とするどいキバを“なげつける”、この二つにはどちらも相手を怯ませる効果があり、エテボースの特性が威力の低い技を強化するテクニシャンだというのもあって通常ならそこそこのダメージとなっていただろう。
 しかしハーデリアの特性は“いかく”、対面した相手の攻撃力を下げる効果を持っているおかげで痛みは最小限まで抑えられた。

「さあお返しだ、やれハーデリア! おんがえし!」
「真正面から迎え撃ちます! エテボース、ダブルアタック!」

 ハーデリアはソウスケの為に全力を持って突撃する、対するエテボースは二本の尻尾を拳のように握り締めて勢いよく突き出す。
 互角のせめぎ合いが続いた果てに、やがてどちらともなく飛び退った。

「まだまだ、こおりのキバ!」

 ソウスケの指示と同時に地面に牙を突き立てる、冷気は一瞬で広がり眼前の敵へ向かって氷柱を成して迫っていく。

「避けてダブルアタック!」

 しかし相手も流石に身軽。足元まで冷気が伝わり、だがそれが彼を捉えるより前に高く跳躍して背後に回り込まれてしまう。

「……かがむんだ!」
「行ってエテボース!」

 咄嗟の判断は吉と出た。ハーデリアの背中に双拳が打ち込まれるが……存外平気な顔でエテボースを振り返り、ソウスケへの忠誠を込めた強烈な突進を叩き込んだ。

「ハーデリアの体を覆う黒い体毛はとても硬いんだ、ダメージは軽減させてもらったよ」
「やりますねソウスケさん、ハーデリア! すごいです、けど……これで準備が出来ました。きっとお二人も堪えるはずですよ! エテボース、いけるね!」

 山なりに宙を舞ったエテボースは、そかし軽い身のこなしで着地をすると自信ありげに頷いた。
 何か来る、そう確信したソウスケ達は次の瞬間には既に顔面に焦りを張り付けていた。

「エテボース、見せてあげよう! あたし達の……“とっておき”を!」

 エテボースが高く両腕をかざすとその手の先に眩い光が集い始めた。それは瞬く間に塊を形成し……地面を抉りながら猛然と襲いかかってくる。

「……っ、避けてくれハーデリア!」

 ソウスケの叫びも虚しく盛大な破裂音と共に彼は主の足元まで吹き飛ばされた。
 その威力は凄まじく、一撃でハーデリアが瀕死寸前まで追い込まれる程だ。慌ててオボンのみを咀嚼するが……これがなければ、果たして立ち上がれたかも分からない。

「……すごいよエクレア、はは、これが君達の新たな力なんだね」
「はい! ラクライを取り戻す為に、再会した時に恥ずかしくないように、必死で鍛えて来たんです!」
「伝わってくるよ、君の想いが! あれから相当努力をしてきたんだね!」
「もちろん! だからあたし達はもう負けません、トドメです!」
「それはどうかな、僕らはまだ諦めたつもりはないさ」

 先ほどハーデリアがオボンのみを食べたことが何よりの証明だ。彼はまだ勝負を捨ててはいない、ならば僕だって諦められるはずがない。
 諦めなければ道は開ける、そう信じて戦ってきた僕を信じてくれるハーデリアの為にも……最後まで闘い抜く!

「だから、僕らは君達にも勝つ! 最後まで望みは捨てない、行こうハーデリア! おんがえしだ!」

 無謀、そう誰もがこの状況を見たらそう思うだろう。それでもソウスケは自分の直感を信じた、ハーデリアの瞳から伝わってくる「必ず行ける」という言葉を信じた。
 全力で身を屈め、弾丸のように飛び出すハーデリアへ膨大な光の塊が激突する。

「……行けえっ! ハーデリア!」

 その体は光の威力を前にじょじょにじょじょにと後退りし……しかし、ハーデリアはそれでも歯を食い縛って持ちこたえ続けた。誰より大切な主の為に。

「まだだ、君なら行けるさハーデリア! 僕らは……勝つ! 絶対に!」

 それでもやはり限界がある、とうとうハーデリアが怒涛の輝きに屈し始めた時……ソウスケが天高く叫んだ。彼の言葉が挫け始めていたハーデリアの心を再び奮い立たせ……主に負けない程に勇ましく、寸前で踏み留まり続けながら雄叫びをあげた。

