第07話 ひこうジム、初バッジを掴み取れ
「確かここにもポケモンジムがあるんだよね?」
30番道路を抜けて、コウシタウン。一番の特徴は街に来た時に目に入った、丘の上の風車だろう。
宿泊施設の一室で、タウンマップを見ていたアカリにヨウタが尋ねる。
「うん。ひこうタイプを得意とする、コウシジムのシンバシさんだって」
「アカリはもちろん挑戦するだろうけど、ヒロヤさんは?」
「もちろんするさ。まずは順番を決めようか。これでいいよな?」
言いながら、ヒロヤは右手で握り拳を作って突き出す。
「もちろんです!」
「まあ、それが一番ですよね」
言われてヨウタとアカリ、二人も同じく右手を突き出した。
「じゃあ……」
一瞬の間を置き、
「最初はグー!」
「ジャンケン!」
「ポン!」
全員思い思いに手を出した。
グー、グー、チョキ、パー。
「……ん?」
一つ多いぞ? と、全員を見る。
ヨウタ、アカリ、ヒロヤ、ルミ。……って。
「ルミはジム戦やらないだろ?」
「だって、仲間外れなんて寂しいもん!」
彼女、ルミはいたずらっぽく笑いながら言う。
「とりあえず、ルミは抜きで考えようか」
「えー?」
彼女が出したのはパーだが、これは除外で見てみる。チョキを出したのはヒロヤ、一回目は彼の一人負けになった。
「なあヨウタ、やっぱり三本先取にしようぜ」
「……まあいいですけど」
こうして、勝負は最初に三回勝った人の勝ちとなった。
「ジャンケンポン!」
「あいこでしょ!」
「ジャンケンポン!」
「やったぞ、まずは一勝だ!」
「最初はパー!」
「あ、ずるいですよ今の!」
「そうですよ。ノーカンです、ノーカン」
「チェッ、分かったよ」
「ジャンケンポン!」
……こうしてジャンケンを繰り返し、見事勝利を掴み取ったのは……。
「最初は……グー! だ!」
「うっ……。負けました、ヨウタ君……」
最初にヒロヤが脱落し、何度もあいこを繰り返した末に出した最後の手が、ヨウタはグー、アカリはチョキだった。
「やった、勝ったぞ!」
「くっ……! 結局一勝も出来なかった……!」
ヒロヤが拳を握りしめてわなわなと震えているが、無視してヨウタは鞄を背負った。
「じゃあ、行ってくるよ」
「あたしも行く!」
「私も見に行っていい?」
「うん、もちろん。ヒロヤさんは?」
「……行くよ」
彼はすっかり意気消沈していたが、尋ねられて小さく返した。
「お願いします、シンバシさん!」
「ああ、こちらこそ」
コウシジムのバトルフィールド。
向かい合っているのは、帽子を逆さにかぶった少年と、空色の短髪に飛行服の爽やかそうな青年だ。
彼がこの街のジムリーダー、シンバシ。ヨウタはポケモンを二匹しか持っていないため、バトルは二対二となる。
「行け! コリンク!」
「フライトだ、トロピウス!」
シンバシが出したのはトロピウス。首にフルーツが生えていて、背中に大きな葉っぱの翼を持ったポケモンだ。
「見た目くさタイプっぽいな、戻れコリンク。次はムックルだ!」
「いい判断だ。こいつのタイプはくさ・ひこう。そのムックルなら弱点をつける」
良かった、合ってたみたいだ。
ヨウタは内心の不安が静まっていくのを感じて、胸をなで下ろしほっと一息ついた。
「はっぱカッター!」
「つばさでうつ!」
トロピウスが首を薙いで幾つもの尖った葉っぱを飛ばしてきたが、高度を上げ、容易く避けて接近。翼を叩きつける。
「やりぃ、効果抜群! ヨウタ、その調子!」
「ふふん、どうだ!」
アカリが楽しそうに声援を送り、ヨウタもガッツポーズをする。
「効果抜群だからね、大分効いたよ。けど気を抜かないことだよ、かいりき!」
ムックルは翼をぶつけて通り過ぎると旋回して最初の位置に戻ろうとした。だが、その途中でトロピウスに遮られてしまう。
通り過ぎざまに突然動き出し、思いきり頭突かれた。
「ムックル!」
天井に叩きつけられそうになったが、途中でなんとか勢いを抑える。
「良かった、もう一度つばさでうつ!」
「迎え撃て、かいりき!」
「くっ、避けるんだ!」
再び接近したが、タイミングを合わせて大きく首を薙いできた。
慌ててUターンしようとしたが間に合わず、先ほどの二の舞になってしまった。
「ムックル、大丈夫か!?」
心配して声をかけると、少し苦しそうにしながらも威勢良く返事が来た。
しかし姿を見てみると、体毛の乱れ方や傷からダメージの大きさが伺える。
おそらく、次は耐えられない。慎重にならなければ。
「ムックル、接近しろ!」
「かいりき!」
「下がるんだ!」
やはり近づかせてはくれないらしい。
「だったら……。なきごえだ!」
ならば、と空中からかわいい鳴き声で気を引かせて、油断させて攻撃力を下げる。
「もう一度!」
「させるか、はっぱカッター!」
「よし、今だ! つばさでうつ!」
そして再び同じ指示を出した、と思わせて攻撃技を誘い、その隙を突いて弱点技を食らわせる。
トロピウスが首を振って放ったいくつもの葉っぱの合間を縫って接近し、胴体に翼をぶつける。
「くっ、まずい! かいりきだ!」
「遅い、でんこうせっか!」
相手は飛んで迫って来たが、ムックルはすぐにトロピウスに向き直って目にも留まらぬ速さで突進。
トロピウスは落下して、その長い首をとうとう地面にもたげた。
「よし、やったぞ! ムックル!」
「トロピウス、戦闘不能!」
ジャッジが、そしてアカリが審判を下す。
「……なんでアカリちゃんが言うの?」
「え? あ、つい……!」
「お前、それじゃジムリーダーじゃなくて審判だぜ」
ルミに言われ、照れながら笑う彼女にヒロヤが冷静なツッコミを入れる。
「(……確かに。アカリの夢はジムリーダー、審判の真似はしなくていいよな)」
アカリが間違えちゃった、と恥ずかしそうに頭を掻いてるのを見ながら、ヨウタは一人思っていた。
「次はこいつだ、行けワシボン!」
とうとう彼の二匹目。このポケモンを倒せばヨウタは勝利してジムバッジを手にすることが出来る。
「いいぞヨウタ! 勢いに乗ってそのまま行け!」
「はい! ムックル、つばさでうつだ!」
応援を受けながら、指示を出す。ムックルが勢い良く迫って翼を叩きつけようとしたが……。
「翼を掴め!」
「ああっ!?」
なんと飛んだワシボンに、翼を足で掴まれてしまった。
「地面に投げつけるんだ!」
そしてそのまま地面に叩きつけられ、
「ムックル!」
「ムックル、戦闘不能!」
戦闘不能になってしまった。
「ああ、お兄ちゃんなにやってるの!」
「なんていうワンリキー、いやキャクリキーだ……」
……。
「……行け、コリンク!」
ヨウタは最初に戻してから、ずっと出番の無かったコリンクを再び繰り出した。
「ワシボンはノーマル・ひこうタイプ。コリンクはタイプが有利だから、気をつければ負けないぞ! がんばれ!」
「はい、ありがとうございます! まずはでんげきは!」
「受け止めるんだ」
挨拶代わりのでんきショック。牽制に放ったその技は、予想はしていたが足でたやすく止められる。
「だったらスパークだ!」
「迎え撃て、かいりき!」
続けて電気を纏って突進したが、相手も思い切り突っ込んできた。威力が互角で少しのつばぜり合いの後、互いにバッと下がって距離を取る。
「今だ、でんげきは!」
しかし距離を取ったとはいっても、一度接近した為最初よりは近づいている。
今度は逃さず電気を浴びせた。
「かいりき!」
だが相手も怯まず向かってきて、こちらも頭突きを食らってしまった。
「ヨウタ、あいつは攻撃力が高い! 次の攻撃でやられるかもしれないから気をつけるんだ! 闇雲に突っ込むなよ!」
「はい、分かりました!」
山なりに飛ばされコリンクが受け身を取り、跳んで下がっている間に助言を送った。
彼もそれを聞いて、気を引き締める。
「スパーク! って言いたいけど、、確かに無闇に突っ込んだらムックルみたいに掴まれるかもしれない。でんげきは!」
「受け止めてかいりきだ!」
「お前もかわせ!」
放った電気を足で止められるが、こちらも頭突きをジャンプでかわす。
「スパークだ!」
着地してすぐに振り返り突進したが、これも飛ばれて避けられた。
「くっ……!」
なかなか当たらないことに、思わず歯ぎしりする。
「ヨウタ、攻めたり、避けるばっかじゃ駄目だぞ! たまには迎え撃たないとだぜ!」
「……はい!」
またも彼からのアドバイスが入る。
「は、はい!」
なんだか助言を受けてばかりの自分が少し情けなくなったしまうが、だからこそ更に気を引き締める。
「迎え撃つ……。迎え撃つ……」
「来ないならかいりきだ!」
頭に入った言葉を、抜けないようにつぶやいていると再び迫ってきた。
「迎え撃つ! 跳んでかわせ!」
「お、おい! かわすだけじゃあ」
「そして、背中にアイアンテールだ!」
ヒロヤが焦っている間にも続けて指示を出す。
跳んで突進をかわし、真下を通ったワシボンに硬い尻尾を叩きつける。
「まだまだ行くぞ! スパークで決めろ!」
ワシボンがバランスを崩して地面に叩きつけられたところに、今度は着地して電気を纏い突進した。効果は抜群だ。
ワシボンは山なりに飛ばされて落下、起き上がらなかった。
「ワシボン、戦闘不能!」
「ありがとうワシボン、休むんだ」
「やったぞ! コリンク!」
「ヨウタ君、おめでとう!」
「やったねお兄ちゃん!」
「良かったなヨウタ!」
シンバシがワシボンを戻している間に、ヨウタがコリンクに駆け寄った。
「よしよし、良く頑張ったな!」
跳んで胸に飛び込んで来たところをキャッチして、肩に乗せて頭を撫でる。
「おめでとうヨウタ君。これはこのジムに勝った証、ビークバッジだ」
よしよし、と何度も頭を、次に背中を、と撫でているとシンバシが歩み寄ってきて、鳥のくちばしに似たバッジを差し出して来た。
「あ、ありがとうございます」
ヨウタはコリンクを降ろしてそれを受け取り、
「よし、ビークバッジゲットだ!」
とりあえず高く掲げてポーズを決めてから、ポケットにしまった。
「これで君の手にしたバッジは一つ目。各地を回って後七つバッジを集めれば、ポケモンリーグに参加することが出来る。頑張ってくれ」
「はい!」
シンバシは肩をポン、と叩いて応援してくれた。
ヨウタは元気に頷いてからコリンクを戻して、コウシジムを後にした。