「ハーデリア? ……成る程、それが君の自信の裏付けだったのか」

 ソウスケが悟った、その時にはハーデリアの全身を蒼白の光が包み込み始めていた、そしてその姿は輝きの中でみるみる形を変えていく。
 大きく、逞しく、力強く。新しく生まれ変わった力を以て、ハーデリアだった彼はエクレア達の“とっておき”を弾き飛ばした。

『ムーランド。かんだいポケモン。
 長い体毛に包まれると冬山でも一晩平気なほど暖かくとても心地よい』
「ハーデリア、いや……ムーランド。……進化おめでとう!」

 ハーデリアの時には比較的短かった髭は今では年季の入った老人のように長く伸びている。マントのような黒い体毛は脚先に達するまでに長く伸び……その裏に隠れた脚はより太く、豊満で重厚な筋肉を蓄えていた。

「そのまま突っ込めムーランド!」
「……っ、もう一度とっておきです!」
「無駄さ、おんがえし!」

 形成は一気に逆転した。確かにとっておきは相当威力が高い、しかし特性“いかく”のおかげで低下してくれている。
 最終進化系の力があれば征するのは容易かった、相手の投げ付けてくる光の塊をものともせずに猛然と迫り……そのまま全体重を乗せた突進で、エテボースを吹き飛ばす。
 エテボースはエクレアを通り過ぎて、彼女の背後で目を回す。どうやら立ち上がれないようだ、誰の目から見ても分かりやすい戦闘不能。

「……お疲れ様です、エテボース。あなたはがんばったよ、ゆっくり休んでください」
「ありがとうムーランド、君を信じて良かったよ。おめでとう、これからも共に励んでいこう!」

 勝利したソウスケ達は当然であるが……敗北したエクレアとエテボースも、清々しい笑顔を浮かべながら、モンスターボールに戻るまでの短い時間を触れ合った。
 しばらくはムーランドを撫でていたソウスケもやがて彼をモンスターボールに戻し、エクレアと握手を交わして向かい合う。

「ありがとうエクレア、短い闘いだったけれど……楽しかったよ」
「いえ、こちらこそほんとにありがとうございました! ソウスケさんみたいな優しい人が強くって……もちろん負けて悔しいんですけど、それ以上に安心が大きいんです!」
「……そうかい、それは良かったよ」

 彼女の言っていることも納得出来る。彼女は優しくないが強い人々に……オルビス団にポケモンを奪われ、更に記憶まで書き換えられてしまっていた。そんな彼女からすれば、自画自賛に聞こえるかもしれないが悪事を働かずに強い人間というのは大きな励みに違いない。

「バトルに付き合っていただき本当にありがとうございました、ソウスケさん」
「いや、礼を言うのは僕らさ。ところでエクレア、近くにジュンヤ達も居るんだ。良ければサ店でどんなポケモンを仲間にしたか、どんな旅をしてきたか、その経緯を聞かせてもらえないかな」
「はい、ご迷惑でなければ是非!」

 結局エテボース以外のエクレアのポケモンは見られなかった、他に連れているだろう仲間にも興味がある。それにあれから彼女は相当励んだのだろう、その努力の軌跡も聞いてみたい。
 ジュンヤ達は既に地図を読み終えていたらしく仲良く談笑しており、ポケモン達も食事を終えて思い思いに過ごしていた。
 エクレアもポケモン達を解き放って皆と交流を図りながら紹介をして、それから彼女の旅の軌跡や僕らの話などにも移っていく。話題はいつまでも尽きることがなく、時にはついていけないノドカとエクレアの女子トークなどもあったが、会話はとても盛り上がったのだった。

■筆者メッセージ
久しぶりの更新です、ごめんなさい!
せろん ( 2016/01/29(金) 16:16 )